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第二章
パワード・セブン 第四話
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「おはよう、父さん。」
「む?ああ。おはよう。」
「おはようございます、我が主。御朝食は日本食でよろしいですか?」
「パンで頼む。」
「分かりました。少々お待ちを。」
入学式が終わり、いろいろ、そういろいろ起きて疲れ切ってすぐに寝て起きた翌日の朝。
柳宮勇一はもう既に朝食を摂っている父、柳宮鉄也の説明を要求するような鋭い視線を受けながら、いつの間にか馴染んでいるこの状況を生んだ張本人、星川=スターライト=ルナの問いかけに対して普通に答えていた。ルナは勇一の要求を聞くと、台所に向かうために、席を外す。ルナが席を外したと同時に、鉄也は咳ばらいを一回する。
「で、勇一。彼女は・・・・・・・・なんだ?」
「なんだって?」
「いや、質問が悪かったか。彼女はその・・・・・・・・違うな。付き合っているのか?」
深刻そうに訊く鉄也の言葉に、勇一は一瞬答えるべきかどうか悩んで、答えを一時放棄して、鉄也に訊いた。
「それはそうと、父さん。」
「質問しているのは私なんだが。・・・・・・・なんだ?」
「海外の方に行ってたんじゃないの?」
「そうだが?」
「だったら、なんでここに居るの?」
「帰って来たからに決まっているだろう。勇一、大人ではなく子供の時からボケていたら、父さん、お前の将来が心配だぞ。」
なにを当たり前のことを訊くのかと鉄也ははっはっは、と笑いながら答える。
「いや、何当たり前なこと訊いてるんだって言われても普通いないからな?」
「普通だろう?」
何言っているんだお前は、と鉄也は不思議そうな顔で勇一を見る。そんな鉄也の表情に一瞬、勇一は負けそうになるが、踏みとどまって踏み込んでみる。
「あのな、父さん。普通だったら、一日で帰ってこれないからな。時差考えろよ。」
「時差と言われてもな。帰ってこれた以上は問題あるまい?」
「帰って来れてもここにいるのがおかしいって言ってるんだよ!」
「勇一・・・・・・・・・・・・。」
勇一の言葉に、鉄也は可哀そうなものを見る様にして、勇一を見る。
「病院に行くか?なんなら、父さんの知り合いに掛け合って・・・・・・・・。」
「行かねぇよ!!」
鉄也の言葉に勇一は言わなきゃよかった!と後悔の念に駆られる。これがあるから、忍者って生き物は嫌いなんだ!!あっ、でも、その忍者の息子は俺なんだから将来、こうなるのか。嫌だなぁ。
とか勇一が思っていると、再び鉄也は勇一に問う。
「それで、勇一。もう一度訊くが、彼女は誰でどういった関係なんだ?」
「どうって言われてもな・・・・・・・・・。」
主とその付き人の関係です、と勇一は言おうかとした口を力で閉じる。そんな勇一の様子を知ったものかという様に鉄也は言葉を続ける。
「主とその付き人・・・・・・、いや、主従の仲だとは言うまい?」
「・・・・・・・ぶっ!!何言ってるんだ、父さん!」
「だって、普通にそう思うだろう。彼女はお前のことを我が主って呼んでるのに、お前は彼女に素っ気なく返事をする以上はそう思えるだろうに。」
「だからって言ってもな。」
見ず知らずの少女に、我が主とか呼ばれるこっちの身を考えてみろ、と勇一は心の中で鉄也に怒鳴る。ちょうどその時、いい具合に焼けたトーストをのせた皿を持って、話の中心の少女、ルナが食卓にやって来る。
「お話し中失礼します。マスター、パンが焼けましたので持ってきました。この焼き具合でよろしいでしょうか?何分、不得意のモノで。」
「いや、いいよ。ってか、不得意もあるのか?焼くだけなのに。」
「はい。時間を掛ければ黒く焦げてしまい、早くすればほぼ焼けてはいないという状態になってしまいます。・・・・・・・・・容易ではありますが、故に加減が難しい、トーストというモノはそういったモノです。」
「そうかもしれないがな・・・・・・・。」
「いや、勇一。彼女の言うことは最なことであり、物事の心理だぞ。」
くだらないな、と言う勇一に対して、鉄也はルナの言葉に同調する様な事を頷きながら言う。
「彼女の言う通り、パンのトーストは難しいもので長くしてしまえばパンは焦げるし、反対に時間を掛けなければ全く焼けない。簡単であるように思えるが実はかなり加減が難しい。さらには、人によっては焦げている方が良いだの、あんまり火が通ってない方が良いだのと言う始末だ。人の好みも人それぞれであるが、その中間、ベストではないがベターではある回答を彼女は提示してみせた。そう回答を提示してみせた彼女を悪くは言うものではないな、勇一。」
「お褒めに預かり恐悦至極。感謝の極みであります。」
「そう言うなら・・・・・・。悪かったな、ルナ。ありがとう。」
「はい、マスター。喜んでその言葉、預かります。」
鉄也の言葉に、ルナは感謝を言い、勇一も鉄也の言葉を聞いて考えを改めてルナに感謝の言葉を言う。ルナは勇一の言葉を聞くと、嬉しそうに勇一に微笑んで見せる。彼女の笑顔を見て、勇一は頬を掻く。そんな二人の様子を見て何も言わずにいた鉄也であったが、先ほどした質問をルナに訊く。
「それで、君はどこの誰で、勇一とどういった関係なのかな?」
「これは失礼を致しました。私は、星川=スターライト=ルナと言います。貴殿の御子息、柳宮勇一様とは勇一様を主に仕えたいと心の底から思い、初めて御覧になったその時から勇一様を想っております。いわば、主従の仲・・・・・・・でしょうか。と言っても、ご本人様からは仕えてもいいといった許可はもらえてはいないので、主従希望といったものではありますが。」
「そうか。あい分かった。少し待ってくれ。」
「いつまでもお待ちします。」
ルナの言葉を聞いて鉄也は眉間を押さえると、勇一の方を向く。
「お前、なにをした?」
「俺が聞きたいよ。」
「こんないたいけな少女にここまで想っていると言われてるのに、・・・・・・・・・その想いを・・・・・・・くぅ!!お前は!!父さんという者がいながら、何をしてるんだ!!母さんが泣くぞ!!」
「だから、俺が聞きたいって言ってるだろ!」
「・・・・・・・・・・・・・・えっ。」
柳宮家の食卓にどこからか風が吹いた・・・・・・・・・・そんな気がした。
「・・・・・・・・・つまり、あれか。初登校で初(?)対面でそんな『ずっと貴方のことを想っていました』的なことを言われて、その結果、こうなったと。そういうことだな?」
「そう言ってるだろ。」
鉄也は勇一の言葉を聞いてから頭の中で繰り返し反芻して、自分の理解が出来る様に今現在の問題点を砕いて納得した様に勇一に確認を取る。
「しかしな・・・・・・・・・。そう言われても、現実味が帯びないな。『ずっと殺したくて貴様をどう殺すか寝ずに思っていた!片時も忘れたことどない!』と言われるならばまだしも、『会った時から、貴方にお付きしたいと想っておりました。忘れたことなど片時もございません。』と言われた挙句、『私は貴方のモノであり、貴方の所有物であります。貴方が行くところが私のいくところであり、貴方が死ぬ場所が私の死ぬ場所です。』と言われてしまった余計にな。」
「そうは言ってないんだけどな・・・・・・・・。」
「似たようなものだろ。」
ルナが言ったセリフを鉄也に説明した勇一であったが、何やら脚色されていることを鉄也に指摘すると、似たようなものだと言われて、そうなのかなぁ?と首をひねる勇一であった。そんな勇一の様子を放った形で、鉄也は再びルナに訊く。
「君が勇一に恋して、勇一のことを想っていたというのは分かった。それと君が『パワード・セブン』という『変身ツール』であり、『管理人格』であるのとどこがどう繋がるのか、説明して貰えるか?」
「数か月前、とある旅客機が撃墜されました。その旅客機には多くの学生がおりました。しかし、生存者は誰もいないという絶望的な結果でした。」
「えっ。」
ルナの言葉に、勇一は疑問の声を出す。その声を聞いてルナは勇一の方を一瞬見る。だが、鉄也の咳き込む声を聞いて、ルナは再び話し出す。
「・・・・・・・そういった絶望的な状況であるのにも関わらず、息をしていた一人の少年がおりました。その少年を見た人々は彼を生かすことに必死になります。しかし、彼を生かす方法は人々は思い浮かびませんでした。その時、とある科学者の考えで光明が差しました。」
「それって、どういう・・・・・・・?」
「『ソウルリンクシステム』か。」
「えっ。」
ルナの言葉を聞いて、勇一は疑問の声を出すが、鉄也はルナの説明を聞いて合点がいったというような声を出す。
「ご明察、流石です。」
「なに、聞いたことがるだけだ。あの報せを聞いた時、どれほど悲しかったか。勇一が何食わぬ顔で帰って来た時は目を疑ったものだぞ。よく戻ったな、流石私の息子だ、と。だが、そうだったか。」
「現実というモノは悲しいモノです。理想というモノは、現実に生きる者にとってみれば、遠きモノ。」
「その通りだ。現実と理想は天と地ほどの差があるからな。故に、人は理想を見るのかもしれんが。」
「そうですね。」
「つまり、どういうことだよ?」
二人の言葉を聞いて、理解できなかった勇一は、二人に訊く。二人はそんな勇一を見ると、鉄也はと息を吐き、ルナはただ頷いた。
「お前に理解できるように言えばな。お前という魂をより頑丈な身体に繋ぎ止めるためにリンクするシステムだってことだな。」
「もう少し追加して言いますと魂というソフトが入った身体、ハードから引きはがされない様に、七人の力で繋ぎ止めよう、としたのが『パワード・セブン』というハードです。」
鉄也とルナの言葉に勇一は何も言えなかった。たった一人の為に、幼馴染であるというただそれだけの理由で彼女たちが、力になるとは断言はできないし、いくら知り合いであろうともただ見たことがある程度の少年の力になるという少女の気持ちなど勇一には分からなかった。
「その『ソウルリンクシステム』とやらが完成しただのとデマがまた流れているな、と思ったが。よもや、自分の息子がそうだったとはな。・・・・・・・・防衛省の連中は上手いことして扱おうと企んでいるみたいだが、そう簡単にはさせん。」
「・・・・・・・・・父さん?」
勇一は思考が停止する最中に聞こえた鉄也の言葉に反応して、鉄也の方を見る。勇一と目を合わせた鉄也は二カッと勇一に笑顔を向けた。
「なに。子供の本分は勉強だ。恋愛に現を抜かすというのもあるが、そうした場合は・・・・・・・・分かっているな?」
「山籠もり生活は嫌だぜ、父さん。」
「・・・・・・・・・・・だったら、頑張るんだな。な~に、海外とかの外野は父さんたち、大人に任せろ。」
鉄也はそう言うと、ルナの方に視線を向ける。ルナは鉄也の視線を受けると、軽く頷いた。
「それじゃ、行ってくるよ、父さん。」
「それでは、行って参ります。」
「ああ、いってらっしゃいだ。」
勇一とルナの二人は朝食を終えて、登校の支度を終えると玄関に向かい、鉄也に挨拶して登校する。鉄也はそんな高校生二人を見送ると、家の中へと戻っていく。
数歩歩くと、勇一はふと話を切り出した。
「そう言えば、結構確認してるけど。」
「はい?」
「なんで、俺なんだ?」
「と言いますと?」
「いや、全世界の、この地球に住んでいる人間、六十億人近くいるわけだ。」
「えぇ。」
「その六十億人のうちの一人に当たるわけだな。」
「それが?」
ルナは勇一が何を言おうとしているのか、分からなかったので勇一に尋ねる。
「計算式は分からんが、俺と君が出会う確率は天文学的に出会う確率はないと言えるわけだな?」
「かもしれません。」
「で、昨日した質問に戻るわけだが。・・・・・・・どこかで会ったかな?」
「どこか・・・・・・・と訊かれましても、そう訊かれたなら私は答えるべきなのでしょうか?」
「答えるべき・・・・・・・とかじゃなくて、答えてくれると有難い。」
勇一はそう言うと、ルナの方を見た。
これは自慢ではないが、記憶力はそこそこある方であると勇一は思っていた。修行と称し、鉄也にどこか知らない山中に縄にぐるぐる巻きに巻かれて放り出された時は、家に戻れたことを記憶力が良いのか疑問に思っていた。その後、何回かマジックショー等といったところに調査と称して、手伝わされた時には、暴力団員が劇場に借金の取り立てと言い襲撃してきた時には父に教えられた技術を使ってどうにか生き残れた。まぁ、そのあとに父に訊いたところ、「まさか襲撃しに来るとはなー。だが、良い修行になっただろ?」と素っ気なく答えたことに、一回殴った方がいいかと真剣に考えたときもあった。それを抜きにしても、テストの成績はそこそこ良かったから、そこそこいいほうだと自慢に思っていた。
だが、その勇一の記憶力をもってしても、勇一の隣にいる陽の光を浴びて銀色に煌めく短い髪を揺らめかす少女とどこで会ったのか、全く思い出せなかった。
そんなことを考えていたからか、遠くの方で巨大な戦闘機とステルス機、ドリル戦車に新幹線が天高く飛び上がることに気が付かなかった。そのため、昨日の今日であるのに関わらず、勇一たちの目の前に巨大ロボットが現れても勇一は何もできなかった。
『最終合体、完了!見参!ハガッ!ネイッ!ラー!』
暑苦しい感じで名乗りを上げる『ハガネイラー』に勇一は身構える。
「朝から襲ってくるたぁ、いくら何でも暇じゃないかねぇ・・・・・・・?」
「彼女たちにとっては、そうかもしれません。」
「言うねぇ、お前も。」
『えぇい、無礼な!!』
勇一たちの会話を聞いてか、怒った口調で言うセリフが勇一の耳に届く。
『「パワード・セブン」!昨日は負けましたが、今、ここでなら貴方を倒せます!さぁ、変身しなさい!柳宮勇一!』
「とんだ奇襲作戦もあったもんだな。」
勇一は唾を吐くように言うと、ルナに手を向ける。
「行けるか、ルナ?」
「はい、全ては貴方が望みがままに。御身の剣であり、盾であることが我が喜び。故に。」
そう言って、勇一の手を優しく両手で包む。
「私はここにいます、我が主。」
勇一の手を優しく包んだ両手の感触を感じる前にルナの身体が光に包まれて、光とともに消える。その光は勇一の腰に纏わりつくと、勇一は自身の腰に普段付けているベルトとは異なる感触と重さを感じた。
『スタンバイ。レディ。』
ベルトから発せられる声、ルナの声が勇一の耳に届いた次の瞬間、勇一は右手を左前方に、左腕を左の腰部に押し付ける。
「変、身っ!」
『ビルドアップ。』
変身という掛け声とともに、左前方に突き出した右腕を右側に引き戻し、右手で右の腰部にあるスイッチを押し込む。そのスイッチとは反対側、左の方は左腰に押し込んでいた左腕をずり下げて左手で左腰部のスイッチを押し込む。押し込んだ瞬間、勇一の周りの風が止む。だが、突如として、勇一の身体を包むように旋風が吹き、その吹いた風の量が増えて渦となって、竜巻となって勇一の身を包み込む。
『宮子様!』
『今が!』
『チャンスです!』
『えぇ、そうですわね!ここで終わりでしてよ、「パワード・セブン」!』
隙を見つけたとばかりに宮子たちは各々で意見を言い始める。
たしかに、今の勇一たちはたった二人であり、『パワード・セブン』の名の通りの七人ではない。だが、今、ここに一人の男がいたことを彼女たちは知らない。勇一の父であり、日本の最終兵器と呼ばれて大人たちに恐れられていた男の存在を。故に。
「誰を倒すと言うかね?」
突如聞こえた声に『ハガネイラー』はその声の人物を視界に収めるために目線を上に上げる。
そこには男が空中で仁王立ちしていた。
『なっ!?』
「別に驚くことではあるまい。」
宮子たちの驚く声にしれっと男は言った。
「『ハガネイラー』・・・・・・・・・破鋼財閥の一人娘とは言え、あの『パワード・セブン』は私の一人息子なんでな。残念ながら、殺すわけにはいかんのでな。」
『だとしたら、止めてみますか!?この「ハガネイラー」をっ!!』
「ハッ。くだらんな。」
『でしたら、お食らいなさい!!ドリル!クラッシャー!マグナム!』
男が何者かも分からないまま、激昂した宮子は『ハガネイラー』の拳を空中に佇んでいる男に向かって放つ。キュイィィィィィィィィィィィィン!と高速に回転する拳を前にして男は全く動じない上に、ニヤッと笑みをこぼしていた。男より遥かに巨大な拳が男がいた個所を抉るように爆風を撒き散らし飛び去って行く。
『やったか!?』
『ふっ、この「ハガネイラー」の「ドリル・クラッシャー・マグナム」を受けてはただではいられまい・・・・・・・・。』
『宮子様。お気持ちは分かりますが、いくらなんでも一般人に向けなくても・・・・・。』
『いいですこと、綾子。何も種も仕掛けもなしに、空に立っていられる人間を一般人とは呼ばなくてよ。』
宮子たちは各々の感想を口々にする。宮子は自身の取り巻きの一人、黄金綾子に訂正を加える。その時爆風が徐庶に晴れていく。
「だったら、何と呼ぶ?」
そこには先程見せたように男が空中に二本足で立っていた。
『なっ、なにぃ!?』
宮子たちの予想を裏切るように立っている男に宮子たちは驚きの声を出す。だが、男はそんなことなど気にしない様子で、どこから出したのか長いマフラーを取り出すと首元に巻く。
「正当防衛だな。」
『なにが!』
「一発は一発だ。それに昔の人は良く言うだろう?『やられたらやり返せ』。」
『そうでしたら、どうしますの?』
「決まっている。こうするんだ。」
そう言うと、男は自身の身体を高速に回しだす。
「疾風怒濤ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!大回転魔弾っ!!旋風閃雷ぃぃぃぃぃぃぃ!!」
『その技はすでに見ていましてよ!プロテクション・ウォール!!』
高速に回り出して、目にも映らぬ速度で回るがゆえに、男の姿はすでに見えなかった。厳密には回り出すとともに現れた暗雲にその身が隠れたからだったのだが。だが、もう既に宮子たちはその技を見ており、対応策もすでに見出していた。撃ち出した右拳とは逆の左拳を前方に突き出すと、分厚く巨大な障壁が現れる。竜巻と化した高速に回転する男の身体が障壁にぶち当たり、障壁に阻まれる。その時、ニヤリと宮子は勝利を確信して口元に笑みを浮かべる。
だが、宮子は気が付かなかった。
この技は一度出したことがある勇一の上位互換であるということと、男は柳宮勇一の父であり、師匠でもある柳宮鉄也であるということの二つの問題点を。
故に障壁に当たり、さほどの時間をかけずにバチバチィ!と大きな雷を周囲に出しながら、徐々に割れていく障壁を前に宮子はただ見ていることしか出来なかった。
バリィン!!
砕かれた障壁を他所に進路を塞ぐモノがなくなった巨大な渦は『ハガネイラー』の巨体に当たると、巨大で傷一つもない見事な造形美に多くの切り傷を付けると、『ハガネイラー』の後方へと過ぎ去っていく。そして、渦が過ぎ去ると『ハガネイラー』は大地に膝を付ける。膝を付けた瞬間、旋風を巻き起こした男、柳宮鉄也は、空中で自身の回転を止めると、長いマフラーを軽く回して、口元を隠す。
「『ハガネイラー』・・・・・・・・・・これほどとはな。他愛ないな。」
そう言った瞬間に、勇一の身体を巻き込んだ渦が止み、鋼鉄の身体に身に纏った勇一が現れる。
「変身、完、了!かかってこい、『ハガネイラー』!俺が、いや、俺たちが相手だ!」
そう言って指差した先には、もうすでに膝をついたボロボロの姿のロボット、『ハガネイラー』がいた。
「・・・・・・・・・・・あっ?何が起こってやがる?」
『もう既に交戦終了、状況は終了していると見受けられます。』
「いや、ルナ。それは言われなくても分かる。分かるんだが、説明がない。」
「それはな。私がやったからだ。」
勇一たちよりも前方から聞こえるその声に、勇一は全てを悟って理解し、その声の人物を見る。
「父さん。」
「準備運動にもならなかった。食後の運動と思って動いたら、一撃で終わった。」
ふっ、くだらんとでもいう様に、鉄也は言うと、いつの間にか首元に巻いたマフラーを外し、綺麗に纏める。
『マスター。説明を求めます。』
「・・・・・・・・あ~。父さんが倒した。」
『残念ですが、説明になってませんよ、マスター。』
だよなぁ、と頭を掻きながら思った勇一であった。
「む?ああ。おはよう。」
「おはようございます、我が主。御朝食は日本食でよろしいですか?」
「パンで頼む。」
「分かりました。少々お待ちを。」
入学式が終わり、いろいろ、そういろいろ起きて疲れ切ってすぐに寝て起きた翌日の朝。
柳宮勇一はもう既に朝食を摂っている父、柳宮鉄也の説明を要求するような鋭い視線を受けながら、いつの間にか馴染んでいるこの状況を生んだ張本人、星川=スターライト=ルナの問いかけに対して普通に答えていた。ルナは勇一の要求を聞くと、台所に向かうために、席を外す。ルナが席を外したと同時に、鉄也は咳ばらいを一回する。
「で、勇一。彼女は・・・・・・・・なんだ?」
「なんだって?」
「いや、質問が悪かったか。彼女はその・・・・・・・・違うな。付き合っているのか?」
深刻そうに訊く鉄也の言葉に、勇一は一瞬答えるべきかどうか悩んで、答えを一時放棄して、鉄也に訊いた。
「それはそうと、父さん。」
「質問しているのは私なんだが。・・・・・・・なんだ?」
「海外の方に行ってたんじゃないの?」
「そうだが?」
「だったら、なんでここに居るの?」
「帰って来たからに決まっているだろう。勇一、大人ではなく子供の時からボケていたら、父さん、お前の将来が心配だぞ。」
なにを当たり前のことを訊くのかと鉄也ははっはっは、と笑いながら答える。
「いや、何当たり前なこと訊いてるんだって言われても普通いないからな?」
「普通だろう?」
何言っているんだお前は、と鉄也は不思議そうな顔で勇一を見る。そんな鉄也の表情に一瞬、勇一は負けそうになるが、踏みとどまって踏み込んでみる。
「あのな、父さん。普通だったら、一日で帰ってこれないからな。時差考えろよ。」
「時差と言われてもな。帰ってこれた以上は問題あるまい?」
「帰って来れてもここにいるのがおかしいって言ってるんだよ!」
「勇一・・・・・・・・・・・・。」
勇一の言葉に、鉄也は可哀そうなものを見る様にして、勇一を見る。
「病院に行くか?なんなら、父さんの知り合いに掛け合って・・・・・・・・。」
「行かねぇよ!!」
鉄也の言葉に勇一は言わなきゃよかった!と後悔の念に駆られる。これがあるから、忍者って生き物は嫌いなんだ!!あっ、でも、その忍者の息子は俺なんだから将来、こうなるのか。嫌だなぁ。
とか勇一が思っていると、再び鉄也は勇一に問う。
「それで、勇一。もう一度訊くが、彼女は誰でどういった関係なんだ?」
「どうって言われてもな・・・・・・・・・。」
主とその付き人の関係です、と勇一は言おうかとした口を力で閉じる。そんな勇一の様子を知ったものかという様に鉄也は言葉を続ける。
「主とその付き人・・・・・・、いや、主従の仲だとは言うまい?」
「・・・・・・・ぶっ!!何言ってるんだ、父さん!」
「だって、普通にそう思うだろう。彼女はお前のことを我が主って呼んでるのに、お前は彼女に素っ気なく返事をする以上はそう思えるだろうに。」
「だからって言ってもな。」
見ず知らずの少女に、我が主とか呼ばれるこっちの身を考えてみろ、と勇一は心の中で鉄也に怒鳴る。ちょうどその時、いい具合に焼けたトーストをのせた皿を持って、話の中心の少女、ルナが食卓にやって来る。
「お話し中失礼します。マスター、パンが焼けましたので持ってきました。この焼き具合でよろしいでしょうか?何分、不得意のモノで。」
「いや、いいよ。ってか、不得意もあるのか?焼くだけなのに。」
「はい。時間を掛ければ黒く焦げてしまい、早くすればほぼ焼けてはいないという状態になってしまいます。・・・・・・・・・容易ではありますが、故に加減が難しい、トーストというモノはそういったモノです。」
「そうかもしれないがな・・・・・・・。」
「いや、勇一。彼女の言うことは最なことであり、物事の心理だぞ。」
くだらないな、と言う勇一に対して、鉄也はルナの言葉に同調する様な事を頷きながら言う。
「彼女の言う通り、パンのトーストは難しいもので長くしてしまえばパンは焦げるし、反対に時間を掛けなければ全く焼けない。簡単であるように思えるが実はかなり加減が難しい。さらには、人によっては焦げている方が良いだの、あんまり火が通ってない方が良いだのと言う始末だ。人の好みも人それぞれであるが、その中間、ベストではないがベターではある回答を彼女は提示してみせた。そう回答を提示してみせた彼女を悪くは言うものではないな、勇一。」
「お褒めに預かり恐悦至極。感謝の極みであります。」
「そう言うなら・・・・・・。悪かったな、ルナ。ありがとう。」
「はい、マスター。喜んでその言葉、預かります。」
鉄也の言葉に、ルナは感謝を言い、勇一も鉄也の言葉を聞いて考えを改めてルナに感謝の言葉を言う。ルナは勇一の言葉を聞くと、嬉しそうに勇一に微笑んで見せる。彼女の笑顔を見て、勇一は頬を掻く。そんな二人の様子を見て何も言わずにいた鉄也であったが、先ほどした質問をルナに訊く。
「それで、君はどこの誰で、勇一とどういった関係なのかな?」
「これは失礼を致しました。私は、星川=スターライト=ルナと言います。貴殿の御子息、柳宮勇一様とは勇一様を主に仕えたいと心の底から思い、初めて御覧になったその時から勇一様を想っております。いわば、主従の仲・・・・・・・でしょうか。と言っても、ご本人様からは仕えてもいいといった許可はもらえてはいないので、主従希望といったものではありますが。」
「そうか。あい分かった。少し待ってくれ。」
「いつまでもお待ちします。」
ルナの言葉を聞いて鉄也は眉間を押さえると、勇一の方を向く。
「お前、なにをした?」
「俺が聞きたいよ。」
「こんないたいけな少女にここまで想っていると言われてるのに、・・・・・・・・・その想いを・・・・・・・くぅ!!お前は!!父さんという者がいながら、何をしてるんだ!!母さんが泣くぞ!!」
「だから、俺が聞きたいって言ってるだろ!」
「・・・・・・・・・・・・・・えっ。」
柳宮家の食卓にどこからか風が吹いた・・・・・・・・・・そんな気がした。
「・・・・・・・・・つまり、あれか。初登校で初(?)対面でそんな『ずっと貴方のことを想っていました』的なことを言われて、その結果、こうなったと。そういうことだな?」
「そう言ってるだろ。」
鉄也は勇一の言葉を聞いてから頭の中で繰り返し反芻して、自分の理解が出来る様に今現在の問題点を砕いて納得した様に勇一に確認を取る。
「しかしな・・・・・・・・・。そう言われても、現実味が帯びないな。『ずっと殺したくて貴様をどう殺すか寝ずに思っていた!片時も忘れたことどない!』と言われるならばまだしも、『会った時から、貴方にお付きしたいと想っておりました。忘れたことなど片時もございません。』と言われた挙句、『私は貴方のモノであり、貴方の所有物であります。貴方が行くところが私のいくところであり、貴方が死ぬ場所が私の死ぬ場所です。』と言われてしまった余計にな。」
「そうは言ってないんだけどな・・・・・・・・。」
「似たようなものだろ。」
ルナが言ったセリフを鉄也に説明した勇一であったが、何やら脚色されていることを鉄也に指摘すると、似たようなものだと言われて、そうなのかなぁ?と首をひねる勇一であった。そんな勇一の様子を放った形で、鉄也は再びルナに訊く。
「君が勇一に恋して、勇一のことを想っていたというのは分かった。それと君が『パワード・セブン』という『変身ツール』であり、『管理人格』であるのとどこがどう繋がるのか、説明して貰えるか?」
「数か月前、とある旅客機が撃墜されました。その旅客機には多くの学生がおりました。しかし、生存者は誰もいないという絶望的な結果でした。」
「えっ。」
ルナの言葉に、勇一は疑問の声を出す。その声を聞いてルナは勇一の方を一瞬見る。だが、鉄也の咳き込む声を聞いて、ルナは再び話し出す。
「・・・・・・・そういった絶望的な状況であるのにも関わらず、息をしていた一人の少年がおりました。その少年を見た人々は彼を生かすことに必死になります。しかし、彼を生かす方法は人々は思い浮かびませんでした。その時、とある科学者の考えで光明が差しました。」
「それって、どういう・・・・・・・?」
「『ソウルリンクシステム』か。」
「えっ。」
ルナの言葉を聞いて、勇一は疑問の声を出すが、鉄也はルナの説明を聞いて合点がいったというような声を出す。
「ご明察、流石です。」
「なに、聞いたことがるだけだ。あの報せを聞いた時、どれほど悲しかったか。勇一が何食わぬ顔で帰って来た時は目を疑ったものだぞ。よく戻ったな、流石私の息子だ、と。だが、そうだったか。」
「現実というモノは悲しいモノです。理想というモノは、現実に生きる者にとってみれば、遠きモノ。」
「その通りだ。現実と理想は天と地ほどの差があるからな。故に、人は理想を見るのかもしれんが。」
「そうですね。」
「つまり、どういうことだよ?」
二人の言葉を聞いて、理解できなかった勇一は、二人に訊く。二人はそんな勇一を見ると、鉄也はと息を吐き、ルナはただ頷いた。
「お前に理解できるように言えばな。お前という魂をより頑丈な身体に繋ぎ止めるためにリンクするシステムだってことだな。」
「もう少し追加して言いますと魂というソフトが入った身体、ハードから引きはがされない様に、七人の力で繋ぎ止めよう、としたのが『パワード・セブン』というハードです。」
鉄也とルナの言葉に勇一は何も言えなかった。たった一人の為に、幼馴染であるというただそれだけの理由で彼女たちが、力になるとは断言はできないし、いくら知り合いであろうともただ見たことがある程度の少年の力になるという少女の気持ちなど勇一には分からなかった。
「その『ソウルリンクシステム』とやらが完成しただのとデマがまた流れているな、と思ったが。よもや、自分の息子がそうだったとはな。・・・・・・・・防衛省の連中は上手いことして扱おうと企んでいるみたいだが、そう簡単にはさせん。」
「・・・・・・・・・父さん?」
勇一は思考が停止する最中に聞こえた鉄也の言葉に反応して、鉄也の方を見る。勇一と目を合わせた鉄也は二カッと勇一に笑顔を向けた。
「なに。子供の本分は勉強だ。恋愛に現を抜かすというのもあるが、そうした場合は・・・・・・・・分かっているな?」
「山籠もり生活は嫌だぜ、父さん。」
「・・・・・・・・・・・だったら、頑張るんだな。な~に、海外とかの外野は父さんたち、大人に任せろ。」
鉄也はそう言うと、ルナの方に視線を向ける。ルナは鉄也の視線を受けると、軽く頷いた。
「それじゃ、行ってくるよ、父さん。」
「それでは、行って参ります。」
「ああ、いってらっしゃいだ。」
勇一とルナの二人は朝食を終えて、登校の支度を終えると玄関に向かい、鉄也に挨拶して登校する。鉄也はそんな高校生二人を見送ると、家の中へと戻っていく。
数歩歩くと、勇一はふと話を切り出した。
「そう言えば、結構確認してるけど。」
「はい?」
「なんで、俺なんだ?」
「と言いますと?」
「いや、全世界の、この地球に住んでいる人間、六十億人近くいるわけだ。」
「えぇ。」
「その六十億人のうちの一人に当たるわけだな。」
「それが?」
ルナは勇一が何を言おうとしているのか、分からなかったので勇一に尋ねる。
「計算式は分からんが、俺と君が出会う確率は天文学的に出会う確率はないと言えるわけだな?」
「かもしれません。」
「で、昨日した質問に戻るわけだが。・・・・・・・どこかで会ったかな?」
「どこか・・・・・・・と訊かれましても、そう訊かれたなら私は答えるべきなのでしょうか?」
「答えるべき・・・・・・・とかじゃなくて、答えてくれると有難い。」
勇一はそう言うと、ルナの方を見た。
これは自慢ではないが、記憶力はそこそこある方であると勇一は思っていた。修行と称し、鉄也にどこか知らない山中に縄にぐるぐる巻きに巻かれて放り出された時は、家に戻れたことを記憶力が良いのか疑問に思っていた。その後、何回かマジックショー等といったところに調査と称して、手伝わされた時には、暴力団員が劇場に借金の取り立てと言い襲撃してきた時には父に教えられた技術を使ってどうにか生き残れた。まぁ、そのあとに父に訊いたところ、「まさか襲撃しに来るとはなー。だが、良い修行になっただろ?」と素っ気なく答えたことに、一回殴った方がいいかと真剣に考えたときもあった。それを抜きにしても、テストの成績はそこそこ良かったから、そこそこいいほうだと自慢に思っていた。
だが、その勇一の記憶力をもってしても、勇一の隣にいる陽の光を浴びて銀色に煌めく短い髪を揺らめかす少女とどこで会ったのか、全く思い出せなかった。
そんなことを考えていたからか、遠くの方で巨大な戦闘機とステルス機、ドリル戦車に新幹線が天高く飛び上がることに気が付かなかった。そのため、昨日の今日であるのに関わらず、勇一たちの目の前に巨大ロボットが現れても勇一は何もできなかった。
『最終合体、完了!見参!ハガッ!ネイッ!ラー!』
暑苦しい感じで名乗りを上げる『ハガネイラー』に勇一は身構える。
「朝から襲ってくるたぁ、いくら何でも暇じゃないかねぇ・・・・・・・?」
「彼女たちにとっては、そうかもしれません。」
「言うねぇ、お前も。」
『えぇい、無礼な!!』
勇一たちの会話を聞いてか、怒った口調で言うセリフが勇一の耳に届く。
『「パワード・セブン」!昨日は負けましたが、今、ここでなら貴方を倒せます!さぁ、変身しなさい!柳宮勇一!』
「とんだ奇襲作戦もあったもんだな。」
勇一は唾を吐くように言うと、ルナに手を向ける。
「行けるか、ルナ?」
「はい、全ては貴方が望みがままに。御身の剣であり、盾であることが我が喜び。故に。」
そう言って、勇一の手を優しく両手で包む。
「私はここにいます、我が主。」
勇一の手を優しく包んだ両手の感触を感じる前にルナの身体が光に包まれて、光とともに消える。その光は勇一の腰に纏わりつくと、勇一は自身の腰に普段付けているベルトとは異なる感触と重さを感じた。
『スタンバイ。レディ。』
ベルトから発せられる声、ルナの声が勇一の耳に届いた次の瞬間、勇一は右手を左前方に、左腕を左の腰部に押し付ける。
「変、身っ!」
『ビルドアップ。』
変身という掛け声とともに、左前方に突き出した右腕を右側に引き戻し、右手で右の腰部にあるスイッチを押し込む。そのスイッチとは反対側、左の方は左腰に押し込んでいた左腕をずり下げて左手で左腰部のスイッチを押し込む。押し込んだ瞬間、勇一の周りの風が止む。だが、突如として、勇一の身体を包むように旋風が吹き、その吹いた風の量が増えて渦となって、竜巻となって勇一の身を包み込む。
『宮子様!』
『今が!』
『チャンスです!』
『えぇ、そうですわね!ここで終わりでしてよ、「パワード・セブン」!』
隙を見つけたとばかりに宮子たちは各々で意見を言い始める。
たしかに、今の勇一たちはたった二人であり、『パワード・セブン』の名の通りの七人ではない。だが、今、ここに一人の男がいたことを彼女たちは知らない。勇一の父であり、日本の最終兵器と呼ばれて大人たちに恐れられていた男の存在を。故に。
「誰を倒すと言うかね?」
突如聞こえた声に『ハガネイラー』はその声の人物を視界に収めるために目線を上に上げる。
そこには男が空中で仁王立ちしていた。
『なっ!?』
「別に驚くことではあるまい。」
宮子たちの驚く声にしれっと男は言った。
「『ハガネイラー』・・・・・・・・・破鋼財閥の一人娘とは言え、あの『パワード・セブン』は私の一人息子なんでな。残念ながら、殺すわけにはいかんのでな。」
『だとしたら、止めてみますか!?この「ハガネイラー」をっ!!』
「ハッ。くだらんな。」
『でしたら、お食らいなさい!!ドリル!クラッシャー!マグナム!』
男が何者かも分からないまま、激昂した宮子は『ハガネイラー』の拳を空中に佇んでいる男に向かって放つ。キュイィィィィィィィィィィィィン!と高速に回転する拳を前にして男は全く動じない上に、ニヤッと笑みをこぼしていた。男より遥かに巨大な拳が男がいた個所を抉るように爆風を撒き散らし飛び去って行く。
『やったか!?』
『ふっ、この「ハガネイラー」の「ドリル・クラッシャー・マグナム」を受けてはただではいられまい・・・・・・・・。』
『宮子様。お気持ちは分かりますが、いくらなんでも一般人に向けなくても・・・・・。』
『いいですこと、綾子。何も種も仕掛けもなしに、空に立っていられる人間を一般人とは呼ばなくてよ。』
宮子たちは各々の感想を口々にする。宮子は自身の取り巻きの一人、黄金綾子に訂正を加える。その時爆風が徐庶に晴れていく。
「だったら、何と呼ぶ?」
そこには先程見せたように男が空中に二本足で立っていた。
『なっ、なにぃ!?』
宮子たちの予想を裏切るように立っている男に宮子たちは驚きの声を出す。だが、男はそんなことなど気にしない様子で、どこから出したのか長いマフラーを取り出すと首元に巻く。
「正当防衛だな。」
『なにが!』
「一発は一発だ。それに昔の人は良く言うだろう?『やられたらやり返せ』。」
『そうでしたら、どうしますの?』
「決まっている。こうするんだ。」
そう言うと、男は自身の身体を高速に回しだす。
「疾風怒濤ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!大回転魔弾っ!!旋風閃雷ぃぃぃぃぃぃぃ!!」
『その技はすでに見ていましてよ!プロテクション・ウォール!!』
高速に回り出して、目にも映らぬ速度で回るがゆえに、男の姿はすでに見えなかった。厳密には回り出すとともに現れた暗雲にその身が隠れたからだったのだが。だが、もう既に宮子たちはその技を見ており、対応策もすでに見出していた。撃ち出した右拳とは逆の左拳を前方に突き出すと、分厚く巨大な障壁が現れる。竜巻と化した高速に回転する男の身体が障壁にぶち当たり、障壁に阻まれる。その時、ニヤリと宮子は勝利を確信して口元に笑みを浮かべる。
だが、宮子は気が付かなかった。
この技は一度出したことがある勇一の上位互換であるということと、男は柳宮勇一の父であり、師匠でもある柳宮鉄也であるということの二つの問題点を。
故に障壁に当たり、さほどの時間をかけずにバチバチィ!と大きな雷を周囲に出しながら、徐々に割れていく障壁を前に宮子はただ見ていることしか出来なかった。
バリィン!!
砕かれた障壁を他所に進路を塞ぐモノがなくなった巨大な渦は『ハガネイラー』の巨体に当たると、巨大で傷一つもない見事な造形美に多くの切り傷を付けると、『ハガネイラー』の後方へと過ぎ去っていく。そして、渦が過ぎ去ると『ハガネイラー』は大地に膝を付ける。膝を付けた瞬間、旋風を巻き起こした男、柳宮鉄也は、空中で自身の回転を止めると、長いマフラーを軽く回して、口元を隠す。
「『ハガネイラー』・・・・・・・・・・これほどとはな。他愛ないな。」
そう言った瞬間に、勇一の身体を巻き込んだ渦が止み、鋼鉄の身体に身に纏った勇一が現れる。
「変身、完、了!かかってこい、『ハガネイラー』!俺が、いや、俺たちが相手だ!」
そう言って指差した先には、もうすでに膝をついたボロボロの姿のロボット、『ハガネイラー』がいた。
「・・・・・・・・・・・あっ?何が起こってやがる?」
『もう既に交戦終了、状況は終了していると見受けられます。』
「いや、ルナ。それは言われなくても分かる。分かるんだが、説明がない。」
「それはな。私がやったからだ。」
勇一たちよりも前方から聞こえるその声に、勇一は全てを悟って理解し、その声の人物を見る。
「父さん。」
「準備運動にもならなかった。食後の運動と思って動いたら、一撃で終わった。」
ふっ、くだらんとでもいう様に、鉄也は言うと、いつの間にか首元に巻いたマフラーを外し、綺麗に纏める。
『マスター。説明を求めます。』
「・・・・・・・・あ~。父さんが倒した。」
『残念ですが、説明になってませんよ、マスター。』
だよなぁ、と頭を掻きながら思った勇一であった。
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