上 下
83 / 266
第七章

6

しおりを挟む

「リンドバルク卿、久しいな」

アンドレア殿下も声をかけてくれる。

「皇太子殿下もお変わりなく、エレノア様、イヴァンジェリン様も相変わらずお美しい」

「あら、少しは社交辞令というものがわかってきたのかしら」
「女性に美しいと言っておけば誰も文句は言わないでしょう。年配の方にはお若いと言えばいいのですし」
「相変わらず手厳しい。ところで、そちらが噂の?」

アンドレア殿下がルイスレーン様の後ろに控える私に視線を移し、他の三人の視線も集中する。

「お妃様方はお会いしていると思いますが、彼女が私の妻となりましたクリスティアーヌです」

「アンドレアだ。そなたとは遠い親戚になるらしいな」
「オリヴァーだ」
「こんばんは、クリスティアーヌ」
「再会を楽しみにしておりましたわ」

皇太子殿下、オリヴァー殿下、エレノア妃、イヴァンジェリン妃の順で挨拶を受ける。

「クリスティアーヌでございます。以後お見知りおきを……エレノア様、イヴァンジェリン様、その節はお招きいただきありがとうございました」

スカートの横を持って深々とお辞儀をする。

「そう固くならずに……顔を上げなさい」

「は、はい」

アンドレア殿下の許可をもらって顔をあげる。ルイスレーン様が手を伸ばして側に引き寄せてくれた。

「二人が並んだところは初めて見たわ」

「なかなかお似合いの夫婦だ。それに見事な王家の瞳だな」

八つの目が私の目を見つめる。
アンドレア殿下もオリヴァー殿下も陛下と同じような瞳の色をしている。

「畏れ入ります……私のような若輩者がこのような瞳の色を持つなど……」

「望んで得られるものではない。自分の責でもないことに責任を感じる必要はない。見事だと誉めているのだ」

アンドレア殿下は気さくに話しかけてくださる。

「もう疲れは取れたか」

オリヴァー殿下が私の瞳から視線を移し、ルイスレーン様に話しかける。

「はい。お陰様で……殿下はいかがですか?」

「久々の自分の部屋でゆっくり寝ることができた。イヴァンジェリンも私の好物や何やらを用意してくれて、気遣ってくれたのでな」
「まあ、オリヴァー様……」

イヴァンジェリン妃が照れて俯く。

「昨日からこの調子なのだ」
「本当に私たちも呆れるほどに」

アンドレア殿下とエレノア妃も二人の仲の良さに温かい眼差しを向ける。

茶会でもこんな流れで始まった。
これは間違いなくこっちに飛び火してくるのではと身構える。

「お二人が仲むつまじく何よりです。両殿下妃殿下の様子を拝見して臣下としても喜ばしい限りです。これまではそのことに気がつきませんでしたが……」

ルイスレーン様が私の顔を覗き込むように見つめる。

「昨日邸に戻って彼女に『お帰りなさい』と言われ、家で妻がそうやって出迎えてくれることが素晴らしいことだと初めて気がつきました」
「ルイスレーン様………」

蕩けるような眼差しでそう彼は言った。
確かに「お帰りなさい」は言った。
でもまさかあんなひと言をそんな風に思っていたのか。いや、これは四人の前だからそう言っているのかも。

「おや」「あら」「まあ」
「これは、こちらがあてられたかな」

四人が意外な言葉を聞いて驚く。

「オリヴァー殿下にも戦地で色々我々夫婦のことをご心配いただいておりましたが、私なりに今はこれで良かったと思っております。良縁をいただきました国王陛下に感謝しております」

「父上が聞けば喜ぶだろう。私たちも遠い親戚とは言え、親族の彼女には幸せになってもらいたいと思っている。彼女にとっても卿との縁は何よりのものであろう」

アンドレア殿下が私達の様子を見てそうおっしゃった。

「失礼いたします。オリヴァー殿下」
「どうした」

慌てた様子で突然侍従がやって来て殿下声に何やら耳打ちした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】本当に愛していました。さようなら

梅干しおにぎり
恋愛
本当に愛していた彼の隣には、彼女がいました。 2話完結です。よろしくお願いします。

西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~

雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。 元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。 ※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。

召喚されて異世界行ったら、全てが終わった後でした

仲村 嘉高
ファンタジー
ある日、足下に見た事もない文字で書かれた魔法陣が浮かび上がり、異世界へ召喚された。 しかし発動から召喚までタイムラグがあったようで、召喚先では全てが終わった後だった。 倒すべき魔王は既におらず、そもそも召喚を行った国自体が滅んでいた。 「とりあえずの衣食住は保証をお願いします」 今の国王が良い人で、何の責任も無いのに自立支援は約束してくれた。 ん〜。向こうの世界に大して未練は無いし、こっちでスローライフで良いかな。 R15は、戦闘等の為の保険です。 ※なろうでも公開中

幼子は最強のテイマーだと気付いていません!

akechi
ファンタジー
彼女はユリア、三歳。 森の奥深くに佇む一軒の家で三人家族が住んでいました。ユリアの楽しみは森の動物達と遊ぶこと。 だが其がそもそも規格外だった。 この森は冒険者も決して入らない古(いにしえ)の森と呼ばれている。そしてユリアが可愛い動物と呼ぶのはSS級のとんでもない魔物達だった。 「みんなーあしょぼー!」 これは幼女が繰り広げるドタバタで規格外な日常生活である。

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

【悲報】恋活パーティーサクラの俺、苦手な上司と遭遇しゲイ認定され愛されてしまう

grotta
BL
【本編完結】ノンケの新木は姉(元兄)の主催するゲイのカップリングパーティーのサクラとして無理矢理参加させられる。するとその会場に現れたのは鬼過ぎて苦手な上司の宮藤。 「新木?なんでお前がここに?」 え、そんなのバイトに決まってますが? しかし副業禁止の会社なのでバイトがバレるとまずい。なので俺は自分がゲイだと嘘をついた。 「いやー、俺、男が好きなんすよ。あはは」 すると上司は急に目の色を変えて俺にアプローチをかけてきた。 「この後どう?」 どう?じゃねえ!だけどクソイケメンでもある上司の誘いを断ったら俺がゲイじゃないとバレるかも?くっ、行くしかねえ!さよなら俺のバックバージン…… しかも上司はその後も半ば脅すようにして何かと俺を誘ってくるようになり……? ワンナイトのはずがなんで俺は上司の家に度々泊まってるんだ? 《恋人には甘いイケメン鬼上司×流されやすいノンケ部下》 ※ただのアホエロ話につき♡喘ぎ注意。 ※ノリだけで書き始めたので5万字いけるかわからないけどBL小説大賞エントリー中。

いつか終わりがくるのなら

キムラましゅろう
恋愛
闘病の末に崩御した国王。 まだ幼い新国王を守るために組まれた婚姻で結ばれた、アンリエッタと幼き王エゼキエル。 それは誰もが知っている期間限定の婚姻で…… いずれ大国の姫か有力諸侯の娘と婚姻が組み直されると分かっていながら、エゼキエルとの日々を大切に過ごすアンリエッタ。 終わりが来る事が分かっているからこそ愛しくて優しい日々だった。 アンリエッタは思う、この優しく不器用な夫が幸せになれるように自分に出来る事、残せるものはなんだろうかを。 異世界が難病と指定する悪性誤字脱字病患者の執筆するお話です。 毎度の事ながら、誤字脱字にぶつかるとご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く可能性があります。 ご了承くださいませ。 完全ご都合主義、作者独自の異世界感、ノーリアリティノークオリティのお話です。菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。 小説家になろうさんでも投稿します。

振られたから諦めるつもりだったのに…

しゃーりん
恋愛
伯爵令嬢ヴィッテは公爵令息ディートに告白して振られた。 自分の意に沿わない婚約を結ぶ前のダメ元での告白だった。 その後、相手しか得のない婚約を結ぶことになった。 一方、ディートは告白からヴィッテを目で追うようになって…   婚約を解消したいヴィッテとヴィッテが気になりだしたディートのお話です。

処理中です...