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第一章

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『拝啓 クリスティアーヌ殿

返事が遅くなって申し訳ない。先日まで一ヶ月近くベルトラン砦を離れ、前線の夜営地に詰めておりました。
倒れられたことも記憶のこともすぐに報告を頂いておりましたが、それを知ったのも後になってからでした。
具合はいかがですか。
知らせを聞き大変驚き、記憶を失くすということがどれほど大変で心許ないか、あなたのお気持ちを思うと心配でなりません。
お望みのものがあれば遠慮せず何でもダレクに申し付けてください。必要なら国中の名医を集めてでも治療にあたらせます。

あなたが大変な時にすぐに王都に戻るべきなのは承知しておりますが、副官として私事により戦線を離れること能わず、どうかご理解ください。
こちらは総大将である第二皇太子様の副官として精一杯勤めおります。今のところ怪我もなく過ごしております。あなた様はどうかご自身の治療に専念してください。
一日でも早く記憶が戻ることをお祈りしています。

そのような中、お手紙をいただけるとは思わず、大変嬉しく思います。
特に詩は文面を読んでこの季節の我が家の庭の様子が思い浮かび懐かしく感じました。
戦時中故にすぐに手紙を読むことも書くこともできませんが、いただいた手紙に我が身を案じていただけていることを知り、励みとなりました。
私の心配は不要ですので、あなたはどうか、ご自身のことを大切になさってください。

ルイスレーン・リンドバルク』

「ふむ……相変わらず固い文章ですね。これでは新妻ではなく母親に書いた手紙です」

フォルトナー先生が手紙を読み終えて一言言った。

「しかしクリスティアーヌ様のことは本当に心配されていることが伝わってきます」

それは私も感じた。私の記憶喪失のことを知って、嘘でも気遣いを見せてくれたことに驚き、そして感動した。
政略結婚とは言え、こんな気遣いをしてもらえるとは思っていなかった。

初めて読んだルイスレーン様の手紙。好きだ。愛している。という甘ったるい恋文ではなかったが、私を心配し、色々と気持ちをおもんばかってくれ、遠くにいても力になろうとしてくれていることがわかった。
大変な時に私の心配までさせてしまって心苦しいほどだ。

前の夫は私が熱を出しても労るどころか、不摂生だの気合いが足りないだのと熱を出した方が悪いと責めた。

それにしても国中の医者を集めてもって……何だかすごいことを考える人だ。
今は昔から侯爵家に出入りしているお医者様に来ていただいているが、あの先生だって結構有名なんじゃないかな。

「戦地でご苦労されているところ、私のことで心配をおかけすることになって申し訳ないと……じゃなくて、ここに書いてある詩と手紙って、もしかして先生が?」
「ええ、あまりに良くできておりましたから、せっかくだからルイスレーン様にもお見せしようと、ダレクに送るように渡しました」

あっさりと先生は自分の仕業であることを認めた。

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