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第250話 あの問題児

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上からゴーレムを見下ろすこと30分。MPの回復がてらにゴーレムを観察していた時の事だ。

下から声が聞こえてきていた。

声は若く男女何人かの声。

その声が聞こえて僕は柱に身を隠す。

冒険者たちの声は次第に近づいてくるが、ゴーレムにまだ気が付いていないのかドンドンと塔へと近づいてきている。

「いや本当だってこの前この塔に宝箱があったんだよ」

「でも中身は銅貨だったんでしょ?」

「いやお金はお金さ変わりはないだろう」

どこか男の口調と声に聞き覚えがある。

ゆっくりと顔だけのぞかせるように下をみると・・・またあの人か・・・

僕が見たのはクリスのPTだった。

クリスにクラリア、グリーンウッドにディアナと・・・あれはスライム!?

ぷるぷると振るえる半透明の水色の物体が2匹跳ねながらクリスの後ろをついて行っていた。

僕はスライムに見惚れ、この世界のスライムは可愛い系で良かったと思えた。

「ん!?ゴーレムがいるぞ!」

僕がスライムを観察しているとグリーンウッドがゴーレムを見つける。

そして僕もゴーレムを見ると、先ほどまで僕を見上げていたゴーレムはクリス達を見据えて

「ごおおおおおーーー」

また叫ぶゴーレム。

僕からターゲットが移ったようだ。

クリスはすぐにスライムたちを前へと移動させた。

そしてクリス達は戦闘体勢へと移ったのだ。

僕は彼らがどのように戦うのか傍観者として見る事に決めた。一応帝国では4等級のクラリアがいると言う事で無用な手出しはしない、それにスライムがどんな攻撃をするのかも見ておきたかったのだ。

だが僕の思惑はゴーレムの一撃のもとに雲散した。

高く跳んだゴーレムに、クリスは盾を構え他のメンバーを距離をとると前衛はクリスとスライム2匹だけとなった。

ドシン!

おぉ塔が少し揺れる・・・

身を乗り出して覗いていた為、塔が揺れ落ちそうになる。

そして揺れが収まると同時にまた下を除くが・・・前衛にはクリス一人となっていた。

あらスライムはどこへ?

そう思っていたが、ゴーレムの両手の拳と地面の間から魔物が消える時に放つ光の泡のような物がはみ出ている事に気が付いた。

・・・もうやられちゃったんだ

もっとスライムの活躍を見ていたかったが、しょせんスライム。ゴーレムの攻撃を一発も耐える事は出来なかったようだ。

「ファイアストライク!」

ディアナの火の魔法がゴーレムへと飛ぶ。

勢いのある火で出来た槍はゴーレムの右足部分へと突き刺さり体をよろめかせた。そこへグリーンウッドの3連続の矢がファイアストライクでくぼみをつけた箇所へと突き刺さる。

うん?

何か違和感を感じる光景。

右足をやられたゴーレムは機動力を少し失いながらも、片足と両手の力で先ほどより低く跳躍する。

「くるぞ!大防御!」

そこへクリスが大防御のスキルを使いどっしりと身構えた。

・・・あれは本当にクリス達なのかな?

ガンっと大きなゴーレムの体重が乗ったパンチを受け止め、弾き返すクリス。

「聖なる拳」

よろけ仰向けに倒れたゴーレムへクラリアの見たことのない法術。光の大きな拳だけが宙へと浮くとゴーレムがやったように天から雷のように振り遅される鉄槌。

バキバキバキっ

ゴーレムの体の岩からひび割れる音が聞こえた。

「クリスさん!コアがむき出しに!」

「任せてくれ!ロックブレイク!」

クリスが走りより仰向けに倒れたゴーレムのコアへ突き刺そうとしたが、ゴーレムはまだ力を失くしていない。

クリスが突き刺すよりも早く、ゴーレムは自分の胸の上に乗っているゴーレムを払いのけた。

「ぐはっ!?」

「クリス!」

「クリスさん!」

大きな手で叩かれたクリスは吹き飛ばされ地面を転がる。心配の気持ちもあるが僕はほっとした、あれはやっぱりクリスだと。

「クラリア!クリスを頼む。ディアナ俺達で仕留めるぞ!」

「了解です!」

「分かったわ!ファイアストライク!」

「扇撃ち!」

前衛がクリスしかいないこのPT。クリスが倒れてしまい一気に畳みかけようとするグリーンウッドとディアナは起き上がろうとするゴーレムへ魔法と矢を浴びせ続ける。

徐々にボロボロとゴーレムをかたどる岩が砕けては行くが、致命傷には至っていない。

ゆっくりとだがゴーレムは起き上がる。ただ右足は接合部分が砕かれ2足歩行のようには起き上がれてはいなかった。

「お兄様!まだ無理そうです!」

「分かってる!」

ゴーレムは這いずる様動いた後にグリーンウッドたちへ飛び掛かる。

「聖なる拳」

クラリアの先ほどの法術は、次はグリーンウッド達の盾の役割を果たしゴーレムの飛び掛かりを防いだ。

「ウッドさん、今のでMPが最後です!」

拳はゴーレムを弾くとパラパラと光のかけらとなって消えていく。

「ファイアストライク!」

ガキンっとディアナの魔法はゴーレムのコアを穿つが破壊するまでには至らない。

「お兄様!私もです!」

エルフのディアナも魔法を3発撃つとMPを切らす様子は、先ほど連発していたファイアストライクの魔法が結構高威力な魔法なのだと分かる。

「ピアーズショット」

狙いを澄ましたグリーンウッドの1本の矢が真っすぐにゴーレムのコアへと向かう。

カーンンンン

響く矢が当たる音。だがそれはコアに弾かれた音。

ゴーレムは這いずる姿勢から右手と左足で体を支えると大きく背面を反り上げ、左手を高く振り上げた。

「まずい!?ディアナよけろ!」

「う、動けません!?」

バーサク斬りと同じような感じなのだろうか?動けないディアナへと振り下ろされていく拳

だがいまだに僕が傍観者を決め込んでいるのは拳が振り下ろされる前に動き出していた姿があったからだ。

「大防御!!」

回復したクリスがゴーレムの左拳を受け止めた。

「クリス!?」

・・・いいところで活躍するな~今回のクリスは。

「シールドバッシュ!」

そして盾で弾き返すとゴーレムは後ろへ少したじろぐ。

「クリストドメだ!」

「分かってるよ、まかせて!」

コアはむき出しになり、すでに表面には傷がついている。

「クリスさん!やってください!」

「クリスなら出来るわ!」

全てのお膳立てが完成し、みんながクリスに期待している。

今彼らは魔王やボスを撃つかの如く熱を帯びていた。

「うおぉぉぉぉーーーーロックブレイク!」

クリスの雄たけびとともに走り出した勢いでクリスの剣はゴーレムのコアに届いた。

パキンッ

っと音を立てたゴーレムのコアはヒビが入り砕けた。その時コアは、緑色に発光するLEDのような光を持っていたが、光を失うとともに色も失い透明のガラスのようにバラバラと地面に落ちていた。

「た、たおしたぞ!!・・・・うわぁ!?」

そしてガラガラガラとボロボロと砕けたゴーレムの体は地面へと落ちる。

ゴーレムの体の下から突き刺したクリスは、その崩れた体の下敷きになってしまっていたのだ。

あのゴーレムは倒しても消えないんだ?イクサスが別の所から連れてきたのかな?

「ク、クリス!?」

「あ、足が挟まって動けない!」

「みんな、岩をどかそう!」

僕はクリス達の戦いを間近で見ようと既に2階へと移動していた。そこから声をかけることに。

「お見事でしたねー、手伝いましょうか」

「だ、だれだ!?」

不意に声をかけたもんだからグリーンウッドは矢をつがえ僕の方へ向けた。

「こんにちは、グリーンウッドさん。ノエルですよ」

「・・・ノエル君か!?」

「はい、戦闘を無断で拝見させて貰ってました。ですのでその変わりとはなんですが、クリスさんを助けましょうか?」

「あっ頼む!」

「ノエルさんお願いします!」

「あっクラリアさん、ディアナさんもお久しぶりです」

僕はレビテーションを使い2階部分から飛び降りた。着地はふわっとした衝撃で何ともない。

「一か月ぶりぐらいですか?いや~まさかこんあ場所で出会うとは思いませんでしたね~」

「えっあっうんそうだな・・・」

「無事に王都に着いたんですね、クラリアさんも王国の冒険者になれたんですね」

「えっえぇそうですね・・・」

「ディアナさんの魔法強いですね、中級魔法ですか?ファイアストライクって?」

「は、はい・・・」

久しぶりの再開で世間話を始めた僕に、どこかぎこちなさそうにする3人。

「でも、知人に再会するのは嬉しいものですね」

だけどこの人達とは変な出会いでは合ったけど苦楽を共にした仲間のようなもの。嬉しい事には変わりない。

「あっノエル君・・・すまないが・・・」

「あ、足の感覚が・・・助けてくれないかノエル君・・・・」

「あっそうでした」

ゴーレムの死体の隙間からクリスの声助けを求める声が漏れてきた。

イベントリにゴーレムの体を仕舞い、別の場所へと吐き出すのは一瞬。

「ぐっ・・・・」

「ファーストエイド、クリスさんお久しぶりですね」

「あっうん・・・助かったよありがとう」

もう少し早く助けてよとそんな心の声が聞こえないでもない。

クラリアからヒールを受けたクリスは体も心も回復したかのように元気になって、僕らは近況を話だした。
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