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第七章
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カレンデゥラ侯爵夫人、マリアーサ様とイヴァンジェリン様のお姉さま?
「あら、マイセラ侯爵夫人、カレンデゥラ侯爵夫人、ごきげんよう」
そうか、イヴァンジェリン様はマイセラ侯爵家の方、彼女は現侯爵の……
マイセラ侯爵夫人は淡い紫のドレスを着た凛とした背の高い美人だった。
赤いドレスのカレンデゥラ侯爵夫人と並ぶと更に迫力がある。
これで筆頭侯爵家五家のうち四人の夫人が現れたことになる。
「皆さん、大勢でいたいけなお嬢さんを囲んで何のお話?」
カレンデゥラ侯爵夫人の言い方にルクレンティオ侯爵夫人が噛みついた。
「人聞きの悪いことを……私たちはリンドバルク侯爵夫人……お名前は何だったかしら」
「クリスティアーヌです」
わざとなのか、興味がなくて覚えられないのか名前を聞き返えされた。
「クリスティアーヌさんにお話を伺っていただけですわ」
「どうだか……大方、有望な婿候補を奪った女がどういう人物なのか偵察がてら苛めてやろうとでも思ったのでしょう」
「ま、失礼にもほどがありますわよ、フランチェスカ様」
意外なマルセラ候補夫人、フランチェスカ様の口振りに驚いた。
言われたディアナ様たちは憤慨しているが、図星を指され強くは言い返せていない。
「私にも身に覚えがあるので……ローガン様と結婚が決まった時は色々言われましたから……がさつとか野蛮とかスカートを履いたことがあるのかとか」
何か言われ方が変だと思いながら聞いていると、横からイヴァンジェリン様が私をつついて耳打ちする。
「フランチェスカお義姉様はもともと軍人家系の出で、私の侍女兼護衛で雇われてお兄様と出会ったの」
成る程、女性でそのような経歴で筆頭侯爵家の奥方になるには、色々な軋轢があったに違いない。
「ちなみにキャシディー様はその時お兄様の花嫁候補の有望株だったのだけど、お兄様がフランチェスカ様に一目惚れをして、当時は色々あったのよ」
イヴァンジェリン様の言葉に目の前のキャシディー様に視線を向ける。
貴族社会って広いようで狭い。
「まあ、誰がそのような……根も葉もないことを。それにもう昔のことではありませんか。誰が流したかも知れない噂を今さら……」
ディアナ夫人の様子から察するに、噂の元凶がどこにあったか伺い知れる。
「剣を握っているからと必ずしも野蛮とは言い切れません。それが女であるから人がとやかく言うだけで……ローガン様はそんな私も含めて妻にと望んでくれただけのこと。ご自分にない物、ご自分が得られなかったからと目くじら立てる前に何故自分が選ばれなかったか考えるといいでしょう。人のことを詮索するより有用なことがあるはずですわ」
清々しいまでに言い切るフランチェスカ様の男前ぶりに私は羨望の眼差しを向けた。
「ま、それでは私が劣っていると!」
キャシディー様が食って掛かる。
ここら辺は過去の禍根があるのだろう。
マイセラ侯爵との縁はなかったが、別の筆頭侯爵の奥方になっているのだからキャシディー様もかなりやり手の部類に入るのではないだろうか。
「誰もそこまでは申しておりません。ですが年端もいかない女性を集団で囲んであれこれ言うのは淑女として良い見本とは言えませんね。ほらご覧なさい、すでに悪影響が」
言ってフランチェスカ様が扇でヴァネッサ嬢とその取り巻きを指し示す。
指されて彼女たちも居心地が悪そうにする。
「フランチェスカ様、少し言い過ぎではございませんか?」
ディアナ夫人の唇がわなわなと震えた。
多分、筆頭侯爵家の中には私の知らない様々な事情があるのだろう。元々良くなかった空気が更に悪くなる。
イヴァンジェリン様を見ればやれやれと頭を抱えている。
フランチェスカ様がイヴァンジェリン様の兄上とのことで色々噂を立てられたことが未だに尾を引いているのかもしれない。
「あら、マイセラ侯爵夫人、カレンデゥラ侯爵夫人、ごきげんよう」
そうか、イヴァンジェリン様はマイセラ侯爵家の方、彼女は現侯爵の……
マイセラ侯爵夫人は淡い紫のドレスを着た凛とした背の高い美人だった。
赤いドレスのカレンデゥラ侯爵夫人と並ぶと更に迫力がある。
これで筆頭侯爵家五家のうち四人の夫人が現れたことになる。
「皆さん、大勢でいたいけなお嬢さんを囲んで何のお話?」
カレンデゥラ侯爵夫人の言い方にルクレンティオ侯爵夫人が噛みついた。
「人聞きの悪いことを……私たちはリンドバルク侯爵夫人……お名前は何だったかしら」
「クリスティアーヌです」
わざとなのか、興味がなくて覚えられないのか名前を聞き返えされた。
「クリスティアーヌさんにお話を伺っていただけですわ」
「どうだか……大方、有望な婿候補を奪った女がどういう人物なのか偵察がてら苛めてやろうとでも思ったのでしょう」
「ま、失礼にもほどがありますわよ、フランチェスカ様」
意外なマルセラ候補夫人、フランチェスカ様の口振りに驚いた。
言われたディアナ様たちは憤慨しているが、図星を指され強くは言い返せていない。
「私にも身に覚えがあるので……ローガン様と結婚が決まった時は色々言われましたから……がさつとか野蛮とかスカートを履いたことがあるのかとか」
何か言われ方が変だと思いながら聞いていると、横からイヴァンジェリン様が私をつついて耳打ちする。
「フランチェスカお義姉様はもともと軍人家系の出で、私の侍女兼護衛で雇われてお兄様と出会ったの」
成る程、女性でそのような経歴で筆頭侯爵家の奥方になるには、色々な軋轢があったに違いない。
「ちなみにキャシディー様はその時お兄様の花嫁候補の有望株だったのだけど、お兄様がフランチェスカ様に一目惚れをして、当時は色々あったのよ」
イヴァンジェリン様の言葉に目の前のキャシディー様に視線を向ける。
貴族社会って広いようで狭い。
「まあ、誰がそのような……根も葉もないことを。それにもう昔のことではありませんか。誰が流したかも知れない噂を今さら……」
ディアナ夫人の様子から察するに、噂の元凶がどこにあったか伺い知れる。
「剣を握っているからと必ずしも野蛮とは言い切れません。それが女であるから人がとやかく言うだけで……ローガン様はそんな私も含めて妻にと望んでくれただけのこと。ご自分にない物、ご自分が得られなかったからと目くじら立てる前に何故自分が選ばれなかったか考えるといいでしょう。人のことを詮索するより有用なことがあるはずですわ」
清々しいまでに言い切るフランチェスカ様の男前ぶりに私は羨望の眼差しを向けた。
「ま、それでは私が劣っていると!」
キャシディー様が食って掛かる。
ここら辺は過去の禍根があるのだろう。
マイセラ侯爵との縁はなかったが、別の筆頭侯爵の奥方になっているのだからキャシディー様もかなりやり手の部類に入るのではないだろうか。
「誰もそこまでは申しておりません。ですが年端もいかない女性を集団で囲んであれこれ言うのは淑女として良い見本とは言えませんね。ほらご覧なさい、すでに悪影響が」
言ってフランチェスカ様が扇でヴァネッサ嬢とその取り巻きを指し示す。
指されて彼女たちも居心地が悪そうにする。
「フランチェスカ様、少し言い過ぎではございませんか?」
ディアナ夫人の唇がわなわなと震えた。
多分、筆頭侯爵家の中には私の知らない様々な事情があるのだろう。元々良くなかった空気が更に悪くなる。
イヴァンジェリン様を見ればやれやれと頭を抱えている。
フランチェスカ様がイヴァンジェリン様の兄上とのことで色々噂を立てられたことが未だに尾を引いているのかもしれない。
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