上 下
87 / 266
第七章

10

しおりを挟む
カレンデゥラ侯爵夫人、マリアーサ様とイヴァンジェリン様のお姉さま?

「あら、マイセラ侯爵夫人、カレンデゥラ侯爵夫人、ごきげんよう」

そうか、イヴァンジェリン様はマイセラ侯爵家の方、彼女は現侯爵の……

マイセラ侯爵夫人は淡い紫のドレスを着た凛とした背の高い美人だった。
赤いドレスのカレンデゥラ侯爵夫人と並ぶと更に迫力がある。

これで筆頭侯爵家五家のうち四人の夫人が現れたことになる。

「皆さん、大勢でいたいけなお嬢さんを囲んで何のお話?」

カレンデゥラ侯爵夫人の言い方にルクレンティオ侯爵夫人が噛みついた。

「人聞きの悪いことを……私たちはリンドバルク侯爵夫人……お名前は何だったかしら」
「クリスティアーヌです」

わざとなのか、興味がなくて覚えられないのか名前を聞き返えされた。

「クリスティアーヌさんにお話を伺っていただけですわ」
「どうだか……大方、有望な婿候補を奪った女がどういう人物なのか偵察がてら苛めてやろうとでも思ったのでしょう」
「ま、失礼にもほどがありますわよ、フランチェスカ様」

意外なマルセラ候補夫人、フランチェスカ様の口振りに驚いた。
言われたディアナ様たちは憤慨しているが、図星を指され強くは言い返せていない。

「私にも身に覚えがあるので……ローガン様と結婚が決まった時は色々言われましたから……がさつとか野蛮とかスカートを履いたことがあるのかとか」

何か言われ方が変だと思いながら聞いていると、横からイヴァンジェリン様が私をつついて耳打ちする。

「フランチェスカお義姉様はもともと軍人家系の出で、私の侍女兼護衛で雇われてお兄様と出会ったの」

成る程、女性でそのような経歴で筆頭侯爵家の奥方になるには、色々な軋轢があったに違いない。

「ちなみにキャシディー様はその時お兄様の花嫁候補の有望株だったのだけど、お兄様がフランチェスカ様に一目惚れをして、当時は色々あったのよ」

イヴァンジェリン様の言葉に目の前のキャシディー様に視線を向ける。
貴族社会って広いようで狭い。

「まあ、誰がそのような……根も葉もないことを。それにもう昔のことではありませんか。誰が流したかも知れない噂を今さら……」

ディアナ夫人の様子から察するに、噂の元凶がどこにあったか伺い知れる。

「剣を握っているからと必ずしも野蛮とは言い切れません。それが女であるから人がとやかく言うだけで……ローガン様はそんな私も含めて妻にと望んでくれただけのこと。ご自分にない物、ご自分が得られなかったからと目くじら立てる前に何故自分が選ばれなかったか考えるといいでしょう。人のことを詮索するより有用なことがあるはずですわ」

清々しいまでに言い切るフランチェスカ様の男前ぶりに私は羨望の眼差しを向けた。

「ま、それでは私が劣っていると!」

キャシディー様が食って掛かる。
ここら辺は過去の禍根があるのだろう。
マイセラ侯爵との縁はなかったが、別の筆頭侯爵の奥方になっているのだからキャシディー様もかなりやり手の部類に入るのではないだろうか。

「誰もそこまでは申しておりません。ですが年端もいかない女性を集団で囲んであれこれ言うのは淑女として良い見本とは言えませんね。ほらご覧なさい、すでに悪影響が」

言ってフランチェスカ様が扇でヴァネッサ嬢とその取り巻きを指し示す。
指されて彼女たちも居心地が悪そうにする。

「フランチェスカ様、少し言い過ぎではございませんか?」

ディアナ夫人の唇がわなわなと震えた。

多分、筆頭侯爵家の中には私の知らない様々な事情があるのだろう。元々良くなかった空気が更に悪くなる。
イヴァンジェリン様を見ればやれやれと頭を抱えている。

フランチェスカ様がイヴァンジェリン様の兄上とのことで色々噂を立てられたことが未だに尾を引いているのかもしれない。

しおりを挟む
感想 139

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

処理中です...