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第四章
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満足に教育も受けておらず地位も財産もない。
唯一の美点は王室の血筋であること。
それさえも王位継承権など無いも同然の私を、何の交換条件もなく妻にするとルイスレーン様が決めたのはなぜか。
何か国王陛下から美味しい条件を出されたと言われた方が納得がいく。
「ハハハハハハ」
だが、予想に反して陛下は大声で笑いだした。
「へ、陛下?」
後ろに立つマクミランさんが驚いて陛下を見る。
隣のニコラス先生も顔がひきつっている。
面白いことを言ったつもりはなかったが、陛下が私の発言を聞いて笑ったのは事実だ。
「悪い……そなた、確かに地位や財産もないが、リンドバルクがそなたを嫁にしたのは、自分が美しいからだとは考えないのか。男が妻にと望む条件の中にはそう言った要素も含まれると思うが。これまでもその美貌で王族や高位貴族に嫁いだ者の中には貴族ですらなかった者もおるぞ」
「そこまで自惚れておりませんし、私のことを知っていたとも思えません。記憶がないのでわかりませんが、聞き及ぶ私の生い立ちから察すると侯爵とお会いしたことはなさそうです。陛下からお話があるまで私のことは知らなかったと思いますが」
過去のクリスティアーヌがルイスレーン様と面識があったかどうかはわからないが、侯爵の彼と私が結婚の話が持ち上がる以前に会う機会などなかったはずだ。
私自身はクリスティアーヌの外見は嫌いではないが、仮に何かで見かけたことがあったとしても、誰もが目を引く美女でないことはわかる。
「好みというのは人それぞれだ。そなたもなかなか美しいと思うが」
「侯爵はそのように見かけで人を判断されるような方なのですか?」
「………想像はつかないな。そなたはどうだ?」
私の問いに陛下は暫く考え、背後のマクミランさんに訊ねる。
「僭越ながら、私もリンドバルク卿が女性の容姿に惑わされる方には思えません」
「………まあ、しかしリンドバルクがそなたとの婚姻を無条件に承諾したのは事実だ。余は何の条件も出しておらん。そなたの境遇は伝えたが、特に同情もしておらんようだった。もともと彼はあまり感情を面に出す人間ではないからな……彼の名誉のために言っておくがオリヴァーの副官になったのは彼の実力だ。それに歳がちょうどいいとは言わんが、不自然なほど離れてもおらんし。十歳差などよくあることだ。あれも早くに女親を亡くし、父親もそなたが母を亡くした頃と同じ頃に亡くしておる。互いに境遇も似ておるし、うってつけだと思ったまで」
「出すぎたことを申しました」
「気にするな……しかし、そなたと顔を会わせて話をするのは今日で三度目だが、これ程言葉を交わしたのは初めてだ。記憶を失くしただけでなく、まるで別人だな」
「さ、さようでございますか」
別人と言われて一瞬怯んだ。
「初めて会ったのは母君が亡くなったすぐ後だったから気落ちしていたこともあるだろうが、二度目はリンドバルクとの婚姻を告げた時だ。その時も俯いて、わかりましたと。結婚に際して望みがあるか訊ねると、出来るだけ早くとだけ……今日のそなたは余の目をまっすぐに見て受け答えもしっかりしており実に小気味良い」
「……お誉めにあずかり恐縮でございます」
「陛下……そろそろ」
「ん?もうそんな頃合いか…すまない。ゲイル一人を連れて出てきたゆえ、そろそろ戻らねば。突然訪ねてきてすまなかったな」
護衛一人だけを連れて街中に繰り出すなど自由過ぎるとは思ったが、私を気にかけてやって来てくれたのは嬉しかった。
「もうこのようなことはやめてください。こちらの心臓が持ちません」
ニコラス先生の訴えに立ち上がり出入口に向かう陛下がにやりと笑った。
「この戦争も近いうちに終結するだろう。そうなればリンドバルクも戻ってくる。二人できちんと向き合いなさい」
そう言って国王陛下は護衛のマクミランさんと王宮へ戻って行った。
唯一の美点は王室の血筋であること。
それさえも王位継承権など無いも同然の私を、何の交換条件もなく妻にするとルイスレーン様が決めたのはなぜか。
何か国王陛下から美味しい条件を出されたと言われた方が納得がいく。
「ハハハハハハ」
だが、予想に反して陛下は大声で笑いだした。
「へ、陛下?」
後ろに立つマクミランさんが驚いて陛下を見る。
隣のニコラス先生も顔がひきつっている。
面白いことを言ったつもりはなかったが、陛下が私の発言を聞いて笑ったのは事実だ。
「悪い……そなた、確かに地位や財産もないが、リンドバルクがそなたを嫁にしたのは、自分が美しいからだとは考えないのか。男が妻にと望む条件の中にはそう言った要素も含まれると思うが。これまでもその美貌で王族や高位貴族に嫁いだ者の中には貴族ですらなかった者もおるぞ」
「そこまで自惚れておりませんし、私のことを知っていたとも思えません。記憶がないのでわかりませんが、聞き及ぶ私の生い立ちから察すると侯爵とお会いしたことはなさそうです。陛下からお話があるまで私のことは知らなかったと思いますが」
過去のクリスティアーヌがルイスレーン様と面識があったかどうかはわからないが、侯爵の彼と私が結婚の話が持ち上がる以前に会う機会などなかったはずだ。
私自身はクリスティアーヌの外見は嫌いではないが、仮に何かで見かけたことがあったとしても、誰もが目を引く美女でないことはわかる。
「好みというのは人それぞれだ。そなたもなかなか美しいと思うが」
「侯爵はそのように見かけで人を判断されるような方なのですか?」
「………想像はつかないな。そなたはどうだ?」
私の問いに陛下は暫く考え、背後のマクミランさんに訊ねる。
「僭越ながら、私もリンドバルク卿が女性の容姿に惑わされる方には思えません」
「………まあ、しかしリンドバルクがそなたとの婚姻を無条件に承諾したのは事実だ。余は何の条件も出しておらん。そなたの境遇は伝えたが、特に同情もしておらんようだった。もともと彼はあまり感情を面に出す人間ではないからな……彼の名誉のために言っておくがオリヴァーの副官になったのは彼の実力だ。それに歳がちょうどいいとは言わんが、不自然なほど離れてもおらんし。十歳差などよくあることだ。あれも早くに女親を亡くし、父親もそなたが母を亡くした頃と同じ頃に亡くしておる。互いに境遇も似ておるし、うってつけだと思ったまで」
「出すぎたことを申しました」
「気にするな……しかし、そなたと顔を会わせて話をするのは今日で三度目だが、これ程言葉を交わしたのは初めてだ。記憶を失くしただけでなく、まるで別人だな」
「さ、さようでございますか」
別人と言われて一瞬怯んだ。
「初めて会ったのは母君が亡くなったすぐ後だったから気落ちしていたこともあるだろうが、二度目はリンドバルクとの婚姻を告げた時だ。その時も俯いて、わかりましたと。結婚に際して望みがあるか訊ねると、出来るだけ早くとだけ……今日のそなたは余の目をまっすぐに見て受け答えもしっかりしており実に小気味良い」
「……お誉めにあずかり恐縮でございます」
「陛下……そろそろ」
「ん?もうそんな頃合いか…すまない。ゲイル一人を連れて出てきたゆえ、そろそろ戻らねば。突然訪ねてきてすまなかったな」
護衛一人だけを連れて街中に繰り出すなど自由過ぎるとは思ったが、私を気にかけてやって来てくれたのは嬉しかった。
「もうこのようなことはやめてください。こちらの心臓が持ちません」
ニコラス先生の訴えに立ち上がり出入口に向かう陛下がにやりと笑った。
「この戦争も近いうちに終結するだろう。そうなればリンドバルクも戻ってくる。二人できちんと向き合いなさい」
そう言って国王陛下は護衛のマクミランさんと王宮へ戻って行った。
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