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第227話 イクサスが用意した防衛戦

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モゾモゾと地中を這い、地面が盛り上がってこちらに進んできているのが既に目視できる範囲まで迫っていた。その数3本。

上空に数える限りで4匹のワイバーンが見えているが、これは僕らがいる南側から見える範囲でだ。

四方を取り囲むようにしている様子だった為、これの倍以上はいると思うと・・・逃げ出せなかった事とイクサスが僕をここに越させた事に苛立ちが募り地面をける。

「・・・兄貴怖いっすけど」

「・・・すいません」

「数はいるな・・・1体1体がゴブリンリーダーぐらいだと思ったら、相当やばいよな」

7時になる頃には警鐘が鳴り響き、外にいるのは兵士と冒険者、オーティマスの人達だけとなっていた。

その中で僕らは第三層、一番上の頂上の南側に位置する佐竹が近くにいる場所に陣取った。

少しでも強者の近くで生存率をあげようとする僕の汚い思惑だ。

バサバサバサと羽ばたく音が聞こえだしたのが、魔物の開戦の合図だった。

色んな場所に広がったワイバーンは、それぞれのタイミングで口から炎に氷、毒のブレスを吐いたのが始まりだった。

「バリア!アル達も壁に隠れて!」

オーティマスの人達が作った壁はこのブレスに対抗する為にあったものだ。ワイバーンの先制攻撃に、みなその防壁に隠れた。

壁越しからボーッっと燃える音が聞こえてきたが、それは薙ぎ払うように壁をなぞっていく。

ワイバーンの長いブレスの攻撃は無作為に攻撃を続けたが、集中砲火でなかったためかその防壁に隠れたが上手くやり過ごすことができた。

「途切れたか」

その言葉で、隣の兵士が顔を覗かせようとし・・・

顔を半分覗かせると、一気に顔半分が熱で溶けきりこちらに倒れてきた。

「うわっ」

ベチャリと溶けた部分が、僕のローブを汚す。

「・・・」

「馬鹿野郎が・・・」

死んだ兵士を挟んだもう一人の隣の兵士がそう呟いたのが聞こえた。

彼は運が悪かったようだ。

「アル、気を付けてくださいね」

「あぁ、気を引き締めねーとすぐにやられるな」

劇的な最後がいつも訪れるとは限らない。隣で倒れている兵士のように前触れもなく死んでしまう事もあるのだ。

長い時間防壁に隠れていたが、ワイバーンの方も業を煮やしたのか、ブレスの音は無くなった。

「ワイバーンがくるぞ!矢と魔法で応戦だ!」

佐竹の言葉で防壁から徐々に顔を覗かせていく兵士。最初は恐る恐るだったが、すぐに弓を構え始めた。隣にいるアルとホルンも弓を構えている。

「どんどん撃て!落としさえすれば何とかなる!」

シュンシュンシュンと飛んでいく弓と魔法。それは右を向けば西の空にも同じように矢が降り注いでいた。

・・・

下を見ると、二層目でも同じようにワイバーンに応戦している人がいるが、全員オーティマスのローブを着ている。それは一層目でトロルワームと戦っている人も全員オーティマスの人のようだ。

僕はその光景を黙って見ていた。

矢は雨のように撃たれ、全てがワイバーンに刺さるわけでは無い。むしろ外す方が大半だ。そしたらどうなる・・・

矢の行方を追うと、それは地面へと一直線に向かっていくのは重力があるから自然の摂理なのは分かる。

ただ・・・1本の矢が下にいるオーティマスのローブを着た人へと刺さった。

「っ・・・」

その刺さった人は倒れるが、周りにいる人は助けようとはせず、もくもくと魔法を放っている。

なんだこれは・・・これがイクサスがやろうとしている防衛のやり方なのか!?

NPCのように動く彼らは・・・この世界に馴染んできた僕には不気味に思えている。

ワイバーンにブレスを浴びても、下からは悲鳴すらも聞こえず淡々と処理を続けている。



ドシーン!

バタバタと空を裂き、手足をもがきながら空中制御が効かなくなった1体のワイバーンが地面にたたきつけられた。

「1体落としたぞ!続け!!」

僕の思考を置いて、戦況は動きつつある。

ワイバーンが近くに落ちたようだ。

飛んでいたワイバーンが1体落ちると、いままで3層で威勢をあげて戦っていた人達がいきなり静かになると、黙ってワイバーンへ突撃を始めたのだ。

こういう時って、雄たけびをあげながら向かっていくのが普通なのにいきなり黙ってしまったのだ。逆に突撃を躊躇した兵士達の方が声をあげてワイバーンへ向かっていく兵士達に声を上げて止めている。

「なんだ・・・どうしたんだ」

「わからないっすが・・・不思議っす」

それでもアルとホルンが正常な様子に、まだ僕の心は保たれている。

ワイバーンはホルンがいうように、空から撃ち落としてもその前足と後ろ脚でトカゲのように動き回り、長い首を器用に動かしガブリと兵士に噛みついている。

だが、恐怖を失くした操り人形の兵士達は怒涛の勢いは数の暴力。魔物の進行は今回は逆に人が数で押す形となっているのだ。

・・・この光景は合理的で理想な戦い方だ。指揮官一人が冷静にコマを動かせばいいのだから。

それはデミゴッドも同じなのだろうが、そうなると統率力が物をいうのか・・・ワイバーン達はそこまで命令されているようには思えない。簡単な指示のもと基本はワイバーンの自然な動きに見えている。

だが、こっちの兵士は細かく指示が出され、誰が囮になり誰が反撃覚悟で攻撃を与えるかを決められ動いている様子。

「どうするんだこれ・・・」

「あまり関わってはいけません、適度に遠距離から攻撃だけしていましょう」

手をこまねいたアルだが、佐竹が恐らく指揮をとり戦っているワイバーンに無理に突っ込んで邪魔になるのもと思い、僕らはただひたすら遠距離からの攻撃に徹していた。

ワイバーンは次第に四肢にダメージを負い、一人の兵士にスパッと首を切られるとうねうねとした動きをした後に倒れ落ちた。

やった、そういう言葉をいう者は少ない。すでに次の目標に攻撃を再開しているのだ。

・・・これが正しい戦い方なのか。本当に兵士をコマにしシミュレーションゲームのように動かし戦わせる死霊術のやり方に・・・

疑問、正当、不信、緻密そんな考えが交差する。イクサスが正しいのだと思う心と、僕の心があれは人がやることじゃない。そんな思いが入り乱れる。

「かはっ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

立っていられなくなり、壁に背を持たれ寄りかかり座り込んだ。

「おい、大丈夫か」

「・・・はい、少し眩暈が」

「兄貴、顔色がわるいっすよ」

「大丈夫です・・・すぐ治ります」

頭が思考の果てにぐちゃぐちゃになり、気分が悪くなってしまった。だが・・・


隣にいるアルとホルンが僕を心配している顔をみると・・・僕はこれでいいと思えた。

ぐちゃぐちゃになるのは僕が人の心があるからだ・・・そう思うと、気持ちは落ち着いてくる。

また何度も僕は悩むはずだ。でもそれでいいんだ。

「アル、もう大丈夫です」

「そうか、無理するなよ」

「はい・・・でも、今回は派手に動いて良さそうなので、少し2人で無茶しますか」

今ここにいるのは操られている魔法使いと兵士、それに転生者の子孫だ。

今更ここで空間魔法を隠しておく必要はない。

それにイクサスが僕をここに寄越した本当の狙いが分かった今、少し予定を狂わしてやりたい。

だが、デミゴッドに目を付けられない程度にだ。

「なんだよ、何させる気だ」

「一緒に飛びましょう」

僕の言葉にアルはすごく嫌な顔をしていたが・・・

「剣を構えて!行きますよ!」

「えっどこいくっすか!?」

「ちょ!飛ぶってなんだよ!おい!離せ!」

ブリンク!

ワイバーンの背中にたどり着いた僕達は

「おぉ!?おいおい!」

「早く斬って!」

「は?くっそ!おらーーー渾身切り!」

スパンとアルは足場が悪いながらも、ワイバーンの首を空中で斬り落とす。

「次!」

そしてブリンクして、南側にいるもう一体のワイバーンへ更に飛ぶと

アルはすぐに状況を理解し、ブリンクで飛んだと同時に一閃

「渾身切り!」

同じようにスキルを使い、綺麗な断面を作りワイバーンの首を落とした。

「最後!行きますよ!」

ブリンク!

3体目のワイバーンは更に早く首が落ちる。アルがいつスキルを使ったのか分からないぐらいに、ブリンク後のタイミングが完璧だった。

最後のワイバーンが落ちた場所へ降りるが、首を落とされてもまだウネウネと体と首は動き回り必死にもがいていた。

「ふー・・・やってやりましたね」

「ノエル!おまえっ!?」


そうアルに声を掛けるとアルの体から光があふれ出していた。

「おっおぉ!」

「おっおめでとうございます」

光が収束し終わると、嬉しそうなアルの顔がみえてきた。

「これでまた一歩強くなったな」

「はい、無茶したかいありましたね」

「・・・そうだ、お前あれはないだろ!」

レベルアップの余韻が消えたようで、僕を責める言葉を言うアル。

「大成功ですね」

そんなアルの言葉を無視して大成功だと、僕は思った事を口にした。

「はぁ・・・二度とするなよ」

「えっ!?僕ら2人の必殺技じゃないですか!名前はブリンク剣!かっこいい」

MPの事を考えればそんな多用出来ない技だからこその、ブリンク剣。自分でオリハルコンを使って斬るよりも、アルに斬って貰う方が手ごたえを感じた。

「何がブリンク剣だ、だせー名前つけるな!二度とやらねーからな!」

「えー・・・折角、決め技らしきものができたと思ったのですが」

「決め技なんて派手な物はいらねーんだよ、そういうのに頼ると痛いカウンター喰らうのがおちだぞ」

・・・確かにブリンク先を読む魔物がいるし、イクサスは超反応をみせブリンク後に蹴り飛ばされた。アルの言う事もあながち間違いではなく、相手を選ぶ必要がありそうだ。

「アルにしてはするどい指摘ですね。そこでブリンク大防御からのブリンク剣など派生していけば・・・」

僕は一人、大好きな瞬間移動を攻撃に活用できないかを温めて置いたものをアルに披露していたが、聞く耳を持ってくれていない様子で、駆けってくるホルンに手をあげていた。

「ちょっと聞いてますか!僕がブリンクの話を熱く語っているというのに」

「おーい、アルくーん、兄貴ー」

「後でいいだろ。まだ魔物はいるんだからな、ホルンもきたことだしよ」

「もう仕方ないですね・・・」

瞬間移動で敵を翻弄し倒す快感がアルには分からないのか。

「アル君!なんすか!めっちゃカッコよかったっすよ!」

ただ、ホルンはこっちに着くなり興奮した様子で早口だ。目をキラキラさせアルを見ていた。

「そうか?無理矢理連れていかれて、こっちは必死なだけだったぜ」

「いややばいっす!空を駆け回ってたっす!」

はたから見ていたホルンには、いいように映っていたようだ。そうだろそうだろ、瞬間移動のおかげだぞ。と僕が代わりに黙って胸を張っておく。

「ふ~ん・・・」

ホルンに褒められ、満更でもなさそうな様子はやはりアルも少しは手ごたえを感じていた感じかな?

「まぁとりあえず、戦場に戻るのか?」

「そうですね。後は遠距離からチマチマと攻撃していましょう」

「私もやってやるっすよ!」

ただ僕らの出番はもう残ってはいなかった。いや最初から用意なんてされていない所を僕が自分で作っただけなんだ。

イクサスは僕に戦いに参加させたかったわけではない。戦い方を見せたかったのだ、死霊術の戦い方を。

これもイクサスによる一種の脅し。僕の知り合いをこういう風に扱うぞという圧力。

言葉では言わない優男を演じているが、心はないに等しい。こういう事をされたくなければお願いという形の命令を聞けと、察しろと言わんばかりの事を手っ取り早く示してくる。

そんな奴の思惑が分かり、この魔物進行は勝ち戦だと逆に安心をしたのも事実。その為少しでも兵士達を消耗させまいとワイバーンを落として回ったがそれは微々たるもの。

北、東、西でも同じような事が起こっている。

別に僕だって・・・この世界の人にさほど興味はない。ただ、イクサスの計算通りに物事が運ぶことが嫌だった。

彼の手のひらで踊らされているように感じ、ちょっとの抵抗をしたかったグレーメンの魔物進行だった。
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