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第四部 『スパルタン』は死なない

第二十九話 嵐のあとで

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白い装甲に身を覆われたはため息を吐く。
吐きながら右手に握った『アサルトライフルAR』の腹にもう弾が無くなった弾倉マガジン、親指上側にあるリリースボタンを押し込んで乱暴に振るった。
直後。
なにからも拘束されることがなくなった弾倉マガジンが宙を舞い、
重力に引かれる様に地に落ちた。
『・・・・・・・・・・・・・・・・。』
もう弾が無くなってしまった武器には用事がない。
そう思いながら、
右手の武器を『アイテムボックス』に仕舞った。
そして、今ある弾倉モノからどれが使えるかを考えながら、
『メニュー画面』を操作していく。
そうしての手には、
『・・・・・・ま、今の状態だとがピッタリか。』
分厚く長い照準器スコープが取り付いている武器、『バトルライフルBR』が握られていた。
どちらかと言えば、不適切かと思われるのだが実際にはそうではない。
全弾発射フルバーストは出来ないが、三発しか連射できない三点バーストは出来る。
そして、この、『ケンジ110』にはとある能力スキルがある。
それは、
『・・・・・・・・一発目が急所に必中クリティカルヒットなら後の二発は単なるだ。いちいち、一体ずつにありったけの弾丸をぶち込む必要なんざねぇさ。』
一体どの口が言うか、それは神のみぞ知る。
だが、ケンジの言う通りだった。
一発目は急所に必中クリティカルヒットとなる。
それ故に、たった三発だけでも申し分はない。
・・・・・・・・であれば、だ。
それが分かっているのなら『アサルトライフルAR』を使う必要はなかったのではないか?となるのだが、
その理由は至ってシンプル。
簡単なモノだった。
それは、
『・・・・・・・・・いちいち取り換えるのって面倒だよな。』
そう。
面倒だったのだ。
そうして歩いていく間にも『魔人種バイオス』の何体かがケンジに襲い掛かってくる。
飛び掛かってくるを、
『・・・・・・ったく。』
容赦することなくして進んでいく。
その姿は、まるで死神のようであり、
天使とは全く違ったモノだった。
しかし、
『・・・・・・・・面倒ったらありゃしねぇなぁ、おい。』
地に生を受けたモノを、
天に還すという意味では合っていると言えた。
・・・・・・・本人からしては断固として首を振るだろうが。
『・・・・・・・・・・?・・・・・・がなかったら問題ないんだがなぁ。』
そう言いながらケンジは、
弾倉マガジン
『・・・・・・・・空になったエンプティ!・・・・・・・・再装填リロード!!』
背中から伸びてきたアームに掴まれた弾倉マガジンに、
バトルライフルBR』の腹を
初弾を送り込むために左手でチャージングハンドルを引っ張ろうとして、
「クタバレェェェェェ、化ケ物ガァァァァァァァァァ!!!!」
大きく上段に振り上げられた剣に気付き盾を構える。
衝撃。
しかし、力ではケンジの方が遥かに上である。
その証拠に、
「アァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
襲い掛かってきたは自身の得物を落としていた。
盾の強度もさることながら、
どうやら当たった反動で取りこぼしたのだろう。
・・・・・・・・・・・情けねぇ。
声には出さずにチャージングハンドルを掴むと、
思いっきり伸ばし、
ある程度の長さまで伸ばすとパッと離した。
瞬間、
カチリ、と音がした。
フッ、と軽く微笑むようにして、
『・・・・・・・・それじゃあな。』
銃口を悶えている一匹に向け、
引き金トリガーを引き絞った。
三連射。
乾いた銃声が三つ鳴った。
一発目は頭部に当たり、
二発目は胴体に当たり、
三発目は脚部に当たった。
弾が当たった反動で身体を背後に反りながら、倒れていくその姿を、
ケンジは気にすることなく、
次の獲物に狙いを定めて、
一匹、一匹、着実に
そして歩いて行くの道横には、
何体もの『魔人種バイオス』の亡骸が仰向けになっていた。
『・・・・・・・・・・面倒くせぇ。』
一体ずつ処理していくケンジであったが、
面倒なことには変わりがなかった。
一体ずつの処理スピードは早いと言えば早いだろう。
ただ一体ずつという意味では、
面倒なこと、この上なかった。
故に、
ケンジは思い、呟くのだ。
『・・・・・・・・・面倒くせぇ。』
せめて、この場にレオナか、
もしくはケイトのどちらかが居れば楽になるのだが。
それでも、ケンジのやることには変わりはないだろう。
こうして一体ずつ、処理していくことに変わりはないのだから。
ということは、
『・・・・・・・・・面倒くせぇ。』
ということになり、
面倒なことには変わりはない。
しかし、そう文句は言えども、
現状を打破しなくはならないわけで。
現状を打破するためにはこの現状を生み出した『ろくなことを考えない野郎クズ野郎』をどうにかしなければないというわけで、
それつまりは、
『・・・・・・・・・面倒くせぇ。』
ということになる。
楽なことをしたいのは、誰もが同じく考えて、
思うことだろう。
しかし、
そうは上手くいかないというのがであって、
それは今のケンジの状況をそのままと言ってもおかしくはなく、
『・・・・・・・・・面倒くせぇ。』
ということに変わりない。
生きるということに面倒は感じなかったが、
現状は面倒なこと、この上ない。
進めども、
進めども、
先に居るのは『襲うことしか出来ない能無しバイオス』だ。
しかし、それらでもケンジの足を止めることは出来ない。
何故ならば、
ケンジは『頭のネジがおかしな方向に曲がった連中スパルタン』であり、
そして『バイオス』はそんなケンジにとっての仇敵だ。
止めようと襲ってきても止めることはない。
止められることはない。
故に、
ケンジは呟くのだ。
『・・・・・・・・・面倒くせぇ。』
と。
襲って来ては倒し、
襲って来ては倒す。
徐々に自分は何かしらの夢を見ているのではないだろうか、
そう思えてくる。
だが、
悲しいことにこれは現実。
現実であるのだ。
ただ、夢かもしれないと思えるのは、
「死ネェェェェェェェェェェェ!!!!化ケ物ガァァァァァァァァ!!!!」
襲ってくるのが化け物に似たであり、
自身がヒトに似たということだった。
だからこそ、だ。
だからこそ、思うのだ。
『・・・・・・・・・面倒くせぇ。』
と。
そう思っていると、
もう既に何回かの再装填リロードを終えたせいか、
弾倉マガジンが無くなっていることに気が付いた。
『・・・・・・・・・面倒くせぇ、な!!!!』
『メニュー』操作を放棄して左腕の盾を大きく振りながら、
挽き肉製造機ガトリングランチャー』の引き金トリガーを押し込んだ。
六つの銃身が回転し、
一つ一つの弾丸を、
計六つの弾丸が
六つの弾丸は、
ケンジの前に居たそれぞれの頭部に直撃し、
被弾した六体は当たった反動で身体を後ろに反らしながら倒れていく。
しかし、
ケンジにはその様子を見る暇はなかった。
武器を手に持った一体が来ていたからだ。
腕を振る。
だが、
「クタバレェェェェェェェェェェェ!!!!」
いつの間にか反対側からやって来た一体が大きく武器を振り被り、
『誰がくたばるかよっ、クソッたれがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』
間に入ってきた一体に向けて右腕を向けて、
親指を
だが、

感じるはずの感触が

『・・・・・・・・・・っ!?』
本来、訪れるはずの光景が訪れないことにケンジは驚愕し、困惑した。
・・・・・・・・何故だ!?なんで出ねぇんだ!?
ケンジは考える。
しかし、時は現在進行形で進んでおり、
止まることなど
少し、
また少し、
大きく振りかぶった剣をケンジに叩きつけるために、
魔人種バイオス』を歩を進めていく。
ゆっくり、
ゆっくりと、
ほんのわずかに進んでいく時間の中で、
ケンジは思考を巡らせる。
しかし、
思い浮かんできてはすぐには実行できない案ばかりが浮かんできては消えていく。
そして、
ケンジはふと自身の右腕を見た。
そこには、
自身が作り、
使い込んできた
一発限りという読んで字の如くの必殺武器パイルバンカー』があった。
それを見て、
ケンジは鼻で笑った。
そうだ。
何故ならば、
『・・・・・・・・を使ってた俺が忘れるとはなっ!!!』
・・・・・・笑えちまうぜ、全くよぉ!!!
そして、
ケンジは後ろに引いていた身体を、
前に、
ただ前に、

そのことに、
振り被った『バイオス』は奇妙に思っただろう。
何故ならば右腕を前に突き出して進んでくるのだから。
何を思っているのか、理解は出来ないだろう。
避けるために後ろに引くのではなく、
に身体を前に動かすのだから。
理解することは出来ないだろう。
何故ならば、
ケンジはではなく、
なのだから。
大した思考力も持ちえない『バイオス』にはは分からない。
故に、
身体に衝撃が来たその瞬間に何が起こったのか、
には理解が出来なかった。
・・・・・・・・・・いや。
ただ一つ、
ただ一つだけ、
理解しているのであるだろう。
それは、
『・・・・・・・・いやぁ、慣れってのはいかんね、どうにも身体が鈍っちまうぜ。』
狩る存在であった自身が命を落とし、
狩られる存在であったケンジが生きているということだけだ。
・・・・・・・それを理解しているのかは怪しいところではあるが。
それでも、
変わらないことがある。
それは、
『さて、と。・・・・・・量が多いみたいだし、ちとでも出しましょうかね。』
一人のを目覚めさせたということだ。
手に持った『バトルライフルBR』を振り捨てる様に、
右手を大きく振った。
乾いた音を出しながら跳ねていく銃器を他所に、
ケンジはワイヤー付きのリングを親指に引っ掛けた。
腕を垂らす。
そして、
『スゥ・・・・・・・・・、』
ゆっくりと息を吸い、
『ハァ・・・・・・・・・。』
ゆっくりと息を吐いた。
その間、
何を思ったのか『バイオス』は動くことはなかった。
それまで止めるために動いていたのに、だ。
・・・・・・・・・いや、

というのが正しいのだろう。

そして、ケンジは歩き出す。
それは端から見れば、を求める様に見えたことだろう。
しかし、ケンジにはその気はなかったし、そうしようとも思わなかった。
何故なら、
『・・・・・・・・・「戦うことしか脳にない戦闘狂スパルタン」は。』

』は

それは英雄を求めて生まれた言葉だったか、
もしくは英雄にために生まれた言葉だったか、
どの様な意味で生まれた言葉だったか、それは今のケンジには分からない。
ただ一つ。
そう、
ただ一つ、分かることがあるとすれば。

は英雄でも何でもないただの阿呆だということだけだ。

それを証明するかのように先程と同じく数体もの『バイオス』が襲い掛かる。
だが、接近を許すケンジではない。
左腕の『挽き肉製造機ガトリングランチャー』が、咆哮する。
一体、また一体と。
数発の弾丸に身体を貫かれ、ただの肉片へと変わっていった。
しかし、たとえそうなったとしても、
『バイオス』達は歩みを止めることはなかった。
一歩も後ろに引かないを見て、ケンジは舌を打つ。

・・・・・・・・・数が多いな。

の数が多ければ、それだけ弾の消費は激しくなる。
幸いにも弾の消費を気にすることなく使えるのが、この『挽き肉製造機ガトリングランチャー』の利点ではあるのだが、
しかし、無限に弾を撃つことは出来ても弱点はあるのだ。
脳内に警告ブザー音が聞こえると同時に、
急に弾を出さずに数回だけ、空回りを起こし、止まった。
弾を撃つ出す銃口からは蒸気が立ち上る。
・・・・・・・・っ。
内心で舌を打つ。
熱エネルギーを放出することが出来なくなって蓄積したのだ。
そして、蓄積された結果が今に至る。
・・・・・・・・ったく、相も変わらずのじゃじゃ馬だな、は!!!
残弾を気にすることなく、ほぼ無限に撃てるのは利点ではある。
だが、その利点を無しにしてしまうのが、これだ。
唯一の弱点ではあるのだが、それを抜きにしても、
・・・・・・・・・熱が冷めるクールダウンに時間が掛かるのがな。
それが難点ではあった。
使い物にならなくなった現状では破棄してしまうのが一番効率がいいと思える。
事実、
それを隙だと思った何体かが駆け出すのが目に見える。
その内の数体が手に銃器に似たなにかを握って、こちらに狙いを定めようとしているのが、目に映る。
状況を見れば、不利にしか見えない。
見えないのだが、
ケンジは笑っていた。
それは死への恐怖か?
いや、違った。
何故ならば、
『ハッ、・・・・・・・遅すぎだろうが。』
なぁ?と誰かにケンジは問う。
だが、その先に、
その問いに答える者は
そう。

そのため、
突如として自身を吹き飛ばす様に起こった爆発に『バイオス』達は気付くことが出来なかった。
そう、
誰が予想しようか。
誰も居ないはずなのに起こるはずのない爆発が起こるなど。
誰が予想出来ようか。

「・・・・・・申し訳ありません、我が主マスター。少し手間取ってしまいました。」
ケンジの前に、
白い外套に、フードを頭に深く被ったが現れることなど。
その人物はケンジを前にして、深く頭を下げた。
「予想はしていましたが、ここに来るまでに多くの『バイオス』に足止めを受けまして。謝罪します。」
「・・・・・・・・ja。・・・・・・・・ごめんね、。」
動きやすそうな服装をした緑色の髪を揺らしながら、
爆発を起こしその文字通りに張本人が現れる。
その張本人は謝る気があるかないのかよく分からない口調で言う。
彼女のその態度にケンジは微笑んで、
、レオナ、ケイト。』
気にすることではないと、
そう、言葉を返しながら、
ああ、と思い付いたかのように続けて、
『で、?』
と二人に訊いた。
二人はケンジの言葉に何を?とは疑問を返さず、
「nein。まだ捕捉できていませんので、難しいかと。」
「・・・・・・・・ja。・・・・・・・・右に同じく。」
その返しにケンジは唸る。
『そうか、出来てないか。にはと思ったんだがなぁ。』
どうしたもんだか、と再び唸った。
そんなケンジに、
「ですが、。もし、もしですよ?その指揮官がいたとして、です。」
レオナはそう言うと言葉を続ける。

「その人物をどうするのですか?」

彼女が何を考えてそう訊いてくるのか、
どういう意図があってのことかはケンジには分からない。
・・・・・・・・だが。
だが、一つだけ。
一つだけはケンジの中で分かっていることがある。
それは、
『決まってるだろ、レオナ?』
笑うように言葉を続ける。

。』

言った。
止めろと言葉で訴えるなどではない。

ケンジはそう言ったのだ。
もう既に決まってることなのだ、
群れを率いて地上を攻めた。
そして、
その責任を果たせ、とはケンジは言うつもりはない。
何故なら、
はケンジが生まれ生きたではないのだから。
故に責任を追及しようとは思わない。
攻めて、負けた。
そして、撤退した。
その判断は恐らくは正しいだろう。
ただ、
ただ、その選択は取るべきではなかった。
再び攻めてくる可能性がある以上は野放しにしておくつもりはケンジにはないし、
で逃がすつもりもない。
何故ならば、

ケンジを含めたプレイヤー七人の集まり旅団』が作ったを攻撃したのだ。

その行為に腹を立てない者が何処に居ようか。
それも一度ではない。
二回だ。
二度の攻撃を許したのだ。
二度もあれば、次も。
三度目の攻撃もあると考えていいだろう。
そして、三度目の攻撃。
次の攻撃で
であれば。
であれば、ケンジが取るべき選択はただ一つ。
二人に言う。

。』

そうだ。
のだ。
が終わるはずの夢の続きだとしても、
にするのだ。
ケンジの言葉に二人は頷く。
「ja。了解です、。貴方がそうお決めになられたのであれば我々は従うのみです。」
「・・・・・・・・ja。・・・・・・・・右に同じ。・・・・・・・・が決めたなら従うよ?」
二人の返事にケンジは頷きながら、
・・・・・・・・・有り難いねぇ。
感謝していた。
だが、それをするにしても問題がある。
それは、
「ですが、。先ほども伝えましたが、目標ターゲットを捕捉できておりません。」
「・・・・・・・・ja。・・・・・・・・どうするの、?」
『そこなんだよな・・・・・・。・・・・・・・・って言っても何処に行くのか、分かってるが。』
何処に?と二人は首を傾げる。
その二人にケンジは静かに伝える。
『ほら、あそこだ。俺が時になんかデカいのがあっただろ?』
「ja。そう言えば、ありましたね。」
「・・・・・・・・あったっけ?」
ケンジの言葉にレオナは頷く。
だが、ケイトは疑問する。
そんな彼女に伝える時間はさほど残されてはいない。
・・・・・・・・・・・ま、どうにかなるか。
説明しなくてもどうにかなるだろうと思って、
説明をせずにケンジは歩き出す。
歩き出したを追うようにしてレオナが歩き出し、
ケイトが最後尾に着く。
そして、
数歩進んだそのタイミングで、
「・・・・・・・・っ。・・・・・・・・ッ!!!」
『あっ?ケイト、どうし・・・・・・・。』
た、と訊くよりも前にケイトが前に出て、
ケンジの身体を横に押し出した。
直後、
が柔らかいに突き刺さる音が聞こえ、
「・・・・・・・・・・・・・・っ!!!ケイトッ!!!」
レオナの、
自身ではなくケイトを呼ぶ声が聞こえた。
何が起きたのか、
それが分からずに押され、倒されたケンジは頭を抑えながら立ち上がる。
『いたたた・・・・。おい、ケイト。お前いきなり押し飛ばすたぁ、何考えてやがるんだ。』
全く、と言葉を続けようとしてケンジは顔を上げて彼女を見た。
そこには、
身体に先の尖った弾丸が突き刺さったが立っていた。
『・・・・・・・・・・・・・・おい。』
何か言おうとしてケンジは口を開く。
だが、そこから出てくる言葉は、
『・・・・・・・・・・・・・・なに、寝てんだお前。』
彼女を想っての言葉ではなかった。
『・・・・・・・・・・・・・・立ちながら、寝るなんていつの間に器用になったんだよ。なぁ、おい。』
ケンジは彼女に声を掛ける。
だが、彼女はその言葉には応えることはなく、
ゆらりと、
ゆらりと、
後ろに倒れることで応えた。
仰向けになって倒れた彼女の身体には、
赤い、
紅き液体が下へと流れ、
地面に溜まっていく。
それが、血だまりだとケンジが理解できなかった。
理解するのに時間が掛かった。
そして、身体が動き出すまで周囲に銃声が響いた。
銃声が聞こえると、
が自身を呼ぶ声が遠くで聞こえる。
しかし、
それが自身のことか、
誰のことか、
それを理解することがなく、
身体に弾丸が当たる。
だが、
その弾丸には鋭さはなく、
当たった感触を感じられなかった。
弾丸が飛び交う中では、
『なぁ、ケイト。』
ただ一人、
に向けてただ呟いた。
『お前は何がしたかったんだ?』
疑問する。
だが、
今はその疑問に答える者は
息を吐く。
声が耳に届く。
っ!!しっかり為さってください!!!」
『・・・・・・・・しっかり、か。』
そうか、
そうだよな、
しっかりしなくちゃいけねぇよな。
ゆっくりと、
ゆっくりと、顔を下す。
弾丸が向かってくる方向を見る。
銃声は多い。
一つではない、
五つか、
十か、
それ以上か。
それを知ることは叶わない。
それでも、
それでも、分かることがある。
それは、
『・・・・・・・・・・・あぁ、そうだな。』
そう言いながら、左手で銃把グリップに手を掛け、

!!!』

正面に向け握った。
瞬間、
重々しい銃声と共に六つの銃身が回転し、
六発の弾丸を弾き出す。
一回転、
一回転、
一回回る度に、
その分だけ銃声が減る。
そうだ。
いつかは
人間であれば誰かは、ケンジだって
みんないつかのだ。
だが、
だが、これだけは言える。



抗うために戦う限りはのだ。
とすれば、
今というこの瞬間に、はないのだ。
銃声が止む。
左手に握った銃把グリップから手を離す。
地に倒れたケイトの身体に触れる。
上体を起こす。
反応はない。
瞳には明かりはない。
ただの暗闇がに映るだけだ。
呼吸音もなければ、
胸部が動くことはない。
それだけで、
それで、
ようやくケンジは理解した。

自分にとってのことに。

・・・・・・・・。」
控えめにレオナから声が掛けられる。
顔を上げる。
上げた先には
だが、
そこには何もないわけではなく、
優し気に映る明るさがあった。
気遣っているのだろう、
そうケンジは思うと、
彼女の身体ケイトを腕から降ろした。
『悪いな、レオナ。・・・・・・・あぁ、もう大丈夫だ。』
そう言いながら、
ケンジは彼女に手を振った。
立ち上がる。
そう立ち上がったには元気がない様に思えるものだった。
そんなを、
「大丈夫ですか、?」
心配そうにしてレオナが再び訊いた。
しかし、
『大丈夫だ。・・・・・・あぁ、大丈夫だとも。』
とてもそうには見えない口調ではそう答えた。
そして、
『・・・・・・・・レオナ。』
「ja。なんですか、?」

。』

決意した様に答えるの言葉に、
「ja。お供致します、我が主マスター。」
レオナはそう答える。
二、三歩二人は歩き出して、
唐突には振り返って、
を見ると、
『行ってくるぜ、ケイト。』
そう言った。
ケンジの耳にもう聞こえないはずの彼女の声が聞こえた気がした。
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