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07.樹人のユキノと申します
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「お前、なんなのさ?」
とりあえず地面に樹人の幼木を下ろして対面にしゃがみ込むと、真っ向から問いかけてみる。
きょとりと小幹を傾げた樹人の幼木は、
「これは失礼いたしました。私は樹人のユキノと申します。初めまして」
と、ぺこりと幹を曲げて丁寧な挨拶を披露した。
ノムルは脱力しつつ、両のこめかみを挟むようにして左手で目元を覆う。
「樹人ってこういう種族だっけ? そもそも普通は喋らないだろ? なにこれ」
樹人という種族は、その名の通り樹木の姿をした魔物である。普段は木に擬態していているが、根を使っての自力歩行が可能である。
性質は比較的穏やかで、攻撃をしなければ樹人の方から襲ってくることは稀である。
だが樹人の素材は様々な用途で使われるため常に一定の需要があり、冒険者たちにも馴染みの深い魔物だ。
とはいえ年々数が減っていて、樹人の生息する森も少なくなっているようだが。
そこまで知識を引っ張り出して、ノムルはふと気づく。
「この辺りって、樹人の生息地じゃないよな? お前、どこから来たんだ?」
軽い気持ちで聞いてみたのだが、ついーっと顔をそらされた。
どこに目があるのかは分からないので、ユキノから感じる視線に自分の視線を重ね、もう一度問うてみる。
「どこから来たんだ?」
ユキノはちらりとノムルを見てから、
「はて? 私は幼い樹人の幼木。よく分かりません」
と、明らかに何かを隠している様子で視線を外す。
「そもそも樹人って、どうやって生まれるんだ? 幼木なんて初めて見たぞ」
捕えた樹人の幼木を、上から下までじっくりと観察する。
「そうなのですか? どんぐりから生えましたよ?」
「ど、どんぐり……」
想像したノムルは、肩を震わせた。
どんぐりから生えてくる動く木。双葉の段階から動き出すのか、それともある程度育ってから動くのか、そこも気になるが、
「初めて知る樹人の生態。樹人のどんぐりを拾って育てれば、人工的に繁殖できるのか?」
と、真面目に考え込んでしまった。
思考の海に沈んでいくノムルをユキノは静かに眺めていたが、なんだか居心地が悪そうにもぞもぞと動き出した。
「どうした?」
「いえ、何か御用なのかと思ったのですが、そうではないようなので。なぜ私は引き留められたのでしょう?」
真っ当な意見である。樹人ではなく人間であれば。
「特に用はないな。ただ人間を見ても平然としている樹人も、喋る樹人も初めて見たから、思わず捕まえただけだ」
ただの好奇心である。出すところに出せば良い値で売れるかもしれないが、そこまでする気はない。
ユキノはぴたりと固まった。動きを止めると木そのものだ。
数秒してゆっくりと動き出したかと思えば、
「喋る樹人は珍しいと? なるべく人前では喋らないようにした方がよろしいのでしょうか?」
と、幹を傾げて独り言ちる。
「いや、喋る前に、樹人として見つかった時点でアウトだから」
「なんと! やはり人間は、魔物を見ると攻撃してくるのですね。スライムさんの話は本当だったようです」
ショックだったのか、雪乃は空を見上げてたそがれ始めた。それはいいのだが、気になる発言があった。
「スライム? スライムも喋るのか?」
固体と液体の中間のような、どろりとした半透明の存在を思い浮かべ、ノムルは顔をしかめた。特に話したいとは思わないが、研究者などには需要があるかもしれない。
ふうっと息を吐き出すような声を出して幹を戻したユキノは、ノムルの問いには答えず、首を振るように幹を小さく左右に振った。
「それにしても、何も悪いことをしていないのに攻撃されるなど、ご無体な話です。樹人権はないのでしょうか?」
ノムルは沈黙した。まるで人間のような樹人である。常識がずれているところは、やはり人間でないからなのだろうが。
とりあえず地面に樹人の幼木を下ろして対面にしゃがみ込むと、真っ向から問いかけてみる。
きょとりと小幹を傾げた樹人の幼木は、
「これは失礼いたしました。私は樹人のユキノと申します。初めまして」
と、ぺこりと幹を曲げて丁寧な挨拶を披露した。
ノムルは脱力しつつ、両のこめかみを挟むようにして左手で目元を覆う。
「樹人ってこういう種族だっけ? そもそも普通は喋らないだろ? なにこれ」
樹人という種族は、その名の通り樹木の姿をした魔物である。普段は木に擬態していているが、根を使っての自力歩行が可能である。
性質は比較的穏やかで、攻撃をしなければ樹人の方から襲ってくることは稀である。
だが樹人の素材は様々な用途で使われるため常に一定の需要があり、冒険者たちにも馴染みの深い魔物だ。
とはいえ年々数が減っていて、樹人の生息する森も少なくなっているようだが。
そこまで知識を引っ張り出して、ノムルはふと気づく。
「この辺りって、樹人の生息地じゃないよな? お前、どこから来たんだ?」
軽い気持ちで聞いてみたのだが、ついーっと顔をそらされた。
どこに目があるのかは分からないので、ユキノから感じる視線に自分の視線を重ね、もう一度問うてみる。
「どこから来たんだ?」
ユキノはちらりとノムルを見てから、
「はて? 私は幼い樹人の幼木。よく分かりません」
と、明らかに何かを隠している様子で視線を外す。
「そもそも樹人って、どうやって生まれるんだ? 幼木なんて初めて見たぞ」
捕えた樹人の幼木を、上から下までじっくりと観察する。
「そうなのですか? どんぐりから生えましたよ?」
「ど、どんぐり……」
想像したノムルは、肩を震わせた。
どんぐりから生えてくる動く木。双葉の段階から動き出すのか、それともある程度育ってから動くのか、そこも気になるが、
「初めて知る樹人の生態。樹人のどんぐりを拾って育てれば、人工的に繁殖できるのか?」
と、真面目に考え込んでしまった。
思考の海に沈んでいくノムルをユキノは静かに眺めていたが、なんだか居心地が悪そうにもぞもぞと動き出した。
「どうした?」
「いえ、何か御用なのかと思ったのですが、そうではないようなので。なぜ私は引き留められたのでしょう?」
真っ当な意見である。樹人ではなく人間であれば。
「特に用はないな。ただ人間を見ても平然としている樹人も、喋る樹人も初めて見たから、思わず捕まえただけだ」
ただの好奇心である。出すところに出せば良い値で売れるかもしれないが、そこまでする気はない。
ユキノはぴたりと固まった。動きを止めると木そのものだ。
数秒してゆっくりと動き出したかと思えば、
「喋る樹人は珍しいと? なるべく人前では喋らないようにした方がよろしいのでしょうか?」
と、幹を傾げて独り言ちる。
「いや、喋る前に、樹人として見つかった時点でアウトだから」
「なんと! やはり人間は、魔物を見ると攻撃してくるのですね。スライムさんの話は本当だったようです」
ショックだったのか、雪乃は空を見上げてたそがれ始めた。それはいいのだが、気になる発言があった。
「スライム? スライムも喋るのか?」
固体と液体の中間のような、どろりとした半透明の存在を思い浮かべ、ノムルは顔をしかめた。特に話したいとは思わないが、研究者などには需要があるかもしれない。
ふうっと息を吐き出すような声を出して幹を戻したユキノは、ノムルの問いには答えず、首を振るように幹を小さく左右に振った。
「それにしても、何も悪いことをしていないのに攻撃されるなど、ご無体な話です。樹人権はないのでしょうか?」
ノムルは沈黙した。まるで人間のような樹人である。常識がずれているところは、やはり人間でないからなのだろうが。
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