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番外編
とある戦闘狂の誕生秘話。
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母が苦手だった。
彼女が現れると、誰もが振り向き見惚れる美少女。いつも笑顔を絶やさない、女神のようだと言われていた。
僕が息子だと紹介されると、誰もが驚く。
「息子さんがいる年だなんて、まったく見えない」
と。そして、
「綺麗なお母さんに似てよかったね」
と、うらやむ声を掛けてくる。
誰も僕の名前を呼んでくれなかった。誰も僕を見てくれなかった。僕は母の息子でしかない。
普段は家政婦に預けているのに、たまに顔を見せると僕を抱きしめる。
「会いたかったよ、炎君。元気にしてた?」
母の後ろにいる大人達が、僕を見下ろしている。
母を悲しませないように、母を喜ばせるように、見張っている。だから――
「僕も会いたかったです。お母さん」
「ふふ。ありがとう」
僕は笑顔を作って、母が喜ぶ言葉を口にした。胸がつきりと痛んだけど、なぜだかなんて、幼かった僕は気付こうとしなかった。
父は、よく分からない人だった。
母よりは顔を会わせる日が多かったけれど、それでも月に数回あれば多いほう。長いと数ヶ月ぶりなんてこともあった。
父は母と違ってにこりともしない。いつも不機嫌そうで、だけどちゃんと僕を見てくれるから、近くにいるとほっとした。
ある日、父は僕を道場に連れていった。
僕の家の裏には小さな道場があったんだ。道場といっても、弟子が通っているわけじゃない。
僕がもっと小さかった時は教室を開いていたそうだけど、父は指導者には向いていなくて、すぐにやめたって聞いた。
「好きに攻撃していいぞ?」
母のいないその日、父は僕にそう言った。
僕は意味が分からなくて、首を傾げる。
「色々と溜まっているみたいだからな。殴るでも蹴るでも、そこにある木刀を使ってもいい。ただし――」
と、父は道場の壁に掛けられた木刀を顎で示してから、言葉を切った。
「俺以外には決して、手を上げるな」
思わず後ずさってしまうほどに真剣な目を向けられて、僕は夢中で頷いた。
始めは遠慮しながら叩いたり蹴ったりしていたけど、父はまるで電柱か鉄柱のように硬くてびくともしなかった。
僕は徐々に本気になっていって、最後には父が使って良いといっていた木刀まで持ち出した。
だけど結局、父はそこから一歩も動くことさえなく、僕の攻撃を全て受け止めた。
父がいて、母がいない日だけに行われるソレは、僕の中の尖ったものを削っていき、僕はその日を楽しみにするようになっていった。
「ただい――」
「父さああーんっ!」
父が一人で帰ってくると、僕は部屋から飛び出して玄関まで走った。
「父さん、父さん、父さあああーんっ!」
僕は父に駆けつけざまに回し蹴りを放ち、すぐに拳を連打する。一度間合いを取って渾身の一撃を父の鳩尾めがけて突き出した。
鍛え上げられた鉄板のように硬い父の筋肉で、僕の手のほうが痺れる。
「……。炎、とりあえず、荷物くらい置かせろ。あとただいま」
父の大きな手で頭を抑えられて、手も足も届くなったところで、僕は少し落ち着く。それから父を見上げてにっこりとほほ笑んだ。
「お帰りなさい、父さん。荷物置いたら遊んでください」
「……おう」
父さんの後ろにいた相馬おじさんが、口の端をひくひくと痙攣させていたけれど、僕は気にせず父の荷物を受け取って、父の部屋に運ぶ。
「なあ、なんで炎はあんなになっちまったんだ?」
「お前がいなけりゃ、礼儀正しい美少年なんだけどな。たぶん、両親の人間離れしたところだけを受け継いだんだろ」
僕の後ろを付いてくる父さんと相馬おじさんが何か話していたけれど、その時の僕は父と遊んでもらえることが嬉しくて、あまり聞いていなかった。
了
---------------------------------------
人間離れした美貌・爽やかスマイル←母親(世界的な女優)
人間離れした強靭な身体・戦闘力←父親(護衛・放浪の旅人)
ムダイの両親は、樹人を描く前に慣らしで描いた短編の主人公とヒロインがモデルだったりします。長編を書くときは世界観や登場人物の性格を掴むため、短編を書きなぐるタイプです。
彼女が現れると、誰もが振り向き見惚れる美少女。いつも笑顔を絶やさない、女神のようだと言われていた。
僕が息子だと紹介されると、誰もが驚く。
「息子さんがいる年だなんて、まったく見えない」
と。そして、
「綺麗なお母さんに似てよかったね」
と、うらやむ声を掛けてくる。
誰も僕の名前を呼んでくれなかった。誰も僕を見てくれなかった。僕は母の息子でしかない。
普段は家政婦に預けているのに、たまに顔を見せると僕を抱きしめる。
「会いたかったよ、炎君。元気にしてた?」
母の後ろにいる大人達が、僕を見下ろしている。
母を悲しませないように、母を喜ばせるように、見張っている。だから――
「僕も会いたかったです。お母さん」
「ふふ。ありがとう」
僕は笑顔を作って、母が喜ぶ言葉を口にした。胸がつきりと痛んだけど、なぜだかなんて、幼かった僕は気付こうとしなかった。
父は、よく分からない人だった。
母よりは顔を会わせる日が多かったけれど、それでも月に数回あれば多いほう。長いと数ヶ月ぶりなんてこともあった。
父は母と違ってにこりともしない。いつも不機嫌そうで、だけどちゃんと僕を見てくれるから、近くにいるとほっとした。
ある日、父は僕を道場に連れていった。
僕の家の裏には小さな道場があったんだ。道場といっても、弟子が通っているわけじゃない。
僕がもっと小さかった時は教室を開いていたそうだけど、父は指導者には向いていなくて、すぐにやめたって聞いた。
「好きに攻撃していいぞ?」
母のいないその日、父は僕にそう言った。
僕は意味が分からなくて、首を傾げる。
「色々と溜まっているみたいだからな。殴るでも蹴るでも、そこにある木刀を使ってもいい。ただし――」
と、父は道場の壁に掛けられた木刀を顎で示してから、言葉を切った。
「俺以外には決して、手を上げるな」
思わず後ずさってしまうほどに真剣な目を向けられて、僕は夢中で頷いた。
始めは遠慮しながら叩いたり蹴ったりしていたけど、父はまるで電柱か鉄柱のように硬くてびくともしなかった。
僕は徐々に本気になっていって、最後には父が使って良いといっていた木刀まで持ち出した。
だけど結局、父はそこから一歩も動くことさえなく、僕の攻撃を全て受け止めた。
父がいて、母がいない日だけに行われるソレは、僕の中の尖ったものを削っていき、僕はその日を楽しみにするようになっていった。
「ただい――」
「父さああーんっ!」
父が一人で帰ってくると、僕は部屋から飛び出して玄関まで走った。
「父さん、父さん、父さあああーんっ!」
僕は父に駆けつけざまに回し蹴りを放ち、すぐに拳を連打する。一度間合いを取って渾身の一撃を父の鳩尾めがけて突き出した。
鍛え上げられた鉄板のように硬い父の筋肉で、僕の手のほうが痺れる。
「……。炎、とりあえず、荷物くらい置かせろ。あとただいま」
父の大きな手で頭を抑えられて、手も足も届くなったところで、僕は少し落ち着く。それから父を見上げてにっこりとほほ笑んだ。
「お帰りなさい、父さん。荷物置いたら遊んでください」
「……おう」
父さんの後ろにいた相馬おじさんが、口の端をひくひくと痙攣させていたけれど、僕は気にせず父の荷物を受け取って、父の部屋に運ぶ。
「なあ、なんで炎はあんなになっちまったんだ?」
「お前がいなけりゃ、礼儀正しい美少年なんだけどな。たぶん、両親の人間離れしたところだけを受け継いだんだろ」
僕の後ろを付いてくる父さんと相馬おじさんが何か話していたけれど、その時の僕は父と遊んでもらえることが嬉しくて、あまり聞いていなかった。
了
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人間離れした美貌・爽やかスマイル←母親(世界的な女優)
人間離れした強靭な身体・戦闘力←父親(護衛・放浪の旅人)
ムダイの両親は、樹人を描く前に慣らしで描いた短編の主人公とヒロインがモデルだったりします。長編を書くときは世界観や登場人物の性格を掴むため、短編を書きなぐるタイプです。
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