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第245話 ラビットハンター再び

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僕はポータルの中へ入っていく時に自然に目を瞑っていたのだろう。

ポータルの中へ一歩踏み出し、2歩目、3歩目を踏み出した時に右手がホルンぶつかった。

「わっ兄貴っすか」

「あっごめんなさい」

「なんだ?びびって目閉じてたか?」

「うるさいなー、ゆっくりの瞬きですよ」

「からかうのは良くないわ、アルフレッドも最初の時は私に手を握ってくれと言ってたじゃないの」

「おいおいサーヤ、それを言うなよ」

ダンジョン内なのにいまだ穏やかな会話が続くのは、周りがそうだからなのだろう。

後ろを振り返れば、入口同様のポータルが禍々しく立っているがその周りでは露店がひしめき合っていた。

基本、食事なのか露店の前にはテーブルや椅子が簡素に置かれそこでみな食事をしている。

いい匂いがいたるところから漂い、じゅーっと炭や鉄板の熱の音に呼び込みの声。

お祭りの出店のような感じだ。

それに目が奪われて気が付くのが遅れたが、寒くないし明るい。

太陽のような日が照っているわけではないが、ダンジョン全体が明るいのだ。

「全くついてきてねーな、ほら行くぞ」

「あっはい」

ゆっくりとお祭り気分の浸り、出店をみているとアル達から置いて行かれていた。

そんな僕をアルは戻って呼びに来てくれたようだ。

ただ、この出店のような露店は数が多い。出てくる魔物も弱く、食料向きというのもあってか危機感がかなり薄い。

出店を出しているのは冒険者ではなく、一般人のようにみえ武器の類は持ってはいなさそうだ。

「ついてきてるかー」

「いますよ」

後ろを振り向かず声を掛けられながら進むこと5分。露店のばらつきが見え始めていたところでサーヤさん達にも追いついた。

「はぁー私もゆっくりと見たかっすけど、姉貴が先先いくっすから兄貴だけずるいっす」

「僕全くゆっくりしてないですよ、アルがいるかいるかとしょっちゅう声かけてきましたもん」

「お前がすぐいなくなるからだろ」

やっと立ち止まってゆっくり話はできるぐらいの混雑具合だった。周りを見渡すと平原に山、小川もある。サイシアールのダンジョンと似ている。

だが、人工物も見えている。崩れた塔のようなものや、遺跡の残りなどもあり探検しがいがありそうだ。

「サーヤどこら辺に行けばいいんだ?」

「そうね~、ホーンラビットなら西側かしら?」

「別にホーンラビットじゃなくていいんですが」

「西側だな、出発!」

「いくっすー!」

僕の話を聞かない2人は西へと進んでいく、サーヤさんは一度僕ににこっと笑ってアル達に続いた。

・・・まぁいいか。久しぶりのホーンラビット狩りは自分でも少し楽しみになってきていた所だった。



歩くこと20分、冒険者たちも遠くに見えるぐらい離れはじめた。

「全く魔物いないな」

「そうね、人が多いから魔物の数が足りていないのよ」

「元から旨味が少ないのに、魔物の数も少ないとなると割に合わねーな」

「そうですか?僕、歩くだけで魔石4個と銅貨2枚は拾ってますよ」

「私も銅貨1枚拾ったっす」

このダンジョンは直接魔物がお金を落とすのか、小銭のようなお金が落ちている。小さい物な為、広がる芝生に紛れ倒した後に取り逃しているようだ。

「は~、ノエルはどこでも得しやがって」

「得というほどのお金ではないですが」

「お前、銅貨をバカにしたらいつか泣くことなるからな」

「その時はアルのつけを清算しにいきますよ。返してくださいね」

「いつの話だよ」

「去年、賭けで負けてますよね?それまだ支払って貰ってませんが」

「・・・こまか、金貨の1枚や2枚いいだろ」

「アルこそ金貨をバカにしてるじゃないですか!?」

お金に余裕はあって、執着はしていないが貸したものはきっちり返してもらう。金の切れ目は縁の切れ目なのだ。

「アルフレッド達は賭けをしているの?」

「あ?あぁ13月は暇だろ?だから拠点でカードやウェルトで賭けをしてたんだ・・・あれからもう1年かよ」

「私もやりたいっす!自信あるっす!」

「私もカードはよくやってるわ、叔父様も好きで13月は恒例で毎年身内でポーカーの大会を開いていたわね」

・・・この世界の人は自分の運を信じ疑わないの?

僕が喋り出しそうな所でアルはニっと笑って、僕を遮る。

「そうか、なら今度みんなで勝負しようぜ。ユベル様にも声をかけてな」

「いいわね、今年は色々あったから無理かと思ったけど・・・カードなら何人か集まれば出来るわよね」

「いいっすねそれ!貴族が出す催しものなら景品とかもありそうっすよね!?」

「えぇ、もちろんあるわよ。でも毎年私が一番なのよ、ごめんなさいね」

サーヤさんが毎年一位?どんな悪運だらけの親戚周りなんだろうか。

「姉貴には悪いっすけどそれは私が参加してなかったからっす、こればっかりは手加減出来ないっすから」

「まぁまぁ二人とも、強いのは分かったからよ。ゲームだし楽しくやればいいだろ、帰ってからにしようぜ」

この二人はまだ僕の運の良さを知らない。アルはそこにつけこんで何かやりそうな雰囲気ではあるが、ユベルも巻き込むというのなら僕は黙ってアルを泳がせる事にした。



「あっ1匹目登場っす」

またのんびり10分ほど歩くと、ホルンが1匹目のホーンラビットを見つける。

「ラビットハンター頼むぞ」

「はいはい」

ホーンラビットも僕らを見つけ、勢いよく角を尖らせ向かってきていた。

「スリップ」

勢いよくスリップの上を滑って四つん這いになると、動けなくなったホーンラビットはジタバタと手足をもがき氷の腕で滑らせていた。

レビテーション

その氷の上をトコトコと歩いていき、ウォーターの水球を顔面に被せるようにするとブクブクと泡が水球に溢れ、更に手足をばたつかせ首を振る。

やがて体はピクリとも動かなくなり、水球も平静差を保ち波紋もなくなると討伐完了である。

これが新ラビット狩りだった。

ブリンクを使わずしてレビテーションだけで解決した画期的な狩り方だ

ホーンラビットの死体は消えて、そこに毛皮と銅貨が1枚が転がった。

「おぉ?サイシアールだと兎1匹銅貨1枚だったけど、毛皮が付いてきたぞ」

得した気分でアイテムを拾ってアル達の元に戻る。

「お前、違うだろ!なんだその余裕そうな狩り方は!?」

「いやレビテーション覚えたんだからそうなりますよ、何でもバージョンアップしていくものです」

「あれがノエル君の狩り方?」

「アル君がいうよりかは面白い狩り方ではないっすけど」

「いや、違うって!あれは偽、ノエル本物一回でいいから見せてやってくれ頼む」

アルは両手を揃えお願いのように頼み込む

「偽って何ですか・・・それに死体が消えるなら、あんな面倒なやり方でなくアイスショットやフリーズタッチを使いますよ」

そう、あれは外傷を失くすためのウォーターでの狩り方。アイテムドロップのような落ち方するなら無駄にMPを使うだけだ。

「頼む、ブリンクもレビテーションも無しで一回だけ頼む!」

「・・・本当はブリンクは使うんですけど。まぁいいですよその代わり何かやってくれるんでしょうね」

「・・・何やらせようとしてんだ?」

「祝福探しの歌に合わせて踊ってくださいよ、そのユベルさんとのカードで遊ぶ日にね」

「・・・曲ないだろ」

「ありますよ」

「なんで持ってきてんだよ・・・くそっ一回だけだろうな」

「もちろん、僕もそれぐらいの事をやらされようとしてるので」

「お前は別に恥ずかしくないだろ、心が無いんだからよ」

「失敬だな君は、でも交渉成立ですね」

「あぁ」

アルに言われた通り、特に恥ずかしい気持ちはそんなになかったがアルにも躍らせる約束をありつけた。

これはサーヤさんやホルンも一緒に聞いていて、そっちにも興味を示し約束を破ることはもう無理だろう。

またしばらく歩くと第二ホーンラビットを発見。

「次こそ頼むぞ」

「兄貴、いいとこ見せてくれっす」

「ノエル君期待してるわよ」

・・・無駄にハードル上がりすぎていてやり辛い。

「スリップ」

同じように氷の床は一瞬でホーンラビットの自由を奪う。強敵との戦闘が多くスリップを活用する場面が少なくなっていたが、やはりスリップが効く相手だとその威力は絶大だ。

僕はそのまま走り、距離、スピード、慣性、タイミング全てを計算する・・・

ここ!

低空姿勢から勢いよく前に飛び出す。

僕はペンギンのようにお腹だけで滑る弾丸。だが、上手くホーンラビットがいる手前で止まらないといけない為にスピードはそこまで出ていない。

スイー・・・

まさに今の僕は人間カーリング、目標地点に寸分狂いなく向かっていく。

少しのブレーキを手できかせスピードを調整、最後にはゆっくりと・・・・ホーンラビットの目の前に到着。

やぁこんにちは兎さん。

滑ってきた僕に驚き目を見開いてバタバタともがくホーンラビットと目が合う。

ウォーターでは時間がかかって可哀そうな為にアイスショットで一瞬で倒す。

完璧だ、100点の狩り方。嫌々だったが、これはこれで楽しい。後ろから聞こえる3人の馬鹿笑いも気にしないのだ、僕がどれだけ高度な事をしているのか知らないのだから。
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