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第184話 黒い門

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翌日からクリス達との移動が始まるが、アルやグリーンウッドさんは特段喋る様子でもなく、馬車の中で静かにしていた

喋るのは僕とクリスさんだけだ

「ふんふん、それでどうなったんだい?」

「鷹という人がやられても、アルは自分達に出来ることをしようとオークソルジャーをもう一匹倒していると、いつの間にかオークキングは倒れてましたね」

「なるほどね~、そういう結末だったのか」

「みな、突っ込んでいくのが怖くて弓や投げやりで遠距離で倒したので、誰がトドメを刺したか分からなかったのでしょう」

「そりゃ兵士がまとめて真っ二つにされたのを見ると、怖くて足がすくむさ。僕なら無理だね」

ウェッジコート奪還戦の詳しい話を聞きたいと言うので、僕らの体験談を話す

クリスさん達はEランクな為、参加をしなかったようだがそれが正解だろうと思う

そんな日常会話をしながら、ネバースノーから4日でウェスト地方の国境の関所へとたどり着いた

ホーク火山を超えている為、標高は高いように感じるこの国境付近

「これが黒の門か・・・」

「黒の門・・・」

アルや僕らの前には大きな黒い扉が両脇を山に挟まれ、重圧な様子で備え付けられていた

この関所と言われるこの地点の代名詞とも呼ばれるこの黒い門。高さ10mはあると思われるこの門を必ず通らなければあちら側には行けない様子だ

そこを通る為に一列に並び、一人ずつ通っていく様子は異様な雰囲気にのまれている。恐らく帝国と王国の仲の悪さがそのままにじみ出ているようだ

許可をされていないものは、その場で列から雑に弾き飛ばされてどこかに連れていかれている

スパイ活動なんかを厳しく監視しているのだろう

また一人と連れていかれた人達はどこへ向かっていってるのだろうか

この黒の門がある関所、ルークサールの街。冒険者や兵士が戦争を今か今かと待機しているのだ。彼らは相手が攻め込んできた時にこの黒の門を通るのだろう

街の周りには多くのテントが張られている様子は、おびただしさがある

僕らはいつ入れるか分からない状況を待つ余裕はアルやクリスさんにはないのだろう。待てばいつかはこの兵士たちに紛れて関所を超えれていたかもしれないが、そうしなかった

「アル、どうしますか?どこか宿屋にいきますか?」

「いや、今からでもいいだろう。クリス達もいいか?」

「はい、僕はすぐにでも行動したいです」

「俺もだ」

のんびりしているのは僕だけだったようだ。アル達にそう言われるので、僕らはルークサールに着いた足でそのまま黒の門へ向かう

「ノエル通行証だ」

「はい、これを」

アルに通行証を渡しておく

「・・・これで入れるのでしょうか」

「あぁ、ギルドから貰ったものだからな」

少し緊張した面持ちのクリスさん。気持ちは分かる、僕らは正式な依頼をうけてだがクリス達は違う。それにこの異様な雰囲気は人の心を飲んでしまう

グリーンウッドさんも冷や汗をかいている様子は緊張した面持ちだ

「行きましょうか、平然としてればいけますよ」

僕らは黒い門の列に並ぶ。列の長さは長くはない。ただ一人一人荷物チェックに時間をかけている為に列の進みは遅いのだ

僕はふと何が合ってとかでなく、そうただ何気なしに暇をもてあそんだ視線を動かした先

黒の門の横に監視塔がある。その監視塔の一番上からこちらを見下ろしている自分と目が合う

一人一人をなめるように見下ろし、嘘つきがいないかをチェックしているような目。

ぞわっと背筋が凍る。これは危険察知ではなく本能の警告

そんな目と視線が合い、僕も目を細めてみてしまうが、向こうも同じように視線を外さずにこちらをじっとみつめたままだ

やましい事など何もないのに、自らの罪を吐きたくなるようなあの目つきは人ではないように思える

僕らの一番先頭のアルの番になり、アルは通行証と持ち物をチェックされて僕ら後ろも同じようだと説明を始める

すると同じように僕らの荷物を改めさせられると、通行の許可が下りる

思ったよりも簡単なのは、やはりユベルからの正式な依頼を出してもらっているからだろ

荷物の確認も終わり、やれやれと思い黒の門を抜けようとしたときだ

「ちょっと待ちたまえ」

低く響く声、そんな声が僕らのいくてを阻む

後ろから聞こえ、僕らは振り向くと

僕は先ほどの見下ろしていた目の主と対面してしまった

肌は人より赤黒く、額から角が生えている。なんだこの生き物はと身構えてしまう

アル達も同様だろうと思っているがそんな雰囲気ではない

近くで見るとその灰色の瞳は更に冷たさを増す

「ウォルス様、いかがいたしましたか」

その男はウォルスとよばれ、それに先ほど僕らを調べていた兵士からは様づけで呼ばれている為に、それなりの地位にいるのだろう

「そこの冒険者が気になったものでな、わしからも少し確認させてもらいたい」

「はっ、おいお前ら荷物を置いてこっちにこい」

アルはなんだよ小声でいいながらも従う為に、僕らも同じように付き従う

「お前らの目的はなんだ」

「ホグズマッシュの採取です」

「そうか、この季節は食べごろだからな。それでなぜこの戦争がある時期にそんな依頼を」

「知り合いの貴族からの指名依頼です。戦争が近いからこそだと思いますが」

「ふん・・・なるほどな」

アルへ整然と答える様に、疑いの余地はない。嘘ではなく事実なのだから

「なるほどな、お前は分かった。次はこっちだな」

このウォルスという人物は僕ら全員に質問するきなのだろう

それを聞いたクリスやグリーンウッドの緊張が僕らにも伝わる

「お前、お前は何をしにきた」

指を僕に刺されて聞かれる

「リーダーのアルフレッドと共に同じ依頼を」

「そうか、だがホグズマッシュなら一人でも取れるのではないか」

「それもそうですね、でも私は魔法使い。水や火をあやつれますのでここまで付き添いを。山へ入るならなおさらのことかと」

「・・・見せてみろ」

生活魔法のファイアとウォーターを使用する

「いかがでしょう」

「ふむ・・・悪くない。お前もいい、次はそこのエルフだ」

そういいグリーンウッドの番へ

「お前は何しにきた」

「私も彼らと同じだ」

「なんの為だ、2人で十分な依頼に思えるが」

「わ、私は森の民。ホグズマッシュがどこにあるかを彼らヒューマンよりも詳しい」

「ほう・・・ならホグズマッシュはどこを探せばいいか教えろ」

・・・こいつめちゃくちゃ疑りぶかいな

「それは、このスードリカに自生するホットロッドの木の洞の中だな。ホットロッド自体がホットオークの木と素人では見分けがつかまい」

意地悪な質問をうけたかと思ったが、グリーンウッドは予想だにしない回答をする

「・・・本物か、お前もいいぞ。最後にそこのお前だ」

最後にクリスの番になる。緊張した面持ちなのは変わらずだ

「は、はい」

「お前は何をしにきた」

同じ質問の繰りかえしだ・・・クリスはなんと答えるのだろうか

「僕も3人と同じです」

「お前の役割はなんだ。もう必要ないと思うが」

「僕は、荷物運びを任せられてます」

「荷物運び?そんなもののいらないだろ、そこの3人で足りているはずだ」

「・・・いえ、依頼には持てるだけと記載されてますので、もし大量に見つかれば僕が必要かと」

「いや、ホグズマッシュはそこまで大量に見つかる物ではない」

「そ、それは・・・」

クリスはそれ以上の答えを持ち合わせしてなかったのか、言い淀んでしまった

「確かに、ウォルスさんの言う通りですね。PT活動なのでみんなで行くのが当たり前だと思ってましたが、今は用心の時、クリスは僕とここで待っていてください」

「えっ」

僕は言及されるのも困ると思い、ここは潔く引く方がいいと判断

僕がそういうとグリーンウッドが何か動きかけようとするが、それをアルはとめる

「大丈夫、すぐに戻ってきますよ。あそこ見えます?あそこで待っていてくれます?」

「えっそんな・・・」

「大丈夫ですよ、あっ荷物僕が持っていきますよ。貸してください」

クリスに背負っている荷物はダミーの物、そんなもの貰わなくてもいいが、それを受取ろうとする真意をくみ取って欲しい

「・・・はい、必ず待ってるのでお気をつけて」

クリスは僕の目を見ると、真意をくみ取ってくれたのか了承する

「はい、では。ウォルスさんお手数をおかけしました」

「ふむ、ではこの3人だけ通せ」

ジロリと僕を見るも、今はディティマールのスイッチ。何も動じはしない

僕は悠々とアル達に行きましょうと促し、その黒く分厚い門を通っていく

後ろからの視線を感じ、クリスの事を確認できない為今はこのまま、山に挟まれた谷の間を進むしかなかった

5分ほど歩くと、ようやくグリーンウッドが口を開く

「どういうつもりだ?クリスを見捨てたのか?」

「いえ、迎えに行きますよ。正直これは喋りたくなかったのですが、隠していたことによる僕の落ち度なので僕が責任をとります」

「隠していた?なんだ」

「僕は空間魔法使い、正直あんな門はあってないような物。ただそのアビリティが希有な為、人にはあまり知られたくないのです」

「空間魔法・・・あの大賢者マーリンと同じのか?」

「ですね、まぁ覚えている魔法は少ないのでマーリンさんほどではないですが、それなりな事は出来るので」

僕がグリーンウッドに伝えると

「で?どうするつもりだ?」

「どうするもシンプルに行きますよ。門を超えても見張り塔に兵士が並んでましたから、門からすぐにはブリンクできません。なら山を越えるしかありませんね」

「この山をか?」

「ですね、どうします?僕らはもうそのままこの谷の上から進みましょうか?」

「そうだな、一度断られてるからな。用心に越したことはないか」

「おいおい」

地図を開きながら、アル達との合流地点を決める

「僕らはここから直線に渡っていきます。アル達はここから山に入る予定ですよね?」

「あぁ」

「じゃあここら辺で合流できないですかね?」

「いや・・・ここの方がいいんじゃねーか?そこは曖昧すぎだろ、こっちは地図通りならここは泉か湖っぽいからな」

「ふんふん、じゃあそこにします?2日後の夜ぐらいですかね?」

「そのぐらいか、どうやって見つけるよお互いを」

「僕がホーリーライト使うので、その場所に来てください。結構目立つので僕らはそれを使ったら隠れてますね」

「分かった」

僕らは短いやり取りでもお互いにいいたい事、確認したい事は全て共有できている

それをグリーンウッドは途中から黙ってみていた

「じゃあこれを、2日分の食料などの野営セットです。グリーンウッドさんも」

もう空間魔法の事をばらした為、小袋などの子芝居はしない

「今どこからだしたのだ?」

「これも空間魔法のイベントリです。じゃあ僕は来た道を戻るので、また後で」

「おう」

アル達と別れ、僕は上を見上げる

谷のてっぺんがどこまで高いのか近くだと、見えないためにほぼ分からない。ブリンク全て使い切って登れる距離ならいいけど・・・そうでなかったら困るよな

ここは安全策、浮遊盾とレビテーションのエレベーターだ

徐々に上へと登りつつ、適度に一人分の足場を探し適度に休憩しながら登る

「おぉ見えてきた、案外高くないのか。天気が悪いから空間魔法でも測れなかったのかな」

慎重に登ったために時間は掛かったが、高さにして150mぐらいだろう。これならブリンク5回でいける

登り切った谷の上は頂上というわけではなかった、少し平地になっている山の中間に位置している場所だ。周りを見渡すように確認すると、谷の上にも見張り台のような詰め所があるのだ

うわっ!?

驚き少し体をかがめるが、周りに隠れれそうな場所もなくもう見つかっていたら見つかったらかと黒い門へ近づいていく

レビテーションを使い、一応足音を殺し詰め所へ

詰め所近くへくるが、中から音は聞こえない。それに詰め所の周りの砂は赤黒く染まっている

この色は何度か見た色。血の色だ

「・・・調べるか」

ブリンクでまず見張り台の上からせめていくことに

見張り台には弓兵と思われる兵士が死んでいる。右目に矢が刺さり絶命している様子は死んで数日は経っているようだ。この弓兵の服は下のルークサールの兵士と同じもの

誰かに襲われた・・・十中八九、帝国か

何か手掛かりになるものがないか調べながら兵士の衣服なども漁るが、何も残っていない

見張り台から降りて、詰め所の2階へ侵入

入った場所はベッドが並び、その上には兵士の死体が並ぶ

寝込みを襲われた様子だ

ここも特段何か残っている様子ではない。ただ死体だけが並び、異臭を放つ空間となっている

他の部屋も同じだった。武器や防具といったものは残っておらず、あるのは死体だけ。食糧になるものも残されてはいないようだ

ただ、兵士達のスケジュール表が一階の大きな部屋に掲げられており、次の交代の日が5日後ということが分かった

ここの兵士は少なくても5日間はこのままの状態なのか

・・・

僕はこの襲われた詰め所が気になり、谷の反対側の詰め所にも同じように調査をするも同じだった

これを見つけた僕はどうすれば・・・誰に何を知らせれば信じて貰える・・・

見つけなければよかったと思うが、もう後の祭りだ。帝国はこの黒の門を上から奇襲しようと考えている様子なのだ

方法は分からないが、この死んだ兵士達もそのままにしているという事は、アンデッドとして利用しようとしているに違いない

アルに判断を任せたいが、すでに今は僕だけ

出来ることだけしておこう。

僕はイベントリに入っている、今まで使う機会が無かったものたちを取り出した

数時間を要したが、やれることをやったという気持ちで僕はルークサールの街へと舞い戻ったのだった
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