上 下
23 / 72

第23話 報告

しおりを挟む
「おっノエル君!こっちだ!」

砦へと進み、建物の中へと入る前にグリンデルさんが僕を呼んだ。

「はい」

グリンデルさんに近づき、セラさん達もまたついてくる。一応僕を守ってくれている様子なのだ。

「上にギレル参謀と王子がいらっしゃる。襲われた状況を知りたいようだ、俺からも報告はしているが、生き残りが2人という事だからな。今から出来るかい」

「・・・緊張しますが、はい」

グリンデルさんに連れられ、階段を昇っていく。砦の中にはいるのも初めてだなと思いながら登る。

砦の中には大きな建物が4つあり、一番奥にある大きな建物の中、その2階へと足を運んだ。

扉の前に騎士が2人立っている。そこでグリンデルさんが生き残りを連れてきたと伝えると、騎士が中に入っていく

・・・緊張してきた。今回はアルスさんもいない、僕がメインで喋るのか・・・

扉の前でバクバクとすでに心臓は破裂しそうな音を出している

「いいぞ、入れ」

騎士が出てくると、僕に入れと声を掛けてくるので入っていくが。グリンデルさんは隣にはいなかった。

うそ・・・本当に一人・・・

グリンデルさんは隣に立ってくれているものだと思ったが、僕の淡い期待はくずれ眩暈がしながら玉座のような椅子に座る王子の前へと辿り着く

真っ白になりそうな頭で、僕は跪く

「よいよい。顔をあげて報告を頼む」

「ハッ」

王子は前のように楽にしろというが、難しい事をと心で思いながら。僕なりの言葉で伝える。爆発、敵の数などから。

「ふむ・・・騎兵が20人ほどか」

「ノエルや、そのものらの顔は見ておらぬか?」

僕のしどろもどろの言葉に王子は、考える様子で、ギレルさんは質問してきた

「はい、伏せた状態で隙間からしか見ておらず・・・私が確認できたのは足元だけです。隊長と呼ばれる男性、ジゼルという手下、それと不在ではあったような口ぶりのエリオットと・・・デーン城に帰るという言葉でした」

「・・・傭兵か?ギレルどう思う」

「その線が濃厚ですな、元からここはならず者が支配していた砦、急遽雇ったのでしょう。他に何か見ておらぬか」

「・・・後は同じ魔道兵のハンスさんが、敵に殺されるのを・・・何もできず、そのまま隠れて見ておりました。その後やつらはハンスさん、マジールさんのグリモワールと紋章を奪い・・・去って行きました」

報告をしていると、ハンスさんの最後がフラッシュバックし、マジールさん達の死体が脳裏に浮かび、悲しさと不甲斐なさ、恐怖などの負の感情が僕を取り巻き、声が震えた。

「そうか、報告ご苦労。下がってよいぞ」

「ハッ!」

僕が見たことは全て包み隠さずに報告し終えて、僕はその大広間を後にしようとする。

「おっまてノエル」

「ハッ!」

安堵したのも束の間、また王子に呼び止められ背筋がピンと伸びた

「私はこう思うぞ。生き残って、こうやって私達に情報を提供できた事が価値あるものだと。あまり自分を責めるなよ、ギレル」

「なんですかな」

「ノエルをメイジ2級へ昇級し、金一封を授与する。手配を頼むぞ。ノエル、ゆっくり休めよ」

「ありがとうございます」

「承知いたしました。では儂もこのままノエルと少し話があるので失礼しますぞ」

ギレルさんと大広間を出て、扉が閉まるのを確認する

「はぁー・・・」

緊張の糸が解かれ、深い息を吐く

「なにをそんな緊張しておるのじゃ・・・王子は堅くないぞ。そんな強張らなくてもよいわ」

「それは・・・僕みたいな平民が王子と喋る機会なんて、一生ないと思ってましたので・・・」

そんな事を言うが、ギレルさん以外の指揮官であるワーズさんや他の騎士も堅くなっているのだ。その中で僕だけフレンドリーに行くことなんて出来るわけがないのだ

「まぁよい。よく戻ってきたな。ハンスとマジールは残念じゃが・・・お主が無事でよかったぞ」

「いえ・・・ありがとうございます」

ギレルさんに誘導されながら、建物内を歩いていく

「それに昇級とはの、新しい詠唱が学べるな」

「はい、攻撃魔法だとナタリアさんに伺ってます」

「そうじゃな、ここからは魔法は選択性じゃ。どんな魔法が覚えたいかよく考えておくのじゃな」

「選択制ですか?」

「そうじゃ、グリモワールの中には種類にもよるが30ほどの魔法があるのじゃ。じゃがの普通の人はな30もの魔法の詠唱を覚えることは不可能じゃ。だから自分が覚えたい魔法を選択し覚えるということじゃな。ナタリアからは聞いておらぬか?」

「はい、初めて聞きました」

ギレルさんは顎に手を付け、考える素振りを見せるが

「アルスの詠唱を優先したかの。まぁよいか、一応魔道兵はメイジとウィザード、ソーサラーという級の中で3ずつ別れておるのでな、9の魔法を覚えることが出来るわ。まぁ普通は5か6覚えていっぱいいっぱいじゃからの。慎重に選ぶことじゃな」

まだ知らぬ魔道兵としてのルールのような物を説明された。

「あの、ギレル様はいくつの詠唱を覚えているのでしょうか」

「わしか?ふふ、秘密じゃ。ではの、ここ登ればアルスやナタリアがおるでなしっかりと休むとよい」

「えっはい」

ギレルさんは来た道を戻っていった。僕に話があるという事だったと思ったが・・・特段連絡などはなかったため、僕を気遣ってくれた様子だった。

一人になり階段を昇りながら、ギレルさんの言葉を思い出す。

詠唱は普通の人は5か6。優秀な人で8や9・・・

だが、それは一種類の魔導書の話だ。以前きいたマーリンという伯爵は4元素、神聖、深淵を使えるという古代のグリモワールを持っているという話だ。そのマーリンさんは王国一の魔法使いと言われているという事は、そのグリモワールを使いこなしているという事。

使いこなすという事は、3種類のグリモワールの詠唱を覚えているという事なのだ。そんな事可能なのか・・・

ウォルター伯爵という化け物じみた人に、興味が湧いたのだ。

階段を昇るが通路となり、部屋がいくつもある様子にどこに行けば?とまた意味もなく焦りだす

「ノエル!」

だがそんな焦りもすぐ吹き飛ばしてくれる声が、僕の名前を呼んだ。

「アルスさん!」

通路を進んでいっていると、アルスさんが走ってこちらに向かってきていた。その後ろにナタリアさんの姿をみえた。

アルスさんは僕の前で止まり

「おい!よく無事だったな!後方部隊が襲撃されたと聞いた時は・・・嫌な予感が浮かんだぜ!まったくヒヤヒヤさせやがって!」

僕の肩に手を置いて、嬉しそうな笑顔でそういった。

「結構ギリギリでしたよ。後で詳しくお話しますね、でもアルスさん達も無事でよかったです」

「ギリギリでもなんでも、生きてさえいればいいんだよ!そうだな・・・こっちも色々あったからな、俺達に割り振られた部屋に行こうぜ」

「おぉ、部屋がもらえるんですか」

アルスさんはそのまま僕に肩を組み、部屋がある方へと向かっていく

「ノエル、無事でよかったわ。おかえりなさい」

「ご心配おかけしました」

ナタリアさんも笑顔ではあるが、心配してくれていたのか僕を見てほっとしている様子だった。

何はともあれ、僕ら3人は無事再会することができ、一室へと向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

処理中です...