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第4章

第100話 お仕置き

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 場の空気を変えるため、ナナは努めて明るく言葉を紡いだ。

「ねぇ、マリアちゃん。君にちなんだものなんだけどね、世間ではちょっとしたブームが起きてるんだよ。それ、知ってる?」

 マリアは、首を横に振る。
 
 「ソフィー様の――マリアちゃんは私のものだー宣言があった日から、そのブームは巻き起こったんだよ。何か、気になるでしょ?」
 
 正直、あまり聞きたくはない。

「あの宣言から、女性が女性に告白するってのが増えてるんだよ。それはお城でも、当然――街の中でもね」
「あ、そうなんです?」
「女性が女性を好きだ――なんて、言いづらい雰囲気だったからね。その壁を、ソフィー様は取っ払ってくれたって、喜んでいる人は多いらしいよ。実際に、カップルが出来ているみたいだし」

 ふむ、とマリアは頷く。

 あのふざけた宣言も、決して無駄ではなかったのかと思うと、少しだけ救われた気分になる。

「これはあれだねー、私が告白されるのも時間の問題かもしれないねー」

 ナナは顎に手をやり、ニヒルな笑みを浮かべる。

「馬鹿な事を言ってないで、そろそろ仕事に戻るよ」

 ベルは不機嫌そうな声を出す。

「じゃあ、マリア、また今度」

 そう言って、ベルはさっさとどこかに向かって歩き出す。

「あ、ちょっとベル? ではマリアちゃん、また今度ゆっくりとね」

 ナナはマリアに手を振って、ベルの後を追った。

 マリアはその場に立ち尽くし、暫く思案した後、帰り道を歩く。

 その途中、何となく外の空気が吸いたくなって、中庭に向かおうと振り返ると――。

 ――急に襟首をつかまれ、魔法で体が宙に浮かぶ。

「帰りますよ、マリア」

 姿を現したソフィーの姿。

「急に現れると困るんですけど?」
「それは何故ですか? 後ろめたいことでも?」

 ソフィーはマリアを睨みつける。

「そんなんじゃないんですけどぉ。急に現れると心臓に悪いんですからね!」
「マリアの側には、常に私がいる。そう思えばいいだけではないのですか? そうすれば、いきなり私が現れても驚くことはありえません」
「そういう問題ではないんですけど?」
「では、どういう問題ですか?」

 そう問いかけられると、少し困る。

 これはちょっとした難問かもしれない。

「ソフィー様、これはもしかしたら人類がこれから答えを探し続け、いずれは到達しなければならない――そんなひとつの究極的な問いかけかもしれません」
「そうであるのならば、さっさとその考えを捨ててください」
「何故です?」
「マリアは私のことだけを考えていればいいんです。そんなくだらない問いかけで、あなたの貴重な脳を使わせたくはありません。例えその問いかけの発端が私であろうともです」

 ――なんか、恥ずかしくなってくる。

「あ、愛ですねーそれは」
「ええ、愛ですよ。その愛は、誰にも負けるつもりはありません」

 冗談で吐いた言葉を、素直に返され、マリアはますます顔が赤くなる。

「もしかして、今のはいい感じでしたか?」

 ソフィーはマリアの顔を見て、そんなことを言う。

 マリアはそっぽ向く。

「そろそろ、エッチできそうですか?」
「それは、まだですから!」

 マリアの言葉に、ソフィーは剥れる。

「待たせてはいけないと、急ぎ飛んで戻った部屋にあなたがおらず、わざわざ迎えに来た私に対しそれはあまりにも冷たすぎます」

 そんなことを言われても、正直困る。

「ところで――聖女様とはどんな話をしたんです?」
「大した話ではないので、マリアが気にすることではありません」

 そう言った後、ソフィーは何かを思い出したかのように小さく声を上げた。

「……聖女様の話を聞くだけで、忘れてしまいました。マリアをアへ顔にする方法を」
「そんなくだらない話は永遠に聞かなくていいですから」
「そんな訳にはいけません。これも全て、マリアのためですから」

 一体全体――どう私のためになるのか聞いてみたい気もする。くだらない返答になることだけは間違いないのだが。

 マリアはため息をつく。
 
「ところでいい加減、下ろしてもらっていいです?」
 
 ソフィーはマリアを眺める。

「因みにですが、もしかして寄り道しようとしてましたか?」

 その言葉に、マリアはドキッとした。
 ソフィーの言葉で、忘れていた言いつけを思い出す。

 マリアは誤魔化すために口笛を鳴らそうとしたが、今までできたためしもないものが急にできる訳もなく、かすかすの音しかならない。

「なるほど、私の言いつけを守らなかったのですね」
「何も言ってもせんけど!? っていうか、まだ寄り道はしてないですからね!」

 マリアの言う通り、しようと思っただけでまだしていない。だから決して――嘘ではない。

「寄り道をする予定でしたが、まだしていない――と言うことですね?」
「そうですよー、しようと思っただけで、実際にするかどうかは分からないじゃないですかぁ。だって未来のことなんて誰にもわからないんですから。だから、私は無罪ですからね!」

 ソフィーは少しだけ、悩んだ。

「分かりました。とりあえず戻りましょう」

 マリアはほっとした。

 魔法でマリアの体はソフィーの腕の中に収まる。

「続きはベットの上でしましょう。これも全て、マリアのせいですよ」

 何故、ベットの上?

 マリアの疑問は、後ほど解決する。

 部屋で鳴り響く悲鳴は、二人だけの秘密のお話。
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