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第256話 アポイント

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ウィンターダンジョンへ潜り2週間と少しが過ぎようとしていた。

この間にクリス達とまた出会ったり、イクサスの解いた魔物を2匹倒したり、イクサスから暇なのかワードが来たりと色々な事が起きたが一番大きいのはスイサンのレベルが上がった事だった。

魔法を放つワーウルフという少し僕が知っている人狼とは違ったやつを倒した時だ。

スイサンの体から光が溢れたのを見て、魔物もレベルが上がるのだと知った。

スイサン自身は何度か経験している事のようで、嬉しそうではあるがそこまで驚くような事ではなかったらしく僕との感動の熱量の差はかなりあった。

それにジャンプするゴーレムや魔法耐性のコカトリスの尻尾に、魔法を主軸に戦うワーウルフと通常種ではない様子の魔物はやっぱりイクサスの仕業だった。自慢げにあいつらは僕が育てたと言っていた時はあのイクサスでさえも少し感情が読み取れた。

ただスイサンの事はイクサスは知らないと言っていたので、イクサスが放った魔物ではないようだ。


今年もあと数日で終わるなというこの頃。

アルからのトランスワードが届く。

”いちどあえるか”

久しぶりのアルの声だった。もはや懐かしく感じる。

”あさってのよるにでも”

今いる場所から出口のポータルへは1日では無理なぐらい離れた場所にきていた。

”ユベルていにろくじ”
ユベル邸に六時

アルとの簡潔なやりとりで、僕は久しぶりにダンジョンの外へ出る事になった。

旨味の少ないダンジョンという事だが、人が多い場所から離れれば魔物ともそれなりに遭遇しお金にドロップ品を集めることが出来ていた。

銅貨といえども集めればそれなりな金額になっていたので、アルの教え通り銅貨でも拾っておいてよかったと思う。

「スイサン、一度ダンジョンの外に出ようと思うんだけど・・・スイサンって外出れるのかな?」

スイサンに質問すると?マークの下の点がない状態になる。そこから自らの命を少し削り、点の部分を一瞬補うように水球を射出した。

「おっけーおっけー、分からないって事は分かったよ。とりあえず出れるのならついてきて、出れなかったら・・・寂しいけどここでお別れだね」

僕の言葉にスイサンはガーンと表現する、ムンクの叫びのような恰好をした簡易な人の顔になる。

「仕方ないよ、心繋ぎの鎖は1個しないし置いておくには性能が高すぎてもったいないから」

引き続き、体全体でショックを受けているという表現を続けるスイサン。

「まだ出れないって決まったわけじゃないから、とにかく出口に向かおうか」

僕が歩きだすと、また形を変えて感情を表現する。

泣いているような水の雫の形からポツポツと体を削り、涙をこぼしている様子。

だが、それは汗の時と同じ仕草だ。こういう人とはまた違ったおっちょこちょいをする所も僕はスイサンを気に入っている部分だった。





アルとの約束の時間には余裕で戻れそうだ。

特段イクサスが出した魔物に遭遇する事が無ければやはりウィンターダンジョン、苦労することなんてない。それにポータルに近づけば冒険者や、エリアを囲う紐や柵が散見され始めた。

「あっスイサン、一応出れた時用にこの瓶に入っておいてくれる?」

そろそろ冒険者の塊が見え始めている為に、スイサン用に瓶を一つイベントリから取り出す。

スイサンはOKと指で形を作り、瓶へと吸い込まれるように入っていく。

革や布などのポーチで試してみたが、湿ってしまうために瓶が最適だった。

スイサンの入った瓶を腰に括りつけ、ポータル付近の露店へとたどり着くと来た時よりも賑わっているのか露店の範囲が広がっているように思える。

今がピークなんだろうか?

通り過ぎ様に話ている声に耳を傾ける。

ホールクレイが昨日見つかったらしいぞ!
ガーディアンエレメントを倒したPTが出たって噂で持ちきりだぞ!
宝箱からアーティファクトが出た幸運な人がいるそうよ

話している話題は違えど、その冒険者たちの声は上ずり、誰しもが興奮、高揚して喋っている。

その話題の原因はほぼイクサスが解き放った魔物。

ウィンターダンジョンらしからぬ大物の敵に、みな情報収集して探し回っている様子だ。その勢いが相まって露店も多く構えているようだ。

まぁ僕が倒す必要はないもんね、イクサスも最低1匹とか言っていたし3匹倒したのだからいいだろう。

僕の為のイベントのような物だったが、イクサスのせいかおかげかウィンターダンジョンは盛り上がってる事に間違いはない。王都の冒険者に活気が出ているのならそれはそれで良かったかと思いながら露店を過ぎていく。

ドロップした素材などを換金しながらポータルへと辿り着く。時間的にもいい時間だ。

心の中でスイサンに行くよと流石の僕でも、連れて行けれますようにと心で念じる。

そこまでドライではないし、替えが効かないという事も感じている。

だがそんな僕らの不安は杞憂だった。

紫の楕円のポータルをくぐり、すぐに腰につけた瓶を見るとそこにはスイサンが瓶に詰まっていた。ブクブクブクと泡を出し嬉しそうな表現をしている為ダンジョンの外に連れ出す事が出来たようだ。

よかったと僕もピンっと瓶にデコピンを一発いれて無言の表現をした。

大聖堂の地下でも適当に素材を売り払う事に。

「よぉ兄ちゃんは特にボスとかを倒したりしてないのか?」

ギルドがやっている買取カウンターでホーンラビットの毛皮や角などを置き買取してもらおうとすると、カウンターにいるおじさんから世間話ついでにきかれる。

「ボスですか?」

「あぁ、普段は見ない魔物が遺跡付近に突如現れたのは流石に知ってるだろ?それをボスって呼ぶんだよ」

最後の毛皮をカバンから出しながら、会話を続ける。

「僕は倒してないですね。これで最後です」

「そうか、結構強い魔物達らしいからな。狩りに行くなら準備は怠るなよ」

「はい、分かりました」

大聖堂の地下も多いに賑わいを見せ、聞こえてくる会話はイクサスの魔物で持ちっきりだ。



素材を売り払い、地下の階段を昇る。ふわっと久しぶりに冬の寒さが漂い僕はいそいそと赤のローブを羽織る。

その最中にブクブクと泡を出し、僕へと合図を出しているスイサン。

慌てている様子にどうしたのかと、瓶に触れると瓶は一瞬で冷たくなっている。

あっ寒いのかも。そう思い冷気耐性の帽子に瓶ごと入れるとブクブクは無くなり静かになる。

帰ったらメルさんにスイサン用の入れ物とか作って貰わなきゃな。


大聖堂の礼拝堂にもまばらに冒険者はいて祈りを捧げている人も多数。念じればいいのに声が漏れているのかあえて言葉に出しているのか邪念のような祈りを捧げているのだ。

俺に一攫千金のチャンスを下さい神様
一撃、一撃でいい。一撃だけ寸分狂わない渾身の一撃を・・・
ミアさんの好きな職がドルイドでありますように

人それぞれだな~

そんな感想を持ちながら僕は礼拝堂をでる。

「うわぁ、真っ暗。夜自体が逆に久しぶりだ」

久しぶりに戻った王都の街。13月という事で真っ暗闇の世界が空に浮かぶ。

その光景を瓶越しから覗いたスイサンも驚きと感動でブクブクと泡立てる。

王都のダンジョンでは夜は存在しない。常に一定の明るさを保ち、雨なども降らず穏やかな気候。

いうなれば温室育ちのスイサンにとっては、ダンジョンの外という方が危険で生活しにくい空間となっているに違いない。

そのスイサンがこの世界にきたばかりの僕と少し重なる。

日本にいた時のぬるま湯のような生活から、ここに来た時の気持ち。危険や死のリスクがある反面、ワクワクするような冒険が待っているという不安との裏返しの期待という気持ち。

瓶の中で水のようになっているスイサンは目はないが、キラキラとした瞳で外の世界を見ている様に僕は感じた。

「スイサンもこれから僕といっぱい冒険しようね」

ブクッ

ひと際大きく泡立てたスイサンは瓶からシュッと出てくると体いっぱいに手の拳と腕を作り上げ、空高く掲げた
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