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第251話 心繋ぎ

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MPが尽きているという事で、小休憩がてらと甘い物と紅茶などを取り出し広げて世間話を始めたのだ。

「ホルンは元気かしら?」

「はい、ぴんぴんしてますよ。アルにべったりですが」

「そう、旅の途中からホルンはアルフレッドさんがどんな人かな?とずっと気にしてましたから」

「そうですか、僕らが大変な時にそんな浮ついた気持ちで」

「あっ・・・ホルンごめんなさい」

クラリアは失言したと口を押えると、小さくホルンへと謝罪の言葉を口にした。

「ノエル君は一人なのかい?」

その様子をみてすかさず会話を変えるフォローを入れるクリス。人としては良いやつなのだ。イクサスもクリスを見習った方がいい。

「そうですよ、アル達は忙しそうなので一人でゆっくりとダンジョンを探索してました。クリスさん達はお金稼ぎですか?」

「そうだね、僕らはここを主軸として生活基盤にしていたからね」

「ここを??」

「あぁ、クラリア君が入るまでは3人だったから。ここでコツコツお金を稼いで祝福を上げて生活していたのさ」

「そうですか」

ウィンターダンジョンに冬以外で潜るのは初心者とクリス達ぐらいだろうな。

「あぁ、でもまぁクラリア君が入った事だし僕らも岩街かサイシアールどっちかに冬があけたら行く予定だ」

「ならサイシアールをお勧めします」

「・・・それはノエル君達が岩街に住んでいるからかい?」

「そうですね、こうやってたまに会うぐらいが丁度いいので」

「相変わらず厳しいね、君は・・・」

「あっでもディアナさんやクラリアさんは何か困った事があったら言ってくださいね」

「そしてそこも変わらないか」

クリス達はサーヤさんを送り届ける時に僕らの拠点に一度立ち寄っている。みんなの様子も軽く聞くが何も変わらず、クリス達を歓迎してくれたようだった。

特にグリーンウッドはティアをものすごく気に入ってしまったとクリスから聞き、グリーンウッドは赤面しながらも否定はせず逆にティアがどんな人物なのか根掘り葉掘り聞かれた。


「というか皆さん、ゴーレムを倒せるだけの実力があったんですね」

「そうなんだこんな所にゴーレムが!?と思ったけどね、クラリア君が優秀だから」

「それは祝福が8で4等級なのでそうですが、それでもクリスさんがゴーレムの一撃を止められるとは思って無かったですよ」

ここにゴーレムがいたことにはスルー。僕のせいではなくイクサスのせいだが、説明も面倒だ。

「そうね、それにゴーレムに吹き飛ばされてもそこまでダメージを負っている様子でもなくて私もびっくりしました」

「ノエル君には信じられないかもしれないが、クリスは結構強い部類なんだ本来は・・・」

「信じられませんね」

「そんなきっぱり言わなくても!?」

「だってそうでしょう。でも、クリスさんが戦っている姿一度も見てないかもしれません」

思い返せばクリスが戦った所あったか?と記憶をたどるが一度も無かったという結論に至る。

「クリスは帝国で何をしていたの・・・」

「あっまだディアナさんは聞いてない感じですか?」

「わ、わかったから!ノエル君頼むよ・・・」

ディアナさんから失望されない為か帝国でのクリスの行動はまだ話をしていない様子。

「まぁそのうちクラリアさんに教えて貰ってください。というか、クリスさんクラリアさんと初めてあった夜にクラリアさんといい感じになって無かったでしたっけ?」

「え!?どういう事!?クリス!クラリア!」

僕の発言に、大人しい見た目で柔らかな喋り方をしていたディアナが急変。鬼の形相になる。

「ちょちょ!?誤解だって!?」

「そうよディアナ、あれは気の迷い・・・」

「え?でも死霊術で縛って当分一緒にいるとあの時も約束してませんでした?責任とるって」

「クリス!!」

「ノエル君!?話が混ざってるよ!?誤解を生むような事はやめてくれ!!」

「ふふ、自分の失態を隠すからですよ」

クリスのヘタレっぷりは健在で安堵する。


「あのゴーレム、消滅しませんが持って帰ります?魔石以外は引き取りましょうか?」

クリスとクラリアが正座をさせられディアナに詰められている横で、僕はグリーンウッドに消滅しないゴーレムの死体を指さす。

「そうだな、あれを持っては帰れないが・・・いいのか?」

「いいですよ、相場とか知らないんで金額は決めてください」

「それは・・・ちょっと近くにいこうか」

「はい」

グリーンウッドはゴーレムのバラバラになった死体を持ち上げながら見ていく。

「多少の魔力を含んでいるな、特に足の部分はひと際大きい」

「ゴーレムの癖にぴょんぴょんしてましたもんね」

「コアは・・・バラバラだな。う~ん、特段価値があるわけではなさそうだ。コアを残せていればよかったが」

「そうですか」

「う~ん・・・俺ならこの足の部分で金貨1枚。他はゴミだな」

「じゃあ両足に金貨2枚、他の部位全部で金貨1枚。合計金貨3枚でいいですか?」

「いいのかいそれで?」

「僕はいいですよ」

「じゃあそれで頼めるか?」

「はい」

僕は金貨を取り出しグリーンウッドに渡すと、魔石以外のゴーレムの亡骸をイベントリへいれた。

「いや助かるよ、帝国に行って資金でほぼ文無しだったから」

「いえいえ、僕も知り合いに装飾を作る方がいるのでお土産に丁度よかったので」



一通り再会の世間話を終えると、僕はスライムの事を聞くことに。

「あっそういえばクリスさんスライム連れてましたよね?」

「あぁ、ゴーレムと戦う前に捕まえたんだけどね。1時間も持たなかったがね」

「僕も捕まえたいんですけど、どこら辺にいました?」

「捕まえるって死霊術使えるのかい?」

「いえ、う~ん・・・知り合いに使役できるアイテムを貰ったんですけど、使い方が分からないので、とりあえずスライムで試そうかと」

チャラっと鎖を取り出す。

「それがそのアイテム?」

「はい」

クリスが興味ありそうなので、クリスに手渡す。

「よければ鑑定しましょうか?」

するとディアナから鑑定という言葉が出てくる。

「えっ!?出来るんですか!?お金なら払います、お願いします」

すぐにクリスから奪い返すと、ディアナへと押し付けるように渡す。

「おぉっと・・・そんな見えないぐらい早く動かなくても」

「えっはい、これぐらいは助けていただいた恩がありますのでただでいいですよ」

ディアナはそういうと鎖を両手の人差し指と親指で掴むように持ち、ピンっと張って鎖を見据えた。

「心繋ぎの鎖・・・魔力を込めて魔物へ投げつけ、縛ることが出来ると使役できるそうです。ただ使役できる魔物は魔力を込めた術者の祝福以下しか成功しないとありますね」

「祝福以下ですか」

死霊術がある以上、そこまで万能テイムが出来る物ではないと思ったが、効果はかなり低そうだ。

「死霊術と似ているね、だいたいこういう使役や従わせる類のものは相手の心を折って屈服させる事が重要だと思うよ」

死霊術使いの先輩としてクリスがもっともそうなアドバイスをくれる。

「なるほど・・・じゃあクラリアさんやホルンはこれで縛れそうですね」

「な、なにを言ってるんですかノエルさん!?」

心を折るという言葉だけで、思い当たる節を言ってみるとクラリアは一歩後ろにたじろぎブンブンと手を振った。

「魔物と説明があるので人には使えないのではないでしょうか・・・」

クラリアの様子を見て、ディアナは説明文だと思われる事を強調して僕にもう一度伝える。

「あっいや例えですよ例え。僕がそんな事するわけないじゃないですか嫌だな~」

「・・・」

僕の例え話に誰も頷くことは無かった。ディアナは僕へ鎖を静かに返す。

あれ?本当に僕がやると思ったのかな?鎖を持つ僕をすごい警戒しているクラリアは瞬きもしない様子で僕の手を見ている。

一度鎖をイベントリへ仕舞いこむと、みな安堵した表情になるので僕が本当に人に投げると思われた事は心外だった。


休憩も終り、積もる話も尽きてきた頃になる。

「いやぁ助かりました。クリスさん達はこの後はまだダンジョンに?」

「あぁまだきたばっかりだからね、みんなのMPが回復したらまた宝箱や魔物を探すよ」

「そうですか、じゃあ僕もスライム探しをするのでこれで。あっクラリアさん、ホルンはロイヤルラインという宿屋の241号室にいるので良ければ覗いてあげてください。正直ホルンの恋バナに付き合うに疲れたので」

「はい、分かりました。でも、本当に仲良くやっていることに安心しました」

「その部分を除けば優秀で話やすい、いい方なので」

「お互い境遇は変わりましたが、これも何かの縁。ノエルさんにもまたお会いできることを願います」

「そうですね、それに岩街にきた時は祝福の拠点にもまた来てください。それに僕も当分ウィンターダンジョンにいるので、すぐにまた会うかもしれませんし」

これは社交辞令ではなく心からそう思う。彼女の魔物に対する知識は広く学べる事が多々ある。

「ディアナさんもまた。次は鑑定を頼むときはお礼をさせて貰いますので、またよろしくお願いします」

「いえいえそんな。私が受けた恩を返させて貰っているだけなので」

「う~ん、まぁその時はその時ということで。グリーンウッドさんもお元気で」

「あぁ、アルフレッドにもよろしく言ってくれ」

「はい」


別れは済ませ僕は立ち上がる。スライムが僕を待っているのだ。

「ノエル君また会えるといいね」

「・・・」

クリスの言葉に僕は返事を渋る。真顔のまま僕はクリスを見つめたままだ。

「なんで僕だけまたとかお元気でとか言ってくれないのさ!?」

「う~ん・・・クリスさんといるとトラブルに巻き込まれそうで、正直あまり会いたくないなって思っちゃったので」

「ひどくないかい!?」

「うふふ、クリスさんはまだノエルさんの信頼を勝ち取っていないのよ」

「そうだな、ノエル君に認められる男になれるよう頑張れ」

「クリスならいつかできるわ」

僕の言葉にクリスだけが分かっていないようで、クラリア達は静かにクリスを慰めた。

何だかんだでこのPTもいいPTだ。

「全くみんなして・・・」

「ふふクリスさん、先ほどのは冗談ではないです。でも、僕はクリスさんが嫌いなわけではないので、むしろ好きな方です。まぁ困った事が無い時に会える事を祈ってますよ」

「そこは嘘でも冗談だと言うところだろ!?」

「ふふ、クリスさんまた」

「あぁそれだよ!またね!」

僕が再会の言葉を告げると、今までの僕の心無い発言を全て流すようにクリスは満面の笑みで答えてくれた。

僕はクリス達に別れを告げて、心繋ぎの鎖を試しにスライムのいる所へ走ったのだった。
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