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第六章

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突然のことにばかみたいに口をあんぐりと開けて、見上げる。

「え?」

唇が触れたと思ったら、次の瞬間にはもう一歩下がっていた。
緑にオレンジが散りばめれた瞳は、緑はより深い色に、オレンジももっと赤みが強くなっている。

「お休み。明日も色々忙しい。早く休みなさい」

そう言って私の部屋の扉を開けた後、まだ呆然としている私を放置してルイスレーン様はさっさと歩いて自分の部屋に消えていった。

「クリスティアーヌ様、どうされましたか?」

どれくらいそうしていただろう。
ほんの一瞬かもしれないし、もっと長い時間だったかもしれない。マディソンに声を掛けられ振り向く。

「マディソン……」

「おでこをどうかされたのですか?」

知らずにおでこに手を当てていたことに気づき、ぱっと手を離して首を振る。

「な、なんでもない」

「お一人なのですか?旦那様は…」

「うん……もう部屋に戻られたみたい」

彼が消えた扉をもう一度眺めてから、マディソンとともに部屋に入る。

「まだ少し具合が悪いのではありませんか?明日もお忙しいですし、今日はもうお休みになってください」

ポーッとしたままの私を取り敢えず寝台に座らせ寝支度を整える。
髪をほどき、夜着に手際よく着替えされる間、さっき起こったことを何度も何度も思い起こす。

ーあれって、ただのお休みのあいさつだよね

日本人には馴染みがないが、外国ならあいさつで家族や友達にハグやキスをするわけだし、こっちの世界でもそうなのかも……

「あら、クリスティアーヌ様、お熱でも?」

パタパタと手を団扇にして風を送っているのを見てマディソンが顔を覗き込む。

「だ、大丈夫よ。ちょっとお酒を飲んだから……」

今日はとても盛りだくさんの日だった。

「そうですか?お水でもお飲みになりますか?」

「うん、お願い」

言われて喉がカラカラなことに気づいてマディソンが差し出してくれたお水を一気に飲み干した。

「ありがとう……もう大丈夫。今日はもう下がっていいわ。明日は八時に起こしてもらえる?」

「畏まりました。それでは失礼します」

マディソンが出ていき、部屋に一人きりになると、夕方、ルイスレーン様を出迎えてからのことを思い浮かべる。

青と黄色の入り交じった瞳と緑とオレンジの瞳。室内と外で違う輝きの瞳。

エスコート慣れしているのかいないのか、手をさしのべてくれるが、差し出し方が何だか不器用にも思える。

それでも私の取り留めもない話を楽しそうに聞いてくれた。
タルトを奪われた時は少し驚いた。

食べたかったら言ってくれればいいのに、あんな風に食べなくても……あれではまるで恋人同士みたいだ。

ダンスに誘ってくれたのも驚いた。でも、明日の宴で必要になるなら、事前に練習は必要だったかもしれない。

一曲目を踊る間に一体何度彼の足を踏んだだろう。

最後は殆ど足を踏まずに踊れたが、自分が上手くなったからだとは思えない。彼のリードが上手かったからだ。

倒れたときにお姫様抱っこされたり色々あったが、ルイスレーン様って全体を通してスキンシップが多いように思うのは気のせいだろうか。

極めつけはさっきのデコチュー。

羽のように軽く触れただけだが、少し湿り気があり柔らかかった。

「お酒のせいかも……」

一杯だけしか飲まなかった私と違い、彼はかなり飲んでいた。彼の酒量の限界はしらないが、少し大胆になっていたかもしれない。

「もしかしたら、覚えていないかも」

軽いデコチューごときで変に騒ぎ立てては笑われる。
ここは大人の余裕を見せて、何でもない風に装うのが一番だ。

そう思い付くと、途端に眠気が襲ってきて、私は夢も見ずにぐっすりと眠った。
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