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第61話 グルームの場合3

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リコリアでの王国軍の方針が決まり、王国軍は撤退を繰り返しミスライの誘い込みが成功していた日の夜。

「みんな作戦を伝えるから聞いてくれ」

隊長がまじめな顔付な為、ガヤガヤと酒を飲んでいた団員達は一気に静かになる。

「軍は、包囲殲滅という無難な作戦をとるというのは一度伝えたが、それが明日結構する事になった。俺達の役割はミスライの後方から騎兵でミスライの退路を遮断する事だ」

一見、かなりリスクのある役割のように思える為、団員の一人が質問する為に手をあげ立ち上がる。

「ブロック、なんだ」

「後ろからとそれはまた俺達を捨て駒にしようとしてねーですか?」

僕ら50人ぽっちであの人数のミスライを退路を防ぐ事が出来るのかと、僕も同じ気持ちだ。

「あぁ、騎兵は軍も合わさってだからな。300はいくだろ。それにアスクもグルームもいる俺達は結構いい役割を貰ってるほうだ」

だが、軍の騎兵というのは騎士という身分の高い物がなる称号という事を知っている。それが僕らと合わさり300というのは捨て駒扱いとは考えづらく、隊長もいい役割と言っている為に質問したブロックは納得したように座った。

「他に何かいないか?」

だが先ほどの隊長の言葉は少し引っかかるのだ。俺達はいい役割・・・というのは誰かそんな役回りを命じられているような、そう僕は捉えてしまう。

だが、僕はこの場では不要な質問に感じ黙ったままだった。

「質問がないなら隊列など詳しく決めていくぞ――――――」

隊長は作戦は用意周到に、不測の事態に陥った時の事も含めて考えている。その為に戦前の作戦会議は長引くが誰も文句は言わない。隊長の会議が長いのは僕らの命を優先し考えているからというのが分かっているからだ。

だからみな真剣に隊長の話を聞き、普段は僕含め空っぽな頭に必死詰め込んでいく。いや普段空っぽだからこそ今詰め込められるのだ。

「―――――――いいか、お前ら。これだけは忘れるな、命は捨てるもんじゃないからな」

そして作戦内容を話終わるといつもの決まり文句のような言葉。

おう!

そしてみなもいつもと同じように返事を力づくして作戦会議は終わった。

いつもは騒ぎ踊り歌う団員も戦前には、準備を怠らない。会議が終わるとすぐに明日の準備を始めるのだ。

僕は特段準備も何もない為に、アスクと隊長、やけどの傷から元気になったイザベラが固まっている所へと向かう。

「隊長ー、何話をしているんですか?」

「グルーム、お前は準備しなくていいのか?」

「僕はいつも通り、グリモワールと愛馬がいれば何も」

「隊長、グルームにも教えてやってもいいんじゃないですか」

何か秘密事を喋っていた様子に、アスクが僕にもという為に少しワクワクした気持ちになる。

「何ですか、聞きたいです!」

そんなワクワクした気持ちを隠すことなく僕は喋る。

「・・・グルーム、お前あの魔道兵の少年の事きにいってるだろ?」

「はい、もちろんですよ!ノエルさんですね、イザベラを助けてもらいましたし、とても優しい方ですからね!」

リコリアに着いた日、不覚にも僕らはミスライの魔導士に狙い撃ちをされた。その時イザベラが死の淵を彷徨うほどの怪我をしたがノエルさんのおかげで命が助かり、傷も治してくれたのだ。

そして・・・僕の醜い顔を見ても驚きはしたものの、そのノエルさんの目には嫌悪などの感情は無く、純粋に驚いていただけのような感じて僕はかなり彼を気に入っていた。

「そうだよな、正直俺もあいつにはイザベラもとい、俺、アスク、グルームと4人もすくって貰ってるからよ、どうにかしてやりたいが」

隊長が何を言いたいのか分からない。なぜノエルさんの話でどうにかしてやりたいと話になるのか。

「・・・それは引き抜きをしたいという話ですか?」

僕は的外れな質問をしていたんだと、イザベラやアスク達の表情を見て分かった。

「いや、あいつは今回の戦で死ぬかもしれない」

「ど、どうしてですか!?」

隊長が脈絡もなくそう言った。だが、脈絡が無いと思ったのは僕が全く作戦を理解できていなかった証拠だった。

隊長がなぜノエルさんや軍の魔道兵が今回の戦で犠牲になる確率が高いのか、僕にも分かるように教えてくれる。

「――――――という訳だ。ミスライも馬鹿じゃない、包囲殲滅の突破を図るなら必ず軍の左翼を狙うはずだ」

「じゃ、じゃあどうにか突破されないように何か案は!」

「いや元から人数はこっちが不利なんだ。その穴をグリモワールで塞いでいるんだからな・・・それに俺達もミスライを追い込むために左翼側へと追い立てるように言われている」

「どうして!?なんで味方をわざと危険にさらすんですか軍は!?」

「それが軍なんだよ、犠牲失くして勝利はないと考えているやつらだ。俺達とは根本的に違うんだよ」

「だったら!ノエルさんにこの事を教えに行きましょう!」

「無駄だな、恐らくだがあいつも知ってるだろうよ。今回の作戦はミスライの魔導士を討つことだからな、その役目をあいつらが担ってるんだろ」

「そんな・・・」

僕は隊長の説明を聞いて、納得して俯いた。

「グルーム、俺達が出来るのは一人でも多くミスライをやることだ。そしたら魔道兵の生存に繋がる」

「そうよ、何を戦前にクヨクヨしているの。男ならシャキっとしなさい」

「だな、俺達が先に魔導士を討つぐらいで行け」

隊長、イザベラ、アスクが僕を励まし気に掛ける言葉をくれる。それだけで僕のやる気に火が付くには十分だった。

「そうですね・・・ミスライの魔導士は僕がやります」

「おう、そうしたら報奨金もたんまりだ。だが出過ぎないようにしろよ」

「はい!」

僕は隊長達から離れ、出来うる限りの準備をすると早々に眠り明日に備えたのだ。





翌日の早朝、まだ暗い4時頃の出来事。

リコリアの戦場を大きく迂回するように僕ら騎兵はぞろぞろと動き始めていた。

数が揃えばそれなりに音が出るために、戦場よりもかなり離れている。

「グルーム、体調はどうだ」

「ばっちり、黒雷なら10発はいけるよ」

「・・・冗談だろ、前に7発撃つと同時にぶっ倒れただろ」

「そのぐらい気合が入ってるって事だよ、アスクには冗談が通じないな~」

アスクとの朝の会話も気合ばっちりだ。

周りが暗くとも、僕ら傭兵団の騎兵の動きは悪くない。軍の騎兵の方がバラバラとぐらつきがあり、そこかしこでぶつかるな!と言い合いが起きている。

そんな軍の騎兵との裏取りの為の迂回も徐々に空は明るくなり、太陽が登り始めた。

「・・・今日は暑くなりそうだな」

隊長がボソっと独り言のようにつぶやいたのは何かこの先、波乱が起きそうな予感がしているように感じた。
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