【本編完結】政略結婚から逃げたいのに旦那様から逃げられません

七夜かなた

文字の大きさ
上 下
36 / 266
第四章

2

しおりを挟む
驚くエマさんにイザベラさんが説明する。

「実はこのお菓子はクリスティアーヌ様がお作りになられました。お気に召していただけたようですね」
「え、ええ……正直驚きました。まさか侯爵夫人が厨房に立ってお菓子を作られるなんて」
「本格的なものは難しいですが、これはクレープ生地を焼いて重ねるだけですから」

私が侯爵夫人である以上、どこに行ってもきっとエマさんのような対応をされるだろうとイザベラさんが言うので、お近づきの印にとミルクレープを作った。

ひとくち食べる前に私が作ったと言わなかったのは、そう言えばまたお菓子にも遠慮するだろうと思ったからだ。

二口目を口にしてそれを飲み込むと、エマさんが何やら考え込むように下を向いた。

「………せん」
「え?」「え?」

あまりに小さい声だったので、私とイザベラさんがエマさんの方へ耳を傾ける。

「信じられません……侯爵夫人がこんなことまで……しかもこんなに美味しいなんて」

言いながらバクバク一人分をペロリと平らげた。

「ごちそう様でした」
「お粗末様でした」

綺麗に食べてもらって作った甲斐があった。

「お菓子作りなど貴族の奥さまがされるのは珍しいですが、お料理もなさるのですか?」
「まあ、簡単なものなら……」

晩餐に出すようなものは難しいが、ホームパーティーで出すような料理や昼食程度のものなら多分できるだろう。
あまり本格的にやるとダレクやマリアンナに貴族の奥方がそんなことをと小言を貰いかねないので控えている。

「先ほどは色々と失礼いたしました。侯爵夫人ほどの方が私のような者にまでお心を砕いていただけるとは思いませんでしたので……でも自らお菓子を焼いて、私の淹れたお茶を同じテーブルで召し上がっていただいているのを見て、私が思い違いをしておりました。侯爵様はお幸せですね。美しくてお優しい奥さまがいて」

エマさんが私を受け入れてくれたのはうれしいが、最後のくだりについては曖昧に笑って誤魔化した。

私のやっていることは貴族の奥方としては夫の望んでいたことではないかもしれない。
ここでエマさんのような境遇の方たちと触れあうより、もっと社交の場に出て夫の出世の助けになるような方たちと親交を深めることを望んでいるかもしれない。

でもお茶会に出て、私を受け入れてくれたのはイザベラさんたちで、高位貴族の方たちは私の元の身分の低さを気にし、娘の結婚相手を奪った女という目でしか見なかった。
それ以外の方々は遠巻きに私を見ているばかりだった。

また来ることを約束してエマさんの家を出て、それから三人のお宅をイザベラさんと訪問した。

何人かは私が帰るまでよそよそしさが抜けなかったが、手土産のミルクレープは喜んでもらえたみたいで、概ね成功したと言えるかもしれない。
しおりを挟む
感想 139

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

処理中です...