44 / 266
第四章
10
しおりを挟む
国王陛下のおっしゃったことはすぐに現実的なものになった。
戦争の終結。私がそのニュースを聞いたのは陛下と会った数日後だった。
診療所からの帰り道、その日はトムが他に仕事があるため迎えが少し遅くなるということで、いつもよりゆっくりと診療所を出た。
「号外、号外!」
街に出ると新聞売りの少年が声を枯らして大声で走り回り、道行く人々に号外を撒いて回っていた。
「戦争が終わった」
そんな言葉が人々の口から聞こえた。
落ちた新聞を拾ってそこに書かれた記事を読む。
『カメイラ国内でクーデター
カメイラ国で二人の大公がクーデターを起こし、国王とその愛娼とその一族が命を落とした。そもそもこの戦争は国王が独断で強行したものだった。進軍に反対し更迭されていた大公二人が首謀者となりクーデターが起こった。
大公が新たに推した新王と我が国でこの程平和協定を結び、今後両国の国境にある魔石の採掘権について話し合いが持たれる予定であると王宮から公式発表があった』
クーデター……陛下が言っていたのは、このことを知っていたからだ。
号外を手にしながら、戦争が終わったことを喜ぶ人々の間をすり抜け、壁にもたれた。
戦争が終わる。
喜ばしいことだ。知らせを聞いた皆の様子を見ればわかる。
もう一度手元の号外に目を遠していると、号外に影が落ちたのに気付き顔を上げた。
「こんにちは」
目の前にいたのは以前ぶつかった男性だった。
確か連れの人にルーティアスと呼ばれていた。
「こんにちは……この前はすいませんでした」
「こちらこそ……かえって気を遣わせて申し訳なかった……ハンカチも、お金のことも……戦争…終わりましたね」
「ええ……」
「あまり嬉しそうに見えませんが」
「いえ、嬉しいです。王都ではあまり影響はありませんが、軍人の方には感謝しています。早く終わればその分負傷したり亡くなる方も少なくなりますし、彼らも家族の元へ戻ってこられますし……」
そうだ。戦争が終われば皆戻ってくる。
ルイスレーン様も。
もちろんすぐにかどうかわからないが、確実に戻ってくるのは間違いない。
「誰かお知り合いに軍関係の方がいらっしゃるのですか?」
「はい……夫が」
「旦那様が!それは……お若いのでご結婚はまだかと思っていました」
自分が既婚者に見えないと言われ、それもそうだと落ち込んだ。
「すいません……失礼なことを」
「いえ、実は結婚したばかりなので……そんな風に見えなくても仕方ありません。ルーティアスさんはご結婚は?」
「実は私もついこの前結婚したばかりで」
「そうなんですか……」
殆ど初対面の人とこんなところで世間話をしていることが信じられなかった。
「この前……」
「はい?」
「この前ぶつかった時に食べられていたもの……食べに行きませんか?奢りますよ」
いきなりの展開に驚く。
こんな体格のいいおじさんがクレープを一緒になんて。
「そんな……大丈夫です」
「新しいハンカチを頂いて、その上お金まで頂いて心苦しかったのです」
「それは、ぶつかって洋服を汚して…」
「いきなり目の前に立ち塞がった私も悪かった。お互い様なのに、あなたにばかり負担をかけて申し訳なかったと思っていました。どうか奢らせてください」
あまりに真剣に言われて断りきれなかった。
名前しか知らない、今日を含めて二度会っただけの人に警戒しないでもなかったが、人通りのある昼間だし大丈夫かなと考えた。
私が先に歩き店まで案内する。
クレープ屋さんに着くと、戦争終結記念出血大サービスと銘打って、クレープが半額になっていた。
「確か、あの時ひとつは食べてもうひとつ持っていましたね」
ルーティアスさんがそう言って二つ注文する。
「はい。もうひとつはトムにあげる分でした」
「トム?ご主人は確か戦争に……」
「トムにはちゃんと奥様がいます。いつも途中まで迎えに来てくれるので、そのお礼に…甘いものが大好きなんです」
「そうですか……」
「はい、お待たせ」
クレープが出来上がり、品物を受け取ってルーティアスさんがお金を払ってくれた。
「すいません。これ、おひとつどうぞ」
買ってもらったクレープのひとつをルーティアスさんに渡すと、彼は目を丸くしてこちらを見た。
戦争の終結。私がそのニュースを聞いたのは陛下と会った数日後だった。
診療所からの帰り道、その日はトムが他に仕事があるため迎えが少し遅くなるということで、いつもよりゆっくりと診療所を出た。
「号外、号外!」
街に出ると新聞売りの少年が声を枯らして大声で走り回り、道行く人々に号外を撒いて回っていた。
「戦争が終わった」
そんな言葉が人々の口から聞こえた。
落ちた新聞を拾ってそこに書かれた記事を読む。
『カメイラ国内でクーデター
カメイラ国で二人の大公がクーデターを起こし、国王とその愛娼とその一族が命を落とした。そもそもこの戦争は国王が独断で強行したものだった。進軍に反対し更迭されていた大公二人が首謀者となりクーデターが起こった。
大公が新たに推した新王と我が国でこの程平和協定を結び、今後両国の国境にある魔石の採掘権について話し合いが持たれる予定であると王宮から公式発表があった』
クーデター……陛下が言っていたのは、このことを知っていたからだ。
号外を手にしながら、戦争が終わったことを喜ぶ人々の間をすり抜け、壁にもたれた。
戦争が終わる。
喜ばしいことだ。知らせを聞いた皆の様子を見ればわかる。
もう一度手元の号外に目を遠していると、号外に影が落ちたのに気付き顔を上げた。
「こんにちは」
目の前にいたのは以前ぶつかった男性だった。
確か連れの人にルーティアスと呼ばれていた。
「こんにちは……この前はすいませんでした」
「こちらこそ……かえって気を遣わせて申し訳なかった……ハンカチも、お金のことも……戦争…終わりましたね」
「ええ……」
「あまり嬉しそうに見えませんが」
「いえ、嬉しいです。王都ではあまり影響はありませんが、軍人の方には感謝しています。早く終わればその分負傷したり亡くなる方も少なくなりますし、彼らも家族の元へ戻ってこられますし……」
そうだ。戦争が終われば皆戻ってくる。
ルイスレーン様も。
もちろんすぐにかどうかわからないが、確実に戻ってくるのは間違いない。
「誰かお知り合いに軍関係の方がいらっしゃるのですか?」
「はい……夫が」
「旦那様が!それは……お若いのでご結婚はまだかと思っていました」
自分が既婚者に見えないと言われ、それもそうだと落ち込んだ。
「すいません……失礼なことを」
「いえ、実は結婚したばかりなので……そんな風に見えなくても仕方ありません。ルーティアスさんはご結婚は?」
「実は私もついこの前結婚したばかりで」
「そうなんですか……」
殆ど初対面の人とこんなところで世間話をしていることが信じられなかった。
「この前……」
「はい?」
「この前ぶつかった時に食べられていたもの……食べに行きませんか?奢りますよ」
いきなりの展開に驚く。
こんな体格のいいおじさんがクレープを一緒になんて。
「そんな……大丈夫です」
「新しいハンカチを頂いて、その上お金まで頂いて心苦しかったのです」
「それは、ぶつかって洋服を汚して…」
「いきなり目の前に立ち塞がった私も悪かった。お互い様なのに、あなたにばかり負担をかけて申し訳なかったと思っていました。どうか奢らせてください」
あまりに真剣に言われて断りきれなかった。
名前しか知らない、今日を含めて二度会っただけの人に警戒しないでもなかったが、人通りのある昼間だし大丈夫かなと考えた。
私が先に歩き店まで案内する。
クレープ屋さんに着くと、戦争終結記念出血大サービスと銘打って、クレープが半額になっていた。
「確か、あの時ひとつは食べてもうひとつ持っていましたね」
ルーティアスさんがそう言って二つ注文する。
「はい。もうひとつはトムにあげる分でした」
「トム?ご主人は確か戦争に……」
「トムにはちゃんと奥様がいます。いつも途中まで迎えに来てくれるので、そのお礼に…甘いものが大好きなんです」
「そうですか……」
「はい、お待たせ」
クレープが出来上がり、品物を受け取ってルーティアスさんがお金を払ってくれた。
「すいません。これ、おひとつどうぞ」
買ってもらったクレープのひとつをルーティアスさんに渡すと、彼は目を丸くしてこちらを見た。
25
お気に入りに追加
4,253
あなたにおすすめの小説
西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~
雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。
元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。
※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。
召喚されて異世界行ったら、全てが終わった後でした
仲村 嘉高
ファンタジー
ある日、足下に見た事もない文字で書かれた魔法陣が浮かび上がり、異世界へ召喚された。
しかし発動から召喚までタイムラグがあったようで、召喚先では全てが終わった後だった。
倒すべき魔王は既におらず、そもそも召喚を行った国自体が滅んでいた。
「とりあえずの衣食住は保証をお願いします」
今の国王が良い人で、何の責任も無いのに自立支援は約束してくれた。
ん〜。向こうの世界に大して未練は無いし、こっちでスローライフで良いかな。
R15は、戦闘等の為の保険です。
※なろうでも公開中
幼子は最強のテイマーだと気付いていません!
akechi
ファンタジー
彼女はユリア、三歳。
森の奥深くに佇む一軒の家で三人家族が住んでいました。ユリアの楽しみは森の動物達と遊ぶこと。
だが其がそもそも規格外だった。
この森は冒険者も決して入らない古(いにしえ)の森と呼ばれている。そしてユリアが可愛い動物と呼ぶのはSS級のとんでもない魔物達だった。
「みんなーあしょぼー!」
これは幼女が繰り広げるドタバタで規格外な日常生活である。
【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで
あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。
連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。
ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。
IF(7話)は本編からの派生。
【悲報】恋活パーティーサクラの俺、苦手な上司と遭遇しゲイ認定され愛されてしまう
grotta
BL
【本編完結】ノンケの新木は姉(元兄)の主催するゲイのカップリングパーティーのサクラとして無理矢理参加させられる。するとその会場に現れたのは鬼過ぎて苦手な上司の宮藤。
「新木?なんでお前がここに?」
え、そんなのバイトに決まってますが?
しかし副業禁止の会社なのでバイトがバレるとまずい。なので俺は自分がゲイだと嘘をついた。
「いやー、俺、男が好きなんすよ。あはは」
すると上司は急に目の色を変えて俺にアプローチをかけてきた。
「この後どう?」
どう?じゃねえ!だけどクソイケメンでもある上司の誘いを断ったら俺がゲイじゃないとバレるかも?くっ、行くしかねえ!さよなら俺のバックバージン……
しかも上司はその後も半ば脅すようにして何かと俺を誘ってくるようになり……?
ワンナイトのはずがなんで俺は上司の家に度々泊まってるんだ?
《恋人には甘いイケメン鬼上司×流されやすいノンケ部下》
※ただのアホエロ話につき♡喘ぎ注意。
※ノリだけで書き始めたので5万字いけるかわからないけどBL小説大賞エントリー中。
いつか終わりがくるのなら
キムラましゅろう
恋愛
闘病の末に崩御した国王。
まだ幼い新国王を守るために組まれた婚姻で結ばれた、アンリエッタと幼き王エゼキエル。
それは誰もが知っている期間限定の婚姻で……
いずれ大国の姫か有力諸侯の娘と婚姻が組み直されると分かっていながら、エゼキエルとの日々を大切に過ごすアンリエッタ。
終わりが来る事が分かっているからこそ愛しくて優しい日々だった。
アンリエッタは思う、この優しく不器用な夫が幸せになれるように自分に出来る事、残せるものはなんだろうかを。
異世界が難病と指定する悪性誤字脱字病患者の執筆するお話です。
毎度の事ながら、誤字脱字にぶつかるとご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く可能性があります。
ご了承くださいませ。
完全ご都合主義、作者独自の異世界感、ノーリアリティノークオリティのお話です。菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。
小説家になろうさんでも投稿します。
振られたから諦めるつもりだったのに…
しゃーりん
恋愛
伯爵令嬢ヴィッテは公爵令息ディートに告白して振られた。
自分の意に沿わない婚約を結ぶ前のダメ元での告白だった。
その後、相手しか得のない婚約を結ぶことになった。
一方、ディートは告白からヴィッテを目で追うようになって…
婚約を解消したいヴィッテとヴィッテが気になりだしたディートのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる