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ラジン国編
180.それとも鮮度?
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魔法使いたちと魔カマーフラワーの戦いを観戦していた雪乃は、ふと違和感に首を傾げた。
「ノムルさん、あのカマーフラワー、小さくありませんか?」
「ん?」
お茶を飲んでいたノムルも、廊下のほうに顔を向けた。
ムツゴロー湿原で見た魔カマーフラワーは、身長二メートルを超えていたが、目の前の魔カマーフラワーは、なんとか二メートルほどといったところだろうか。
「あ、本当だ。魔力の量かな? それとも鮮度?」
「謎が増えましたね」
「じゃあ、その研究データも調べとくよう、付け加えとこうかな」
ノムルの言葉に、魔法使いたちの首がゆっくりと回り、絶望の眼差しを向けた。目玉が飛び出そうなほどに剥き出ていて、少しホラーだ。
「さて、朝食は済んだけど、調合室に行く? それとも部屋でのんびりするー?」
「調合室へ。さっさと魔力回復薬を作ってしまいましょう」
「放っておいてもいいんだよー?」
そんな会話をしながら、雪乃とノムルは席を立つ。
雪乃はカウンターに寄って店員と少し話をしてから、ノムルと共に結界を抜けた。
結界から出てきたノムルを襲おうと、魔カマーフラワーは口を大きく開く。しかし瞬時に返り討ちにされてしまった。
ラウンジで構えていた魔法使いたちから、歓声が上がる。
「あ、カマーフラワーのデータが減っちゃうね。予備はー」
と、空間魔法からカマーフラワーを出したノムルは、魔力を込めた。
現れたのは、先ほどよりもずっと巨大な、三メートルほどの魔カマーフラワー。ラウンジに残された魔法使いたちの顔に、絶望の色が浮かぶ。
「さらに巨大化……」
「さすがノムル様」
「人里でも発生するという、謎に包まれたカマーフラワーが、まさか花が魔力を浴びて魔物化した存在だったとは。少量の魔力で魔物化する植物を調べて、栽培を禁止するべきだな」
中には冷静さを失っていない者もいるようだ。
一方の雪乃とノムルは、
「鮮度ではなく、魔力量ですか。しかしノムルさんが少しずつ加えたときの変化を考慮すると、矛盾が……」
「うん? 俺、魔力コントロール苦手だから、微妙な差なんじゃない?」
「なるほど」
と、疑問が一つ解けて、さっぱりとした表情で廊下を進む。
「ギョーーーーッ!」
背後で嫌な声が聞こえるが、決して振り返りはしない。
「い、いやああああぁぁぁぁーーーっっ!!」
「ぎゃあああーーっ!」
声の主を見た魔法使いが絶叫しているが、振り向いてはいけない。
あの声の主は、魔植物に慣れた雪乃といえど、あまり見たくはないのだ。
「そういえば、あれを使った樽は作っていませんでしたね」
「そうだねー。それも作っておこうか」
雪乃とノムルは調合室へと向かったのだった。
「ふっふふふーふふー……」
現在、雪乃は歌を口ずさみながら、マンドラゴラエキスを製作中である。
すでに魔植物化させた薬草を使っての、融筋病治療薬のためのデンゴラゴン漬けは終えていた。
粉末化していた魔ムッセリー草を使ったため、マンドラゴラたちは、粉だらけになってしまった。
そんなマンドラゴラたちは、ノムルが用意してくれた鍋の湯に、のんびりと浸かっている。いつもよりほんのり赤くなって、ご機嫌だ。
雪乃の口ずさむ歌を覚えたようで、一緒になって歌っている。
「わわー」
「わわー」
「わー」
「……」
ノムルは両手で顔を覆って、俯いた。体が小刻みに震えている。
雪乃と行動を共にするようになってから、彼の中の常識は次々と崩れていっている。
もはや魔物に対しての常識は、捨て去ったつもりだった。特に雪乃に関しては、全て受け入れるつもりでいた。
しかし、である。
「ユキノちゃーん」
「なんでしょう?」
「さっきから歌っている歌は何? メロディは長閑なのに、内容が物騒なんだけど? 食べられるって……」
「昔、流行った歌らしいですよ。マンドラゴラたちに、ぴったりな歌だと思いませんか?」
「……」
ノムルは沈黙をもって答えとした。
魔物の世界は、やはりまだまだ未知の部分があるようだ。
遠い世界に行きかけた意識を、鎖を付けて引っ張り戻すと、ノムルはもう一つの疑問を口にする。
「じゃーさー、何でマンドラゴラたちが、良い湯に浸かっているの?」
鍋の中には、幻覚作用を抑える効能を持つ、ラトックの花が浮かん出いた。白く可憐な花は、甘い芳香を漂わせている。女性が好みそうな、お洒落なお風呂だ。
そこに気持ち良さそうに浸かっているのは、マンドラゴラたち。
何かが間違っている。
いや、彼らの普段の行動を見ているノムルは、彼らが入浴していても受け入れられる程度には、彼らの知能を認めているつもりだ。
しかし、である。
「確か、マンドラゴラエキスを抽出するって、言ってなかった?」
「ええ。ですからマンドラゴラたちに、お風呂に入ってもらっていますが?」
「わー?」
「わー?」
「わー」
不思議そうに幹を傾げる雪乃と、根を傾げるマンドラゴラたち。傾げていないのもいるが。
お湯をパシャパシャ掛け合って、楽しそうである。
ノムルは頭を抱える。
彼の記憶にあるマンドラゴラエキスの作り方は、そうじゃなかった気がする。こんな和やかな風景は、展開されないはずだ。
確か……と、ノムルは自身の記憶にあるレシピを思い出す。
まず、引っこ抜くと叫び声を上げるため、周囲の土ごと掘り出す。それから足と胴を切り離して逃げられなくしてから、日向に干しておく。
干からびて声も出せないほど弱ったら、土を取り除いてよく洗い、適当に切って鍋に……と考えていたノムルは、視線を感じて首を動かす。
鍋の中から、じいっとマンドラゴラたちがノムルを見つめていた。
中には身を寄せ合い、ふるふると震えているマンドラゴラもいる。
ノムルが視線を逸らすと、リラックスして湯に浸かる。再び目をやれば、慌てて身を寄せ合って震えだす。
わざとらしい動きに憤りが湧いてくる。だが同時に、演技だと思っても罪悪感が込み上げてくる。
「くっ。マンドラゴラに敗北する日が来るとは!」
「わー」
「わー」
「わー」
「……」
明るい声を上げるマンドラゴラたちは、やはり小芝居を演じていたようだ。
知能がないと言われているマンドラゴラだが、かなり狡猾なのではないかと、ノムルはじいっと観察した。
「ノムルさん、あのカマーフラワー、小さくありませんか?」
「ん?」
お茶を飲んでいたノムルも、廊下のほうに顔を向けた。
ムツゴロー湿原で見た魔カマーフラワーは、身長二メートルを超えていたが、目の前の魔カマーフラワーは、なんとか二メートルほどといったところだろうか。
「あ、本当だ。魔力の量かな? それとも鮮度?」
「謎が増えましたね」
「じゃあ、その研究データも調べとくよう、付け加えとこうかな」
ノムルの言葉に、魔法使いたちの首がゆっくりと回り、絶望の眼差しを向けた。目玉が飛び出そうなほどに剥き出ていて、少しホラーだ。
「さて、朝食は済んだけど、調合室に行く? それとも部屋でのんびりするー?」
「調合室へ。さっさと魔力回復薬を作ってしまいましょう」
「放っておいてもいいんだよー?」
そんな会話をしながら、雪乃とノムルは席を立つ。
雪乃はカウンターに寄って店員と少し話をしてから、ノムルと共に結界を抜けた。
結界から出てきたノムルを襲おうと、魔カマーフラワーは口を大きく開く。しかし瞬時に返り討ちにされてしまった。
ラウンジで構えていた魔法使いたちから、歓声が上がる。
「あ、カマーフラワーのデータが減っちゃうね。予備はー」
と、空間魔法からカマーフラワーを出したノムルは、魔力を込めた。
現れたのは、先ほどよりもずっと巨大な、三メートルほどの魔カマーフラワー。ラウンジに残された魔法使いたちの顔に、絶望の色が浮かぶ。
「さらに巨大化……」
「さすがノムル様」
「人里でも発生するという、謎に包まれたカマーフラワーが、まさか花が魔力を浴びて魔物化した存在だったとは。少量の魔力で魔物化する植物を調べて、栽培を禁止するべきだな」
中には冷静さを失っていない者もいるようだ。
一方の雪乃とノムルは、
「鮮度ではなく、魔力量ですか。しかしノムルさんが少しずつ加えたときの変化を考慮すると、矛盾が……」
「うん? 俺、魔力コントロール苦手だから、微妙な差なんじゃない?」
「なるほど」
と、疑問が一つ解けて、さっぱりとした表情で廊下を進む。
「ギョーーーーッ!」
背後で嫌な声が聞こえるが、決して振り返りはしない。
「い、いやああああぁぁぁぁーーーっっ!!」
「ぎゃあああーーっ!」
声の主を見た魔法使いが絶叫しているが、振り向いてはいけない。
あの声の主は、魔植物に慣れた雪乃といえど、あまり見たくはないのだ。
「そういえば、あれを使った樽は作っていませんでしたね」
「そうだねー。それも作っておこうか」
雪乃とノムルは調合室へと向かったのだった。
「ふっふふふーふふー……」
現在、雪乃は歌を口ずさみながら、マンドラゴラエキスを製作中である。
すでに魔植物化させた薬草を使っての、融筋病治療薬のためのデンゴラゴン漬けは終えていた。
粉末化していた魔ムッセリー草を使ったため、マンドラゴラたちは、粉だらけになってしまった。
そんなマンドラゴラたちは、ノムルが用意してくれた鍋の湯に、のんびりと浸かっている。いつもよりほんのり赤くなって、ご機嫌だ。
雪乃の口ずさむ歌を覚えたようで、一緒になって歌っている。
「わわー」
「わわー」
「わー」
「……」
ノムルは両手で顔を覆って、俯いた。体が小刻みに震えている。
雪乃と行動を共にするようになってから、彼の中の常識は次々と崩れていっている。
もはや魔物に対しての常識は、捨て去ったつもりだった。特に雪乃に関しては、全て受け入れるつもりでいた。
しかし、である。
「ユキノちゃーん」
「なんでしょう?」
「さっきから歌っている歌は何? メロディは長閑なのに、内容が物騒なんだけど? 食べられるって……」
「昔、流行った歌らしいですよ。マンドラゴラたちに、ぴったりな歌だと思いませんか?」
「……」
ノムルは沈黙をもって答えとした。
魔物の世界は、やはりまだまだ未知の部分があるようだ。
遠い世界に行きかけた意識を、鎖を付けて引っ張り戻すと、ノムルはもう一つの疑問を口にする。
「じゃーさー、何でマンドラゴラたちが、良い湯に浸かっているの?」
鍋の中には、幻覚作用を抑える効能を持つ、ラトックの花が浮かん出いた。白く可憐な花は、甘い芳香を漂わせている。女性が好みそうな、お洒落なお風呂だ。
そこに気持ち良さそうに浸かっているのは、マンドラゴラたち。
何かが間違っている。
いや、彼らの普段の行動を見ているノムルは、彼らが入浴していても受け入れられる程度には、彼らの知能を認めているつもりだ。
しかし、である。
「確か、マンドラゴラエキスを抽出するって、言ってなかった?」
「ええ。ですからマンドラゴラたちに、お風呂に入ってもらっていますが?」
「わー?」
「わー?」
「わー」
不思議そうに幹を傾げる雪乃と、根を傾げるマンドラゴラたち。傾げていないのもいるが。
お湯をパシャパシャ掛け合って、楽しそうである。
ノムルは頭を抱える。
彼の記憶にあるマンドラゴラエキスの作り方は、そうじゃなかった気がする。こんな和やかな風景は、展開されないはずだ。
確か……と、ノムルは自身の記憶にあるレシピを思い出す。
まず、引っこ抜くと叫び声を上げるため、周囲の土ごと掘り出す。それから足と胴を切り離して逃げられなくしてから、日向に干しておく。
干からびて声も出せないほど弱ったら、土を取り除いてよく洗い、適当に切って鍋に……と考えていたノムルは、視線を感じて首を動かす。
鍋の中から、じいっとマンドラゴラたちがノムルを見つめていた。
中には身を寄せ合い、ふるふると震えているマンドラゴラもいる。
ノムルが視線を逸らすと、リラックスして湯に浸かる。再び目をやれば、慌てて身を寄せ合って震えだす。
わざとらしい動きに憤りが湧いてくる。だが同時に、演技だと思っても罪悪感が込み上げてくる。
「くっ。マンドラゴラに敗北する日が来るとは!」
「わー」
「わー」
「わー」
「……」
明るい声を上げるマンドラゴラたちは、やはり小芝居を演じていたようだ。
知能がないと言われているマンドラゴラだが、かなり狡猾なのではないかと、ノムルはじいっと観察した。
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