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第三章
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国同士の結び付きのため嫁いできたエレノア妃。
国内の貴族と王族との関係改善のために嫁いできたイヴァンジェリン妃。
共に個人の思惑でないところからの婚姻だったが、お幸せそうでよかった。
しかし、そういう結婚を誰もが出来るとは限らない。
愛理の結婚がそうだ。
「オリヴァー様が心配されているの。侯爵があまり感情を面に出されない方なのはわかってあるけど、それでも戦地に届く新妻からの便りはきっとうれしいものよ」
エレノア妃とイヴァンジェリン妃の言葉を聞いて、今日私が呼ばれた意味がやっと理解できた。
戦地にいる夫に手紙も寄越さない冷たい妻。
そして第二皇子はルイスレーン様を買っていて、大事な部下への私の態度がお気に召さないのだ。
社交界デビューしただけで誰とも付き合いのない年下の娘が、国王の命令というだけで妻の座を得たのである。
夫からの連絡を受け、イヴァンジェリン妃はエレノア妃とともに私の品定めがてら非難しているのだ。
恐らく記憶喪失も疑っているのかもしれない。
だが、以前のクリスティアーヌが何を思いどんな考えを持っていたのか、私には知る術もない。
今のクリスティアーヌとして二人に対峙しなければならない。
「何分にも軍人の妻となって日も浅くまだまだ未熟故、こうしてお妃様自らお気遣いいただくなど、もったいないことにございます。これからはいただいたお言葉を胸に精進してまいります」
胸に手を当てお辞儀をして二人に礼を述べる。
二人の言うことは正しい。正論だ。
けれどルイスレーン様がこの結婚をどう思っているか、私にどれ程感心があるのかわからないため、それで彼が喜んでくれるのかは別問題だ。
「悪く思わないでください。ご存知かも知れませんが、侯爵はすでにご両親を亡くされご家族とは縁薄い身の上。唯一の家族と成り得る奥方がただの一度も戦地の夫に便りを寄越さないことを心配されているの」
「いえ……皆様にご心配をおかけして申し訳ございません。過去は変えられませんが、これからはお二人の助言を元に精進いたします」
クリスティアーヌがやってこなかったことを今さらどうすることもできない。
「ところで、今日のお茶会ですけど、椅子など用意せず立食形式にしましたの。その方が大勢の方とお話ができますしね」
「イヴァンジェリン様が提案されましたの。それなら作法を気にせず気軽に楽しめるでしょ」
それが自分への配慮だとわかった。
クリスティアーヌはもともと満足に淑女教育など受けて来なかったと思われる、
記憶がないことで今は一から学び直しているが、所詮は付け焼き刃。どこかでボロが出るのではと心配していた。
「お気遣いいただきありがとうございます」
「お気になさらないで、今回の茶会の主旨は軍人の奥方を励ますことです。堅苦しいのは主旨に合わないわ」
「失礼いたします、皇太子妃様。そろそろお時間です」
その時、扉の外から声をかけられ、茶会の時刻が来ていることをつげた。
「あら、もうそんな時間なのね」
「あなたは先に行きなさい。私とイヴァンジェリン様と共に現れては余計な注目を集めてしまうわ」
エレノア妃が私に先に行くように言う。
「私ごときにお時間を割いていただきありがとうございました」
立ち上がりお辞儀をして部屋を立ち去った。
「どう思いますか?エレノア様」
私が出ていった後、イヴァンジェリンが義理の姉に訊ねる。
「オリヴァー様がおっしゃっているような女性には見えませんでしたけど」
「頭は悪くないようですから、私たちの前で演技をしているだけかもしれません。記憶がないというのも本当かどうか」
「あなたの言うとおりだとすれば相当の曲者ですけど。そんな策略ができるものかしら。記憶がないなんて、普通に聞いても信じられないんだから、嘘をつくならもっとましな嘘があるでしょう。第一、リンドバルグ侯爵と結婚して、そんな嘘を吐く必要があるかしら」
「エレノア様の意見も確かに……記憶喪失を装う必要など何もないですね」
「少なくとも、これで彼女が侯爵にいくらか気遣いを見せてくれたらいいのですけど」
エレノア妃がそう言い、それで夫であるオリヴァーの憂いが少しでも減ればとイヴァンジェリンは願った。
国内の貴族と王族との関係改善のために嫁いできたイヴァンジェリン妃。
共に個人の思惑でないところからの婚姻だったが、お幸せそうでよかった。
しかし、そういう結婚を誰もが出来るとは限らない。
愛理の結婚がそうだ。
「オリヴァー様が心配されているの。侯爵があまり感情を面に出されない方なのはわかってあるけど、それでも戦地に届く新妻からの便りはきっとうれしいものよ」
エレノア妃とイヴァンジェリン妃の言葉を聞いて、今日私が呼ばれた意味がやっと理解できた。
戦地にいる夫に手紙も寄越さない冷たい妻。
そして第二皇子はルイスレーン様を買っていて、大事な部下への私の態度がお気に召さないのだ。
社交界デビューしただけで誰とも付き合いのない年下の娘が、国王の命令というだけで妻の座を得たのである。
夫からの連絡を受け、イヴァンジェリン妃はエレノア妃とともに私の品定めがてら非難しているのだ。
恐らく記憶喪失も疑っているのかもしれない。
だが、以前のクリスティアーヌが何を思いどんな考えを持っていたのか、私には知る術もない。
今のクリスティアーヌとして二人に対峙しなければならない。
「何分にも軍人の妻となって日も浅くまだまだ未熟故、こうしてお妃様自らお気遣いいただくなど、もったいないことにございます。これからはいただいたお言葉を胸に精進してまいります」
胸に手を当てお辞儀をして二人に礼を述べる。
二人の言うことは正しい。正論だ。
けれどルイスレーン様がこの結婚をどう思っているか、私にどれ程感心があるのかわからないため、それで彼が喜んでくれるのかは別問題だ。
「悪く思わないでください。ご存知かも知れませんが、侯爵はすでにご両親を亡くされご家族とは縁薄い身の上。唯一の家族と成り得る奥方がただの一度も戦地の夫に便りを寄越さないことを心配されているの」
「いえ……皆様にご心配をおかけして申し訳ございません。過去は変えられませんが、これからはお二人の助言を元に精進いたします」
クリスティアーヌがやってこなかったことを今さらどうすることもできない。
「ところで、今日のお茶会ですけど、椅子など用意せず立食形式にしましたの。その方が大勢の方とお話ができますしね」
「イヴァンジェリン様が提案されましたの。それなら作法を気にせず気軽に楽しめるでしょ」
それが自分への配慮だとわかった。
クリスティアーヌはもともと満足に淑女教育など受けて来なかったと思われる、
記憶がないことで今は一から学び直しているが、所詮は付け焼き刃。どこかでボロが出るのではと心配していた。
「お気遣いいただきありがとうございます」
「お気になさらないで、今回の茶会の主旨は軍人の奥方を励ますことです。堅苦しいのは主旨に合わないわ」
「失礼いたします、皇太子妃様。そろそろお時間です」
その時、扉の外から声をかけられ、茶会の時刻が来ていることをつげた。
「あら、もうそんな時間なのね」
「あなたは先に行きなさい。私とイヴァンジェリン様と共に現れては余計な注目を集めてしまうわ」
エレノア妃が私に先に行くように言う。
「私ごときにお時間を割いていただきありがとうございました」
立ち上がりお辞儀をして部屋を立ち去った。
「どう思いますか?エレノア様」
私が出ていった後、イヴァンジェリンが義理の姉に訊ねる。
「オリヴァー様がおっしゃっているような女性には見えませんでしたけど」
「頭は悪くないようですから、私たちの前で演技をしているだけかもしれません。記憶がないというのも本当かどうか」
「あなたの言うとおりだとすれば相当の曲者ですけど。そんな策略ができるものかしら。記憶がないなんて、普通に聞いても信じられないんだから、嘘をつくならもっとましな嘘があるでしょう。第一、リンドバルグ侯爵と結婚して、そんな嘘を吐く必要があるかしら」
「エレノア様の意見も確かに……記憶喪失を装う必要など何もないですね」
「少なくとも、これで彼女が侯爵にいくらか気遣いを見せてくれたらいいのですけど」
エレノア妃がそう言い、それで夫であるオリヴァーの憂いが少しでも減ればとイヴァンジェリンは願った。
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