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第197話 この瞬間を待っていたんだっ

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イベントリからマジックポーションを取り出し飲み干す

これでブリンクは後4回。だがまだまだ距離は足りない・・・おっとブリンク!

考える隙も与えてくれないハーピー達、それに上空を飛ぶハーピーの数がどんどん増えていく

歌の大きさも大きくなり、ウィンドシールド越しでも大音量に頭がクラクラとしてきた

そんな危機的状況で何も浮かばない・・・討伐隊の時、ブレッド村そんな自分ではどうしようもない状況だ

場数を踏んできたが、結局ブリンクで何とかなる場面が多かった。久しぶりなこの状況に焦りを覚え手が震えているのが分かる

それでも2人を担ぎ走る。一度でも捕まったらおしまいだ、攻撃にさくMPなんてないのだから

そんな事を思っていると、すぐにハーピー達は急降下を始める

くそっ!ブリンク!

空間魔法を手にして、人よりも強い肉体のディティマール。最近これに僕は溺れていたようだ・・・アルには虚勢をはりサーヤさんを助けると豪語し、クリスさん達にはその実力の違いを何気なしに見せつけていた

木漏れ日と一緒に湿地のダンジョンにいったときも、ティアやレインさんといったサイシアールの時も僕だけどこか真剣差が欠如していたように感じる

みな死と瀬戸際で戦っているというのに、僕だけ上の空のような・・・アルは余裕を見せているといいように言ってくれていたがそうでは無かったのだ

無意識のうちに僕の心は転生者という優越感で奢っていた

この世界の人々は必死に生きているというのに、僕は無意識にあざ笑っていたのだろう

そんな後悔ももう遅い・・・僕に残された手段は何ももう残されていないのだ

急降下をしてきたハーピー1匹

残りMPも10とどうしようもない状況で、己を恥じた僕は逃げることを辞めた

マジックミサイル!

このやり切れない気持ちを雪ハーピーにぶつける

3個の魔力の玉が1匹にぶつかり、ハーピーを撃ち落とす

「ぴぃ!」

「ぴーーーぴぃぴぃ!」

僕が攻撃を仕掛けてしまったことで、歌っていたハーピー達は歌声に力をまし怒りが歌声に伝わっていた

僕らの上空を滞空していたハーピー達は、上空をグルグルと周りはじめ、地面にいたハーピー達も飛び上がり始めた

突き抜ける天高い空は、雪ハーピーで覆いつくされはじめ

ひと際大きな鳴き声と、轟音のような羽ばたく音が聞こえた

恐らくクイーンもこちらにこようとしているのだろう

・・・ここまでか

もう僕には何ものこっていない

隣では先ほど撃ち落とした、雪ハーピーが苦しそうにしていた

こいつだけでも道連れだ

僕は最後の悪あがきとして倒れている雪ハーピーへとアイスショットを撃ちこむことに

その時上空を旋回していたハーピー達は一斉に僕に向かって急降下をしてきているのが分かっていた

「アル・・・ごめん・・・アイスショット」




雪ハーピーにアイスショットを撃ち込んだ時にそれは起こったのだ




僕の体から光があふれ出る

まさにこの瞬間、この場面でその名前の由来にふさわしい出来事

女神の祝福

レベルアップだ!

枯渇したMPが満タンになっている感覚・・・ッ!

それはハーピー達が僕を覆い、僕から出る光を遮るよりも早く、僕が前世から愛した魔法を行使していた

ブリンク!!!

僕の後ろからハーピーが地面に突っ込んでいくドサドサという音が聞こえる

後ろを振り返ると、ハーピーが山のように積み重なりそこへまだハーピーは突っ込んでいっているのだ

「うわっ」

だがそんな光景をただじっと見ている場合ではなかった。後ろを振り返った時にその山のようなハーピーの群れの奥、その巨体を何とも思っていないかのような力強い羽ばたきを見せるクイーンがこちらに迫っていた

その一度の羽ばたきで下に積もった雪を舞い上がらせ、吹雪を起こしているようだ

「ぴぃいいいいいいいい!!!!」

周りの何千匹の雪ハーピーの歌声を1匹でかき消す鳴き声

それを聞いたハーピー達は突っ込むのをやめ、一斉に僕の方へと顔をむけたのだ

こわ!!??ブリンク!!

もう立ち止まる必要もない、全てのMPを使い切れば、アル達のもとへと向かえる!

もうMPが万全の状態と思ったが・・・

「ぴぃい!!ぴぃ!ぴいいいい!」

クイーンは何か指示を出している様ないや鳴き声に変わる

この感じは嫌な予感がした・・・

ウェッジコートでゴブリンリーダーと対峙した時に逃げる時にブリンク位置を当てられた時のことが記憶に蘇る

そう思った時にブリンクをした瞬間、目の前にハーピーがドスンと降ってきたのだ

あぶなっ!?ブリンク!

嫌な予感がした為に、ブリンクする場所を寸前で少しずらせたおかげで助かった

そこからは連続のブリンク、考える暇なくブリンクをしているのにハーピー達は確実に僕の行先を当てている

寸前で移動先を変えても、それに合わせるかのようにハーピー達も調整しているかのようだ

「なんだんだよこいつら!」

アル達には戦略ゲームで、1手先2手先をこちらが優位に進めていたのに・・・今は反対の立場だ

僕が思っている以上に、本当に魔物は賢いのかもしれない

このクイーンの指示は明らかに、僕移動先を分かっていて僕の思考を読んでいるような雰囲気に

僕が不意に選んだ場所も、クイーンに選ばされているような感覚になる

考えると、場所をしられ不意に変えても読んでくる

ただそれも後少しだ。残り50mをきっていたのだ

すでに峠の平地を超えて、下り坂になっていた。MPを全て使えば足りる距離だったが、ハーピーを躱しながらブリンクをしていた為またMPが枯渇し、残り10となっていてが今回は話は違う

あと1手、順序を間違わず正確に指せば逃げ切れるという所まできていた

ブリンク!

ドスンと後ろからハーピーが突っ込んできたのが分かった

ただ、僕はその瞬間勝利、逃げ切るという達成条件をクリアできたと思った

すでに視界の先、洞窟の中にアルの姿を発見した瞬間だった

残り20m。ブリンク1回で行ける距離の為、もう安心だと

その気の緩みが、ブリンクとブリンクとのほんの1秒以下の間ででてしまったからか

「うわっ!!!」

担いでいたクリスが目を覚ますと、ビクっと起き上がるのと同時に僕の体はその衝撃で揺れブリンク先がずれてしまった

洞窟の中にブリンクするつもりが、洞窟よりも2mほど前へと飛んでしまったのだ

「アル!」

僕は目前にいたアルに助けを求める

アルは恐らくブリンクが使えないと分かったのか、僕の掛け声に急いで走ってくる

僕も2人を抱えたまま、すぐに走りだす

僕の意識外の最後のブリンクだった為に、ハーピーが近くに振ってくる事が無かったのは不幸中の幸い

「ぴいいーーーー!」

遠くでクイーンの音が響く

なんの号令かもうそんな事を考える暇はない

「アル!こっちを!」

「かせ!」

「うわぁ!?」

アルにクリスを投げるように渡すと、2人急いで洞窟へと入っていく

「ふさげノエル!」

「イベントリ!駄目です!Mp切れです!」

「くっそ!お前!ホルン!ウッド!奥にいそげ!!」

バサバサと僕らの後を追って、ハーピーが洞窟へ侵入してくる音が聞こえる

イベントリ!イベントリ!イベントリ!

このMPが回復する1分が長いと感じたのも、討伐隊のオオグモと対峙した時だなと思いだす

先ほどは後悔、走馬灯のような感じだったが、今回は懐かしく思える

危険な状況に変わりはないのに、今余裕がある理由はわかっていた

あぁアルがいるからか・・・アルが僕がいるとなぜか何とかなると思っていると以前いってたように、僕もアルが側にいると何とかなると思っちゃってるんだ

僕の方が何とかしなければ、僕が能力で優ってるのならみんなを守らなきゃと勝手に気負いしていたが・・・そんな事はなかった、僕の側には頼れるリーダーがいるのだから

知らず知らずのうちに気負っていたが、僕はそんなキャラではない。人の後ろについて行くタイプの人間だった

イベントリ!

大岩がゴロゴロとあふれ出し洞窟の通路を埋めていく。MPが回復してイベントリが使えるようになっていたのだ

「穴塞ぎました!」

「ノエル!ウィンドスラッシュの剣!」

洞窟の通路を塞ぎはしたが、ハーピー2匹は既に塞いだ穴よりもこちらに来ていた

「はい!」

「ホルン!ウッド!戦え!」

アルに剣を渡すと、先をいくグリーンウッドとホルンにアルが指示を出す

そのままアルは担いだクリスを投げ捨てると、剣を一振り

風の初級魔法、風の刃が雪ハーピーへと向かっていく

だが、その刃をハーピーの勢いよく羽ばたかせた、風の勢いと相殺される

「くっ」

「ぴーー」

風を起こしていない一体がアルへ向かって突進をしていき、アルはウィンドスラッシュの剣で弾くが

アルは勢いよく吹き飛ばされる

「アル!」

MPが切れている状態では何もできない僕は、イベントリの中に何か使える物はないかと焦りながら探っていく時


ビュン

音だけが洞窟の先から飛び、僕の頭上を飛んでいく

その音に反応した時には雪ハーピーの翼に矢が刺さり、雪ハーピーは鳴き声とともに墜落した

そして遅れて、地面を走る音が聞こえる

その軽やかな足音はシスレーと似ているが、それを上回る速さで僕の横を霞めていき

ドンと衝撃の様な音を鳴らした時には、墜落したハーピーの鳴き声は消えていた

残りハーピー1匹となり、アルは立ち上がるとまたウィンドスラッシュを繰り出し

その攻撃をまたは羽ばたきで消した時に、トンットンッと何か蹴った音が聞こえると思った時には

ハーピーはぴぃっと鳴き、地面に落下していた。僕が最後に確認した時にはホルンがハーピーの頭を殴りつけて潰していたのだ

これで一度危機的状況は脱出できたようだった
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