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ゴリン国編
197.マンドラゴラとダルク少年が幸せならば
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「誰でも良いのか? マンドラゴラで解決する問題だったのか? というか、マンドラゴラが母上って……」
雪乃も何もフォローが出来ない。
いったいあの少年は、どういう生い立ちをしているのか。何があったのか。
「ま、まあ、マンドラゴラとダルク少年が幸せならば、私は、その……良いと思います?」
訳がわからなすぎて、疑問系にならざるを得ない。
気になりはするが、あまり深入りしてはいけないのだろうと、雪乃は追求を放棄した。
複雑な想いを抱えながら、雪乃たちはアトランテ草原を抜け、冒険者ギルド本部のあるゴリン国へと向かうのであった。
「ところでヤナの町でも置いてきたけど、マンドラゴラたちって減らないの?」
「問題ありません。私の元を離れたマンドラゴラは、私が一度に発生させることのできるマンドラゴラの数から除外されますから」
一度に発生させられるマンドラゴラの数には限りがあった。
ちなみに新しい薬草を揃えた際に、マンドラゴラの上限数が増えたことを知らせるカードが降ってくることもある。
「……。樹人とマンドラゴラの関係って、どうなってるんだ?」
「わー?」
「わー?」
「わー!」
ノムルに登って遊んでいたマンドラゴラたちが、根を傾げた。
護衛の依頼を受けながら、雪乃とノムルは街道を進んで行く。そしてついに、冒険者ギルド本部のある、ゴリン国へと入ったのだった。
街の中は、鍛え上げられたムキムキマッチョのおじさんや、お兄さん達の割合が、驚くほど高い。
さすがは冒険者の総本山である。
雪乃は道行く人を眺めながら、ノムルについていく。
左手には、武器や薬草、魔物の素材に保存食など、冒険者らしい商品が並ぶ店が、立ち並んでいる。
一方、道を挟んだ右手には、高い塀がどこまでも続いていた。時折、爆発音やら雄たけびやらが聞こえてくる。
「欲しいものがあったら言うんだよー? 可愛いドレスとかー、リボンとかー、フリルとかー」
「……」
ノムルはいったい雪乃をどうしたいのか、思わず遠くを見つめてしまう雪乃だった。
「ノムルさんの視界には、私はどう映っているのでしょう? 可愛い人間の女の子?」
うーんと幹を捻るユキノだが、ふむと思いつき、ノムルに甘えてみることにする。
「そうですね。では可愛いリボンを探してみましょう」
ぱあーっと、ノムルの表情が輝いた。
「うんうん、ユキノちゃんもお洒落しないとねー。何色が良いかなー?」
「うみゃああーーっ?!」
急ぐ必要は無いはずなのに、なぜか雪乃はノムルに抱えられ、道を疾走した。
道行く人が思わず首を回して二人を見るが、特に止めはしないようだ。
「心臓に悪いです。いきなりは止めてください」
「ごめんよー、ユキノちゃん」
解放された雪乃は、壁に手を突き呼吸を整える。
高速移動には慣れてきたが、心の準備もなくジェットコースターが発車するのはきつい。
目の前に立つ店は、淡いピンク色の壁のお店だった。
ぴー助に店の前で待つように頼むと、雪乃はノムルと共に店の中に入った。
店内の壁はピンク色を基礎として、パステルカラーで小さな花や蝶が描かれた、可愛いらしいのに落ち着いた大人っぽい壁紙が使われていた。
余裕をもって並ぶ服は、フリルやリボンの付いた、ピンクや水色、黄色といった優しい色合いのものが多い。
冒険者の荒々しいイメージとは違う、可愛らしいお店だ。
無精ひげのおじさんが入ると、とても浮いた感じになる。
雪乃は視線を上向けたが、隣の魔法使いに気にする素振りはなかった。
「ここは冒険者とは関係のないお店なのでしょうか?」
幹を捻りながら、そんな疑問を口にする。
「あら、そんなことはないわ。冒険者だって、おしゃれもしたいし、可愛いものを身に付けたいでしょう?」
答えたのはノムルではなく、店員らしき女性だった。
赤く艶やかな髪をピンクの大きなリボンでツインテールに括り、ぱっちりとした大きな目の回りには、長いまつげがキラキラしている。
ぷりっとしたピンク色の唇の下に人差し指を当て、女性は小首を傾げていた。
桃色のメイド風ドレスは、スカート部分が広がり、レースがあしらわれている。白いエプロンは胴体部分がハート型で、全体的にフリルがふんだんに使われていた。
蛇足かもしれないが、ぷりっと艶やかなピンク色の唇の下にあるあごは、立派に二つに割れ、青色をしていた。スカートのフリルの下からは、白い靴下では隠しきれない筋肉質のおみ足が覗いている。
道中で見かけたマッチョの中でも、五指に入りそうなムキムキで、レースがふんだんに使われた白いブラウスは、可憐さよりも引き締まった肉体に色気を添えていた。
店員ではなく、店長なのかもしれない。
「見た目は可愛く、でも機能はしっかり。それがうちのモットーよ」
ばちこんっと、片目をつぶって真っ赤なハートを飛ばす。
雪乃は陳列されている服に視線を戻す。
言われて見れば、色合いやデザインは可愛いが、動きの邪魔にならないようスリットを入れたり、短めのスカートにレギンスを合わせていたりと、工夫されていた。
「小さな魔法使いちゃんには、こちらはどうかしら? 何色が好き?」
いつの間にやら、店長(たぶん)の手には、ピンクや黄色の魔法少女コスチュームがあった。
「えーっと、私は……」
「うんうん、分かってるねー。うちの可愛いユキノちゃんには、どっちも似合いそうだねー」
雪乃がお断りするより早く、ノムルが食いついていた。
「あら? もしかしてお父さんと娘さんかしら? 仲良しでうらやましいわ」
「そうだろー。もう、甘えん坊でさー。可愛いんだよー」
毎度のことだが、ノムルの顔がでれりと崩れた。
雪乃は彼らのことは放っておいて、一人で店の中を見て回ることにした。
「こちらはどうかしら? それともこっちが良いかしら?」
店長は次々と服を選び出し、ノムルに見せるように掲げる。
「うーん、どっちも買っちゃおうかなー」
「あら、太っ腹ね。オーダーメイドも可能よ? お父さんと娘さんのペアルックをやってみたかったのよ。どうかしら?」
ペアルックという単語に、ノムルの表情がだらしないほど、とろけている。
「いいねー。あ、ユキノちゃんは緑系が好きだからねー。あと、恥ずかしがり屋さんだから、顔が隠れるようにしてー」
でれながらも、注意すべきところは忘れていないようだ。
雪乃も何もフォローが出来ない。
いったいあの少年は、どういう生い立ちをしているのか。何があったのか。
「ま、まあ、マンドラゴラとダルク少年が幸せならば、私は、その……良いと思います?」
訳がわからなすぎて、疑問系にならざるを得ない。
気になりはするが、あまり深入りしてはいけないのだろうと、雪乃は追求を放棄した。
複雑な想いを抱えながら、雪乃たちはアトランテ草原を抜け、冒険者ギルド本部のあるゴリン国へと向かうのであった。
「ところでヤナの町でも置いてきたけど、マンドラゴラたちって減らないの?」
「問題ありません。私の元を離れたマンドラゴラは、私が一度に発生させることのできるマンドラゴラの数から除外されますから」
一度に発生させられるマンドラゴラの数には限りがあった。
ちなみに新しい薬草を揃えた際に、マンドラゴラの上限数が増えたことを知らせるカードが降ってくることもある。
「……。樹人とマンドラゴラの関係って、どうなってるんだ?」
「わー?」
「わー?」
「わー!」
ノムルに登って遊んでいたマンドラゴラたちが、根を傾げた。
護衛の依頼を受けながら、雪乃とノムルは街道を進んで行く。そしてついに、冒険者ギルド本部のある、ゴリン国へと入ったのだった。
街の中は、鍛え上げられたムキムキマッチョのおじさんや、お兄さん達の割合が、驚くほど高い。
さすがは冒険者の総本山である。
雪乃は道行く人を眺めながら、ノムルについていく。
左手には、武器や薬草、魔物の素材に保存食など、冒険者らしい商品が並ぶ店が、立ち並んでいる。
一方、道を挟んだ右手には、高い塀がどこまでも続いていた。時折、爆発音やら雄たけびやらが聞こえてくる。
「欲しいものがあったら言うんだよー? 可愛いドレスとかー、リボンとかー、フリルとかー」
「……」
ノムルはいったい雪乃をどうしたいのか、思わず遠くを見つめてしまう雪乃だった。
「ノムルさんの視界には、私はどう映っているのでしょう? 可愛い人間の女の子?」
うーんと幹を捻るユキノだが、ふむと思いつき、ノムルに甘えてみることにする。
「そうですね。では可愛いリボンを探してみましょう」
ぱあーっと、ノムルの表情が輝いた。
「うんうん、ユキノちゃんもお洒落しないとねー。何色が良いかなー?」
「うみゃああーーっ?!」
急ぐ必要は無いはずなのに、なぜか雪乃はノムルに抱えられ、道を疾走した。
道行く人が思わず首を回して二人を見るが、特に止めはしないようだ。
「心臓に悪いです。いきなりは止めてください」
「ごめんよー、ユキノちゃん」
解放された雪乃は、壁に手を突き呼吸を整える。
高速移動には慣れてきたが、心の準備もなくジェットコースターが発車するのはきつい。
目の前に立つ店は、淡いピンク色の壁のお店だった。
ぴー助に店の前で待つように頼むと、雪乃はノムルと共に店の中に入った。
店内の壁はピンク色を基礎として、パステルカラーで小さな花や蝶が描かれた、可愛いらしいのに落ち着いた大人っぽい壁紙が使われていた。
余裕をもって並ぶ服は、フリルやリボンの付いた、ピンクや水色、黄色といった優しい色合いのものが多い。
冒険者の荒々しいイメージとは違う、可愛らしいお店だ。
無精ひげのおじさんが入ると、とても浮いた感じになる。
雪乃は視線を上向けたが、隣の魔法使いに気にする素振りはなかった。
「ここは冒険者とは関係のないお店なのでしょうか?」
幹を捻りながら、そんな疑問を口にする。
「あら、そんなことはないわ。冒険者だって、おしゃれもしたいし、可愛いものを身に付けたいでしょう?」
答えたのはノムルではなく、店員らしき女性だった。
赤く艶やかな髪をピンクの大きなリボンでツインテールに括り、ぱっちりとした大きな目の回りには、長いまつげがキラキラしている。
ぷりっとしたピンク色の唇の下に人差し指を当て、女性は小首を傾げていた。
桃色のメイド風ドレスは、スカート部分が広がり、レースがあしらわれている。白いエプロンは胴体部分がハート型で、全体的にフリルがふんだんに使われていた。
蛇足かもしれないが、ぷりっと艶やかなピンク色の唇の下にあるあごは、立派に二つに割れ、青色をしていた。スカートのフリルの下からは、白い靴下では隠しきれない筋肉質のおみ足が覗いている。
道中で見かけたマッチョの中でも、五指に入りそうなムキムキで、レースがふんだんに使われた白いブラウスは、可憐さよりも引き締まった肉体に色気を添えていた。
店員ではなく、店長なのかもしれない。
「見た目は可愛く、でも機能はしっかり。それがうちのモットーよ」
ばちこんっと、片目をつぶって真っ赤なハートを飛ばす。
雪乃は陳列されている服に視線を戻す。
言われて見れば、色合いやデザインは可愛いが、動きの邪魔にならないようスリットを入れたり、短めのスカートにレギンスを合わせていたりと、工夫されていた。
「小さな魔法使いちゃんには、こちらはどうかしら? 何色が好き?」
いつの間にやら、店長(たぶん)の手には、ピンクや黄色の魔法少女コスチュームがあった。
「えーっと、私は……」
「うんうん、分かってるねー。うちの可愛いユキノちゃんには、どっちも似合いそうだねー」
雪乃がお断りするより早く、ノムルが食いついていた。
「あら? もしかしてお父さんと娘さんかしら? 仲良しでうらやましいわ」
「そうだろー。もう、甘えん坊でさー。可愛いんだよー」
毎度のことだが、ノムルの顔がでれりと崩れた。
雪乃は彼らのことは放っておいて、一人で店の中を見て回ることにした。
「こちらはどうかしら? それともこっちが良いかしら?」
店長は次々と服を選び出し、ノムルに見せるように掲げる。
「うーん、どっちも買っちゃおうかなー」
「あら、太っ腹ね。オーダーメイドも可能よ? お父さんと娘さんのペアルックをやってみたかったのよ。どうかしら?」
ペアルックという単語に、ノムルの表情がだらしないほど、とろけている。
「いいねー。あ、ユキノちゃんは緑系が好きだからねー。あと、恥ずかしがり屋さんだから、顔が隠れるようにしてー」
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