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第五章
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先頭の集団が見えるに従い歓声もだんだんと近づいてくる。
中央に白馬に乗る白い軍服に身を包んだ人物が見えた。
左右に国旗と軍旗を掲げた栗毛の馬に乗った兵士が付き添う。
第二皇子オリヴァー殿下のようだ。
まだ顔は良く見えないが両脇の沿道に立つ人々に手を振っているのがわかる。
殿下の後ろにはルイスレーン様が来ているに違いない。
ここからはまだ殿下とその左右に控える護衛兵士の姿しかわからない。
ようやく第二皇子の扮装がわかる位近づいてきた時、前にいた三歳のミシェルがグレンダさんの手を引っ張った。
「どうしたの?ミシェル」
「……おしっこ」
「え!」
もじもじとミシェルが耳打ちする。
「い、いまぁ?」
今まさに殿下が近づきつつあるこの瞬間にこの場を離れなくてはならなくなって、グレンダさんが慌てている。
「ミシェル、もう少し我慢できない?もうそこまで来てるから」
「や、だめぇ、今したい」
我慢しなさいと言われても、そういうわけにはいかない。ミシェルはじたばたしだした。
「グレンダさん、私が連れていきます」
見かねて声をかけた。彼女は一団の中にいる旦那様が通るのを待っている。
今この場を離れたら、戻ってきたときにはもう一行は通りすぎてしまうだろう。
「え、いいの、クリッシーさん」
「だってグレンダさんは旦那様を見たいでしょ。私が連れていきます。他の子は大丈夫?」
私が連れていた二歳のマイラと四歳のアーサーに声をかける。
ルイスレーン様のことは気にかからないでもないが、グレンダさんの気持ちもわかる。
ここは彼女の代わりに私が行くべきだろう。
「僕は大丈夫」「あたち……あたちも行きたい」
アーサーは平気そうだがマイラも行きたいと言い出した。
「ごめんなさい、ありがとう。ミシェル、クリッシーが連れていってくれるって」
「おいでミシェル、マイラ」
「うん」
ミシェルが私の手をとると、グレンダさんもほっとした顔をした。
「グレンダさん、アーサーをお願いします」
「任せて、アーサーこっちにおいで」
私はミシェルとマイラを連れて列から抜けた。
診療所まで戻る時間はない。私は近くの食堂へ駆け込んだ。
食堂に入る瞬間、通りでは蹄の音が響き渡り、ちらりと顔だけを向けると白の軍服を着た殿下と半馬下がって付き従う護衛が見えた。
そしてその後ろにもう一人同じ白い軍服を着て黒い馬に乗った人物。
「クリッシー……もれちゃうぅ」
「あ、ごめんね」
入り口で一瞬立ち止まっていた私にミシェルが訴え、あわてて店の奥へ駆け込んだ。
ミシェルとマイラの用を済ませて店を出た時には、すでに一団は通りすぎてしまっていた。
「ごめんなさい、任せてしまって」
グレンダさんたちと合流すると彼女が申し訳なさそうに言った。
「いえ、大丈夫です。それよりご主人、見つけられましたか?」
「ええ、反対側を歩いていたので遠目だったけど元気そうだったわ」
「よかった」
嬉しそうに話すグレンダさんを見て代わってあげてよかったと思った。
「あのね、皇子様、かっこよかったよ!真っ白なお馬さんに乗って、真っ白なお洋服にいっぱい飾りが付いて」
アーサーたち男の子たちはすっかり興奮している。
「そうなんだ。良かったね」
「もう一人ね、皇子様の後に白い服を着て真っ黒い馬に乗った大きな男の人もかっこよかった。あの人も皇子様?」
五歳のドミニクが訊ねる。店に入る前に見えた人物を思い出す。
「あの人は皇子様じゃないわ。たぶん、副官の方よ。確かリンドバルク侯爵だったかしら」
グレンダさんの言葉にどきりとした。
顔までは見えなかったが、ちらりと見えた姿は確かに大きかった。
あれがルイスレーン様だったんだ。
「殿下もそうだけど、えらく男前だったわねぇ。この私でも惚れ惚れしたよ」
同じように子どもたちの世話をしてくれているヘレナさんがうっとりとした顔をした。
彼女は既に孫がいる年齢だが、結婚出産が早かったため、まだまだ若い。
「ありゃあ、女が放っておかないね。殿下は妻帯者だけど、侯爵はどうだったかね」
「王室の方と違って貴族の方のことはあまり知りませんが、殿下とあまり年も変わらないようでしたから、結婚されているのでは?」
「きっといいところのお綺麗なご令嬢なんでしょうね」
グレンダさん、ヘレナさん、そしてもう一人のカミラさんの三人が噂するのを聞きながら何だか居たたまれなくなった。
美男には美女。侯爵にはそれなりに位の高いご令嬢。
世間の人はそう考える。
ルイスレーン様がどれ程の容姿かは先代侯爵とその夫人を見れば想像がつく。マリアンナたちが主人を高評価しているわけではないことがヘレナさんたちの反応を見ればわかった。
本当はここでこっそりとルイスレーン様の姿を見て、今日の対面に備えようと思っていた。
残念なことにはっきりと姿を見ることが出来なかっただけに、初めての夫との顔合わせまでの時間が酷く長く感じられた。
中央に白馬に乗る白い軍服に身を包んだ人物が見えた。
左右に国旗と軍旗を掲げた栗毛の馬に乗った兵士が付き添う。
第二皇子オリヴァー殿下のようだ。
まだ顔は良く見えないが両脇の沿道に立つ人々に手を振っているのがわかる。
殿下の後ろにはルイスレーン様が来ているに違いない。
ここからはまだ殿下とその左右に控える護衛兵士の姿しかわからない。
ようやく第二皇子の扮装がわかる位近づいてきた時、前にいた三歳のミシェルがグレンダさんの手を引っ張った。
「どうしたの?ミシェル」
「……おしっこ」
「え!」
もじもじとミシェルが耳打ちする。
「い、いまぁ?」
今まさに殿下が近づきつつあるこの瞬間にこの場を離れなくてはならなくなって、グレンダさんが慌てている。
「ミシェル、もう少し我慢できない?もうそこまで来てるから」
「や、だめぇ、今したい」
我慢しなさいと言われても、そういうわけにはいかない。ミシェルはじたばたしだした。
「グレンダさん、私が連れていきます」
見かねて声をかけた。彼女は一団の中にいる旦那様が通るのを待っている。
今この場を離れたら、戻ってきたときにはもう一行は通りすぎてしまうだろう。
「え、いいの、クリッシーさん」
「だってグレンダさんは旦那様を見たいでしょ。私が連れていきます。他の子は大丈夫?」
私が連れていた二歳のマイラと四歳のアーサーに声をかける。
ルイスレーン様のことは気にかからないでもないが、グレンダさんの気持ちもわかる。
ここは彼女の代わりに私が行くべきだろう。
「僕は大丈夫」「あたち……あたちも行きたい」
アーサーは平気そうだがマイラも行きたいと言い出した。
「ごめんなさい、ありがとう。ミシェル、クリッシーが連れていってくれるって」
「おいでミシェル、マイラ」
「うん」
ミシェルが私の手をとると、グレンダさんもほっとした顔をした。
「グレンダさん、アーサーをお願いします」
「任せて、アーサーこっちにおいで」
私はミシェルとマイラを連れて列から抜けた。
診療所まで戻る時間はない。私は近くの食堂へ駆け込んだ。
食堂に入る瞬間、通りでは蹄の音が響き渡り、ちらりと顔だけを向けると白の軍服を着た殿下と半馬下がって付き従う護衛が見えた。
そしてその後ろにもう一人同じ白い軍服を着て黒い馬に乗った人物。
「クリッシー……もれちゃうぅ」
「あ、ごめんね」
入り口で一瞬立ち止まっていた私にミシェルが訴え、あわてて店の奥へ駆け込んだ。
ミシェルとマイラの用を済ませて店を出た時には、すでに一団は通りすぎてしまっていた。
「ごめんなさい、任せてしまって」
グレンダさんたちと合流すると彼女が申し訳なさそうに言った。
「いえ、大丈夫です。それよりご主人、見つけられましたか?」
「ええ、反対側を歩いていたので遠目だったけど元気そうだったわ」
「よかった」
嬉しそうに話すグレンダさんを見て代わってあげてよかったと思った。
「あのね、皇子様、かっこよかったよ!真っ白なお馬さんに乗って、真っ白なお洋服にいっぱい飾りが付いて」
アーサーたち男の子たちはすっかり興奮している。
「そうなんだ。良かったね」
「もう一人ね、皇子様の後に白い服を着て真っ黒い馬に乗った大きな男の人もかっこよかった。あの人も皇子様?」
五歳のドミニクが訊ねる。店に入る前に見えた人物を思い出す。
「あの人は皇子様じゃないわ。たぶん、副官の方よ。確かリンドバルク侯爵だったかしら」
グレンダさんの言葉にどきりとした。
顔までは見えなかったが、ちらりと見えた姿は確かに大きかった。
あれがルイスレーン様だったんだ。
「殿下もそうだけど、えらく男前だったわねぇ。この私でも惚れ惚れしたよ」
同じように子どもたちの世話をしてくれているヘレナさんがうっとりとした顔をした。
彼女は既に孫がいる年齢だが、結婚出産が早かったため、まだまだ若い。
「ありゃあ、女が放っておかないね。殿下は妻帯者だけど、侯爵はどうだったかね」
「王室の方と違って貴族の方のことはあまり知りませんが、殿下とあまり年も変わらないようでしたから、結婚されているのでは?」
「きっといいところのお綺麗なご令嬢なんでしょうね」
グレンダさん、ヘレナさん、そしてもう一人のカミラさんの三人が噂するのを聞きながら何だか居たたまれなくなった。
美男には美女。侯爵にはそれなりに位の高いご令嬢。
世間の人はそう考える。
ルイスレーン様がどれ程の容姿かは先代侯爵とその夫人を見れば想像がつく。マリアンナたちが主人を高評価しているわけではないことがヘレナさんたちの反応を見ればわかった。
本当はここでこっそりとルイスレーン様の姿を見て、今日の対面に備えようと思っていた。
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