『種族：樹人』～おまけ置き場～

表紙絵

三月

ひな祭りバージョン。

「ふむふむ、何々……」

　雪乃が眠っている間に、ノムルは謎の本とにらめっこしていた。
　そして空が白みだしたころ、目覚めた雪乃は驚愕に目を見張り、何度も瞬いた。
　目の前にあったのは、八段の立派な雛人形。服が洋装だったり、飾られているぼんぼりがランプだったりと、ちょっと違和感はあるが、雛人形であっているだろう。

　雪乃は根を引っこ抜き、近付いて行く。
　正面から眺め、背伸びしてお姫様や王子様を見る。侍女や騎士も、一体一体、じっくりと見つめた。

「まさか、ノムルさんが？」

　まだ眠っている魔法使いにお礼を言って、雪乃は飽きることなく雛人形を見ていた。



「おはよー、ユキノちゃん」
「おはようございます、ノムルさん。素敵な雛人形をありがとうございます」

　雪乃はきらめく葉を揺らして、心からのお礼を告げる。

「そんなに嬉しいの？」
「もちろんですよ。こんなに立派なお雛様なんて、夢みたいです」

　雪乃はにこにこと笑う。
　人間だったときは、ノートの切れ端で人形を作って色を塗っていたのだ。それも幼い頃のこと。
　もう何年も、何もしていない。

「そっかそっかー。喜んでもらえて、おとーさんも嬉しいよ。この人形はね、飾り続けるとその間、娘が嫁に行くことがないんだって。ユキノちゃんも、お嫁に行かずにおとーさんと一緒が良いんだねえ」

　ご機嫌で雛人形を見つめていた雪乃は、ぴしりと固まった。ぎぎぎっと、錆びたネジのようにゆっくりと幹を回す。

「心配しなくても大丈夫だよ？　片付けたりしないで、飾ったまま空間魔法に保存しておくから」

　笑顔のノムルに、それが仕舞うということでは？　と突っ込みかけた雪乃だが、ぐっと堪える。
　気付かせてはいけない。

「ソウデスカ。ありがとうございます」
「どういたしまして」

　輝いて見えていたはずの雛人形は、何だか陰鬱な笑みを浮かべているように見えた。

　背景イメージは菱餅です。

　桜と梅は分かるが、桃の花って？　と調べたところ、花弁の先が尖っているそうです。星デハアリマセンヨ？
　桃は神聖な縁起物。種は薬として使われていました。薬事法に抵触するので、効能などは書きません。