忠犬な君

つきのあかり

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(あ、教科書忘れた‥)


ある日の学校の帰り道、教科書を机の中に置きっぱなしにしていることに気が付いた
そのまま帰ろうと思ったが明日が期限の課題があるのを思い出し踵を返した

オレンジ色に染まったグラウンドでは運動部の掛け声が、校舎では吹奏楽の楽器の音色が響き渡っている
2年の教室は3階にある
1年は4階、2年は3階、3年は2階と高学年につれて階が下になる
夏の夕方特有のどこかけだるい暑さが残って、うっすらと汗をかきながら教室に向かう
 

ガラガラ‥‥


「おっ」

誰もいないと思った教室には先客が一人いた、その人が声を上げこちらを見ている
一瞬思考が停止した


(北野くん‥‥)


彼がいた
彼も忘れ物を取りに来たのだろうか、机の中の教科書をかばんにしまい込んでいた

「原くんも忘れ物取りに来たの?」

「えっ!‥‥ああ、う、うん!‥」

考えていたことと同じことを聞かれどきりとした、咄嗟に出た声が裏返り恥ずかしさでいっぱいになる


(名前、知ってくれてたんだ‥)


原くんと呼んでくれた嬉しさと、声が裏返った羞恥心で頬がかあーっと熱くなるのを感じた
自分の机に向かい慌てながら教科書をカバンにしまい込んだ、手がかすかに震えている

ちらっと斜め前の席の彼を見る
窓から差す夕陽に照らされ、茶色の柔らかそうな髪が赤く燃えてるようにみえる
横から見える長い睫毛がきらきらと輝き、現実味のない神秘的な美しさを醸し出していた

しばらく見惚れていると彼がくるっとこちらを見て近づいてくる
それに合わせて鼓動が早くなる


「ちゃんと話したことなかったよな、改めてだけど俺は北野颯太、よろしく」

そこには差し出された手


呆気に取られ、アホみたいに少し口を開けたまま机に手を突っ込んでいる俺
完全に間抜けだ

(握手だよな?これ握手っていうやつだよな?)
そう考えているとじわりと手が汗ばむのがわかった、汗ばんだ手でするのは気持ち悪がれると思いズボンで何往復か汗を拭った

それを見ていた彼がふふっと微笑んだ
間近で初めて見る彼の笑顔に、変な感情が沸き起こる、切ないような胸が締め付けられるような

恐る恐る手を差し出し、握り返す
少し熱気のこもった教室、じめっとした涼しくはない気温なのに、手のひらから伝わる体温が少し心地いい
俺の骨ばった手とは違い、白くてきめ細やかで、思ったより指が細くて、形も綺麗で‥

「ん?大丈夫?」
「あっ、ごめん、だ、大丈夫」


手に魅入っていると、声をかけられはっとした、やばい、完全にキモい奴だ
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