16 / 266
第二章
3
しおりを挟む
「ボランティア……ということですね」
「ボラ……という言葉はわかりませんが、クリスティアーヌ様にやる気があるなら私の友人が医師として勤めている診療所で人手を探しております」
「奥様に病人のお世話など……」
「いえ、探しているのはそこで働く人たちの子どもを預かる場所の人材なのです」
「ベビーシッター……ですか」
「……クリスティアーヌ様は色々と私どもが知らない言葉を話される。ということはあちらでもそういった制度があるのですか」
「ベビーシッターは個人に雇われて子どもの面倒をみることが多いので、家庭教師みたいなものでしょうか。もっとたくさんになると、保育園と言って、資格を持った保育士という職業の人たちがお金をもらって親が仕事の間に子どもの面倒をみます。だいたい生後半年くらいの乳児から六歳くらいまでを年齢に分けて。それより大きい子は学校に通います。後、幼稚園と言って三歳から六歳までの子に学校にはいるまでの間に預かって教育する制度もあります。保育園は地域につくる場合と職場に作ってそこで働く人の子どもを預かる場合があります」
「そう、正にそれです!そうですか、お話してよかった。クリスティアーヌ様…『愛理』様がすでにご存じとは、これは心強い。どうですか?是非お手伝いいただけませんか」
「でも、私……何の資格も持っていませんし」
「あちらでは資格が必要だったかもわかりませんが、こちらではそんなもの必要ありません。ようはやる気です。ダレク、マリアンナ、まさかこれも反対されるのですか?」
先生が二人に訊ねる。
二人は横目で互いに視線を交わし、どう答えるか考えている。
「それに、友人もそれなりに腕のある医者です。クリスティアーヌ様の記憶喪失についても何かお役に立てるかもしれません。これまではこちらの主治医のスベン先生にお任せしていましたが、他の医者に診てもらうこともしてみては?ルイスレーン様も国中の名医を集めても、と書いておりましたし」
「社会奉仕なら……人助けに尽力されるのは、貴族の勤めでもありますし」
ダレクが渋々ながら認めてくれた。
「他のお医者に診ていただくのもいいかもしれませんね。ですが奥様におしめを洗濯させるんですか?」
「いや、そこまで人手がないわけでは……」
「私、おしめくらい洗えます。それに、世の中の役に立つことかできたら、自信が持てるようになるんじゃないかしら」
もちろん、洗濯機などないが魔石を使えば何とかなるのではないか。
二人は不承不承ながら納得してくれた。
そして今、私は先生に連れられて王都の街中に出てきていた。
使用人たちが着ている普段着にできるだけ似た洋服を着て、髪は首の後ろでひとつにリボンで纏めている。
結婚するまではとても質素な生活をしていたと聞いているので、案外雰囲気に馴染んでいるんじゃないかと思っている。
お供を付けず外出することに最初は揉めた。
それでもぞろぞろと人を連れては目立つし、侯爵邸の使用人を私の勝手で別のことに連れ出すわけには、いかない。
当面は先生が付き添ってくれることで話がついた。
「先生とそのお医者様はどれくらい親しいのですか?」
「一緒に王立アカデミーで机を並べて以来の仲です。かれこれ三十年以上の付き合いになります。私はアカデミーを卒業してそのままアカデミーで教鞭を取りまして、国王陛下などを教えました。派閥争いがいやで途中で辞めてあちこちの貴族の家庭教師をしております。ルイスレーン様は家庭教師になって初めての生徒です。友人は王立病院の医務官になって王室の主治医まで勤めましたが、最近引退して今度は診療所を始めたところです」
王立アカデミーの教師に王室の主治医?
さらっと話しているけど、すごく偉い人なんじゃ?
「ボラ……という言葉はわかりませんが、クリスティアーヌ様にやる気があるなら私の友人が医師として勤めている診療所で人手を探しております」
「奥様に病人のお世話など……」
「いえ、探しているのはそこで働く人たちの子どもを預かる場所の人材なのです」
「ベビーシッター……ですか」
「……クリスティアーヌ様は色々と私どもが知らない言葉を話される。ということはあちらでもそういった制度があるのですか」
「ベビーシッターは個人に雇われて子どもの面倒をみることが多いので、家庭教師みたいなものでしょうか。もっとたくさんになると、保育園と言って、資格を持った保育士という職業の人たちがお金をもらって親が仕事の間に子どもの面倒をみます。だいたい生後半年くらいの乳児から六歳くらいまでを年齢に分けて。それより大きい子は学校に通います。後、幼稚園と言って三歳から六歳までの子に学校にはいるまでの間に預かって教育する制度もあります。保育園は地域につくる場合と職場に作ってそこで働く人の子どもを預かる場合があります」
「そう、正にそれです!そうですか、お話してよかった。クリスティアーヌ様…『愛理』様がすでにご存じとは、これは心強い。どうですか?是非お手伝いいただけませんか」
「でも、私……何の資格も持っていませんし」
「あちらでは資格が必要だったかもわかりませんが、こちらではそんなもの必要ありません。ようはやる気です。ダレク、マリアンナ、まさかこれも反対されるのですか?」
先生が二人に訊ねる。
二人は横目で互いに視線を交わし、どう答えるか考えている。
「それに、友人もそれなりに腕のある医者です。クリスティアーヌ様の記憶喪失についても何かお役に立てるかもしれません。これまではこちらの主治医のスベン先生にお任せしていましたが、他の医者に診てもらうこともしてみては?ルイスレーン様も国中の名医を集めても、と書いておりましたし」
「社会奉仕なら……人助けに尽力されるのは、貴族の勤めでもありますし」
ダレクが渋々ながら認めてくれた。
「他のお医者に診ていただくのもいいかもしれませんね。ですが奥様におしめを洗濯させるんですか?」
「いや、そこまで人手がないわけでは……」
「私、おしめくらい洗えます。それに、世の中の役に立つことかできたら、自信が持てるようになるんじゃないかしら」
もちろん、洗濯機などないが魔石を使えば何とかなるのではないか。
二人は不承不承ながら納得してくれた。
そして今、私は先生に連れられて王都の街中に出てきていた。
使用人たちが着ている普段着にできるだけ似た洋服を着て、髪は首の後ろでひとつにリボンで纏めている。
結婚するまではとても質素な生活をしていたと聞いているので、案外雰囲気に馴染んでいるんじゃないかと思っている。
お供を付けず外出することに最初は揉めた。
それでもぞろぞろと人を連れては目立つし、侯爵邸の使用人を私の勝手で別のことに連れ出すわけには、いかない。
当面は先生が付き添ってくれることで話がついた。
「先生とそのお医者様はどれくらい親しいのですか?」
「一緒に王立アカデミーで机を並べて以来の仲です。かれこれ三十年以上の付き合いになります。私はアカデミーを卒業してそのままアカデミーで教鞭を取りまして、国王陛下などを教えました。派閥争いがいやで途中で辞めてあちこちの貴族の家庭教師をしております。ルイスレーン様は家庭教師になって初めての生徒です。友人は王立病院の医務官になって王室の主治医まで勤めましたが、最近引退して今度は診療所を始めたところです」
王立アカデミーの教師に王室の主治医?
さらっと話しているけど、すごく偉い人なんじゃ?
31
お気に入りに追加
4,259
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
騎士団寮のシングルマザー
古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。
突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。
しかし、目を覚ますとそこは森の中。
異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる!
……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!?
※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。
※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる