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真相編

411.ちょ、チョコバナナパフェ

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 雪乃はじいーっとメニューを見つめる。気になるものは幾つもあるが、雪乃にとってはどれも滅多に食べられない特別なものだ。

「ちょ、チョコバナナパフェ……いえ、アイスはおなかを壊すから駄目ですね。女性にはパンケーキが人気だと聞きました。ワッフル……一度食べてみたいと……」

 ぶつぶつと聞こえてきた言葉に、ムダイの顔が戸惑いに歪む。

「ちょっと待って。雪乃ちゃん、食べたことないの?」

 メニューから顔を上げた雪乃は、つうーっと顔を逸らす。静かにメニューをナルツの前へ押しやると、つんっと姿勢を正してから、

「では、バナナジュースを」

 と、ムダイの質問を流した。
 呆れたようにムダイは雪乃を見つめ、ナルツはくすくすと笑っている。雪乃は動揺を悟られないように、ムダイと視線を合わせない。
 ムダイは店員を呼ぶと、

「これのダージリンとバナナジュースお願いします」

 と、追加の注文をした。
 雪乃はせっかく美味しいスウィーツを食べるチャンスを逃したことに、ちょっと残念そうにしょんぼりしたが、すぐに気を取り直す。

「またお会いできて嬉しいです。あの後どうなったか、ご存知ですか? ノムルさんは? どうしてナルツさんがここに? 私の学校をどうやって? やっぱりストーカー能力ですか?」

 矢継ぎ早に問いかける雪乃に男たちは苦笑を漏らすが、その表情は柔らかい。

「そのことなんだけどね、一応、暴走は食い止めたよ」

 と、ムダイは雪乃がいなくなった後の話を始めた。

「とりあえず、ノムルさんは無事だよ。世界を騒がせたから一応は拘束されているけど、やったことは、まあ、樹人の子供の誘拐だからね」

 ずーんっと空気が重くなり、三人は互いに目をそらす。魔王という存在が何だったのか、分からなくなってくる。
 樹人としては充分に迷惑な行為だったが、樹人を魔物として討伐していた人間たちには、この件でノムルを裁く権利などないだろう。
 魔法使いの召喚も、魔法ギルド総帥という立場を考えれば責めることは難しい。

 そんな微妙な空気を醸し出す雪乃の前に、バナナジュースとワッフルが運ばれてくる。ナルツの前には雪乃と同じワッフルと、紅茶が並んだ。

「おおー!」

 生クリームがたっぷりと乗ったバナナチョコワッフルに目を輝かせた雪乃は、はっと我に返ってムダイを見る。顔には食べて良いのかと、不安と期待がありありと乗っかっていた。

「遠慮なくどうぞ」

 苦笑しながら手を差し出したムダイにお礼を言って、雪乃ははやる気持ちを抑えきれずに、フォークとナイフを手にとってワッフルを一口食べた。
 甘い生クリームとチョコレートが舌の上でとろける。ワッフルが歯に当たってさくっ崩れると、卵と小麦の風味が口の中に広がった。
 その美味しさに固まってしまった雪乃は、お皿のワッフルを凝視して、それから脳に叩き込むように、じっくりと噛みしめた。

「ワッフルとは、このような食べ物だったのですね。凸部分は密度のある生地がしっとり柔らか。凹部分はさっくりとしていて、どちらもそれぞれ」
「本当に食べたことなかったんだ。雪乃ちゃん、どんな生活していたの?」

 食レポを始めた雪乃を、ムダイは驚いたように見つめている。つーっと、雪乃は逃げるように視線を横に逸らしたが、すぐに皿に戻り二口目を切り分ける。
 探るように見ていたムダイだが、それ以上は無理に聞き出そうとはせず、話を戻した。

 ちなみにナルツもワッフルは初めてだったようで、興味深そうに頬張った。甘党の彼も気に入ったようで、一口で一枚と、あっという間に平らげてしまった。
 雪乃は思わず目を見張ったが、慣れているムダイは気にしない。

「それで僕とナルツに関してだけど、雪乃ちゃんを探すために、鏡の泉を使ってこの世界に来た」

 以前、雪乃が鏡の泉に落ちてしまったとき、雪乃は彼女を追いかけて飛び込んだノムルと共に、この世界に戻った。その仕組みを利用して二人はやってきたのだろう。

「ノムルさんとカイ君が来たがったんだけど、ノムルさんは拘束中な上にあの性格だから、まあ」

 と、ムダイは言葉を濁してしまったが、なんとなく言いたいことは分かり、雪乃もそれ以上は追及しない。
 この世界に連れてくれば、お巡りさんのお世話になることは目に見えている。雪乃の捜索どころではなくなるだろう。

「カイ君は獣人だから遠慮してもらった。聖剣に移した魔力の量から滞在できる日数を算出すると、なるべく少ない人数で来る必要もあったからね。この世界の住人である僕と、人間に戻っているはずの雪乃ちゃんを判別できるであろうナルツは必須だったし」

 鏡の泉のあるツクヨ国は、その地にいる者の魔力を吸い取り、魔力の多い者でも三日ともたないと言われている。

「そういえばナルツさん、よく私が雪乃だと分かりましたね」
「俺は相手の本質っていうのかな? 外見とは違う姿が重なって見えるんだよ。だからユキノちゃんが樹人でも人間でも、すぐに分かるよ」

 にこりと笑って答えられ、なるほどと雪乃は頷く。
 ローズマリナを女神と絶賛していたナルツには、聖女の魂を持つ彼女が、例えではなく本当に女神に見えていたのだろう。

「では、どうして私の通う学校が分かったのですか?」

 こっちも不思議だった。
 有名人であるムダイと違い、雪乃は一般人だ。ネット社会で情報が出回っているとはいえ、個人を探し出すことは難しい。しかも雪乃は苗字すら名乗っていなかったのだ。

「ノムルさんに聞いてね。ユキノちゃんが巻き込まれた傷害事件を知り合いに調べてもらって、情報を流してもらったんだ」

 ムダイから爽やかな笑顔を向けられたが、それ以上は聞くなと無言の圧が放たれていた。
 ふむうと雪乃はワッフルを一口咥えながら思いだす。
 ノムルと初めて会った日、コンビニ前で襲われて怪我を負った女性と遭遇した。雪乃は居ても立ってもいられずに怪我をした女性の下へ駆けつけ、傷口を押さえたのだった。
 あのときの行動が、こうして仲間たちとの再会を与えてくれたようだ。

「雪乃ちゃん、選択をしてほしい」

 太く息を吐いたムダイは、真剣な眼差しで雪乃を見つめる。ナルツも姿勢を正し雪乃と向き合う。

「この世界に残るか、あの世界に戻るか。選べるのは一度だけだ」
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