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ルモン大帝国編2
293.こういうのが趣味なのか?
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「お前、こういうのが趣味なのか?」
ノムルから問われて、ハンガーに掛かっていた服を見ていたフレックの手が止まる。
「いや、俺が使うのではなく、女の子にプレゼントしたら喜ばれそうだなと」
しどろもどろに答えたフレックに、ふーんっと興味なさそうに返事を返すノムル。
フレックは力なく肩を落とすと、ローズマリナへと視線を動かした。
気付いたローズマリナは、困ったように笑む。
「お店は畳まないといけないと思って、商品はほとんど売ってしまったの。揃うまで、少しお時間をいただけるかしら?」
「気にしないでください。俺もギルドやナルツの手伝いで、すぐにはこちらに来れそうにありませんから。焦らずゆっくりいきましょう」
「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」
店長と店員という立場で、改めて挨拶を交わしている間に、ムダイも戻ってきていた。
「手続きを済ませてきましたよ。ホテルに向かいますか? それとも街を案内しましょうか?」
頬に手を当てて少し考える素振りを見せたローズマリナは、
「私は残ってもいいかしら? 家を持ってきていただいたのに、ホテルに泊まるのは気が引けるわ。それに、店の整理もしたいし」
と、店内を見回す。
旅の間にも手を入れていたので、特にすることはなさそうに見えるが、再び店を始めるのだ。それなりの準備もあるだろう。
「では俺も残っても良いですか?」
「ああ、もちろんだ」
ローズマリナに続いて居残りを希望したナルツに、ムダイは爽やかに了承する。
昨日ようやく再会した恋人たちなのだ。そろそろ水入らずで過ごす時間も必要だろう。
ということで、お邪魔虫たちは早々に店を発つことにした。
「行き先は、帝都ホテルで良いですか?」
店を出ようとしたところで、フレックが確認する。
雪乃たちの視線は、無意識にノムルへと向かっていた。ホテルで問題を起こせば、一般の人まで巻き込んでしまう。
「雪乃が根を張る場所はあるのか?」
言いよどんだ雪乃たちの中から、カイが質問した。
最初に気付くべき張本人は、はっとしてカイを見ている。カイとフレックは思わず苦笑をこぼした。
「帝都ホテルには、雪乃ちゃんが根を張るほどの木立はないかな。一応、花壇はあるけど」
横からムダイが答える。彼はホテルを定宿にしているそうだ。
花壇で雪乃が眠るのは目立つだろう。そして花壇には人工的な肥料や除草剤、殺虫剤などが撒かれている危険がある。
雪乃にとっては、あまり良い環境とは言えない。
「植木鉢でも凌げますよ?」
小さな樹人は、ホテルにも泊まれることを伝える。
「でも、地面に根を張るほうが良いんだよね? 前回の例もあるし。郊外の宿なら、樹人が根を張れそうな場所もあると思うけど」
と、フレックの視線がノムルに向かう。
「じゃあとりあえず駅だな。ムダイ、ポーカンに向かう、一番近い時間の機関車の切符を買って来い」
「人使い荒っ! って、もう発つんですか? 少しは休んだほうが良いんじゃないですか?」
数日ゆっくりしていくものだと思っていたムダイやフレック、ナルツとローズマリナは、驚いたように目を丸くした。
ノムルに向けられた視線は高度を下げ、雪乃へと移っていく。
旅続きで疲れているのではないかと、小さな子供を案じたのだろう。
視線を感じた雪乃は、フレックへと顔を上げた。
「私でしたら、移動も町の中もあまり変わりませんので、お気になさらないでください」
「そっか、人間とは違うんだ」
頷きはしたフレックだが、なんだか納得いかないようで、しきりに首を捻っている。
「そういえば、魔物は人里にはあまり出てこないけど、あれって人が討伐してるという理由以外にも、居心地の悪さとかもあるの?」
興味深そうに、腰を屈めたナルツが問いかけた。
「立ち話もなんですし、とりあえず一度、中に入ってはどうかしら?」
店の出入り口付近で立ち止まって話し続けている雪乃たちに、ローズマリナは勧める。
顔を見合わせた一同は、気まずげに苦笑をこぼすと、ローズマリナの申し出に甘えることにした。
「椅子が足りないわね」
総勢七人と一匹だ。一人暮らしの家に、そんなに多くの椅子はない。店舗のカウンターに置いてある一脚を加えても、五脚だ。
「部屋から取ってくるわ」
と、奥に向かおうとしたローズマリナを、ムダイが止める。
「僕は駅に行ってきますから、とりあえずいいですよ」
「雪乃の分も不要だ。俺の膝に乗せる」
「おいこら、狼!」
続いたカイの言葉に、ノムルが噛み付いているが、カイは素知らぬ顔でさっさと雪乃を抱き上げて、カウンターから運んできた椅子に座った。
その足元に、家に入れてもらえたぴー助が丸まる。
隣の椅子に座ったノムルがギャンギャン騒いでいるが、カイは耳を折って知らんぷりだ。
苦笑をこぼしながらも、ローズマリナは台所へと向かった。
「じゃあ僕は行ってきますけど、一等車輌で良いんですよね?」
「一等と四等を一枚ずつだ」
「は?」
念のために確認したムダイは、帰ってきた言葉に素っ頓狂な声を出す。
「ノムルさん、僕一人を四等に座らせるつもりですか?」
さすがに気に触ったのだろう。眉間に皺を寄せて、ムダイは抗議を始めた。
対するノムルも盛大に顔をしかめる。
「何言ってんだ? 狼の分に決まってるだろう? なんでお前を連れていかないといけないんだ?」
怪訝な表情で問い返されて、ムダイの端整な顔が崩れた。
「ここまで一緒に来たんですから、今後も四人で行動すれば良いじゃないですか」
「ふざけんな。お前みたいな騒がしいヤツ、一緒に行動できるか」
苦々しく言い放ったノムルだが、その場にいた全員の心の声は、一致したことだろう。
(お前が言うな)
と。
決して口には出さないが。
「ノムル殿の肩を持つわけではないが、ムダイ殿とはどの道、途中までしか同行できない。我が国への出入国が許可されたのは、雪乃とノムル殿だけだ」
不毛なにらみ合いを遮るように、カイが割って入った。
彼の故郷ヒイヅルは、入国への制限は甘いが、出国は特別な許可がなければ認められない、閉鎖的な国である。
「ええー?」
不満そうな声を上げるムダイ。勝ち誇ったようにドヤ顔で胸を張るノムル。
最強と呼ばれる冒険者二人の残念なやり取りに、元Aランク冒険者のナルツとフレックは、呆れや喪失感のこもる切なげな表情を浮かべていた。
ノムルから問われて、ハンガーに掛かっていた服を見ていたフレックの手が止まる。
「いや、俺が使うのではなく、女の子にプレゼントしたら喜ばれそうだなと」
しどろもどろに答えたフレックに、ふーんっと興味なさそうに返事を返すノムル。
フレックは力なく肩を落とすと、ローズマリナへと視線を動かした。
気付いたローズマリナは、困ったように笑む。
「お店は畳まないといけないと思って、商品はほとんど売ってしまったの。揃うまで、少しお時間をいただけるかしら?」
「気にしないでください。俺もギルドやナルツの手伝いで、すぐにはこちらに来れそうにありませんから。焦らずゆっくりいきましょう」
「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」
店長と店員という立場で、改めて挨拶を交わしている間に、ムダイも戻ってきていた。
「手続きを済ませてきましたよ。ホテルに向かいますか? それとも街を案内しましょうか?」
頬に手を当てて少し考える素振りを見せたローズマリナは、
「私は残ってもいいかしら? 家を持ってきていただいたのに、ホテルに泊まるのは気が引けるわ。それに、店の整理もしたいし」
と、店内を見回す。
旅の間にも手を入れていたので、特にすることはなさそうに見えるが、再び店を始めるのだ。それなりの準備もあるだろう。
「では俺も残っても良いですか?」
「ああ、もちろんだ」
ローズマリナに続いて居残りを希望したナルツに、ムダイは爽やかに了承する。
昨日ようやく再会した恋人たちなのだ。そろそろ水入らずで過ごす時間も必要だろう。
ということで、お邪魔虫たちは早々に店を発つことにした。
「行き先は、帝都ホテルで良いですか?」
店を出ようとしたところで、フレックが確認する。
雪乃たちの視線は、無意識にノムルへと向かっていた。ホテルで問題を起こせば、一般の人まで巻き込んでしまう。
「雪乃が根を張る場所はあるのか?」
言いよどんだ雪乃たちの中から、カイが質問した。
最初に気付くべき張本人は、はっとしてカイを見ている。カイとフレックは思わず苦笑をこぼした。
「帝都ホテルには、雪乃ちゃんが根を張るほどの木立はないかな。一応、花壇はあるけど」
横からムダイが答える。彼はホテルを定宿にしているそうだ。
花壇で雪乃が眠るのは目立つだろう。そして花壇には人工的な肥料や除草剤、殺虫剤などが撒かれている危険がある。
雪乃にとっては、あまり良い環境とは言えない。
「植木鉢でも凌げますよ?」
小さな樹人は、ホテルにも泊まれることを伝える。
「でも、地面に根を張るほうが良いんだよね? 前回の例もあるし。郊外の宿なら、樹人が根を張れそうな場所もあると思うけど」
と、フレックの視線がノムルに向かう。
「じゃあとりあえず駅だな。ムダイ、ポーカンに向かう、一番近い時間の機関車の切符を買って来い」
「人使い荒っ! って、もう発つんですか? 少しは休んだほうが良いんじゃないですか?」
数日ゆっくりしていくものだと思っていたムダイやフレック、ナルツとローズマリナは、驚いたように目を丸くした。
ノムルに向けられた視線は高度を下げ、雪乃へと移っていく。
旅続きで疲れているのではないかと、小さな子供を案じたのだろう。
視線を感じた雪乃は、フレックへと顔を上げた。
「私でしたら、移動も町の中もあまり変わりませんので、お気になさらないでください」
「そっか、人間とは違うんだ」
頷きはしたフレックだが、なんだか納得いかないようで、しきりに首を捻っている。
「そういえば、魔物は人里にはあまり出てこないけど、あれって人が討伐してるという理由以外にも、居心地の悪さとかもあるの?」
興味深そうに、腰を屈めたナルツが問いかけた。
「立ち話もなんですし、とりあえず一度、中に入ってはどうかしら?」
店の出入り口付近で立ち止まって話し続けている雪乃たちに、ローズマリナは勧める。
顔を見合わせた一同は、気まずげに苦笑をこぼすと、ローズマリナの申し出に甘えることにした。
「椅子が足りないわね」
総勢七人と一匹だ。一人暮らしの家に、そんなに多くの椅子はない。店舗のカウンターに置いてある一脚を加えても、五脚だ。
「部屋から取ってくるわ」
と、奥に向かおうとしたローズマリナを、ムダイが止める。
「僕は駅に行ってきますから、とりあえずいいですよ」
「雪乃の分も不要だ。俺の膝に乗せる」
「おいこら、狼!」
続いたカイの言葉に、ノムルが噛み付いているが、カイは素知らぬ顔でさっさと雪乃を抱き上げて、カウンターから運んできた椅子に座った。
その足元に、家に入れてもらえたぴー助が丸まる。
隣の椅子に座ったノムルがギャンギャン騒いでいるが、カイは耳を折って知らんぷりだ。
苦笑をこぼしながらも、ローズマリナは台所へと向かった。
「じゃあ僕は行ってきますけど、一等車輌で良いんですよね?」
「一等と四等を一枚ずつだ」
「は?」
念のために確認したムダイは、帰ってきた言葉に素っ頓狂な声を出す。
「ノムルさん、僕一人を四等に座らせるつもりですか?」
さすがに気に触ったのだろう。眉間に皺を寄せて、ムダイは抗議を始めた。
対するノムルも盛大に顔をしかめる。
「何言ってんだ? 狼の分に決まってるだろう? なんでお前を連れていかないといけないんだ?」
怪訝な表情で問い返されて、ムダイの端整な顔が崩れた。
「ここまで一緒に来たんですから、今後も四人で行動すれば良いじゃないですか」
「ふざけんな。お前みたいな騒がしいヤツ、一緒に行動できるか」
苦々しく言い放ったノムルだが、その場にいた全員の心の声は、一致したことだろう。
(お前が言うな)
と。
決して口には出さないが。
「ノムル殿の肩を持つわけではないが、ムダイ殿とはどの道、途中までしか同行できない。我が国への出入国が許可されたのは、雪乃とノムル殿だけだ」
不毛なにらみ合いを遮るように、カイが割って入った。
彼の故郷ヒイヅルは、入国への制限は甘いが、出国は特別な許可がなければ認められない、閉鎖的な国である。
「ええー?」
不満そうな声を上げるムダイ。勝ち誇ったようにドヤ顔で胸を張るノムル。
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