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コダイ国編
192.赤いソファが置かれ
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広場に近付くにつれて、女たちの声が聞こえてきた。どうやら夜を徹しての宴は、まだ続いているようである。
呆れながら広場に出た雪乃は、目を細めて無表情になった。
広場の真ん中に、赤いソファが置かれている。そこに座して酒を飲んでいるのは、ご機嫌な様子の無精ひげのおっさん。
その隣にも足元にも、綺麗な蟻人のお姉さんたちが侍っていた。
「ノムルさん、最低です」
雪乃は軽蔑しきった眼差しを向ける。
「え? ユキノちゃん? 何でそんな冷たい目してるの?!」
パニックを起こすノムルの顔色は、いつもと変わらない。しかし、
「お酒臭いです。近付かないでください」
「そんなあー?」
慌てて駆け寄ってきたノムルは、凄まじいほどの酒の臭いがした。
鏡の泉に落ちたときよりも、ずっと酷い。酒を濃縮してさらに熟成させたような、度を超した臭いだった。
いったいどれだけのお酒を飲んだのだろうと、辺りを見回した雪乃は、惨状に引いた。蟻人のお姉さん達が、そこら中に倒れている。
部屋に帰らず雑魚寝をしているだけかと思っていた雪乃だが、よく見れば表情は苦しげで、呻き声まで聞こえる。
酒樽やら瓶やらが大量に転がっていることも踏まえるに、どうやら全員、良いつぶれているようだ。
「も、もう無理ー」
「ノムル様、強すぎ」
「う、ううー……」
彼女たちの呻き声から、全員ノムルに飲み負けたのだと分かる。
「しょうがないですね」
雪乃は、はふうと息を吐き出す。
未だ酒臭い息を吐きかけて喚いているおっさんを枝で押しのけながら、魔力を込めて酔い覚ましの薬草を生やした。
樹人の薬草は使用を控えている雪乃だが、この泥酔状態ならば、誰も気付きはしないだろう。
「お鍋をお借りしますね。お水は……」
「はーい! おとーさんが魔法で作っちゃうよー」
空の鍋に、一瞬で水が満ちる。ついでにボコボコと沸騰を始めた。
顔を上げると、褒めてとばかりにドヤ顔のノムルがいた。
「ではここに薬草を入れまして」
さらりと放置して、雪乃はぷつりと抜いた薬草を鍋に投入する。
「ユキノちゃん、冷たい! おとーさん、ユキノちゃんのために頑張ったのに」
「ノムルさんにとっては、このくらいの水を出すくらい朝飯前でしょう?」
「あ、朝ごはん、まだ食べてないや」
雪乃は白い目でノムルを見つめるが、蟻人たちは化け物でも見るような目でノムルを凝視していた。
「あ、あれだけ飲んで、朝ご飯が食べれるなんて……」
「どんな胃袋を……うっぷ」
早く飲ませてあげたいと思う雪乃だが、急いでも効果は減る。じっくりと薬湯を煮出す。
その間に、他の鍋にも向かった。
「元気なのでしたら、コンメとアカメマをお願いします。どちらも火が通りやすいよう、いつもより小さめに裁断してください」
「了解!」
鍋に砕いたコンメとアカメマ、水を入れ、粥を作る。吹き零れないように注意しつつ、薬湯のほうにも目を向ける。
毒々しいまでに黄色い煮汁が、ふつふつと泡を立てていた。
どちらもまだ時間が掛かりそうなので、その間に器を調達する。
そこら中に散らかっている器を回収し、ノムルに水魔法で洗浄してもらってから、風魔法と火魔法で乾かしてもらう。
そうこうしているうちに、まずは薬湯のほうが、良い感じに煎じられていた。
別の鍋にお湯を沸かし、薬湯を適量加えると、器に注いでいく。
「酔い覚ましの薬ができましたよー。動ける方は取りに来てください」
雪乃が声を張り上げると、蟻人たちは這うように集まってきた。まるでゾンビ映画のようで、軽く引きそうだ。
集まってきた蟻人たちに、雪乃は順番に薬湯を配っていく。
「あら、楽になったわ」
「効きの良い薬ねー。何を使ったの?」
かなり薄めて量も少しずつしか配らなかったのだが、それでも樹人印の薬草は効果抜群のようだ。
「東の果てから取り寄せた薬だからねー。聞いてもわかんないだろうし、手にも入らないと思うよ?」
すかさずノムルがフォローを入れた。目の端を光らせて、出来る男をアピールしている。
しかし薬湯配りに忙しい雪乃は、まったく気付いていなかった。
「はーい、元気になった方は、手伝ってくださいねー」
いつの間にやら蟻人のお姉さんたちまで使って、手際よく薬湯を配り終わり、アカメマ粥へと移っている。
「ユキノちゃーん、おとーさんにも頂戴」
「順番です。横入りしないでください」
さらりとふられたノムルは、広場の隅っこで三角座りをしてきのこを生やした。
「そういえば、ぴー助の姿が見当たりませんが、どなたかご存知ありませんか?」
食べ物の匂いを嗅げば飛んでやってくるぴー助が、まだ来ていない。
どこかで酔い潰れているのかと辺りを窺うが、いないようだ。
「飛竜なら、第三王女様と第五王女様が連れて行ったわよ」
「王女様、ですか?」
雪乃は嫌な予感を覚えた。けれど、可愛い子竜と少女達が遊んでいるだけだろうと、その予感を抑える。だがしかし、
「第七王女様まではもうお年頃なのに、中々男が見つからなくて困っていたのよ」
「虫人は女しか生まれないから、他種族の男を見繕わなければないといけないのよね。なるべく強くて賢い種族の男を」
予感は外れていなかったようだ。さらには、
「他の王女様方は、ノムル様を狙ってらっしゃったのだけど……」
と、ノムルも狙われていたようだ。
その王女様たちは、ノムルに酔い潰されてぐったりしているようだが。
「姫様! 御気を確かに!」
「の、ノムル様ぁ……」
とりあえず、あっちは放っておいて良いだろうと、雪乃は結論付ける。
「ぴー助を救いに行かねば!」
ぐっと小枝を握り締める雪乃だが、そこから先は動けなかった。
なにせ話の流れから察するに、王女様たちの目的は……。
「ふにゃああーっ?! 私にどうしろと? ぴー助を見捨てるわけには。いえ、しかし彼は竜種ですからそういうことはあまり……いやいや、まだ子供ですから。でも助けに行くということは、つまり、その……そういう所に突入を……?」
ぽふんっと音を立てて、雪乃は真っ赤に紅葉した。それは見事に綺麗な紅葉だった。
フードを被っているために、誰の目にも留まらないが。見えていれば紅葉狩りと称して、もう一度宴会が開かれたかもしれない。
それはともかく、雪乃には、自力でぴー助を助け出すことは難しそうだ。
呆れながら広場に出た雪乃は、目を細めて無表情になった。
広場の真ん中に、赤いソファが置かれている。そこに座して酒を飲んでいるのは、ご機嫌な様子の無精ひげのおっさん。
その隣にも足元にも、綺麗な蟻人のお姉さんたちが侍っていた。
「ノムルさん、最低です」
雪乃は軽蔑しきった眼差しを向ける。
「え? ユキノちゃん? 何でそんな冷たい目してるの?!」
パニックを起こすノムルの顔色は、いつもと変わらない。しかし、
「お酒臭いです。近付かないでください」
「そんなあー?」
慌てて駆け寄ってきたノムルは、凄まじいほどの酒の臭いがした。
鏡の泉に落ちたときよりも、ずっと酷い。酒を濃縮してさらに熟成させたような、度を超した臭いだった。
いったいどれだけのお酒を飲んだのだろうと、辺りを見回した雪乃は、惨状に引いた。蟻人のお姉さん達が、そこら中に倒れている。
部屋に帰らず雑魚寝をしているだけかと思っていた雪乃だが、よく見れば表情は苦しげで、呻き声まで聞こえる。
酒樽やら瓶やらが大量に転がっていることも踏まえるに、どうやら全員、良いつぶれているようだ。
「も、もう無理ー」
「ノムル様、強すぎ」
「う、ううー……」
彼女たちの呻き声から、全員ノムルに飲み負けたのだと分かる。
「しょうがないですね」
雪乃は、はふうと息を吐き出す。
未だ酒臭い息を吐きかけて喚いているおっさんを枝で押しのけながら、魔力を込めて酔い覚ましの薬草を生やした。
樹人の薬草は使用を控えている雪乃だが、この泥酔状態ならば、誰も気付きはしないだろう。
「お鍋をお借りしますね。お水は……」
「はーい! おとーさんが魔法で作っちゃうよー」
空の鍋に、一瞬で水が満ちる。ついでにボコボコと沸騰を始めた。
顔を上げると、褒めてとばかりにドヤ顔のノムルがいた。
「ではここに薬草を入れまして」
さらりと放置して、雪乃はぷつりと抜いた薬草を鍋に投入する。
「ユキノちゃん、冷たい! おとーさん、ユキノちゃんのために頑張ったのに」
「ノムルさんにとっては、このくらいの水を出すくらい朝飯前でしょう?」
「あ、朝ごはん、まだ食べてないや」
雪乃は白い目でノムルを見つめるが、蟻人たちは化け物でも見るような目でノムルを凝視していた。
「あ、あれだけ飲んで、朝ご飯が食べれるなんて……」
「どんな胃袋を……うっぷ」
早く飲ませてあげたいと思う雪乃だが、急いでも効果は減る。じっくりと薬湯を煮出す。
その間に、他の鍋にも向かった。
「元気なのでしたら、コンメとアカメマをお願いします。どちらも火が通りやすいよう、いつもより小さめに裁断してください」
「了解!」
鍋に砕いたコンメとアカメマ、水を入れ、粥を作る。吹き零れないように注意しつつ、薬湯のほうにも目を向ける。
毒々しいまでに黄色い煮汁が、ふつふつと泡を立てていた。
どちらもまだ時間が掛かりそうなので、その間に器を調達する。
そこら中に散らかっている器を回収し、ノムルに水魔法で洗浄してもらってから、風魔法と火魔法で乾かしてもらう。
そうこうしているうちに、まずは薬湯のほうが、良い感じに煎じられていた。
別の鍋にお湯を沸かし、薬湯を適量加えると、器に注いでいく。
「酔い覚ましの薬ができましたよー。動ける方は取りに来てください」
雪乃が声を張り上げると、蟻人たちは這うように集まってきた。まるでゾンビ映画のようで、軽く引きそうだ。
集まってきた蟻人たちに、雪乃は順番に薬湯を配っていく。
「あら、楽になったわ」
「効きの良い薬ねー。何を使ったの?」
かなり薄めて量も少しずつしか配らなかったのだが、それでも樹人印の薬草は効果抜群のようだ。
「東の果てから取り寄せた薬だからねー。聞いてもわかんないだろうし、手にも入らないと思うよ?」
すかさずノムルがフォローを入れた。目の端を光らせて、出来る男をアピールしている。
しかし薬湯配りに忙しい雪乃は、まったく気付いていなかった。
「はーい、元気になった方は、手伝ってくださいねー」
いつの間にやら蟻人のお姉さんたちまで使って、手際よく薬湯を配り終わり、アカメマ粥へと移っている。
「ユキノちゃーん、おとーさんにも頂戴」
「順番です。横入りしないでください」
さらりとふられたノムルは、広場の隅っこで三角座りをしてきのこを生やした。
「そういえば、ぴー助の姿が見当たりませんが、どなたかご存知ありませんか?」
食べ物の匂いを嗅げば飛んでやってくるぴー助が、まだ来ていない。
どこかで酔い潰れているのかと辺りを窺うが、いないようだ。
「飛竜なら、第三王女様と第五王女様が連れて行ったわよ」
「王女様、ですか?」
雪乃は嫌な予感を覚えた。けれど、可愛い子竜と少女達が遊んでいるだけだろうと、その予感を抑える。だがしかし、
「第七王女様まではもうお年頃なのに、中々男が見つからなくて困っていたのよ」
「虫人は女しか生まれないから、他種族の男を見繕わなければないといけないのよね。なるべく強くて賢い種族の男を」
予感は外れていなかったようだ。さらには、
「他の王女様方は、ノムル様を狙ってらっしゃったのだけど……」
と、ノムルも狙われていたようだ。
その王女様たちは、ノムルに酔い潰されてぐったりしているようだが。
「姫様! 御気を確かに!」
「の、ノムル様ぁ……」
とりあえず、あっちは放っておいて良いだろうと、雪乃は結論付ける。
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なにせ話の流れから察するに、王女様たちの目的は……。
「ふにゃああーっ?! 私にどうしろと? ぴー助を見捨てるわけには。いえ、しかし彼は竜種ですからそういうことはあまり……いやいや、まだ子供ですから。でも助けに行くということは、つまり、その……そういう所に突入を……?」
ぽふんっと音を立てて、雪乃は真っ赤に紅葉した。それは見事に綺麗な紅葉だった。
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