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第二部 事の発端
第十二話 三人の雑談会議
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コンロの問題が片付いた『日常と戦撃の箱庭亭』。
そこでは白い鋼の装甲に身を包んだ『機械人種』であるケンジと、『人類種』のレオナ、『精霊人種』のケイト、三人がいた。
ケンジを除いたレオナとケイトの二人は静かにクッキーを食べていた。
その二人から離れた場所でただ一人、ケンジは黙々と銃の整備を行っていた。
一つ整備が終わっては横において、もう片方で山になっているところからまた一つ取り出して分解してから一つの銃の形に戻すと言った作業(と思うのか分からないこと)をしていた。
離れた場所で行うケンジに嫌気がさしたのか、レオナはため息を静かに吐くと、彼の方に顔を向けた。
「あのですね、マスター。昨日からその作業ばかりしておられる様ですが、時には身体を休ませなければ・・・・・・・・・。」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・あ?そうは言うけど、お前まだそんなに言う程はまだやってねぇよ?』
「私が居なかった間はやっていたでしょう!!!」
ケンジの言葉を聞くと彼女は突然怒った様子で怒鳴ったのだが、どう言った意味合いでレオナが怒鳴ったのか、ケンジには分からなかった様子だった。外野で見ていたケイトには、レオナは彼女にしては珍しく怒った様子で怒鳴ったが、彼には分からなかった様子にケイトには見えた。
そんなレオナにケンジは気圧された様子ではあったが、彼女を宥める様に両手で抑える様にと合図を出しながら言ったのだった。
『あ、あのですね、レオナさん。』
「・・・・・・・・ja。なんです、マスター?」
多少は冷静になったのか、多少は声を荒げることなく彼女が応えたことにケンジはほっと安心する。
・・・・・・・・・・それでもまだ多少といった程度のことであって、丁寧すぎる彼女の口から出た言葉にしては荒かったのだが。そこは触れぬが仏であろう、そう彼は思って言葉を続ける。
『この前の戦闘で、自分少しばかり出しゃばったじゃないですか。』
「貴方にしては抑えていた方だと思いますけど?」
休むことなく出される言葉にケンジは一瞬、言葉が出なくなってしまう。だが、ここで止まれば、彼女は勢いに乗って反撃してくるだろう。そう思い、彼は続けるようにして言った。
『ま、まぁそうなんですけどね。ですけど、自分にとっては久しぶりの大規模戦闘だったわけですよ。』
「でしょうね。」
『久しぶり過ぎて仕舞っておいたコレクションを引っ張り出したのはいいんです。いいんですけど、そこで問題がおきましてね。』
「ja。聞きましょう。」
レオナが少し冷静になってきたことをケンジは感じると勝負に出た。
『そのですね。自分が手直しをしないといけなくなったわけでして。そうしたのにメンテをしてもこれがいくつか使えなくなった欠陥品が多いモノで全体をとりあえず全部を確認してみようと思った次第です、はい。』
ですので。
『出来れば、その、続きをさせてもらいたいんですが・・・・・・・・・・・・。』
ケンジはそう言い終わると、彼女の方をじっくりと見た。
彼女が怒る理由も、ケンジには、まぁ、分からなくもない。休みを取る様にと心配して言ってくれることも分かる。
分かるのだが・・・・・・・それはそれ、これはこれ、と別にして考えても貰わないといけない。
今、こうしているのも、もしや万が一といった起こり得る可能性が最も低いことが起きているのだ。
ケンジとしては、もう既に起きてしまったことはもう仕方がないとしても、これ以上に起こるかもしれない事態に備えておきたいというのが本心だった。
『このゲームの世界に張り込んでしまった現代人』が動けなかったのもログアウト不能という事態が起こり得ない事態だと思っていたためにすぐに動くことは出来なかったのだ。
ケンジ達、『機械人種』をキャラクターに設定していた『プレイヤー』たち、後に『スパルタン』と呼ばれる者たちもそうした事態が起こる等とは思ってはいなかった。
故に誰もが簡単に死ぬこの世界を楽しんでいたのだが。
レオナの返事を待ちながらもケンジはただただ、自身が使う銃器のメンテナンスを行っていた。
最初は、この銃器も使おうと、作ろうともしなかった。
何故ならば、戦えるものがあればそれでいいからだ。
戦えるのであれば考えなくてもいい。
だが、悲しいかな、人間とは考える生き物なのだ。
使える武器も単発しか撃てない少数向けの必殺武器しかない状態で死ぬ
モノが増えてしまえば、どうした方が良いか、考えてしまうのだ。
それ故に、ケンジやレオナが右腕に装備しているモノはただ一発しか撃てはしないが、放たれた弾丸を防ぐことは何者でも出来ないというたった一つの必殺武器であった。
その名は、フォトンライフル。
『プレイヤー』が装備できる唯一の必殺武器であり、『プレイヤー』でしか持てない武器であった。
たった一つの武器。
それを作ろうと思っても銃器製造と弾の生成方法が全く分からないという全くもってファンタジーとしか言えない銃器であったが、それでも方法はあった。
そうだ。
一から作るではなく作られたモノを加工すればいい、ただそれだけだ。
ケンジが使っているのは自身が持っていたライフルを加工したものではあるが、レオナは違った。
レオナは『プレイヤー』ではない『サポートキャラ』でしかない。
そう。
持っていない以上は譲り受けてもらうほかないのだ。
大抵の考えを持つ者であれば、ここでケンジたちは非合法なやり方で手に入れたと思うだろうが、きちんとした合法の手続きで譲り受けたモノだとここで一度言っておこう。
閑話休題。
ケンジが話し終わると、レオナは分かったという様に片手を振った。
「ja。分かりました、分かりましたよ、マスター。貴方がそこまで仰るのであればとやかくは言いません。」
『分かってくれたか!!!』
ケンジの言葉を聞くと、彼女は渋々と言った具合で頷いてみせた。
「ja。・・・・・・・・ですが、一つだけ約束してください。」
『約束?』
「ja。簡単な約束です。」
レオナが言う約束がどんなものだろうかとケンジが考えている間に彼女は彼のすぐ傍まで寄って来ていてケンジの頬に指を当てながら言ったのだった。
「これらの整備が終わったら、しっかりと身体を休まれてください。・・・・・・・いいですね?」
『・・・・・・・・・えっ。そんなんでいいのか?』
もっときついなにかを言われるのでは、とケンジが警戒していただけにレオナからまさかそんな簡単なことを言われたのが予想外だという様に彼は言ったが、そう言った彼に彼女は確かめる様に言った。
「ja。それだけです、マスター。・・・・・・・・分かりましたか?」
『お、おぅ。分かった。・・・・・・・善処する。』
「それ以外の言葉で。」
『それ以外・・・・・・?あ~、ちゃんと休むよ?』
「・・・・・・・・出来ればもう少し工夫をしてもらいたかったのですが。まぁ、いいでしょう。ja、分かりました。」
彼女は彼の言葉を聞くと、渋々といった具合で頷くと先程彼女がいた席まで下がったのだった。そんな彼女を見ながら、ケンジは、女って生き物は怖いねぇ~、と思いながら休んでいた整備を再開するのだった。
そうして一つの銃器のメンテナンスが終わるとケンジは再び、もう既に整備が完了している銃器の山に手元で確認をしていた銃器を置くと、反対側にあった山から銃器を取り出して、再び整備を行ったのだった。
その様子をレオナは見ると、一度だけ深くため息を吐いてケイトの方を見たのだった。
「ケイト。貴女の方からもなにか言ってください。私では無理なようですので。」
「・・・・・・・・・・・nien。・・・・・・・・・・・・・だったら無理。」
彼女はレオナからの提案を蹴ると、いつの間にか持っていた食べ物が入った袋に手を入れながらそう答えた。レオナはその袋をどこから持ってきたのかということを訊きそうになるのを心の内で必死に抑えると、極めて冷静になろうと努めながら再び彼女に訊ねた。
「その、何故か理由を訊いても?」
「・・・・・・・・・・・レオナが止めようとして出来なかった。・・・・・・・チーフを知っているレオナが。・・・・・・・・・・・・だったら、私が止めようとしてもきっと無理。」
「ですが、それは仮定の話であって・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・nein。・・・・・・・・・これは仮定じゃない。・・・・・・・・・確定事項。」
・・・・・・・・・・・・だから無理。
そう言って、ケイトは言葉を終わらせて、袋に入れた手を引き抜いて、手に握ったそれを食べたのだった。
それは何か奇妙な形をしたなにかだった。
レオナにはそれが食べ物である様には見えなかったのだが、それを何も言わずに食べる口の動きを休めることなく動かしているということは、きっと食べ物なのだろう、とレオナは思うことにしたのだった。
そんなことをしていると全ての銃器のメンテナンス(という名の何か)が終わったのかケンジは大きく伸びをすると立ち上がった。
『・・・・・・・・・・・っくぅ~・・・・・・・・、あ~、終わった終わった。ったく、クソッたれが。俺が作った銃器を思い切り踏みやがって。整備するこっちの身にもなれってんだ。』
「・・・・・・・・・・・そうは言っても、チーフ。・・・・・・・・・・・・踏まれる様な場所に置いたのはチーフじゃないかな?」
ケンジの言葉に対してケイトは静かに指摘するが、彼は彼なりで分かっているらしく、あえて聞こえていない様なフリをしたのだった。
そんなケンジにレオナはいつの間に準備したのか分からなかったが、静かに彼の座る席にコトッと水が入ったコップを置いたのだった。
「お疲れ様です、マスター。」
『お?レオナか。悪いな。』
「いえいえ。私など大したことは。コンロは爆発してしまうので生水しか用意できませんが。」
『なぁ~に、言ってるんだ。水くらいでも飲み物を用意してくれるんだ。誰が文句言うか。』
出来れば、茶っ葉が入った入れ物とかがあればいいかもしれんがな。
口には出さずにケンジは心の中で静かに呟きながら彼女が持ってきたコップに口を付けたのだった。
口を付けたのを確認すると、レオナはケンジから離れる。
内心で、相変わらずクソ不味いなこの水、と思いながら、ケンジは身体の向き二人がいる席の方へと変えた。
『んで、レオナ。「帝国」の方はどうだった?なんかあったんだろ?』
レオナはケイトの前にコップを置きながらケンジの問いに答えた。
「nein。これといったものは特に。」
『特に?ってことは、特にってこと以外ではあったんだな?』
「ja。・・・・・・・・・というよりは限りなくないと申すことですが。」
ケンジに話してもいいか?と彼女は訊いてきたので、ケンジは話しを進めるために片手をどうぞ、という具合で出して話を促した。
「ja。それでは、話します。・・・・・・・・・・つい、この前に『ヒューマン』と『メタノイス』が揉め事を起こしていて、それにエルミアが加わる話になっているとのお話をしたと思います。」
ですが。
「そもそもの話、私とケイトの二人には参加する理由もありませんので傍観に徹しようと思っていたのですが、先程、将軍閣下からお声が掛かりまして。」
『お前、それって特にじゃなくね・・・・・・・・・・・?』
「私にとってはこれといって特筆することではありませんので。貴方が、マスターを相手に、と言うのであれば、排除するのみですので。」
そう言いながら、微笑むように答える彼女に対し、ケンジはフードとか取ってなくて良かったぁ、と彼女にフード付きの暗殺者仕様の装備を渡してて良かったと思っていたのだった。
そんなケンジを他所にケイトは彼女に訊いた。
「・・・・・・・・・・・・・それで?・・・・・・・・・・参加するの?」
「まさか。」
ケイトの問いを笑う様にレオナは答えた。
「マスターが参加なされるというのであれば、話は別ですが。・・・・・・私のみ参加となればしないに決まっているでしょう。」
「・・・・・・・・・・・・・なんで?」
ケイトの疑問にレオナは最初に、いいですか?と先に口にしてから言葉を続けた。
「『帝国騎士団』の練度では『メタノイス』相手をしようにもそもそも話になりません。」
それにですね。
「エルミアの他に▽と『旅団』の方々お手製の『要塞』があります。手を貸さなくても『騎士団』の敗北は目に見るより明らかです。であれば、手を貸す必要もない上に、私たち同士で戦わなくてもいいではありませんか。とするならば、参加する理由はないのです。」
「・・・・・・・・・・・・・成る程。」
賛成するようにケイトは言った。
だが、ケンジには流してはならないワードが聞こえたので、彼女たちの会話に参加する様にレオナに確認をするのだった。
『ちょっと待て。レオナ、お前、デルタって言ったか?』
「ja。言いましたが?」
『一応、確認するんだが、そのデルタってのは逆三角陣形とかじゃなくて、お前らと同じ「キャラクター」のデルタか?』
「ja。その▽しかいないと思いますが?」
レオナの解答にケンジは安堵したかのように呟くのだった。
『そうか。あのガンカタバカはまだ生きてやがったか・・・・・・・・・・。それに「要塞」ってことは・・・・・・・・・ハハハ。「旅団」の連中で一から組み立てた引き籠もる専用の完全無欠の城塞があるってことか。・・・・・・・・・・そんなとこに突っ込もうってか。』
というより、レオナ。
『「騎士団」って連中、改めて思うが・・・・・・・・・・・バカだろ。』
ケンジの言葉にレオナはただ一つため息をすることで応えた。
「貴方がそう思うのも分かりますが・・・・・・・・・・・、そう言ってあげるのは過酷かと存じますよ、マスター」
『え~、そうは言うけどよ。あの「要塞」を作った「旅団」が言えた義理じゃねぇけど、あれを突破するってなると、レベルが五桁あっても、数が万はいないと突破できねぇぞ?』
レオナの言葉にケンジは懐かしいな、と懐かしさを感じながら答えるのだった。
先程からレオナとケンジが言う『要塞』というのは、かつてケンジ達、七人の集まり『旅団』が起こり得るもしや万が一といった場合に備えて思いつく限りありたっけの完全武装を施した『完全武装要塞』のことである。その武装は『リシュエント帝国』やケンジたち、三人が今いる『日常と戦撃の箱庭亭』を守る様に配置されている四基の『ガンズタレット』とは比較にならない程多く、射程も長い。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・最も『ガンズタレット』もケンジが知り得る中では、コントロールが必要なモノ全てを統治している人物を除けば、どこにもないことになり、『要塞』にある武装群は圧倒的に長い射程を持っている武装群になると言っても過言ではない。
レオナやケイト二人の言葉を聞く限りでは、『帝国騎士団』、いや、『ヒューマン』全体で言わせてもらえば銃器を使わない限りは敗北は確定されたと言ってもおかしくはない。
まぁ、データという情報群をただ漂うだけのナターシャに要請をすれば、勝利は約束された様なものである。・・・・・・・・・・と言っても、ナターシャが泳げるのはデータという何もない静かな電子の海だけであり、常時覗き見や情報の改ざんに対処するためにウィルスサーチをしている『要塞』のデータ群に入り込むことなど容易くは出来ないだろう。
・・・・・・・・死にかけの身体を、死なない様にというただ一人の願いの為に肉体を亡くしたのがナターシャという存在ではあるが、そんな彼女でも骨が折れることだろう、とケンジは思ってしまう。
ただ生かす、というただそれだけの為にデータの中に生き返らせたというのは何と言うのか。
それはケンジには分からない。
だが、一つだけ分かっていることがあるとすれば、きっとそうしたことには愛嬢等といったモノがあったのだろう。
・・・・・・・・・・・・・そうしたモノにはケンジは疎いので分からなかったが。
閑話休題。
しかし、そうした完全無欠の鉄壁としか言うことが出来ない『要塞』に攻め込む、いや、攻め込もうと思うこと自体がケンジには考えられなかった。
そう。
それを一言で言うなれば。
『バカじゃねぇの?』
ただその一言に尽きてしまう。
そんな彼にレオナは賛同するかのように頷きかけ・・・・・・・。
「・・・・・・・・・・マスター。そうは思っていたとしても仰るのはどうかと思いますが。」
顔を被っているフードで隠しているためにレオナがどの様な表情をしながらそう言っているのか、彼女ではない人間には分からないが、恐らくは苦笑するような表情でいるのだろう。
たぶん。
きっと。
メイビー。
『だってそうだろ?「バカするヤツらでお馴染みの旅団」でさえ、あの完全武装の「要塞」に攻撃しようだなんて思わねぇもん。・・・・・・・・ありったけの武装で武装したとしても突入できるかどうか、怪しいしな・・・・・・・。』
そうした彼の言葉を聞くと、そんな彼の言葉を疑問に思ったのかケイトが訊いてくる。
「・・・・・・・・・・・・?・・・・・・・・・・・チーフでも難しいの?」
『あぁ。・・・・・・・というよりかだな。あの「要塞」の中に「旅団」じゃない普通の「プレイヤー」を引き篭もらせようと思って万が一にでもモンスターの氾濫が起きた場合でも全然大丈夫なように・・・・・・・・・・・って考えた結果、ロマン武器・・・・・・・ゲフンゲフン、武装を詰め込み過ぎた結果なんだがな。』
その結果。
『「旅団」の「遊び慣れてるプレイヤー」の総攻撃でも全然ビクともしねぇとんでもねぇもんが出来たわけだが。』
そう言い切ったケンジの言葉をレオナが引き継ぐ様に言った。
「となりますと・・・・・私たちが参加する意味は・・・・・・・・・・。」
ああ、と彼は彼女の言葉に頷いた。
『ないだろうな・・・・・・・・・・。』
だが。
『起きるかもしれないっていうもしや万が一ってのが起こらないとは限らないし。それを言えば、起こり得ない可能性のせいで今こうして話してる俺もいるわけだしな。』
ケンジの言葉に、レオナとケイトは非常に気まずい空気になったことに対してどう対処するか悩むように眉間にしわを寄せたのだった。・・・・・・・・・レオナの表情は分からなかったが、恐らくはしているのだろう。
たぶん。
きっと。
メイビー。
『とすると、だ。・・・・・・・「ヒューマン」と「メカノイス」が互いにぶつかり合う様に仕向けて喜ぶ奴がいる可能性もなくはないな・・・・・・・・・。』
ふむ、と考えるケンジの顔を二人は疑問に思った様子で見る。
「あの、マスター。それはつまり・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・潰し合う様にしてるヤツがいる?」
レオナとケイトの疑問に答える様にケンジは答えた。
『まぁな。・・・・・・・・・・って言っても、俺の考えすぎかもしれねぇが。』
そう考えると。
『ぶつかり合う時にそうなる様に仕向けたクソが接触してくる可能性があるな・・・・・・・。そう、考えとけば・・・・・・・・・・・一応、俺らも踏み込んだ方が良いか・・・・・・?▽だけにはちょいと荷がきついだろうし・・・・・・。でもなぁ、いちいち「要塞」に来るか?・・・・・・・・いや、きっと来る。・・・・・・そうなればあの「俺ら旅団が作った最高傑作」をどうにか出来るって思ってるんだろう・・・・・・・。となると、やっぱり▽には荷がきついよな・・・・・・・・。・・・・・・・・・よし、そうと決まれば、だ!!』
ぼそぼそと一人だけ思考をする様に独り言を呟き始めたケンジは突如として顔を二人の方に向けると、決意を露わにしたのだった。
『レオナ。』
フードを深く被っている美しい銀髪をしている女性を見ながら彼女の名を言った。
『ケイト。』
短くなった緑色の髪を揺らす女性に顔の向きを移しながら名前を彼女の名前を呼んだ。
『エルミアのバカを助けに遊びに行くぞ。』
そう言ったケンジの言葉を予想通りといった具合で二人は互いの顔を交互に見やるとケンジの方に顔を向かせて応えたのだった。
「ja。我が主たる貴方が行かれる場所に付いて来いと申されるのであれば、喜んでご一緒致しましょう。たとえ、我が身が尽きようとも、私の魂は貴方と共にいます。」
ですので。
「その遊び、喜んでお付き合い致しましょう。」
自身の胸に手を置きながらレオナが応えるのに合わせる様にケイトも同じ言葉を言うように応えた。
「・・・・・・・・・・・・ja。・・・・・・・・・・私もレオナと同じ。・・・・・・・チーフが行く所が私のいく場所。」
・・・・・・・・・・・・だったら。
「・・・・・・・・・・・・私もついていくよ?・・・・・・・・・・・いいよね、チーフ?」
二人の言葉をケンジは聞くと、予想通りの言葉だったのか、彼は嬉しそうに言ったのだった。
『そいつは何よりだ。嬉しいぜ、お前ら。・・・・・・だが、そうすると、だ。』
彼は悩むように顎に手を置き考えながら呟く。
『一応は持てる分だけの完全武装でいくか?・・・・・・・いや、でもな。そうすると重くて移動するのが面倒くさくなっちまう。・・・・・・・・そう考えると、軽くしてくか。そうだな・・・・・・・。「要塞」の方にも武器はあるだろ。』
よし!!と何か方針が定まったのかケンジは隅の方に歩いていくと、そこに置いてあった挽き肉製造機付きの盾を手に持つと左腕に取り付けて、二人の方を見る様に振り返りながら思いを新たにする様に言ったのだった。
『レオナ、ケイト!!!』
二人の名を呼ぶと一瞬だけ間を開け・・・・・・・・。
『遊びに行くぞ!!!』
ケンジの言葉に二人は頷いて言った。
「ja、マスター!!!いいですとも!!!」
「・・・・・・・・・・・・ん。・・・・・・・・・・・ja。・・・・・・・付き合うよ、チーフ。・・・・・・・・・地獄だろうと何処でも。・・・・・・・・・・それが私たちの役割だから。」
ケイトの言葉にレオナは頷くと、思い出したかのように言ったのだった。
「あっ。となりますと、店の方はどうしましょう?留守が誰もいないとなりますと、困る方が・・・。」
「・・・・・・・・・・・・来ない人がいない店を閉めてようが開けてようが関係ない。・・・・・・・・と思うよ?・・・・・・・・・・どうせ誰も来ないんだし。」
ケイトの言葉にケンジは肩を落とす。
『誰も来ないからってそう言うのはやめろよ、ケイト。・・・・・・・・・・「旅団」の連中がいた時は客足だってそこそこはあったんだぞ・・・・・・?』
だが、そう言ったケンジの言葉にケイトは静かに容赦なくツッコミを入れる。
「・・・・・・・・・・・・でも、そこそこだよね?・・・・・・・・・・だったら意味ないと思うよ?」
『お前な・・・・・・・・・・・・・・・。』
容赦なく呟かれたケイトの言葉にケンジは怒りを感じるのだが、言い返すことが出来ずに黙るのだった。
そこでは白い鋼の装甲に身を包んだ『機械人種』であるケンジと、『人類種』のレオナ、『精霊人種』のケイト、三人がいた。
ケンジを除いたレオナとケイトの二人は静かにクッキーを食べていた。
その二人から離れた場所でただ一人、ケンジは黙々と銃の整備を行っていた。
一つ整備が終わっては横において、もう片方で山になっているところからまた一つ取り出して分解してから一つの銃の形に戻すと言った作業(と思うのか分からないこと)をしていた。
離れた場所で行うケンジに嫌気がさしたのか、レオナはため息を静かに吐くと、彼の方に顔を向けた。
「あのですね、マスター。昨日からその作業ばかりしておられる様ですが、時には身体を休ませなければ・・・・・・・・・。」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・あ?そうは言うけど、お前まだそんなに言う程はまだやってねぇよ?』
「私が居なかった間はやっていたでしょう!!!」
ケンジの言葉を聞くと彼女は突然怒った様子で怒鳴ったのだが、どう言った意味合いでレオナが怒鳴ったのか、ケンジには分からなかった様子だった。外野で見ていたケイトには、レオナは彼女にしては珍しく怒った様子で怒鳴ったが、彼には分からなかった様子にケイトには見えた。
そんなレオナにケンジは気圧された様子ではあったが、彼女を宥める様に両手で抑える様にと合図を出しながら言ったのだった。
『あ、あのですね、レオナさん。』
「・・・・・・・・ja。なんです、マスター?」
多少は冷静になったのか、多少は声を荒げることなく彼女が応えたことにケンジはほっと安心する。
・・・・・・・・・・それでもまだ多少といった程度のことであって、丁寧すぎる彼女の口から出た言葉にしては荒かったのだが。そこは触れぬが仏であろう、そう彼は思って言葉を続ける。
『この前の戦闘で、自分少しばかり出しゃばったじゃないですか。』
「貴方にしては抑えていた方だと思いますけど?」
休むことなく出される言葉にケンジは一瞬、言葉が出なくなってしまう。だが、ここで止まれば、彼女は勢いに乗って反撃してくるだろう。そう思い、彼は続けるようにして言った。
『ま、まぁそうなんですけどね。ですけど、自分にとっては久しぶりの大規模戦闘だったわけですよ。』
「でしょうね。」
『久しぶり過ぎて仕舞っておいたコレクションを引っ張り出したのはいいんです。いいんですけど、そこで問題がおきましてね。』
「ja。聞きましょう。」
レオナが少し冷静になってきたことをケンジは感じると勝負に出た。
『そのですね。自分が手直しをしないといけなくなったわけでして。そうしたのにメンテをしてもこれがいくつか使えなくなった欠陥品が多いモノで全体をとりあえず全部を確認してみようと思った次第です、はい。』
ですので。
『出来れば、その、続きをさせてもらいたいんですが・・・・・・・・・・・・。』
ケンジはそう言い終わると、彼女の方をじっくりと見た。
彼女が怒る理由も、ケンジには、まぁ、分からなくもない。休みを取る様にと心配して言ってくれることも分かる。
分かるのだが・・・・・・・それはそれ、これはこれ、と別にして考えても貰わないといけない。
今、こうしているのも、もしや万が一といった起こり得る可能性が最も低いことが起きているのだ。
ケンジとしては、もう既に起きてしまったことはもう仕方がないとしても、これ以上に起こるかもしれない事態に備えておきたいというのが本心だった。
『このゲームの世界に張り込んでしまった現代人』が動けなかったのもログアウト不能という事態が起こり得ない事態だと思っていたためにすぐに動くことは出来なかったのだ。
ケンジ達、『機械人種』をキャラクターに設定していた『プレイヤー』たち、後に『スパルタン』と呼ばれる者たちもそうした事態が起こる等とは思ってはいなかった。
故に誰もが簡単に死ぬこの世界を楽しんでいたのだが。
レオナの返事を待ちながらもケンジはただただ、自身が使う銃器のメンテナンスを行っていた。
最初は、この銃器も使おうと、作ろうともしなかった。
何故ならば、戦えるものがあればそれでいいからだ。
戦えるのであれば考えなくてもいい。
だが、悲しいかな、人間とは考える生き物なのだ。
使える武器も単発しか撃てない少数向けの必殺武器しかない状態で死ぬ
モノが増えてしまえば、どうした方が良いか、考えてしまうのだ。
それ故に、ケンジやレオナが右腕に装備しているモノはただ一発しか撃てはしないが、放たれた弾丸を防ぐことは何者でも出来ないというたった一つの必殺武器であった。
その名は、フォトンライフル。
『プレイヤー』が装備できる唯一の必殺武器であり、『プレイヤー』でしか持てない武器であった。
たった一つの武器。
それを作ろうと思っても銃器製造と弾の生成方法が全く分からないという全くもってファンタジーとしか言えない銃器であったが、それでも方法はあった。
そうだ。
一から作るではなく作られたモノを加工すればいい、ただそれだけだ。
ケンジが使っているのは自身が持っていたライフルを加工したものではあるが、レオナは違った。
レオナは『プレイヤー』ではない『サポートキャラ』でしかない。
そう。
持っていない以上は譲り受けてもらうほかないのだ。
大抵の考えを持つ者であれば、ここでケンジたちは非合法なやり方で手に入れたと思うだろうが、きちんとした合法の手続きで譲り受けたモノだとここで一度言っておこう。
閑話休題。
ケンジが話し終わると、レオナは分かったという様に片手を振った。
「ja。分かりました、分かりましたよ、マスター。貴方がそこまで仰るのであればとやかくは言いません。」
『分かってくれたか!!!』
ケンジの言葉を聞くと、彼女は渋々と言った具合で頷いてみせた。
「ja。・・・・・・・・ですが、一つだけ約束してください。」
『約束?』
「ja。簡単な約束です。」
レオナが言う約束がどんなものだろうかとケンジが考えている間に彼女は彼のすぐ傍まで寄って来ていてケンジの頬に指を当てながら言ったのだった。
「これらの整備が終わったら、しっかりと身体を休まれてください。・・・・・・・いいですね?」
『・・・・・・・・・えっ。そんなんでいいのか?』
もっときついなにかを言われるのでは、とケンジが警戒していただけにレオナからまさかそんな簡単なことを言われたのが予想外だという様に彼は言ったが、そう言った彼に彼女は確かめる様に言った。
「ja。それだけです、マスター。・・・・・・・・分かりましたか?」
『お、おぅ。分かった。・・・・・・・善処する。』
「それ以外の言葉で。」
『それ以外・・・・・・?あ~、ちゃんと休むよ?』
「・・・・・・・・出来ればもう少し工夫をしてもらいたかったのですが。まぁ、いいでしょう。ja、分かりました。」
彼女は彼の言葉を聞くと、渋々といった具合で頷くと先程彼女がいた席まで下がったのだった。そんな彼女を見ながら、ケンジは、女って生き物は怖いねぇ~、と思いながら休んでいた整備を再開するのだった。
そうして一つの銃器のメンテナンスが終わるとケンジは再び、もう既に整備が完了している銃器の山に手元で確認をしていた銃器を置くと、反対側にあった山から銃器を取り出して、再び整備を行ったのだった。
その様子をレオナは見ると、一度だけ深くため息を吐いてケイトの方を見たのだった。
「ケイト。貴女の方からもなにか言ってください。私では無理なようですので。」
「・・・・・・・・・・・nien。・・・・・・・・・・・・・だったら無理。」
彼女はレオナからの提案を蹴ると、いつの間にか持っていた食べ物が入った袋に手を入れながらそう答えた。レオナはその袋をどこから持ってきたのかということを訊きそうになるのを心の内で必死に抑えると、極めて冷静になろうと努めながら再び彼女に訊ねた。
「その、何故か理由を訊いても?」
「・・・・・・・・・・・レオナが止めようとして出来なかった。・・・・・・・チーフを知っているレオナが。・・・・・・・・・・・・だったら、私が止めようとしてもきっと無理。」
「ですが、それは仮定の話であって・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・nein。・・・・・・・・・これは仮定じゃない。・・・・・・・・・確定事項。」
・・・・・・・・・・・・だから無理。
そう言って、ケイトは言葉を終わらせて、袋に入れた手を引き抜いて、手に握ったそれを食べたのだった。
それは何か奇妙な形をしたなにかだった。
レオナにはそれが食べ物である様には見えなかったのだが、それを何も言わずに食べる口の動きを休めることなく動かしているということは、きっと食べ物なのだろう、とレオナは思うことにしたのだった。
そんなことをしていると全ての銃器のメンテナンス(という名の何か)が終わったのかケンジは大きく伸びをすると立ち上がった。
『・・・・・・・・・・・っくぅ~・・・・・・・・、あ~、終わった終わった。ったく、クソッたれが。俺が作った銃器を思い切り踏みやがって。整備するこっちの身にもなれってんだ。』
「・・・・・・・・・・・そうは言っても、チーフ。・・・・・・・・・・・・踏まれる様な場所に置いたのはチーフじゃないかな?」
ケンジの言葉に対してケイトは静かに指摘するが、彼は彼なりで分かっているらしく、あえて聞こえていない様なフリをしたのだった。
そんなケンジにレオナはいつの間に準備したのか分からなかったが、静かに彼の座る席にコトッと水が入ったコップを置いたのだった。
「お疲れ様です、マスター。」
『お?レオナか。悪いな。』
「いえいえ。私など大したことは。コンロは爆発してしまうので生水しか用意できませんが。」
『なぁ~に、言ってるんだ。水くらいでも飲み物を用意してくれるんだ。誰が文句言うか。』
出来れば、茶っ葉が入った入れ物とかがあればいいかもしれんがな。
口には出さずにケンジは心の中で静かに呟きながら彼女が持ってきたコップに口を付けたのだった。
口を付けたのを確認すると、レオナはケンジから離れる。
内心で、相変わらずクソ不味いなこの水、と思いながら、ケンジは身体の向き二人がいる席の方へと変えた。
『んで、レオナ。「帝国」の方はどうだった?なんかあったんだろ?』
レオナはケイトの前にコップを置きながらケンジの問いに答えた。
「nein。これといったものは特に。」
『特に?ってことは、特にってこと以外ではあったんだな?』
「ja。・・・・・・・・・というよりは限りなくないと申すことですが。」
ケンジに話してもいいか?と彼女は訊いてきたので、ケンジは話しを進めるために片手をどうぞ、という具合で出して話を促した。
「ja。それでは、話します。・・・・・・・・・・つい、この前に『ヒューマン』と『メタノイス』が揉め事を起こしていて、それにエルミアが加わる話になっているとのお話をしたと思います。」
ですが。
「そもそもの話、私とケイトの二人には参加する理由もありませんので傍観に徹しようと思っていたのですが、先程、将軍閣下からお声が掛かりまして。」
『お前、それって特にじゃなくね・・・・・・・・・・・?』
「私にとってはこれといって特筆することではありませんので。貴方が、マスターを相手に、と言うのであれば、排除するのみですので。」
そう言いながら、微笑むように答える彼女に対し、ケンジはフードとか取ってなくて良かったぁ、と彼女にフード付きの暗殺者仕様の装備を渡してて良かったと思っていたのだった。
そんなケンジを他所にケイトは彼女に訊いた。
「・・・・・・・・・・・・・それで?・・・・・・・・・・参加するの?」
「まさか。」
ケイトの問いを笑う様にレオナは答えた。
「マスターが参加なされるというのであれば、話は別ですが。・・・・・・私のみ参加となればしないに決まっているでしょう。」
「・・・・・・・・・・・・・なんで?」
ケイトの疑問にレオナは最初に、いいですか?と先に口にしてから言葉を続けた。
「『帝国騎士団』の練度では『メタノイス』相手をしようにもそもそも話になりません。」
それにですね。
「エルミアの他に▽と『旅団』の方々お手製の『要塞』があります。手を貸さなくても『騎士団』の敗北は目に見るより明らかです。であれば、手を貸す必要もない上に、私たち同士で戦わなくてもいいではありませんか。とするならば、参加する理由はないのです。」
「・・・・・・・・・・・・・成る程。」
賛成するようにケイトは言った。
だが、ケンジには流してはならないワードが聞こえたので、彼女たちの会話に参加する様にレオナに確認をするのだった。
『ちょっと待て。レオナ、お前、デルタって言ったか?』
「ja。言いましたが?」
『一応、確認するんだが、そのデルタってのは逆三角陣形とかじゃなくて、お前らと同じ「キャラクター」のデルタか?』
「ja。その▽しかいないと思いますが?」
レオナの解答にケンジは安堵したかのように呟くのだった。
『そうか。あのガンカタバカはまだ生きてやがったか・・・・・・・・・・。それに「要塞」ってことは・・・・・・・・・ハハハ。「旅団」の連中で一から組み立てた引き籠もる専用の完全無欠の城塞があるってことか。・・・・・・・・・・そんなとこに突っ込もうってか。』
というより、レオナ。
『「騎士団」って連中、改めて思うが・・・・・・・・・・・バカだろ。』
ケンジの言葉にレオナはただ一つため息をすることで応えた。
「貴方がそう思うのも分かりますが・・・・・・・・・・・、そう言ってあげるのは過酷かと存じますよ、マスター」
『え~、そうは言うけどよ。あの「要塞」を作った「旅団」が言えた義理じゃねぇけど、あれを突破するってなると、レベルが五桁あっても、数が万はいないと突破できねぇぞ?』
レオナの言葉にケンジは懐かしいな、と懐かしさを感じながら答えるのだった。
先程からレオナとケンジが言う『要塞』というのは、かつてケンジ達、七人の集まり『旅団』が起こり得るもしや万が一といった場合に備えて思いつく限りありたっけの完全武装を施した『完全武装要塞』のことである。その武装は『リシュエント帝国』やケンジたち、三人が今いる『日常と戦撃の箱庭亭』を守る様に配置されている四基の『ガンズタレット』とは比較にならない程多く、射程も長い。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・最も『ガンズタレット』もケンジが知り得る中では、コントロールが必要なモノ全てを統治している人物を除けば、どこにもないことになり、『要塞』にある武装群は圧倒的に長い射程を持っている武装群になると言っても過言ではない。
レオナやケイト二人の言葉を聞く限りでは、『帝国騎士団』、いや、『ヒューマン』全体で言わせてもらえば銃器を使わない限りは敗北は確定されたと言ってもおかしくはない。
まぁ、データという情報群をただ漂うだけのナターシャに要請をすれば、勝利は約束された様なものである。・・・・・・・・・・と言っても、ナターシャが泳げるのはデータという何もない静かな電子の海だけであり、常時覗き見や情報の改ざんに対処するためにウィルスサーチをしている『要塞』のデータ群に入り込むことなど容易くは出来ないだろう。
・・・・・・・・死にかけの身体を、死なない様にというただ一人の願いの為に肉体を亡くしたのがナターシャという存在ではあるが、そんな彼女でも骨が折れることだろう、とケンジは思ってしまう。
ただ生かす、というただそれだけの為にデータの中に生き返らせたというのは何と言うのか。
それはケンジには分からない。
だが、一つだけ分かっていることがあるとすれば、きっとそうしたことには愛嬢等といったモノがあったのだろう。
・・・・・・・・・・・・・そうしたモノにはケンジは疎いので分からなかったが。
閑話休題。
しかし、そうした完全無欠の鉄壁としか言うことが出来ない『要塞』に攻め込む、いや、攻め込もうと思うこと自体がケンジには考えられなかった。
そう。
それを一言で言うなれば。
『バカじゃねぇの?』
ただその一言に尽きてしまう。
そんな彼にレオナは賛同するかのように頷きかけ・・・・・・・。
「・・・・・・・・・・マスター。そうは思っていたとしても仰るのはどうかと思いますが。」
顔を被っているフードで隠しているためにレオナがどの様な表情をしながらそう言っているのか、彼女ではない人間には分からないが、恐らくは苦笑するような表情でいるのだろう。
たぶん。
きっと。
メイビー。
『だってそうだろ?「バカするヤツらでお馴染みの旅団」でさえ、あの完全武装の「要塞」に攻撃しようだなんて思わねぇもん。・・・・・・・・ありったけの武装で武装したとしても突入できるかどうか、怪しいしな・・・・・・・。』
そうした彼の言葉を聞くと、そんな彼の言葉を疑問に思ったのかケイトが訊いてくる。
「・・・・・・・・・・・・?・・・・・・・・・・・チーフでも難しいの?」
『あぁ。・・・・・・・というよりかだな。あの「要塞」の中に「旅団」じゃない普通の「プレイヤー」を引き篭もらせようと思って万が一にでもモンスターの氾濫が起きた場合でも全然大丈夫なように・・・・・・・・・・・って考えた結果、ロマン武器・・・・・・・ゲフンゲフン、武装を詰め込み過ぎた結果なんだがな。』
その結果。
『「旅団」の「遊び慣れてるプレイヤー」の総攻撃でも全然ビクともしねぇとんでもねぇもんが出来たわけだが。』
そう言い切ったケンジの言葉をレオナが引き継ぐ様に言った。
「となりますと・・・・・私たちが参加する意味は・・・・・・・・・・。」
ああ、と彼は彼女の言葉に頷いた。
『ないだろうな・・・・・・・・・・。』
だが。
『起きるかもしれないっていうもしや万が一ってのが起こらないとは限らないし。それを言えば、起こり得ない可能性のせいで今こうして話してる俺もいるわけだしな。』
ケンジの言葉に、レオナとケイトは非常に気まずい空気になったことに対してどう対処するか悩むように眉間にしわを寄せたのだった。・・・・・・・・・レオナの表情は分からなかったが、恐らくはしているのだろう。
たぶん。
きっと。
メイビー。
『とすると、だ。・・・・・・・「ヒューマン」と「メカノイス」が互いにぶつかり合う様に仕向けて喜ぶ奴がいる可能性もなくはないな・・・・・・・・・。』
ふむ、と考えるケンジの顔を二人は疑問に思った様子で見る。
「あの、マスター。それはつまり・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・潰し合う様にしてるヤツがいる?」
レオナとケイトの疑問に答える様にケンジは答えた。
『まぁな。・・・・・・・・・・って言っても、俺の考えすぎかもしれねぇが。』
そう考えると。
『ぶつかり合う時にそうなる様に仕向けたクソが接触してくる可能性があるな・・・・・・・。そう、考えとけば・・・・・・・・・・・一応、俺らも踏み込んだ方が良いか・・・・・・?▽だけにはちょいと荷がきついだろうし・・・・・・。でもなぁ、いちいち「要塞」に来るか?・・・・・・・・いや、きっと来る。・・・・・・そうなればあの「俺ら旅団が作った最高傑作」をどうにか出来るって思ってるんだろう・・・・・・・。となると、やっぱり▽には荷がきついよな・・・・・・・・。・・・・・・・・・よし、そうと決まれば、だ!!』
ぼそぼそと一人だけ思考をする様に独り言を呟き始めたケンジは突如として顔を二人の方に向けると、決意を露わにしたのだった。
『レオナ。』
フードを深く被っている美しい銀髪をしている女性を見ながら彼女の名を言った。
『ケイト。』
短くなった緑色の髪を揺らす女性に顔の向きを移しながら名前を彼女の名前を呼んだ。
『エルミアのバカを助けに遊びに行くぞ。』
そう言ったケンジの言葉を予想通りといった具合で二人は互いの顔を交互に見やるとケンジの方に顔を向かせて応えたのだった。
「ja。我が主たる貴方が行かれる場所に付いて来いと申されるのであれば、喜んでご一緒致しましょう。たとえ、我が身が尽きようとも、私の魂は貴方と共にいます。」
ですので。
「その遊び、喜んでお付き合い致しましょう。」
自身の胸に手を置きながらレオナが応えるのに合わせる様にケイトも同じ言葉を言うように応えた。
「・・・・・・・・・・・・ja。・・・・・・・・・・私もレオナと同じ。・・・・・・・チーフが行く所が私のいく場所。」
・・・・・・・・・・・・だったら。
「・・・・・・・・・・・・私もついていくよ?・・・・・・・・・・・いいよね、チーフ?」
二人の言葉をケンジは聞くと、予想通りの言葉だったのか、彼は嬉しそうに言ったのだった。
『そいつは何よりだ。嬉しいぜ、お前ら。・・・・・・だが、そうすると、だ。』
彼は悩むように顎に手を置き考えながら呟く。
『一応は持てる分だけの完全武装でいくか?・・・・・・・いや、でもな。そうすると重くて移動するのが面倒くさくなっちまう。・・・・・・・・そう考えると、軽くしてくか。そうだな・・・・・・・。「要塞」の方にも武器はあるだろ。』
よし!!と何か方針が定まったのかケンジは隅の方に歩いていくと、そこに置いてあった挽き肉製造機付きの盾を手に持つと左腕に取り付けて、二人の方を見る様に振り返りながら思いを新たにする様に言ったのだった。
『レオナ、ケイト!!!』
二人の名を呼ぶと一瞬だけ間を開け・・・・・・・・。
『遊びに行くぞ!!!』
ケンジの言葉に二人は頷いて言った。
「ja、マスター!!!いいですとも!!!」
「・・・・・・・・・・・・ん。・・・・・・・・・・・ja。・・・・・・・付き合うよ、チーフ。・・・・・・・・・地獄だろうと何処でも。・・・・・・・・・・それが私たちの役割だから。」
ケイトの言葉にレオナは頷くと、思い出したかのように言ったのだった。
「あっ。となりますと、店の方はどうしましょう?留守が誰もいないとなりますと、困る方が・・・。」
「・・・・・・・・・・・・来ない人がいない店を閉めてようが開けてようが関係ない。・・・・・・・・と思うよ?・・・・・・・・・・どうせ誰も来ないんだし。」
ケイトの言葉にケンジは肩を落とす。
『誰も来ないからってそう言うのはやめろよ、ケイト。・・・・・・・・・・「旅団」の連中がいた時は客足だってそこそこはあったんだぞ・・・・・・?』
だが、そう言ったケンジの言葉にケイトは静かに容赦なくツッコミを入れる。
「・・・・・・・・・・・・でも、そこそこだよね?・・・・・・・・・・だったら意味ないと思うよ?」
『お前な・・・・・・・・・・・・・・・。』
容赦なく呟かれたケイトの言葉にケンジは怒りを感じるのだが、言い返すことが出来ずに黙るのだった。
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