上 下
140 / 156

140.なりたくない!

しおりを挟む
「しかし、ノムル様」
「王様っていうのは、少数派の人間を苦しめても平気な顔して、ふんぞり返っているやつのことだろう? そんなのになりたくない!」

 大人たちは困ったような、怒りを含んだような、なんにせよ、あまりいい表情はしていなかった。

 当然だろう。スラム出身の十歳ほどの少年を、自分たちの王と敬わなければならないのだ。
 しかし勢いづいている魔法使いたちの暴走を抑えるためには、他に方法が見当たらない。

 一向に首を縦に振らないノムルを宥めすかし、国という形を保ちながら、ギルドを立ち上げて国の運営を行うという、奇妙な体制で折り合いを付けることとなる。
 そうしてノムルは、ラジン国が運営する魔法ギルド総帥の座に就かされたのだった。



「目が覚めましたか?」

 薄っすらと目を開けると、緑色が視界に入った。

「ああ」

 上体を起こしながら、ノムルは窓の外に視線を向ける。すでに濃藍に染まり、星が瞬いていた。

「もう夜じゃないか。何で起こさなかった?」
「明るければ起きれいられますから。たまには夜更かししても良いでしょう?」

 ユキノはさわりと優しく葉を揺らしたが、負担とならないはずがない。

「こういう時は起こしていいんだよ」
「はい、次からはそうしますね。おとーさん」

 ノムルはユキノを抱き上げると、窓から外へと飛び出した。風にローブが靡き、月夜に浮かび上がる。
 音もなく地面に着地すると、そのまま近くの森へと駆け込む。
 建物から出て暗くなった途端に、ユキノは舟をこぎだし根を伸ばし始めている。

「あと少しだ。我慢しろ」
「あい。だいじょーぶれす」

 言葉とは裏腹に、ノムルの体に身を預けてくる。
 何とか起きている間に森の奥に辿り着くと、地面に下ろす。根が大地に着くより先に、土を求めて伸びていく。

「おとーさん、ありがとうございました。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ、ユキノ」
「ふふ」

 嬉しそうに葉をきらめかせて、樹人の幼木は眠りへと落ちていった。



「おはようございます、おとーさん」

 翌朝、目覚めたノムルは声に顔を向けて、表情を曇らせた。
 ユキノの葉先が縮れている。無意識に手を伸ばし、指先で軽く伸ばしてみるが、戻りそうにない。
 やはり樹人にとって夜更かしは体によく無かったようだ。

「そんなに心配しないでください。その内に元に戻りますから」

 いつまでも座ったままのノムルの手を取り、引っ張り起こそうとしたユキノに手を引かれるまま、ノムルは森から出る。

「無理をしなくても、森で休んでいてもいいんだぞ?」
「木のふりをし続ける方が辛いですから」

 ユキノを抱き抱えて跳躍し部屋へと戻ると、服を脱ぎ捨てた。

「わっ?! おとーさん、娘の前で裸にならないでください。破廉恥です! セクハラですよ?」
「お前だって俺の前で裸になってるだろうが?」
「私は樹人ですから! 人間とは違います」

 なぜか真っ赤に紅葉して枝で顔を覆い、背を向けてしまったユキノに首を傾げながら、ノムルはシャワールームに入った。
 熱い湯を流し、全身に浴びる。

 ユキノの近くで眠るようになってから、悪夢にうなされることもなく目覚めは良かったのだが、昨日見た夢のせいだろうか? 今朝は気だるく感じた。
 バスローブを羽織り、濡れた髪にタオルを掛けてシャワールームから出た。

「おとーさん、髪が濡れたままだと風邪をひきますよ?」
「ん? ああ」

 ソファに腰を下ろすとユキノが立ち上がり、枝をノムルの頭に向けて伸ばしてきた。
 ノムルは杖を出して軽く撫でると、全身から水分を消し飛ばす。
 伸びてきていたユキノの枝が動きを止め、引き戻される。その枝先を、しばらく見つめていたユキノだったが、何事もなかったかのように隣に座りなおした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

辺境に住む元Cランク冒険者である俺の義理の娘達は、剣聖、大魔導師、聖女という特別な称号を持っているのに何歳になっても甘えてくる

マーラッシュ
ファンタジー
俺はユクト29歳元Cランクの冒険者だ。 魔物によって滅ぼされた村から拾い育てた娘達は15歳になり女神様から剣聖、大魔導師、聖女という特別な称号を頂いたが⋯⋯しかしどこを間違えたのか皆父親の俺を溺愛するようになり好きあらばスキンシップを取ってくる。 どうしてこうなった? 朝食時三女トアの場合 「今日もパパの為に愛情を込めてご飯を作ったから⋯⋯ダメダメ自分で食べないで。トアが食べさせてあげるね⋯⋯あ~ん」 浴室にて次女ミリアの場合 「今日もお仕事お疲れ様。 別に娘なんだから一緒にお風呂に入るのおかしくないよね? ボクがパパの背中を流してあげるよ」 就寝時ベットにて長女セレナの場合 「パパ⋯⋯今日一緒に寝てもいい? 嫌だなんて言わないですよね⋯⋯パパと寝るのは娘の特権ですから。これからもよろしくお願いします」 何故こうなってしまったのか!?  これは15歳のユクトが3人の乳幼児を拾い育て、大きくなっても娘達から甘えられ、戸惑いながらも暮らしていく物語です。 ☆第15回ファンタジー小説大賞に参加しています!【投票する】から応援いただけると更新の励みになります。 *他サイトにも掲載しています。

このステータスプレート壊れてないですか?~壊れ数値の万能スキルで自由気ままな異世界生活~

夢幻の翼
ファンタジー
 典型的な社畜・ブラックバイトに翻弄される人生を送っていたラノベ好きの男が銀行強盗から女性行員を庇って撃たれた。  男は夢にまで見た異世界転生を果たしたが、ラノベのテンプレである神様からのお告げも貰えない状態に戸惑う。  それでも気を取り直して強く生きようと決めた矢先の事、国の方針により『ステータスプレート』を作成した際に数値異常となり改ざん容疑で捕縛され奴隷へ落とされる事になる。運の悪い男だったがチート能力により移送中に脱走し隣国へと逃れた。  一時は途方にくれた少年だったが神父に言われた『冒険者はステータスに関係なく出来る唯一の職業である』を胸に冒険者を目指す事にした。  持ち前の運の悪さもチート能力で回避し、自分の思う生き方を実現させる社畜転生者と自らも助けられ、少年に思いを寄せる美少女との恋愛、襲い来る盗賊の殲滅、新たな商売の開拓と現実では出来なかった夢を異世界で実現させる自由気ままな異世界生活が始まります。

竜の国のカイラ~前世は、精霊王の愛し子だったんですが、異世界に転生して聖女の騎士になりました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
辺境で暮らす孤児のカイラは、人には見えないものが見えるために悪魔つき(カイラ)と呼ばれている。 同じ日に拾われた孤児の美少女ルイーズといつも比較されていた。 16歳のとき、神見の儀で炎の神の守護を持つと言われたルイーズに比べて、なんの神の守護も持たないカイラは、ますます肩身が狭くなる。 そんなある日、魔物の住む森に使いに出されたカイラは、魔物の群れに教われている人々に遭遇する。 カイラは、命がけで人々を助けるが重傷を負う。 死に瀕してカイラは、自分が前世で異世界の精霊王の姫であったことを思い出す。 エブリスタにも掲載しています。

処理中です...