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第二章
パワード・セブン 第六話
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「えっと、何でしょうか、柳宮一佐。」
「一佐と呼ばれるのは、心外だなぁ。今は単なる一般人ですよ、佐藤先生。」
「な、なるほど。」
目の前にいる人物、柳宮鉄也の発する殺気に似たオーラに、友梨佳はハハハ、と乾いた笑いをする位しか出来なかった。一般人とは言うが、宮内庁に関わっている上に、陸上自衛隊の現一等陸佐であって、自由に動き回れて、いろいろできることが許されている時点でそれはもう怖いことこの上なかった。友梨佳自身としては『パワード・セブン』の実務運用が可能であるかどうかの確認の為にこの破鋼高等学校に潜入したのだが、それでまさか、日本という国が触れなかった一線に触れてしまうことになるとは思わなかったと友梨佳は思っていた。触れなかったと言っても政府からも何も言われなかっただけなのだが。まぁ、柳宮という苗字を見つけた時点でこういう風になるのは予測は出来ることであった。
「それで、息子に何か用があるのかな、佐藤二等陸尉?」
「なぜ、それを?」
「訊いているのは私だよ、佐藤二尉。それで?国からの指示かね?」
「じ、実地運用の確認と報告です。」
ほぅ、と友梨佳の言葉に相槌を打つ鉄也であったが、友梨佳からは何か恐ろしいことをされるのではないかと気が気ではなかった。
「と、いうと、だ。」
「はい?」
「あの『ハガネイラー』というおもちゃについては何か知っているのか?」
「えっと、失礼ですが、一等陸佐のご指示では?」
「いや?私は散歩に行っていたから、知らないんだ。」
「散歩、ですか?」
「ああ。米国からF-35を借りて、テロリストの連中を埋めてくるだけの簡単な散歩だ。帰ってくる途中で足を失くしてね。ま、失った分を貰って、防衛省に渡して返してきたんだが。」
ハッハッハ、私も腕が落ちたもんだ、と乾いた笑いをする鉄也を友梨佳は化け物でも見るかのような目で見ていた。
F-35と言えば、全世界中を見てもいまだに開発されていない垂直離着陸という技術が使われている最新鋭の機体だ。それを借りたというのは、まぁ、鉄也の腕を聞いたことがある者ならば、普通に納得する。あぁ、またか、と。それに、それが堕されたというのはまぁ、分からなくもない。彼は航空自衛隊の自衛官ではなく、陸上自衛隊という陸上のエキスパートなのだから。そんな彼が撃墜された、と言うのはまだ分かるが、撃墜されたうえに貰ってきたというのは、出来れば分かりたくはないと考える友梨佳であった。まぁ、本当に困っているのは友梨佳ではなく、防衛省に勤めている職員であろう。どこかに行ってきたと思ったら、米軍機を持ってきて渡されたのだから。普通そんなことは起こらないのだが、この人にとっては普通のことであるらしい。
「それで、話は戻るんだが。」
「『ハガネイラー』、いえ、破鋼宮子さんたちのことですね。」
「破鋼・・・・・・・・・・というと・・・・・・・。」
「はい。ここの学園長のお孫さんです。」
「孫が大事過ぎて、おもちゃを与える。・・・・・・・・・気持ちは分からなくもないが、・・・・・・・・・・・なぁ?」
「結婚はまだなので、分かりかねます。」
「おっと、それは失敬。」
まだ独り身だと言った友梨佳に鉄也はすぐに謝罪する。
「だが、勇一に拘る理由はなんだ?」
「独占欲・・・・・・・・でしょうか?」
「いや、それはないだろう。もし、そうならば、息子のことが好きすぎてたまらんと言う様にぴったり傍に付いている星川さんのことを目の敵にするはずだ。」
「では・・・・・・・・?」
「だとすれば、『ハガネイラー』という実力での行使と言うのは理由がない。『ハガネイラー』を使えば、息子は『パワード・セブン』に成らなくていけない。その為には、星川さんの力が必要だ。とすれば、余計に二人の仲が深まる。・・・・・・・・・そうは思わないか?」
「『パワード・セブン』は七人の力があって初めて使えるモノです。星川さん一人だけではありませんが?」
「ああ、確かにそうだ。だが、ほかの六人と勇一の仲は良いからな。であれば、星川さんは勇一を知り、仲を深くすれば良いだけだ。そうは思わないか?」
「他の六人を排除しようとは思わないのでしょうか?」
「さっき、自分で言ってたぞ、二尉。『パワード・セブン』は七人いなければ上手く機能はせんとな。」
「だとすると・・・・・・・・・・。」
「星川さんは他の六人をどうにかしようと言うよりかは、柳宮勇一という人間を知りたいと思っているのではないだろうか?」
「なぜです?なぜ知ろうと・・・・・・・・・・?」
「さぁてな。少なくとも、我々がそれを深く突く問題ではないだろうな。」
「突く問題ではない?なぜ・・・・・・・?」
「恋を邪魔するものは馬に蹴れる。よく覚えておけ、二尉。」
「えっ?」
友梨佳の疑問に鉄也はどこか黄昏る様に窓から外の様子を見つめながら、友梨佳の疑問に答える。だが、友梨佳は鉄也の言った言葉の意味が分からずに、疑問の声を出す。そんな声を出した友梨佳に鉄也は友梨佳に顔を向けて二カッと爽やかに笑う。
「二尉の恋はまだ長いな。」
「なにがです?」
いや、こちらの話だ、と友梨佳の肩を叩いてその場を離れる様に鉄也は歩き出す。
「では、国は関係ないんだな?」
外に出る前に、扉に手を置いて友梨佳に鉄也は疑問をぶつける。友梨佳はその疑問にどう答えるべきか少し悩んで一瞬、間を置いて答えた。
「少なくとも、自分が聞いているのはもしも『パワード・セブン』が動くこととなった場合は実地での試験ということで精査しろ、と言われただけです。ですので、彼らに対しては、普通の教師として当たることにしています。」
「そうか。それは自衛官としてか?」
「いえ、佐藤友梨佳個人として、です。」
「であれば、本日は私個人にお時間を割いていただき感謝します、と言おうか。うん?佐藤二等陸尉。」
「いえいえ、こちらこそいいお話を聞かせていただき、ありがとうございます。柳宮一等陸佐。」
「ハッハッハ。感謝するのは私の方ですよ、佐藤先生。」
「いえ。お子さんは私が見ますよ、柳宮さん。学校にいる間、預かるのは学校として当たり前じゃないですか。」
それもそうか、ハッハッハ、と笑いながら鉄也は教室を後にする。友梨佳はどっと疲れたという様に椅子にぐったりと座る。なにあの人怖い、と鉄也と話せていた自分によくやったと自身を褒める様に自身の肩を抱き締める。
柳宮鉄也、噂には聞いてはいた。
かの人曰く、『日本国内で突いたらいけない人』、だと。
かの人曰く、『日本国内で自由で何にも縛られない人』、だと。
かの人曰く、『皇帝陛下の指示以外は受け付けない人』、だと。
かの人曰く、『怒らせたら死より怖い目に会わせる人』、だと。
とんでもない人を相手にしちゃったなぁ~と、そう思う友梨佳は、外でクラスの生徒とドッジボールをしている問題児をちらりと窓から見る。
国も国でとんでもない任務を友梨佳に与えたわけだが、一番の問題は事の発端である国外のテロリストである。彼らが勇一たちが乗っていた旅客機を撃墜しなければ、自分がこんな高校に来ることもなかったし、職員になるための教員免許を受けずに済んだのだ。
情報管理において実務に明け暮れていて情報の精査に関して腕がある友梨佳に白羽の矢が当たった時は、この仕事をやってて良かった!これで楽が出来る!やったね!と量が多すぎる情報精査の仕事におさらば出来たと思っていたのだが、それがまさかこんな問題児がいる学校への赴任と問題児の監視だとは夢にも思ってはいなかった。出来れば、夢であってほしいと友梨佳は思った。そんなことを思いながら、呆然と空を飛んだり、大地を走らずに浮かんで避けている問題児たちをどうしたものかなぁ、と友梨佳は気楽に考えていた。
「ドッジボール?」
「えぇ。『パワード・セブン』と『ハガネイラー』が日々を戦いに費やすというのは如何かと思いましてね。それならば、クラス全員で出来る何かをした方が良いと思いまして。何か用事でもおありかしら?」
「いや、用事っつー、用事は俺はないんだが・・・・・・・・ルナ、お前は?」
「いいえ。マスターである貴方がないと言うのであれば、特にはありません。」
「・・・・・・・・だ、そうだ。」
「それは重畳。では、後ほど。グラウンドで会いましょう。」
おーっほっほっほ、と高笑いをしながらクラスを後にする宮子の後姿を目に収めると、また面倒くさくなってきた、と勇一は呑気に思いながら、隣にいる銀色の髪を揺らしている少女、ルナを見る。
「別にお前も参加しなくてもいいんだぞ?」
「いいえ、そういうわけには参りません。貴方がいるところが私がいるべき場所であり、貴方が行く場所は私が行く場所です。そこを間違えないでください。」
「間違えるなって言われてもな・・・・・・・・。」
どうしたものだろうか、と勇一は思い悩む。入学式のあの時に初めて出会ったのにも関わらずに勇一に向けてくるこの好意はどう受け取るべきであろうか。どうしたものかな、と悩んでいると、勇一に声が掛かる。
「勇一もドッジボールに行くっすか!?」
「あん?おぉ、行くぞ。」
こりゃ勝ちは貰ったも同じっすね!とガッツポーズを決めている空を他所にいつも通りに特に気合などは感じさせない様に身体をゆらゆらと揺らしているのどかは呑気に言った。
「勇一君も出るの~?」
「あぁ。声掛かったしな。」
「そっか~。空ちゃんじゃないけど、これは勝ったかな~。」
「ハッ、誰が勝たせるかってんだ!」
のどかの言葉に、ガンッと机を蹴る勢いで涼子は机の上に足を乗せる。
「言っとくがな、勇一。アタシはガキの頃からの仕返しをまだ返してないんだぜ?」
「仕返し?」
「えっ。全敗したのお前じゃん。」
「だから、何だってんだ!!」
机に載せた足をヒュッ!と鋭い風切り音が聞こえるほどの速さで振り回し、勇一に指を差す。
「全敗だろうが、なんだろうが、んなこたぁ知らねぇな!アタシが選んだ相手が勇一、てめぇだったって話だ!」
「・・・・・・・・・・って言ってもねぇ。」
「こうなった涼子はちょっとやそっとじゃ止まらないわよ。どうするの、勇。」
「止める・・・・・・しかねぇんだろうなぁ・・・・・・・。」
いやだなぁ、と肩を少し落とす勇一の肩に風音はポンと軽く手を置いた。
「全敗・・・・・・とは?と訊いても?」
「えぇ、いいわよ。って言っても、体育のテストとかでみんな必死にやってるのに勇だけは気楽に取り組んでるように見えてね。涼子は勇の態度に怒って事あるごとに勝負って挑んでるのよ。全部、負けちゃってるけどね。」
「例えば?」
「野球勝負とか百メートル走とか?でも、勇には勝ってなかったわね。」
「ほぅ?具体的にはなんでしょう?」
「勇は勇で走るというよりかは地面の上を走らずに浮いて滑空してたわね。だからじゃないけど、速いタイムとか簡単に出しちゃってね。」
「浮く?」
「滑空滑走術か?父さんに鍛えられちゃってたからな、あの頃。でも、走ってたぜ?」
「勇。一応言っとくけど、走る=浮くっていう方程式が成り立つのは、貴方と叔父さんの二人だけだと思うの。」
「いや、それはおかしい。」
風音のセリフを勇一は否定するが、その表情からは他者が見て分かる通り表情がなかった。
「おかしい?どこが?」
「いいか、風音。俺は浮いてはいないぞ?走っているだけだ。」
「えっ?」
「えっ?」
「勇。それはおかしいわ。」
「どこがだ。」
「いい?普通なら浮遊で滑空するランニングなんてものは出来ないわ。」
「えっ。出来ないの?」
「ええ。」
風音の言葉を聞いて勇一は助けを求めるかのようにルナを見る。
「浮遊滑空術って学校の必須の技術だよな?」
「マスター。残念ながら、それを必須とする日本の学校は私は知りません。海外でも同様です。・・・・・・・・・私が知らないだけかもしれませんが。」
そう言ったルナの言葉に勇一は足元が崩れる感覚に襲われる。
「なん・・・・・・だと・・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・勇一。・・・・・・・・・・ドンマイです。」
勇一の様子を見て、洋子は勇一を励ますように言ったが、静かに言った洋子の言葉は残念ながら勇一の耳には届かなかった。
「ハハハ・・・・・・・・。小学校の必須技術だとか言われて鍛えられた結果が、これとか笑おうにも笑えねぇぞ・・・・・・・。」
「・・・・・・・・なるほど、鉄也さんならやりかねないわね。」
「いや、ひっくり返って突っ込んできたトラックをひっくり返して元に戻した人っすよ?必須の技術だとか言ってやりかねないっす。」
「ま~ね~。みんな走ってるのに、勇一君が地面から浮いて前に進んだのにはびっくりしたけど~、鉄也さんのせいなら納得だね~。」
「・・・・・・・・・・・鉄也叔父さんですから。」
「とすると、お父上はそれ以上であらせられるので?」
皆の反応を見たルナは勇一に疑問をぶつける。
「父さん、走るのが面倒ってだけで、低空飛行してた戦闘機に手掛けたぞ。」
「・・・・・・・・・・・・質問した私が愚かでした。」
「そう言えば、一回高速を走ってる車の上を二人で駆けて旅行行ってきたとか言ってませんでしたっけ?」
「懐かしいな、それ。ま、結構疲れたんで旅行にはあんまならなかったかな。」
「・・・・・・・・・旅行なのに、ですか?」
「うん?ああ。旅行って言っても鍛える修行の意味合いのが主な旅行だったからな。そう言えば、最近、父さん忙しいみたいで行ってないな。」
「・・・・・・・・凄いのですね、マスターは。」
とんでもないことを勇一は言っているのに関わらず、ルナは尊敬の眼差しで勇一を見つめていた。そのルナの碧い瞳に、勇一は何か変なモノを感じてルナに言った。
「凄くはないさ。父さんがすごいだけで。」
「いえ、謙遜することはないですよ、マスター。貴方は十分に凄いと思います。自分を卑下することはありません。貴方の実力は私が知ってます。あの時に見せてくれたそのお力。それだけでも十分だと思います。貴方がご自身を卑下するのであれば、私は貴方を褒めましょう。でなければ、私は・・・・・・・・・・。」
「ルナ・・・・・・・・・?」
話していたルナの表情になにか暗いモノが浮かび、勇一はルナに声をかける。その勇一が掛けた声にハッとする様にルナは顔を上げる。
「いえ、なんでもありません。」
そう言ったルナの言葉が会話の区切りとなったのか、クラスから生徒たちが外へと出ていく。その様子を見て、勇一は早く来いよ、とルナに声を掛けると外へと向かっていく。
「そう、なんでもありません。」
そう静かに繰り返して言うルナの言葉に反応する者は誰もいなかった。誰の耳にも届かなかった。
「よっしゃ、今までの分、そっくりそのまま返してやるぜ!覚悟しろ、勇一!」
「ハッ!何言ってやがる!言うのは勝手だが、やってから言うんだな、涼子!」
と勇一と涼子の二人がお互い言い争っている間に、ボールの主導権を決めるジャンケンが行われ、ボールが相手側から投げられる。
「この、リア充!くたばりゃぁ!」
相手方のボールを持った生徒からの怒りをいつの間にか買っていたのか、ボールは勇一に向かって投げられる。だが、そのボールは勇一に当たることなく、横から来た短い銀の髪を風に揺らす少女の手によって、防がれる。
「弾道が甘いと判断します。」
「ルナっ。別に取らなくても取れたぜ?」
「いえ。我が主の安全を確保するのが、私の務め。これは譲れません。」
「くっそ。防がれたかっ!」
先程のボールをルナに防がれた生徒は悔しいという様に、地面を蹴る。その生徒にルナはゆっくりと照準を定めると。
「では、お返しします。」
男子生徒にボールを返した。
「っぐぁ!」
「よし、骨は拾ってやる!」
男子生徒に当たったボールが地面に着くと、涼子は男子生徒に当たったボールを拾い上げて、勇一に向かって力強く投げた。
「そうはさせまん。」
だが、ルナによって再び勇一に向かっていたボールは防がれる・・・・・・・・かに見えた。
「なっ!?」
出会ってまだ一日しか経っておらず、そんなに長いといえる期間を過ごしていなくとも、ルナがそんな目を大きくして驚きの声を聞いたことはないであろうと思う勇一の目の前で、ルナが掴んだボールは高速な回転を見せてルナの手から大地に落ちる。
「ちょいとばかし回転を掛けただけのただのボールだ。誰でも打てる普通の、な。」
「大丈夫か、ルナッ?」
「・・・・・・・・・・・・えぇ、大丈夫です。少し・・・・・・・えぇ、ほんの少し、驚いただけです。」
「ルナさん、あとは任せるっすよ!」
ルナにガッツポーズを見せる空に対してルナは頭を軽く傾けて、外野へと向かっていく。
「空、勝てるか?」
「どうっすかね。こっちには風音とのどかの二人に、私と勇一、合わせての四人。それに対しての向こうは、翼に洋子、涼子の三人。それと、あのボンボンの破鋼にその取り巻きその一、その二、その三の七人っす。こりゃ、きついっすね。」
「こっちの方でイケそうなのは?」
「勇一と私とのどかに風音の四人っすかね。あとは実力は知らないんで、運次第ってことっすね。」
「運か・・・・・・・・・。そりゃ、キツイな。」
「って言っても、勇一の運は強いんで私らがカバーするって感じになるっすかね。勇一は自身の心配をしてくださいっす。」
「それは楽な仕事だ。」
「でしょ?」
勇一の言葉に二カッと空は笑い、勇一との距離を離す。
「よぉ~し。気合入れて、一発イクよ~?」
のどかの間の抜けた声が聞こえると、のどかは大ぶりに足を上げて、プロ野球選手のピッチャー並の勢いで地面に足を突き刺して、ボールを打ち放す。そのボールは、いくら柔らかい柔軟なボールとは言えないほどの剛速球として放たれる。そして、名も知らぬクラスメイトの背を捉えると、男子生徒を刈り取る。
「っがぁ!!」
当たった生徒は、ドッジボールに使われるボールではないなにかに当たったかのような声を出して、横たわる。その生徒の背を容赦なく宮子は踏むと、男子生徒に当たったボールを取る。
「・・・・・・・・・・・あのアマッ。」
血が通ってる人間がする事かと勇一は下唇を強く嚙み締める。だが、勇一が思っているのとは裏腹に男子生徒はまるで踏まれることが嬉しいかという様な喜びの表情を浮かべているのを見て、勇一は宮子へ向けている感情を改める。人間を踏むことによって踏まれた人間に快感を与えるとは、あいつも実は忍者、いや、くのいちの血でもあったのか!それは気付かなかった!とどこか間違った方向へと解釈した勇一に誰もツッコミをすることはなかった。
「ふむ。投げて当てればいいのですか。」
「はいっ。その通りでございます、宮子様!」
ささっ、どうぞ、と宮子にわざわざ道を譲る取り巻きその一、たしか黄金綾子といったか。彼女に道を譲られた宮子は、譲られた道を進んでいき・・・・・・・、えいっ、というなんとも可愛らしい声を出して投げた。
だが、そのボールは誰にも当たることなく、むしろ、取れそうなほどの遅い速度で飛んでいた。なので。
「そのボールは貰ったぁぁ!!パワード・キャッチ!!とうっ!!」
空は誰にも聞こえるほど大きな声で、いつの間にかいた隅っこから飛んで掴んだ。
「天よ、地よ、水よ、気よ!!我に力を与えたまえ!!受けるっすよ!!パワードォォォォォ・シュゥゥゥゥゥゥゥゥトォォォォォォォォォォォ!!!」
空の気合が籠ったボールは、のどかが放ったボールほどの勢いはないがその勢いに負けた生徒はボールの進路上から退避し、誰にも触れられることなく外野へと向かっていった。
「ドッジボールに気合入れすぎだろ。」
「だって、熱いじゃないっすか。」
「熱いのは分かる。分かるがな、普通はやらんし、恥ずかしくてやらんぞ。」
「恥ずかしい?何がっすか?」
勇一の言葉にキョトンとした顔で空は勇一に疑問をぶつける。
「あ~・・・・・・・・・、分からんなら、それでいい。それがお前の取り柄だったな。」
忘れてた、と空の肩を軽く叩いて、ボールの行方を勇一は確認する。だが、空は勇一に叩かれた肩を触って、感触を確かめると、顔を赤くしていた。故に、自身に迫るボールには気付けなかった。
「空ッ!避けろ!」
「えっへっへっへ、勇一君恥ずかしいっすよ、えっへっへっへ・・・・・・・・へ?」
勇一の声に現実に復帰した空だったが、ボールに気付いて身体を動かすまでには遅かった。
間に合うかっ・・・・・・・!?
動かなかった空とボールとの間に勇一は自身の身体をねじ入れる。だが、それよりも早くに空の身体にボールが触れる
くそっ・・・・・・・・・・・・・!
勇一は己の未熟さに歯を食いしばり、目を瞑る。だが、ボールが空に当たったことを示す音が勇一の耳には聞こえなかった。勇一はそのことを不審に思い、目を開ける。すると、そこには。
「己の主の願いがそれであるならば、それを叶えるのが我が喜び。故に。」
空に当たるはずだったボールを片手で止めていた銀色の髪を揺らしている少女はそう言うと、勇一に顔を向ける。
「私はここにいます。」
「ルナっ。」
「はい、我が主。なんでしょうか?」
「いや・・・・・・・・・っ、お前、確か・・・・・・・・・っ。」
勇一はルナが目の前にいる理由が分からずにルナに訊く様に言う。だが、少女は勇一の言葉に対してただ優し気に微笑みを返すのみであった。
「貴方の言いたいことは分かります、マスター。ですが、これはドッジボール。相手に当てて外に出す。そして、出された者は中にいる者を当てて再び戻る。つまりは、そういうことです。」
「・・・・・・・・・・・・どういうことだ?」
勇一はルナの言葉が理解できずに彼女に聞き返す。しかし、彼女は答えずに、勇一から視線を外すと、己の敵へと顔を向ける。
「日本では、やられたらやり返す、いわゆる倍返しが相手への敬意を示す行為だと聞き及んでおります。」
「・・・・・・・・・まさか。」
「嫌も嫌も好きなうち、と言います。」
「いらねぇよ!!」
「そこまで欲しがられては、困りますが。さらに倍にしろ、と。」
「言ってねぇ!!」
涼子の拒否する声が聞こえてるか聞こえていないのか、いや、聞いていないルナは静かにボールを構えると、静かな足運びで、静かに空気を圧して縮めて、巨大で柔らかな弾丸を打ち出した。彼女が撃ち出したボールは、ゴゥ!と空気の流れを乱し、涼子ではなく、たまたま近場にいた宮子の名も知らぬ取り巻きその二に当たり、取り巻きその二と勇一に覚えられた少女はグフッ!とルナの弾丸を胴にめり込ませて、静かに沈んだ。
「あ、愛子ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
名も知らない取り巻きその二の恐らくは名と思える言葉を叫んで宮子の取り巻きその三はその二の胴にめり込んで地面に落ちた弾丸を取り、キッと強くルナを睨みつける。
「よくも。よくも、愛子を!!許さないっ!!」
「いえ、お亡くなりにはなってはいらっしゃらないかと存じますが。」
「知るかぁぁぁぁぁぁぁ!!愛子を殺しておいて言うセリフかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!くたばれやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、この悪党がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その三がルナに対して言ったセリフに敵に回してはいけない正義バカの耳に入り、ピクッと彼女の耳が動く。だが、その三はその事に対して反応すること出来ずに、ルナにそう言うと、彼女に向かって、弾丸を投げる。だが、ルナに当たる前に、その弾丸は止められる。
「・・・・・・・・えっ?」
片手で止められたという目の前で起きている現実を受け入れられないのか、その三は疑問の声を出す。
「目の前にいる悪が正義を語るっすか。安い。その正義は格安価格でおばさんたちがスーパーで買えるほど安いっすね。旧作のDVD一作よりも。それで語るとは、正義じゃないっすね。」
「だったら・・・・・・・。だったら、なんです・・・・・・・・?」
その三に訊かれた木ノ葉空はハッと強く鼻で笑い、彼女を見る。
「悪っすよ。」
その三に、そう彼女は言うと、彼女に向けて掴んだ弾丸を打ち出す。
「食らうっすよ!パァァァァァァァァァァァァワァァァァァァァァァドォォォォォォォォォォォ、シュゥゥゥゥゥゥゥゥトォォォォォォォォ!!!」
空の気合が入った弾丸は空気という場にとどまり続ける分厚い場に展開される障壁をものともせずに、空からの気合をそのままの勢いで殺すことなく突き進んでいき。
「ガッフゥ!!」
その三の胴を刈り取ると、彼女の身体を場から外へと弾き出した。
「滅、殺!!悪は滅んだ!!」
「いや、死んでねぇからな?」
ガッとガッツポーズをとる空に勇一はツッコミを入れておく。
「ま、真希子ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
そんなやり取りをする二人を他所に宮子の取り巻きその一である黄金綾子(合っているのか不明だが)はその三の名前を叫ぶ。そして、ボールを取ると、キッと勇一たちの方を強く睨みつけた。
「愛子と真紀子の二人を・・・・・・・・・・・・っ、よくも、よくも二人をっ・・・・・・・!」
「死んでねぇからな?」
「黙りなさいっ!!元はと言えば、『パワード・セブン』とかよく分からないヘンテコな木偶の坊風情が、宮子様に楯突くのが原因!!つまり、貴方が原因ですわっ!!」
「ヘンテコ・・・・・・・・・・・?」
「木偶の坊・・・・・・・・・・・?」
綾子の言葉に勇一は訂正をするように言うが、どこか彼女の逆鱗に触れてしまったのか勇一に対して暴言を吐く。だが、勇一が彼女の言葉に反応する前に勇一の周りにいた木ノ葉空と星川=スターライト=ルナの二人は勇一に対して言った暴言にビギッとこめかみに血管を浮かばせる。普段から表情の変化がある空を見て勇一は怒っている加減が分かるが、あまり日を共に過ごしておらず表情の変化もそれほど変わらないルナの怒り具合は勇一には計り知れなかった。その証拠にルナは視線を綾子に固定したまま勇一に向けて後ろ手を伸ばして勇一に掴むように手で合図していた。
「おい、ルナ。いくらなんでも、それはやりすぎだ。彼女は一般人だぞ?」
「それがなんです?」
「怒りに任せてってのは俺が許さないし、父さんが知ったら俺が死ぬ。俺を想ってくるなら、その手を戻せ。頼むから。」
「ですが。」
「どんなことを言われ様が俺たちには関係ない。・・・・・・・・・分かってくれるか?」
昔に言われた父、鉄也の言葉を思い出す。
『いいか、勇一。どれほどの言葉の刃が自分に向けられようとも、己に宿した心の刃を決して振るってはならない。どんなことがあろうともだ。だが、己の友と己の命が危機に瀕した時には振るうことをためらわずに振え。その時は振るっても構わん。そして、生き抜け。』
わかったか、と勇一に確認するように言った父の顔を勇一は忘れることが出来なかった。生きるというただそれだけのためだけに真夜中を襲ってくる父、鉄也のその教育方針はどうなのだろうかと思う時は多々あった。だが、そうした日々を過ごしていく中で鍛え上げた己の刃を何も知らない一般人にいちいち振るっていては、こちらの身が持たない。故に、勇一はルナに言った。
「貴方がそう仰るのでしたら、引きますが・・・・・・・・・・・。しかし、貴方はそれでよろしいのですか・・・・・・・・・・?」
「ハッ、気にしないねぇ。人の感性ってのは人それぞれ、十人十色ってな。」
「御意。貴方の望むがままに。」
ペコリと勇一に対してルナは頭を下げる。そんな彼女の頭を勇一はゆっくりと手を置いて撫でると前を向く。
「俺を怒らそうとしてそう言ったんだろうが、引っ掛かりはしないぜ?俺を相手にするんだったら、もう少しいい手を取るんだな。」
「くっ、なぜっ、なぜですか!!」
「さぁてな。なぜとか訊かれても知らん。答えるとしてもこうなっちまってるんだ。」
「貴方はおかしいです。」
「俺がおかしいっていうあんたの判断は平常だ。良かったな。」
「くっ。」
どこか悔しがるように下唇を噛み締める綾子の様子を勇一はどこか満足したかのように見ていた。
「貴方はこれでよろしいのですか?」
ルナは勇一と綾子の話を聞いていたのか、どこか不安さを感じさせるような目で勇一の顔を見る。その目を見て、勇一はどこか自分を笑うように笑ってみせると、もう一度、ルナの頭に手を置いて彼女の頭を撫でた。
「ああ、これでいい。俺が変でお前らが普通、それが普通なんだ。」
「・・・・・・・・・・であるというのなら、私が貴方を主だとするのも変である、と。」
「そこまでは言わない。個人的には詳しく聞きたいとこだけど、他人の事情を深く聞くものじゃないしな。お前が言うなら、別だが。」
「でしたら、貴方のお傍に置いてください、我が主。」
「喜んで、って言うしかないんだろうな。言うけどな。」
「すみません。」
「良いってものよ。」
「でしたら、お力をお貸ししましょう。」
「そりゃ、嬉しいねぇ。」
「と申しましても、貴方のお力になるべく、私はここにいるのですが。」
「ハッハッハ、こりゃ、一本取られたな。」
「何が、一本取られたですか!!」
ふん!と勢いよく、綾子はボールを勇一に向かって投げた。その投げられたボールを横目で確認すると、勇一の姿がその場から消える。
「なっ!」
勇一の身体が消えたことに綾子は驚きの声を出す。そして、数舜後。
「はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
ボールを掴んだ勇一が姿を現して、綾子に向かって弾丸を打ち出そうと構える。それを身構えて、綾子は身を固める。だが、向かってくるはずの弾丸の衝撃はいつまで経っても来ないことに不審に思った綾子はゆっくりと、前を見る。すると、そこには、名も知らない誰かが勇一の身体を地面に縫いとめて、勇一の身体の上に立っていた。
「まったく、このバカ息子が。人前で披露するバカがいるか、まったく。」
そうぶつぶつと文句を言いながら、勇一を立たすと。
「それじゃ。」
そう言って、どこかへと向かっていった。
その背を、「待ってください、叔父様!」と銀色の髪を揺らす少女が自分のカバンと、勇一のカバンを持って帰って行った。
「鉄也叔父さん、流石っす。」
「全然、見えなかったわ。」
「叔父さん、なんでいたんだろうね~?」
空たち三人はそう口々に話していた。だが、彼がどこの誰で何の用事できたのかは誰にも分からなかった。
「・・・・・・・・・・・。」
「叔父様、少々お待ちを!」
「いや、待たんな。うちのバカ息子にもう一度基礎を叩き込まなくなったからな。」
「でしたら、私にも責任はあります!」
「連帯責任か?だが、それは残念ながらないし、君の主はこのバカだ。」
「主の責任は私の責任です!」
「違うな。こいつの責任はこいつの責任だ。自分の穴は自分で拭かんといかん。」
「ですが!!」
「君がそう言うのなら一緒に取ることになるぞ?」
「覚悟の上です!」
「そうか。」
そう言うと鉄也は担いだ勇一の身体を地面に叩きつける。
「っがぁ!!」
「マスター!」
強く地面に背を叩きつけられた勇一は肺に入っていた空気を外へと吐き出す。その勇一にルナは寄り添う様に駆け寄ろうとする。だが、鉄也は片手でルナのその動きを制す。
「起きていたなら、とっとと起きんか、バカ息子が。」
「だったら、そのバカ息子を叩き付けるなよ、父さん。」
「ふっ。言うようにはなりおってからに。」
「なにが?」
どこか喜ぶように言う鉄也の言葉に勇一は鉄也に訊く。だが、鉄也は勇一の質問には答えなかった。
「一般人相手に、使おうとしたな?」
「それが?」
「己の身を護れぬ、一般人を相手に使おうとしたな?」
「・・・・・・・・・・・うん。」
「私がお前に使うなと言ったのに使おうとしたな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん。」
「叔父様!マスターはっ!」
「いや、星川君。これは柳宮家の問題だ。他人の君は入って来るな。」
「私はすでにマスターのっ!柳宮勇一さんのっ!」
「よせっ、ルナっ!」
「ですがっ!」
ルナの言葉を遮ろうとした勇一だったが、突然、ハッハッハ、と笑い出した鉄也に驚いてしまった。
「そこまで言われてしまっては男が廃るというモノ。そうではないか、勇一?」
「父さん?」
「お前の意地はその程度か?」
父、鉄也のその言葉で勇一はハッとする。
「バカ言うな、父さん。男の子の意地は、こんなんじゃないぜ?」
「だろうな。知っているよ。」
そう言うと、先ほどまでの怒気を霧散させて、勇一たちを見た。
「であれば、今回のことは不問とし、何も聞かんし、何も訊こうとは思わん。では、帰るか!!」
「・・・・・・・・・・・・・はっ?」
鉄也はそう言うと、二人をその場に残したまま、歩き出す。勇一は鉄也の意図が分からずに一瞬動けずにいた。それはルナも同じだったようで二人して取り残されることになる。だが、許されたことを理解すると、勇一たちは鉄也を追う様にして動き始めた。
「で、ルナ。」
「はい?」
「お前は・・・・・・・・・なんで、そこまで想ってくれるんだ・・・・・・・・・?」
ルナは一瞬、勇一の言葉にどう答えるべきか思い悩む。だが、それが分かると、勇一に意地の悪そうな微笑みを浮かべると口元に人差し指を当て、
「さぁ、なんのことでしょう?」
と言った。
「一佐と呼ばれるのは、心外だなぁ。今は単なる一般人ですよ、佐藤先生。」
「な、なるほど。」
目の前にいる人物、柳宮鉄也の発する殺気に似たオーラに、友梨佳はハハハ、と乾いた笑いをする位しか出来なかった。一般人とは言うが、宮内庁に関わっている上に、陸上自衛隊の現一等陸佐であって、自由に動き回れて、いろいろできることが許されている時点でそれはもう怖いことこの上なかった。友梨佳自身としては『パワード・セブン』の実務運用が可能であるかどうかの確認の為にこの破鋼高等学校に潜入したのだが、それでまさか、日本という国が触れなかった一線に触れてしまうことになるとは思わなかったと友梨佳は思っていた。触れなかったと言っても政府からも何も言われなかっただけなのだが。まぁ、柳宮という苗字を見つけた時点でこういう風になるのは予測は出来ることであった。
「それで、息子に何か用があるのかな、佐藤二等陸尉?」
「なぜ、それを?」
「訊いているのは私だよ、佐藤二尉。それで?国からの指示かね?」
「じ、実地運用の確認と報告です。」
ほぅ、と友梨佳の言葉に相槌を打つ鉄也であったが、友梨佳からは何か恐ろしいことをされるのではないかと気が気ではなかった。
「と、いうと、だ。」
「はい?」
「あの『ハガネイラー』というおもちゃについては何か知っているのか?」
「えっと、失礼ですが、一等陸佐のご指示では?」
「いや?私は散歩に行っていたから、知らないんだ。」
「散歩、ですか?」
「ああ。米国からF-35を借りて、テロリストの連中を埋めてくるだけの簡単な散歩だ。帰ってくる途中で足を失くしてね。ま、失った分を貰って、防衛省に渡して返してきたんだが。」
ハッハッハ、私も腕が落ちたもんだ、と乾いた笑いをする鉄也を友梨佳は化け物でも見るかのような目で見ていた。
F-35と言えば、全世界中を見てもいまだに開発されていない垂直離着陸という技術が使われている最新鋭の機体だ。それを借りたというのは、まぁ、鉄也の腕を聞いたことがある者ならば、普通に納得する。あぁ、またか、と。それに、それが堕されたというのはまぁ、分からなくもない。彼は航空自衛隊の自衛官ではなく、陸上自衛隊という陸上のエキスパートなのだから。そんな彼が撃墜された、と言うのはまだ分かるが、撃墜されたうえに貰ってきたというのは、出来れば分かりたくはないと考える友梨佳であった。まぁ、本当に困っているのは友梨佳ではなく、防衛省に勤めている職員であろう。どこかに行ってきたと思ったら、米軍機を持ってきて渡されたのだから。普通そんなことは起こらないのだが、この人にとっては普通のことであるらしい。
「それで、話は戻るんだが。」
「『ハガネイラー』、いえ、破鋼宮子さんたちのことですね。」
「破鋼・・・・・・・・・・というと・・・・・・・。」
「はい。ここの学園長のお孫さんです。」
「孫が大事過ぎて、おもちゃを与える。・・・・・・・・・気持ちは分からなくもないが、・・・・・・・・・・・なぁ?」
「結婚はまだなので、分かりかねます。」
「おっと、それは失敬。」
まだ独り身だと言った友梨佳に鉄也はすぐに謝罪する。
「だが、勇一に拘る理由はなんだ?」
「独占欲・・・・・・・・でしょうか?」
「いや、それはないだろう。もし、そうならば、息子のことが好きすぎてたまらんと言う様にぴったり傍に付いている星川さんのことを目の敵にするはずだ。」
「では・・・・・・・・?」
「だとすれば、『ハガネイラー』という実力での行使と言うのは理由がない。『ハガネイラー』を使えば、息子は『パワード・セブン』に成らなくていけない。その為には、星川さんの力が必要だ。とすれば、余計に二人の仲が深まる。・・・・・・・・・そうは思わないか?」
「『パワード・セブン』は七人の力があって初めて使えるモノです。星川さん一人だけではありませんが?」
「ああ、確かにそうだ。だが、ほかの六人と勇一の仲は良いからな。であれば、星川さんは勇一を知り、仲を深くすれば良いだけだ。そうは思わないか?」
「他の六人を排除しようとは思わないのでしょうか?」
「さっき、自分で言ってたぞ、二尉。『パワード・セブン』は七人いなければ上手く機能はせんとな。」
「だとすると・・・・・・・・・・。」
「星川さんは他の六人をどうにかしようと言うよりかは、柳宮勇一という人間を知りたいと思っているのではないだろうか?」
「なぜです?なぜ知ろうと・・・・・・・・・・?」
「さぁてな。少なくとも、我々がそれを深く突く問題ではないだろうな。」
「突く問題ではない?なぜ・・・・・・・?」
「恋を邪魔するものは馬に蹴れる。よく覚えておけ、二尉。」
「えっ?」
友梨佳の疑問に鉄也はどこか黄昏る様に窓から外の様子を見つめながら、友梨佳の疑問に答える。だが、友梨佳は鉄也の言った言葉の意味が分からずに、疑問の声を出す。そんな声を出した友梨佳に鉄也は友梨佳に顔を向けて二カッと爽やかに笑う。
「二尉の恋はまだ長いな。」
「なにがです?」
いや、こちらの話だ、と友梨佳の肩を叩いてその場を離れる様に鉄也は歩き出す。
「では、国は関係ないんだな?」
外に出る前に、扉に手を置いて友梨佳に鉄也は疑問をぶつける。友梨佳はその疑問にどう答えるべきか少し悩んで一瞬、間を置いて答えた。
「少なくとも、自分が聞いているのはもしも『パワード・セブン』が動くこととなった場合は実地での試験ということで精査しろ、と言われただけです。ですので、彼らに対しては、普通の教師として当たることにしています。」
「そうか。それは自衛官としてか?」
「いえ、佐藤友梨佳個人として、です。」
「であれば、本日は私個人にお時間を割いていただき感謝します、と言おうか。うん?佐藤二等陸尉。」
「いえいえ、こちらこそいいお話を聞かせていただき、ありがとうございます。柳宮一等陸佐。」
「ハッハッハ。感謝するのは私の方ですよ、佐藤先生。」
「いえ。お子さんは私が見ますよ、柳宮さん。学校にいる間、預かるのは学校として当たり前じゃないですか。」
それもそうか、ハッハッハ、と笑いながら鉄也は教室を後にする。友梨佳はどっと疲れたという様に椅子にぐったりと座る。なにあの人怖い、と鉄也と話せていた自分によくやったと自身を褒める様に自身の肩を抱き締める。
柳宮鉄也、噂には聞いてはいた。
かの人曰く、『日本国内で突いたらいけない人』、だと。
かの人曰く、『日本国内で自由で何にも縛られない人』、だと。
かの人曰く、『皇帝陛下の指示以外は受け付けない人』、だと。
かの人曰く、『怒らせたら死より怖い目に会わせる人』、だと。
とんでもない人を相手にしちゃったなぁ~と、そう思う友梨佳は、外でクラスの生徒とドッジボールをしている問題児をちらりと窓から見る。
国も国でとんでもない任務を友梨佳に与えたわけだが、一番の問題は事の発端である国外のテロリストである。彼らが勇一たちが乗っていた旅客機を撃墜しなければ、自分がこんな高校に来ることもなかったし、職員になるための教員免許を受けずに済んだのだ。
情報管理において実務に明け暮れていて情報の精査に関して腕がある友梨佳に白羽の矢が当たった時は、この仕事をやってて良かった!これで楽が出来る!やったね!と量が多すぎる情報精査の仕事におさらば出来たと思っていたのだが、それがまさかこんな問題児がいる学校への赴任と問題児の監視だとは夢にも思ってはいなかった。出来れば、夢であってほしいと友梨佳は思った。そんなことを思いながら、呆然と空を飛んだり、大地を走らずに浮かんで避けている問題児たちをどうしたものかなぁ、と友梨佳は気楽に考えていた。
「ドッジボール?」
「えぇ。『パワード・セブン』と『ハガネイラー』が日々を戦いに費やすというのは如何かと思いましてね。それならば、クラス全員で出来る何かをした方が良いと思いまして。何か用事でもおありかしら?」
「いや、用事っつー、用事は俺はないんだが・・・・・・・・ルナ、お前は?」
「いいえ。マスターである貴方がないと言うのであれば、特にはありません。」
「・・・・・・・・だ、そうだ。」
「それは重畳。では、後ほど。グラウンドで会いましょう。」
おーっほっほっほ、と高笑いをしながらクラスを後にする宮子の後姿を目に収めると、また面倒くさくなってきた、と勇一は呑気に思いながら、隣にいる銀色の髪を揺らしている少女、ルナを見る。
「別にお前も参加しなくてもいいんだぞ?」
「いいえ、そういうわけには参りません。貴方がいるところが私がいるべき場所であり、貴方が行く場所は私が行く場所です。そこを間違えないでください。」
「間違えるなって言われてもな・・・・・・・・。」
どうしたものだろうか、と勇一は思い悩む。入学式のあの時に初めて出会ったのにも関わらずに勇一に向けてくるこの好意はどう受け取るべきであろうか。どうしたものかな、と悩んでいると、勇一に声が掛かる。
「勇一もドッジボールに行くっすか!?」
「あん?おぉ、行くぞ。」
こりゃ勝ちは貰ったも同じっすね!とガッツポーズを決めている空を他所にいつも通りに特に気合などは感じさせない様に身体をゆらゆらと揺らしているのどかは呑気に言った。
「勇一君も出るの~?」
「あぁ。声掛かったしな。」
「そっか~。空ちゃんじゃないけど、これは勝ったかな~。」
「ハッ、誰が勝たせるかってんだ!」
のどかの言葉に、ガンッと机を蹴る勢いで涼子は机の上に足を乗せる。
「言っとくがな、勇一。アタシはガキの頃からの仕返しをまだ返してないんだぜ?」
「仕返し?」
「えっ。全敗したのお前じゃん。」
「だから、何だってんだ!!」
机に載せた足をヒュッ!と鋭い風切り音が聞こえるほどの速さで振り回し、勇一に指を差す。
「全敗だろうが、なんだろうが、んなこたぁ知らねぇな!アタシが選んだ相手が勇一、てめぇだったって話だ!」
「・・・・・・・・・・って言ってもねぇ。」
「こうなった涼子はちょっとやそっとじゃ止まらないわよ。どうするの、勇。」
「止める・・・・・・しかねぇんだろうなぁ・・・・・・・。」
いやだなぁ、と肩を少し落とす勇一の肩に風音はポンと軽く手を置いた。
「全敗・・・・・・とは?と訊いても?」
「えぇ、いいわよ。って言っても、体育のテストとかでみんな必死にやってるのに勇だけは気楽に取り組んでるように見えてね。涼子は勇の態度に怒って事あるごとに勝負って挑んでるのよ。全部、負けちゃってるけどね。」
「例えば?」
「野球勝負とか百メートル走とか?でも、勇には勝ってなかったわね。」
「ほぅ?具体的にはなんでしょう?」
「勇は勇で走るというよりかは地面の上を走らずに浮いて滑空してたわね。だからじゃないけど、速いタイムとか簡単に出しちゃってね。」
「浮く?」
「滑空滑走術か?父さんに鍛えられちゃってたからな、あの頃。でも、走ってたぜ?」
「勇。一応言っとくけど、走る=浮くっていう方程式が成り立つのは、貴方と叔父さんの二人だけだと思うの。」
「いや、それはおかしい。」
風音のセリフを勇一は否定するが、その表情からは他者が見て分かる通り表情がなかった。
「おかしい?どこが?」
「いいか、風音。俺は浮いてはいないぞ?走っているだけだ。」
「えっ?」
「えっ?」
「勇。それはおかしいわ。」
「どこがだ。」
「いい?普通なら浮遊で滑空するランニングなんてものは出来ないわ。」
「えっ。出来ないの?」
「ええ。」
風音の言葉を聞いて勇一は助けを求めるかのようにルナを見る。
「浮遊滑空術って学校の必須の技術だよな?」
「マスター。残念ながら、それを必須とする日本の学校は私は知りません。海外でも同様です。・・・・・・・・・私が知らないだけかもしれませんが。」
そう言ったルナの言葉に勇一は足元が崩れる感覚に襲われる。
「なん・・・・・・だと・・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・勇一。・・・・・・・・・・ドンマイです。」
勇一の様子を見て、洋子は勇一を励ますように言ったが、静かに言った洋子の言葉は残念ながら勇一の耳には届かなかった。
「ハハハ・・・・・・・・。小学校の必須技術だとか言われて鍛えられた結果が、これとか笑おうにも笑えねぇぞ・・・・・・・。」
「・・・・・・・・なるほど、鉄也さんならやりかねないわね。」
「いや、ひっくり返って突っ込んできたトラックをひっくり返して元に戻した人っすよ?必須の技術だとか言ってやりかねないっす。」
「ま~ね~。みんな走ってるのに、勇一君が地面から浮いて前に進んだのにはびっくりしたけど~、鉄也さんのせいなら納得だね~。」
「・・・・・・・・・・・鉄也叔父さんですから。」
「とすると、お父上はそれ以上であらせられるので?」
皆の反応を見たルナは勇一に疑問をぶつける。
「父さん、走るのが面倒ってだけで、低空飛行してた戦闘機に手掛けたぞ。」
「・・・・・・・・・・・・質問した私が愚かでした。」
「そう言えば、一回高速を走ってる車の上を二人で駆けて旅行行ってきたとか言ってませんでしたっけ?」
「懐かしいな、それ。ま、結構疲れたんで旅行にはあんまならなかったかな。」
「・・・・・・・・・旅行なのに、ですか?」
「うん?ああ。旅行って言っても鍛える修行の意味合いのが主な旅行だったからな。そう言えば、最近、父さん忙しいみたいで行ってないな。」
「・・・・・・・・凄いのですね、マスターは。」
とんでもないことを勇一は言っているのに関わらず、ルナは尊敬の眼差しで勇一を見つめていた。そのルナの碧い瞳に、勇一は何か変なモノを感じてルナに言った。
「凄くはないさ。父さんがすごいだけで。」
「いえ、謙遜することはないですよ、マスター。貴方は十分に凄いと思います。自分を卑下することはありません。貴方の実力は私が知ってます。あの時に見せてくれたそのお力。それだけでも十分だと思います。貴方がご自身を卑下するのであれば、私は貴方を褒めましょう。でなければ、私は・・・・・・・・・・。」
「ルナ・・・・・・・・・?」
話していたルナの表情になにか暗いモノが浮かび、勇一はルナに声をかける。その勇一が掛けた声にハッとする様にルナは顔を上げる。
「いえ、なんでもありません。」
そう言ったルナの言葉が会話の区切りとなったのか、クラスから生徒たちが外へと出ていく。その様子を見て、勇一は早く来いよ、とルナに声を掛けると外へと向かっていく。
「そう、なんでもありません。」
そう静かに繰り返して言うルナの言葉に反応する者は誰もいなかった。誰の耳にも届かなかった。
「よっしゃ、今までの分、そっくりそのまま返してやるぜ!覚悟しろ、勇一!」
「ハッ!何言ってやがる!言うのは勝手だが、やってから言うんだな、涼子!」
と勇一と涼子の二人がお互い言い争っている間に、ボールの主導権を決めるジャンケンが行われ、ボールが相手側から投げられる。
「この、リア充!くたばりゃぁ!」
相手方のボールを持った生徒からの怒りをいつの間にか買っていたのか、ボールは勇一に向かって投げられる。だが、そのボールは勇一に当たることなく、横から来た短い銀の髪を風に揺らす少女の手によって、防がれる。
「弾道が甘いと判断します。」
「ルナっ。別に取らなくても取れたぜ?」
「いえ。我が主の安全を確保するのが、私の務め。これは譲れません。」
「くっそ。防がれたかっ!」
先程のボールをルナに防がれた生徒は悔しいという様に、地面を蹴る。その生徒にルナはゆっくりと照準を定めると。
「では、お返しします。」
男子生徒にボールを返した。
「っぐぁ!」
「よし、骨は拾ってやる!」
男子生徒に当たったボールが地面に着くと、涼子は男子生徒に当たったボールを拾い上げて、勇一に向かって力強く投げた。
「そうはさせまん。」
だが、ルナによって再び勇一に向かっていたボールは防がれる・・・・・・・・かに見えた。
「なっ!?」
出会ってまだ一日しか経っておらず、そんなに長いといえる期間を過ごしていなくとも、ルナがそんな目を大きくして驚きの声を聞いたことはないであろうと思う勇一の目の前で、ルナが掴んだボールは高速な回転を見せてルナの手から大地に落ちる。
「ちょいとばかし回転を掛けただけのただのボールだ。誰でも打てる普通の、な。」
「大丈夫か、ルナッ?」
「・・・・・・・・・・・・えぇ、大丈夫です。少し・・・・・・・えぇ、ほんの少し、驚いただけです。」
「ルナさん、あとは任せるっすよ!」
ルナにガッツポーズを見せる空に対してルナは頭を軽く傾けて、外野へと向かっていく。
「空、勝てるか?」
「どうっすかね。こっちには風音とのどかの二人に、私と勇一、合わせての四人。それに対しての向こうは、翼に洋子、涼子の三人。それと、あのボンボンの破鋼にその取り巻きその一、その二、その三の七人っす。こりゃ、きついっすね。」
「こっちの方でイケそうなのは?」
「勇一と私とのどかに風音の四人っすかね。あとは実力は知らないんで、運次第ってことっすね。」
「運か・・・・・・・・・。そりゃ、キツイな。」
「って言っても、勇一の運は強いんで私らがカバーするって感じになるっすかね。勇一は自身の心配をしてくださいっす。」
「それは楽な仕事だ。」
「でしょ?」
勇一の言葉に二カッと空は笑い、勇一との距離を離す。
「よぉ~し。気合入れて、一発イクよ~?」
のどかの間の抜けた声が聞こえると、のどかは大ぶりに足を上げて、プロ野球選手のピッチャー並の勢いで地面に足を突き刺して、ボールを打ち放す。そのボールは、いくら柔らかい柔軟なボールとは言えないほどの剛速球として放たれる。そして、名も知らぬクラスメイトの背を捉えると、男子生徒を刈り取る。
「っがぁ!!」
当たった生徒は、ドッジボールに使われるボールではないなにかに当たったかのような声を出して、横たわる。その生徒の背を容赦なく宮子は踏むと、男子生徒に当たったボールを取る。
「・・・・・・・・・・・あのアマッ。」
血が通ってる人間がする事かと勇一は下唇を強く嚙み締める。だが、勇一が思っているのとは裏腹に男子生徒はまるで踏まれることが嬉しいかという様な喜びの表情を浮かべているのを見て、勇一は宮子へ向けている感情を改める。人間を踏むことによって踏まれた人間に快感を与えるとは、あいつも実は忍者、いや、くのいちの血でもあったのか!それは気付かなかった!とどこか間違った方向へと解釈した勇一に誰もツッコミをすることはなかった。
「ふむ。投げて当てればいいのですか。」
「はいっ。その通りでございます、宮子様!」
ささっ、どうぞ、と宮子にわざわざ道を譲る取り巻きその一、たしか黄金綾子といったか。彼女に道を譲られた宮子は、譲られた道を進んでいき・・・・・・・、えいっ、というなんとも可愛らしい声を出して投げた。
だが、そのボールは誰にも当たることなく、むしろ、取れそうなほどの遅い速度で飛んでいた。なので。
「そのボールは貰ったぁぁ!!パワード・キャッチ!!とうっ!!」
空は誰にも聞こえるほど大きな声で、いつの間にかいた隅っこから飛んで掴んだ。
「天よ、地よ、水よ、気よ!!我に力を与えたまえ!!受けるっすよ!!パワードォォォォォ・シュゥゥゥゥゥゥゥゥトォォォォォォォォォォォ!!!」
空の気合が籠ったボールは、のどかが放ったボールほどの勢いはないがその勢いに負けた生徒はボールの進路上から退避し、誰にも触れられることなく外野へと向かっていった。
「ドッジボールに気合入れすぎだろ。」
「だって、熱いじゃないっすか。」
「熱いのは分かる。分かるがな、普通はやらんし、恥ずかしくてやらんぞ。」
「恥ずかしい?何がっすか?」
勇一の言葉にキョトンとした顔で空は勇一に疑問をぶつける。
「あ~・・・・・・・・・、分からんなら、それでいい。それがお前の取り柄だったな。」
忘れてた、と空の肩を軽く叩いて、ボールの行方を勇一は確認する。だが、空は勇一に叩かれた肩を触って、感触を確かめると、顔を赤くしていた。故に、自身に迫るボールには気付けなかった。
「空ッ!避けろ!」
「えっへっへっへ、勇一君恥ずかしいっすよ、えっへっへっへ・・・・・・・・へ?」
勇一の声に現実に復帰した空だったが、ボールに気付いて身体を動かすまでには遅かった。
間に合うかっ・・・・・・・!?
動かなかった空とボールとの間に勇一は自身の身体をねじ入れる。だが、それよりも早くに空の身体にボールが触れる
くそっ・・・・・・・・・・・・・!
勇一は己の未熟さに歯を食いしばり、目を瞑る。だが、ボールが空に当たったことを示す音が勇一の耳には聞こえなかった。勇一はそのことを不審に思い、目を開ける。すると、そこには。
「己の主の願いがそれであるならば、それを叶えるのが我が喜び。故に。」
空に当たるはずだったボールを片手で止めていた銀色の髪を揺らしている少女はそう言うと、勇一に顔を向ける。
「私はここにいます。」
「ルナっ。」
「はい、我が主。なんでしょうか?」
「いや・・・・・・・・・っ、お前、確か・・・・・・・・・っ。」
勇一はルナが目の前にいる理由が分からずにルナに訊く様に言う。だが、少女は勇一の言葉に対してただ優し気に微笑みを返すのみであった。
「貴方の言いたいことは分かります、マスター。ですが、これはドッジボール。相手に当てて外に出す。そして、出された者は中にいる者を当てて再び戻る。つまりは、そういうことです。」
「・・・・・・・・・・・・どういうことだ?」
勇一はルナの言葉が理解できずに彼女に聞き返す。しかし、彼女は答えずに、勇一から視線を外すと、己の敵へと顔を向ける。
「日本では、やられたらやり返す、いわゆる倍返しが相手への敬意を示す行為だと聞き及んでおります。」
「・・・・・・・・・まさか。」
「嫌も嫌も好きなうち、と言います。」
「いらねぇよ!!」
「そこまで欲しがられては、困りますが。さらに倍にしろ、と。」
「言ってねぇ!!」
涼子の拒否する声が聞こえてるか聞こえていないのか、いや、聞いていないルナは静かにボールを構えると、静かな足運びで、静かに空気を圧して縮めて、巨大で柔らかな弾丸を打ち出した。彼女が撃ち出したボールは、ゴゥ!と空気の流れを乱し、涼子ではなく、たまたま近場にいた宮子の名も知らぬ取り巻きその二に当たり、取り巻きその二と勇一に覚えられた少女はグフッ!とルナの弾丸を胴にめり込ませて、静かに沈んだ。
「あ、愛子ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
名も知らない取り巻きその二の恐らくは名と思える言葉を叫んで宮子の取り巻きその三はその二の胴にめり込んで地面に落ちた弾丸を取り、キッと強くルナを睨みつける。
「よくも。よくも、愛子を!!許さないっ!!」
「いえ、お亡くなりにはなってはいらっしゃらないかと存じますが。」
「知るかぁぁぁぁぁぁぁ!!愛子を殺しておいて言うセリフかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!くたばれやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、この悪党がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その三がルナに対して言ったセリフに敵に回してはいけない正義バカの耳に入り、ピクッと彼女の耳が動く。だが、その三はその事に対して反応すること出来ずに、ルナにそう言うと、彼女に向かって、弾丸を投げる。だが、ルナに当たる前に、その弾丸は止められる。
「・・・・・・・・えっ?」
片手で止められたという目の前で起きている現実を受け入れられないのか、その三は疑問の声を出す。
「目の前にいる悪が正義を語るっすか。安い。その正義は格安価格でおばさんたちがスーパーで買えるほど安いっすね。旧作のDVD一作よりも。それで語るとは、正義じゃないっすね。」
「だったら・・・・・・・。だったら、なんです・・・・・・・・?」
その三に訊かれた木ノ葉空はハッと強く鼻で笑い、彼女を見る。
「悪っすよ。」
その三に、そう彼女は言うと、彼女に向けて掴んだ弾丸を打ち出す。
「食らうっすよ!パァァァァァァァァァァァァワァァァァァァァァァドォォォォォォォォォォォ、シュゥゥゥゥゥゥゥゥトォォォォォォォォ!!!」
空の気合が入った弾丸は空気という場にとどまり続ける分厚い場に展開される障壁をものともせずに、空からの気合をそのままの勢いで殺すことなく突き進んでいき。
「ガッフゥ!!」
その三の胴を刈り取ると、彼女の身体を場から外へと弾き出した。
「滅、殺!!悪は滅んだ!!」
「いや、死んでねぇからな?」
ガッとガッツポーズをとる空に勇一はツッコミを入れておく。
「ま、真希子ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
そんなやり取りをする二人を他所に宮子の取り巻きその一である黄金綾子(合っているのか不明だが)はその三の名前を叫ぶ。そして、ボールを取ると、キッと勇一たちの方を強く睨みつけた。
「愛子と真紀子の二人を・・・・・・・・・・・・っ、よくも、よくも二人をっ・・・・・・・!」
「死んでねぇからな?」
「黙りなさいっ!!元はと言えば、『パワード・セブン』とかよく分からないヘンテコな木偶の坊風情が、宮子様に楯突くのが原因!!つまり、貴方が原因ですわっ!!」
「ヘンテコ・・・・・・・・・・・?」
「木偶の坊・・・・・・・・・・・?」
綾子の言葉に勇一は訂正をするように言うが、どこか彼女の逆鱗に触れてしまったのか勇一に対して暴言を吐く。だが、勇一が彼女の言葉に反応する前に勇一の周りにいた木ノ葉空と星川=スターライト=ルナの二人は勇一に対して言った暴言にビギッとこめかみに血管を浮かばせる。普段から表情の変化がある空を見て勇一は怒っている加減が分かるが、あまり日を共に過ごしておらず表情の変化もそれほど変わらないルナの怒り具合は勇一には計り知れなかった。その証拠にルナは視線を綾子に固定したまま勇一に向けて後ろ手を伸ばして勇一に掴むように手で合図していた。
「おい、ルナ。いくらなんでも、それはやりすぎだ。彼女は一般人だぞ?」
「それがなんです?」
「怒りに任せてってのは俺が許さないし、父さんが知ったら俺が死ぬ。俺を想ってくるなら、その手を戻せ。頼むから。」
「ですが。」
「どんなことを言われ様が俺たちには関係ない。・・・・・・・・・分かってくれるか?」
昔に言われた父、鉄也の言葉を思い出す。
『いいか、勇一。どれほどの言葉の刃が自分に向けられようとも、己に宿した心の刃を決して振るってはならない。どんなことがあろうともだ。だが、己の友と己の命が危機に瀕した時には振るうことをためらわずに振え。その時は振るっても構わん。そして、生き抜け。』
わかったか、と勇一に確認するように言った父の顔を勇一は忘れることが出来なかった。生きるというただそれだけのためだけに真夜中を襲ってくる父、鉄也のその教育方針はどうなのだろうかと思う時は多々あった。だが、そうした日々を過ごしていく中で鍛え上げた己の刃を何も知らない一般人にいちいち振るっていては、こちらの身が持たない。故に、勇一はルナに言った。
「貴方がそう仰るのでしたら、引きますが・・・・・・・・・・・。しかし、貴方はそれでよろしいのですか・・・・・・・・・・?」
「ハッ、気にしないねぇ。人の感性ってのは人それぞれ、十人十色ってな。」
「御意。貴方の望むがままに。」
ペコリと勇一に対してルナは頭を下げる。そんな彼女の頭を勇一はゆっくりと手を置いて撫でると前を向く。
「俺を怒らそうとしてそう言ったんだろうが、引っ掛かりはしないぜ?俺を相手にするんだったら、もう少しいい手を取るんだな。」
「くっ、なぜっ、なぜですか!!」
「さぁてな。なぜとか訊かれても知らん。答えるとしてもこうなっちまってるんだ。」
「貴方はおかしいです。」
「俺がおかしいっていうあんたの判断は平常だ。良かったな。」
「くっ。」
どこか悔しがるように下唇を噛み締める綾子の様子を勇一はどこか満足したかのように見ていた。
「貴方はこれでよろしいのですか?」
ルナは勇一と綾子の話を聞いていたのか、どこか不安さを感じさせるような目で勇一の顔を見る。その目を見て、勇一はどこか自分を笑うように笑ってみせると、もう一度、ルナの頭に手を置いて彼女の頭を撫でた。
「ああ、これでいい。俺が変でお前らが普通、それが普通なんだ。」
「・・・・・・・・・・であるというのなら、私が貴方を主だとするのも変である、と。」
「そこまでは言わない。個人的には詳しく聞きたいとこだけど、他人の事情を深く聞くものじゃないしな。お前が言うなら、別だが。」
「でしたら、貴方のお傍に置いてください、我が主。」
「喜んで、って言うしかないんだろうな。言うけどな。」
「すみません。」
「良いってものよ。」
「でしたら、お力をお貸ししましょう。」
「そりゃ、嬉しいねぇ。」
「と申しましても、貴方のお力になるべく、私はここにいるのですが。」
「ハッハッハ、こりゃ、一本取られたな。」
「何が、一本取られたですか!!」
ふん!と勢いよく、綾子はボールを勇一に向かって投げた。その投げられたボールを横目で確認すると、勇一の姿がその場から消える。
「なっ!」
勇一の身体が消えたことに綾子は驚きの声を出す。そして、数舜後。
「はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
ボールを掴んだ勇一が姿を現して、綾子に向かって弾丸を打ち出そうと構える。それを身構えて、綾子は身を固める。だが、向かってくるはずの弾丸の衝撃はいつまで経っても来ないことに不審に思った綾子はゆっくりと、前を見る。すると、そこには、名も知らない誰かが勇一の身体を地面に縫いとめて、勇一の身体の上に立っていた。
「まったく、このバカ息子が。人前で披露するバカがいるか、まったく。」
そうぶつぶつと文句を言いながら、勇一を立たすと。
「それじゃ。」
そう言って、どこかへと向かっていった。
その背を、「待ってください、叔父様!」と銀色の髪を揺らす少女が自分のカバンと、勇一のカバンを持って帰って行った。
「鉄也叔父さん、流石っす。」
「全然、見えなかったわ。」
「叔父さん、なんでいたんだろうね~?」
空たち三人はそう口々に話していた。だが、彼がどこの誰で何の用事できたのかは誰にも分からなかった。
「・・・・・・・・・・・。」
「叔父様、少々お待ちを!」
「いや、待たんな。うちのバカ息子にもう一度基礎を叩き込まなくなったからな。」
「でしたら、私にも責任はあります!」
「連帯責任か?だが、それは残念ながらないし、君の主はこのバカだ。」
「主の責任は私の責任です!」
「違うな。こいつの責任はこいつの責任だ。自分の穴は自分で拭かんといかん。」
「ですが!!」
「君がそう言うのなら一緒に取ることになるぞ?」
「覚悟の上です!」
「そうか。」
そう言うと鉄也は担いだ勇一の身体を地面に叩きつける。
「っがぁ!!」
「マスター!」
強く地面に背を叩きつけられた勇一は肺に入っていた空気を外へと吐き出す。その勇一にルナは寄り添う様に駆け寄ろうとする。だが、鉄也は片手でルナのその動きを制す。
「起きていたなら、とっとと起きんか、バカ息子が。」
「だったら、そのバカ息子を叩き付けるなよ、父さん。」
「ふっ。言うようにはなりおってからに。」
「なにが?」
どこか喜ぶように言う鉄也の言葉に勇一は鉄也に訊く。だが、鉄也は勇一の質問には答えなかった。
「一般人相手に、使おうとしたな?」
「それが?」
「己の身を護れぬ、一般人を相手に使おうとしたな?」
「・・・・・・・・・・・うん。」
「私がお前に使うなと言ったのに使おうとしたな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん。」
「叔父様!マスターはっ!」
「いや、星川君。これは柳宮家の問題だ。他人の君は入って来るな。」
「私はすでにマスターのっ!柳宮勇一さんのっ!」
「よせっ、ルナっ!」
「ですがっ!」
ルナの言葉を遮ろうとした勇一だったが、突然、ハッハッハ、と笑い出した鉄也に驚いてしまった。
「そこまで言われてしまっては男が廃るというモノ。そうではないか、勇一?」
「父さん?」
「お前の意地はその程度か?」
父、鉄也のその言葉で勇一はハッとする。
「バカ言うな、父さん。男の子の意地は、こんなんじゃないぜ?」
「だろうな。知っているよ。」
そう言うと、先ほどまでの怒気を霧散させて、勇一たちを見た。
「であれば、今回のことは不問とし、何も聞かんし、何も訊こうとは思わん。では、帰るか!!」
「・・・・・・・・・・・・・はっ?」
鉄也はそう言うと、二人をその場に残したまま、歩き出す。勇一は鉄也の意図が分からずに一瞬動けずにいた。それはルナも同じだったようで二人して取り残されることになる。だが、許されたことを理解すると、勇一たちは鉄也を追う様にして動き始めた。
「で、ルナ。」
「はい?」
「お前は・・・・・・・・・なんで、そこまで想ってくれるんだ・・・・・・・・・?」
ルナは一瞬、勇一の言葉にどう答えるべきか思い悩む。だが、それが分かると、勇一に意地の悪そうな微笑みを浮かべると口元に人差し指を当て、
「さぁ、なんのことでしょう?」
と言った。
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