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第二章
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「わあ、すごい」
初めて見る光景に私は思わず感嘆の声をあげた。
侯爵邸はとにかく広かった。
地下一階、地上三階建ての建物はダンスホールまであって、使っていない部屋も入れると部屋数は五十以上はある。
庭もイングリッシュガーデンのような庭に、生け垣の迷路に、池に、馬を走らせる馬場もあってちょっとしたテーマパーク並に広大だった。
だからずっと屋敷の敷地内にいても特に閉塞感もなく、外の喧騒もまるで聞こえてこなくてどこか隔離された別世界にいるつもりになっていた。
だが、こうやって街中に出るのは初めてでワクワクする。
街並みはいつか訪れたヨーロッパの歴史的保存地区を彷彿とさせる。
今私は馬車を降りて噴水のある広場に立っている。
中央には大きな時計塔があり、これが朝六時と正午、夜六時に鐘を鳴らし、王都に住む人々はそれを合図に生活している。
「あまり上ばかり見ていると転びますよ」
フォルトナー先生が初めて見る光景に目を丸くしている私に声をかける。
「こっちです」
私の少し前を先生が歩き、それについていく。
「ありがとうございます、先生」
少し小走りになって先生の横を歩きながらお礼を言う。
「そんなに喜んでもらえるなら、誘ってよかった。でもお礼を言うのは早いですよ。来なければよかったと思われるかも」
「たった一回では諦めませんよ」
私の気持ちを挫かせようとしているのか、先生はそう言うが私も簡単には諦めないつもりだ。
三日前、先生とマリアンナとダレクの三人に促され、私は自分の事情を洗いざらい話した。
クリスティアーヌとしての記憶がないのは本当だが、代わりに別世界の別人の記憶があること。
そこでの自分がどんなだったかということ。
さすがにどうやって死んだのかははっきり覚えていないが、とにかくあの日倒れた時、それまでのクリスティアーヌはいなくなり、如月愛理の魂が目覚めた。
「交通事故……というものがどういうものかわかりませんが、馬車に轢かれるようなものでしょうか」
「そうですな。それにそんな状態になっても生きていける装置があるなど、かなり技術が進んでいるみたいですね」
「電話……遠くの方と瞬時に会話ができるなど便利ですね」
マリアンナ、先生、ダレクさんがそれぞれ私の話の中に出てきた内容について感心したように頷く。
始め半信半疑に聞いていた三人だが、作り話にしては出来すぎていると途中から真剣な表情で前のめりになって聞いていた。
「それにしても、その『愛理』様の旦那様はひどいですね」
「そんなことをされたら誰でも疑い深くなります」
「うちの旦那様は無愛想で不器用ですが、女性に対して決してそのような不実なことはなさいません」
「そうです。ご安心ください。もし、万が一そんなことを旦那様がなさったら使用人一同、断固抗議いたします!」
「みんな………ありがとう」
口々に皆が私の味方であることを主張してくれて、それだけで私の不安はかなり払拭された。
何しろ前の時はそんな風に私の味方になってくれる人が誰もいなかったことを思えば、今度はかなり進歩したと言える。
「しかし、クリスティアーヌ様はご自分に自信が無さすぎるのではないですか?ルイスレーン様がご自分を好きになる筈がないなんて……」
暫く考え込んで先生が呟いた。
初めて見る光景に私は思わず感嘆の声をあげた。
侯爵邸はとにかく広かった。
地下一階、地上三階建ての建物はダンスホールまであって、使っていない部屋も入れると部屋数は五十以上はある。
庭もイングリッシュガーデンのような庭に、生け垣の迷路に、池に、馬を走らせる馬場もあってちょっとしたテーマパーク並に広大だった。
だからずっと屋敷の敷地内にいても特に閉塞感もなく、外の喧騒もまるで聞こえてこなくてどこか隔離された別世界にいるつもりになっていた。
だが、こうやって街中に出るのは初めてでワクワクする。
街並みはいつか訪れたヨーロッパの歴史的保存地区を彷彿とさせる。
今私は馬車を降りて噴水のある広場に立っている。
中央には大きな時計塔があり、これが朝六時と正午、夜六時に鐘を鳴らし、王都に住む人々はそれを合図に生活している。
「あまり上ばかり見ていると転びますよ」
フォルトナー先生が初めて見る光景に目を丸くしている私に声をかける。
「こっちです」
私の少し前を先生が歩き、それについていく。
「ありがとうございます、先生」
少し小走りになって先生の横を歩きながらお礼を言う。
「そんなに喜んでもらえるなら、誘ってよかった。でもお礼を言うのは早いですよ。来なければよかったと思われるかも」
「たった一回では諦めませんよ」
私の気持ちを挫かせようとしているのか、先生はそう言うが私も簡単には諦めないつもりだ。
三日前、先生とマリアンナとダレクの三人に促され、私は自分の事情を洗いざらい話した。
クリスティアーヌとしての記憶がないのは本当だが、代わりに別世界の別人の記憶があること。
そこでの自分がどんなだったかということ。
さすがにどうやって死んだのかははっきり覚えていないが、とにかくあの日倒れた時、それまでのクリスティアーヌはいなくなり、如月愛理の魂が目覚めた。
「交通事故……というものがどういうものかわかりませんが、馬車に轢かれるようなものでしょうか」
「そうですな。それにそんな状態になっても生きていける装置があるなど、かなり技術が進んでいるみたいですね」
「電話……遠くの方と瞬時に会話ができるなど便利ですね」
マリアンナ、先生、ダレクさんがそれぞれ私の話の中に出てきた内容について感心したように頷く。
始め半信半疑に聞いていた三人だが、作り話にしては出来すぎていると途中から真剣な表情で前のめりになって聞いていた。
「それにしても、その『愛理』様の旦那様はひどいですね」
「そんなことをされたら誰でも疑い深くなります」
「うちの旦那様は無愛想で不器用ですが、女性に対して決してそのような不実なことはなさいません」
「そうです。ご安心ください。もし、万が一そんなことを旦那様がなさったら使用人一同、断固抗議いたします!」
「みんな………ありがとう」
口々に皆が私の味方であることを主張してくれて、それだけで私の不安はかなり払拭された。
何しろ前の時はそんな風に私の味方になってくれる人が誰もいなかったことを思えば、今度はかなり進歩したと言える。
「しかし、クリスティアーヌ様はご自分に自信が無さすぎるのではないですか?ルイスレーン様がご自分を好きになる筈がないなんて……」
暫く考え込んで先生が呟いた。
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