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第四章

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国王陛下のおっしゃったことはすぐに現実的なものになった。

戦争の終結。私がそのニュースを聞いたのは陛下と会った数日後だった。

診療所からの帰り道、その日はトムが他に仕事があるため迎えが少し遅くなるということで、いつもよりゆっくりと診療所を出た。

「号外、号外!」

街に出ると新聞売りの少年が声を枯らして大声で走り回り、道行く人々に号外を撒いて回っていた。

「戦争が終わった」

そんな言葉が人々の口から聞こえた。

落ちた新聞を拾ってそこに書かれた記事を読む。

『カメイラ国内でクーデター

カメイラ国で二人の大公がクーデターを起こし、国王とその愛娼とその一族が命を落とした。そもそもこの戦争は国王が独断で強行したものだった。進軍に反対し更迭されていた大公二人が首謀者となりクーデターが起こった。
大公が新たに推した新王と我が国でこの程平和協定を結び、今後両国の国境にある魔石の採掘権について話し合いが持たれる予定であると王宮から公式発表があった』

クーデター……陛下が言っていたのは、このことを知っていたからだ。

号外を手にしながら、戦争が終わったことを喜ぶ人々の間をすり抜け、壁にもたれた。

戦争が終わる。

喜ばしいことだ。知らせを聞いた皆の様子を見ればわかる。

もう一度手元の号外に目を遠していると、号外に影が落ちたのに気付き顔を上げた。

「こんにちは」

目の前にいたのは以前ぶつかった男性だった。
確か連れの人にルーティアスと呼ばれていた。

「こんにちは……この前はすいませんでした」

「こちらこそ……かえって気を遣わせて申し訳なかった……ハンカチも、お金のことも……戦争…終わりましたね」

「ええ……」

「あまり嬉しそうに見えませんが」

「いえ、嬉しいです。王都ではあまり影響はありませんが、軍人の方には感謝しています。早く終わればその分負傷したり亡くなる方も少なくなりますし、彼らも家族の元へ戻ってこられますし……」

そうだ。戦争が終われば皆戻ってくる。
ルイスレーン様も。
もちろんすぐにかどうかわからないが、確実に戻ってくるのは間違いない。

「誰かお知り合いに軍関係の方がいらっしゃるのですか?」
「はい……夫が」
「旦那様が!それは……お若いのでご結婚はまだかと思っていました」

自分が既婚者に見えないと言われ、それもそうだと落ち込んだ。

「すいません……失礼なことを」
「いえ、実は結婚したばかりなので……そんな風に見えなくても仕方ありません。ルーティアスさんはご結婚は?」
「実は私もついこの前結婚したばかりで」
「そうなんですか……」

殆ど初対面の人とこんなところで世間話をしていることが信じられなかった。

「この前……」
「はい?」
「この前ぶつかった時に食べられていたもの……食べに行きませんか?奢りますよ」

いきなりの展開に驚く。
こんな体格のいいおじさんがクレープを一緒になんて。

「そんな……大丈夫です」
「新しいハンカチを頂いて、その上お金まで頂いて心苦しかったのです」
「それは、ぶつかって洋服を汚して…」
「いきなり目の前に立ち塞がった私も悪かった。お互い様なのに、あなたにばかり負担をかけて申し訳なかったと思っていました。どうか奢らせてください」

あまりに真剣に言われて断りきれなかった。
名前しか知らない、今日を含めて二度会っただけの人に警戒しないでもなかったが、人通りのある昼間だし大丈夫かなと考えた。

私が先に歩き店まで案内する。

クレープ屋さんに着くと、戦争終結記念出血大サービスと銘打って、クレープが半額になっていた。

「確か、あの時ひとつは食べてもうひとつ持っていましたね」

ルーティアスさんがそう言って二つ注文する。

「はい。もうひとつはトムにあげる分でした」

「トム?ご主人は確か戦争に……」

「トムにはちゃんと奥様がいます。いつも途中まで迎えに来てくれるので、そのお礼に…甘いものが大好きなんです」
「そうですか……」

「はい、お待たせ」

クレープが出来上がり、品物を受け取ってルーティアスさんがお金を払ってくれた。

「すいません。これ、おひとつどうぞ」

買ってもらったクレープのひとつをルーティアスさんに渡すと、彼は目を丸くしてこちらを見た。
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