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第四章

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ルーティアス・ニールセン。出身は地方の田舎町、デルトラ。年齢は三十歳。魔石の搬送が彼の仕事。
時には魔石以外の物も運ぶときがある。

それがルーティアス・ニールセンの経歴。
ルイスレーン・リンドバルグのもうひとつの顔。
侯爵として、殿下の副官として表だって動くことが憚られる時にその顔を使う。
今回はカメイラの大公たちが持ちかけた休戦協定について密かに陛下へ伝えるためにやって来た。

その日の朝早く、ルーティアスとして部下と共に王都の城壁を潜った後、彼はまっすぐ目的地に向かっていた。

王都内の通りは朝早くでも大勢の人が行き交い、いつも活気が溢れている。
乗ってきた馬に跨がり道の中央を進み噴水広場に差し掛かった彼の視線の先を、急ぎ足で横切る人物に何気なく目をやり彼は驚いた。

一瞬我が目を疑い瞬きするが、今目にした人物がこちらに向かって歩いてきて自分とすれ違った。

思わず振り返ってその人物の背中を追い、角を曲がっていく背中を見送る。

ークリスティアーヌ?

「いや、まさか」

そう思うが自分のすぐ横を通りすぎる時に顔をはっきり見てしまった。
よく似た別人かも知れない。そもそも絶対にどちらかと言えるほどもじっくりと見たことがない。

「いかがしましたか?」

馬を停めた彼に部下が訊ねる。

「いや、何でもない」

追いかけてはっきりさせたい気持ちがあったが、ここに来た目的を思いだし、そこに向かって馬を進めた。


王に密使からの報告をし、その報告について緊急会議が召集されることとなり、その結果を待つ間に彼は再び街へと下りてきた。

昼夜問わず馬を走らせてきたので、本来なら仮眠をとるべきなのはわかっていた。彼も最初はそうするつもりでいた。

だが、どうにもさっきすれ違った人物のことが気にかかり、すぐ戻るからと伝言を残し、今、先ほどの街角で立っている。

壁に持たれかけ人目につかないように立ち、時折やってくる睡魔に抗いながら、自分は何を確認したくてここにいるのか問答する。

もし人違いならそれでいい。
だが、もし彼女なら?
どうするというのだろう。彼女が自分の留守の間に何をしているか。それを知ってどうする?

それに、こんな所で立っているなら邸に行って確認すればいい。
ここを通るとは限らないし、もう戻っているかもしれない。
いや、今は任務で来ている。たとえ邸の者でも自分が戻ってきていることを知らせれば軍律違反だ。
正午の鐘が鳴って暫くして後ろから声を掛けられた。

「ルーティアス様」

振り向くと砦から共にやって来た部下がやって来た。

「なんだ?イーサン、どうしてお前がここに?」

「なんだではありません。王宮で待機していなければならないのに、こんな所でずっと立って何をされているのです。あなたを見かけた者が私に連絡してきました。もう二時間近くここに隠れているそうですね。誰か不振人物を見張っているなら、そうおっしゃってくれれば……今何かおっしゃいましたか?」

誰かわからないが余計なことを、と思わず舌打ちする。
ルーティアスの姿を私だと知っているということは、特殊部隊の者なのだろう。

「これはお前には関係ないことだ。少し確認したいことがあるだけだ。すぐ戻るからあっちへ行け」

「関係ないって……」

「しっ!黙れ」

イーサンの口を塞ぎ、影に追いやる。

キャラメル色の髪を日射しに輝かせ、楽しそうに彼女がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

手に持った袋の中を覗き込み、中の物も取り出そうとしている。

あんな風に嬉しそうな顔を初めて見た。
何がそんなに彼女を喜ばせているのか、思わず路地から出て確かめたくなった。
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