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第224話 アル、これが空間魔法使いの戦い方ですよ

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北に上がっていくにつれ、やはり寒さはましてくる。それにこの荒野は風を遮るものがなく直接体に風が差し込んでくる。

「王国よりも寒いですね」

「・・・これだけ走ったら寒さは感じないだろ」

今だ走り続け、野営も6時間ほどしかとらず、明け方前には出発しを繰り返しすでに4日が立った。

僕もそろそろ疲れが出ている頃に、2人はよく着いてきてくれていた。

「はぁ・・・はぁ・・・本当に私が一番体力ないっすね」

「いや・・・頑張ってる方だ、でもまだかノエルが目指す街はよ」

「後もう少しっす・・・はぁ・・・」

「頑張れー」

「兄貴って・・・殴りたくなるぐらい余裕っすね・・・」

「・・・気にするな、あいつは人じゃない」

折角人が応援してあげてるのに、ひどい言われようだ。

帝国の荒野には、オークやゴブリンのような人型の魔物はいない。

いるのはネズミにサソリ、ワームにハゲワシなどの形に似ている魔物だ。

どれも強い魔物でなく、ホルンいわく8~6等級の魔物だというため、魔物も生きていくには過酷な場所のようだった。

「あっ前方にデザートスコーピオンがいますよ。数は・・・2匹ですか?」

ブラウンサイスは尻尾までの長さを入れると3mぐらいのサソリ型の魔物。

荒野の中に紛れるようなその茶色の見た目に、何度もこの4日間奇襲されていた。

「・・・ノエル頼めるか」

「いいですよ」

アル達は体力的に疲れている為、さきがけでブラウンサイスへと近づいていく。

「スリップ!」

8本の脚の下へ氷の床を張る。滑りはするが、氷に足を突き立てカサカサと移動は出来ている。だがそれでいい。

ブラウンサイスで厄介なのは地中に潜られる事。それさえ防げば、対処は簡単だ・・・おっと!

「アイスピラー!」

スリップを引いていないもう一匹が潜ろうとしていたのを、アイスピラーで吹き飛ばし阻止。

イベントリから、ブラックが持っていた剣を取り出し、ブリンクで足を突き刺しながら歩いている、ノロマなブラウンサイスの背中まで飛ぶと

空中から剣を逆手に両手で持つと、手を振り降ろすように一気に突き刺す!

「キーーーー」

よしよし。最初サソリが鳴き声をあげた時はビックリとしたが、今は全く驚かない。

背中を蹴って、刺したブラウンサイスから飛んで離れると着地する前に、レビテーションを発動しながらイベントリから鉄の剣を取り出す。

バットのスイングをするかのように、力まかせに剣を横なぎに振るとブラウンサイスの左足を2本切り倒す。

踏ん張る足がなくなり体勢を崩した、ブラウンサイスは左へ倒れこむともっている剣を素早く、毒針がついた尻尾を切り落とす。

ガキンと尻尾を切ると同時に割れた剣を直ぐにすて、また新たな鉄の剣をイベントリから取り出し、転がったブラウンサイスの体の上を走り勢いよく高くジャンプし、また逆手に持った剣を振り降ろすように頭目掛け突き刺した!

ドクドクドクと緑の血が溢れていく。これで1体討伐完了。

アイスピラーで飛ばしたブラウンサイスも丁度今起き上がった所のようだ。

僕はイベントリからオリハルコンの剣を取り出し、そのまま投げつける。

「あーーーーー」

アルが何か叫んでいるが聞こえなかった事にする。

真っ直ぐ、ダーツのように飛ぶオリハルコンの剣は綺麗にブラウンサイスの顔に突き刺さり、刀身はすべて埋まり柄が引っ掛かり止まったようだ。そのままずしゃりと血をポタポタと垂らしながら、倒れたブラウンサイスを見て戦闘は終わった。

「ふー・・・MPを節約しての戦闘は大変だ」

今の僕の目標は戦闘時にMPを抑えて戦うという事を意識している。いつもブリンクに回すMPが無くなって窮地に立つことが多い為に、MPは極力ブリンクだけに使うという目標のもとイベントリのアイテム主体で戦う事を意識し始めたのだ。

敵が複数の場合はまだそうはいかないが、結構自分ではやれていると手ごたえを感じている。・・・でも、今回は魔法使いすぎたかと少し反省。

「お前!ノエル!!!オリハルコン投げるなよ!」

「あっあそこに刺さっているのでどうぞ」

「どうぞじゃねーよ!俺のオリハルコン!」

アルがオリハルコンの元に走っていく。僕もブラックの剣を抜きリコールをかけてイベントリへしまう。

「あ・・・兄貴、はぁはぁ、流石鮮やかっすね」

今追いついたホルンは息を切らしながらも賞賛してくれた。

「ありがとうございます、でもまだまだです」

今回は反省の余地ありなので、謙遜ではなく本音だ。

「兄貴の戦い方、空間魔法使いっぽくてかっこいいっす」

「あっそうですか?」

「っすね!何もないところから剣を次々に出していくの、何か憧れるっすよ」

「ふふ、それは最近やり始めました」

僕とホルンが喋ってると、ベトベトの血をふき取りながら、キズがないか念入りにチェックしているアルが戻ってきた。

「ノエル!やってくれたな!綺麗にしろよ!」

「はい、リコール。でも流石オリハルコン、投げても強いですね」

「ふざけんな、剣は投げる物じゃねー!もうこれだけは俺が持っとく!」

「えー、僕にも使わしてくださいよ」

アルはリコールをかけて、鞘を要求すると大事そうに背中に担いだ。

「アル君、剣背負ってるの似合うっすね」

「そうか?最近移動ばかりでノエルに預けっぱなしだったのが、まずかったか」

アルがまともな事を言っている。

「そうですよ、使ってほしくなければ大事に持つべきです」

「・・・お前シスレーの武器預かってたら勝手に使うのか?黄昏や朝日をな」

「使うわけないじゃないですか、もし壊したらなんて言われるか・・・」

「オリハルコンだって同じだろ!」

「えー、オリハルコンはちょっとやそっとの事では壊れませんよ。おおげさですね~」

アルが少しぷりぷりしたが、ホルンはそんなアルを嬉しそうになだめていた。

そんな旅も終わりが見えてきたのは、その日の夕方だった。

「あっやっと見えてきたっす・・・」

荒野の中に、エアーズロックのように盛り上がった場所が見えその上に街らしきものが見えてきていた。
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