銀と灰の世界

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プロローグ

#6

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「てなことがあったわけよ。」

「おおう、それは大変だったねえ」

 僕は事の始終を影奈に話した。すると彼女は驚いているのか驚いていないのかわからない間の抜けた返しをしてくれた。
 いや別に、いいリアクションが欲しかったわけではないのだけれど、なんと言えばいいか、拍子が抜けた気分になってしまった。

「昨日の翼がそんなことになってたなんて全然気づかなかったよ。いつもどおりだったし」

「うん、でも、何か気づいたこととかない?小さなことでもいいんだけど。」

 医者からは、もし精神的なものが原因ならその大元となったものをゆっくり焦らず見つけていくことが大事だと言われた。本人が気付かないものでも親しい友人なら何か気づくことがあるかもしれない。

「んー、一昨日の翼、ちょっと元気なかったくらいかな。今思うことは」

「あれか・・・。」

 この身に起きたおかしな事の一連はあの夢から始まっている。あの夢で見たことはすべて覚えている。不思議なくらいに記憶にしっかりと刻み込まれている。     
 こんなことが起こり得るんだろうか?夢とは時間が経てば経つほど記憶から薄れて消えていくものではないのか。夢の中で出てきた公園、人影、これらを頼りにちょっと探ってみるか。
 とはいえ、探るも何もこれは自分の中の出来事なのだから、探るまでもないことかもしれない。

「ありがとな。部活があったのに」

「大丈夫だよ。それはさっき終わったから。それより、翼がそんなことになってたとは・・・、もし、私にできることがあったら何でも言ってね!」

「サンキュ。それじゃ、また電話するよ。」

「了解ー。待ってまーす。んじゃね」

「おう」

 健二に電話をかけた後に、しばらくしてから影奈から電話があった。さっきは陸上の部活で走っていたらしい。影奈は陸上部のエースとはいかないまでも休まず直向きに取り組む姿勢から周りからの信頼は厚い。あの性格もあって自然とあいつの周りには人が集まる。
 公園。公園か。見覚えのある気がしたな。けれど、この辺りにあんなのあったかな?まあ、今日は土曜日だ。ゆっくり散歩しながら探してみるか。
 この記憶が飛んでしまったことについては、母さんは心配してくれたけど、病院の先生は特にそれほど重たい感じには捉えてなさそうだった。僕も実はそれほど深刻には捉えていない。何かのひどい勘違いかもしれないし、時間が経てば思い出せるかもしれない。
 そういうことでは、影奈や健二に話して変に心配させてしまったことが本当によかったのか考えてしまった。あいつらはいい奴だから、僕以上にこのことについて心配しているかもしれない。考え過ぎかもしれないな。
 ひとまず、特に今日はすることもない。日は落ちかけているが、少しだけ辺りの公園を探してみよう。
 母さんに少し出てくると伝えて、徒歩で周辺を回ってみた。小さな公園だから、よく見て探したほうがいいだろう。普段気にしないものだからな。案外この辺りにあったりするかもしれない。
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