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4 入団試験

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 「お嬢様、本当によろしいのですか?」

 「はい。よろしくお願いします騎士団長」


婚約破棄の申し出から僅か3週間後、

エラはクラーク騎士団の入団試験を受けようとしていた。


 「大丈夫なのか…?」

 「あの団長との入団試験なんて…」

騎士やメイド達が固唾を呑んで見守る中、

屈強な団長と小柄な10歳の箱入りお嬢様が
剣を構え向かい合っている


 「侯爵様から、手合わせをして資格がなければ
すぐにでも試験を中断するよう言われております」

 「分かってます。どうぞ、手加減などせずお願い致します」


普通の男でも、この団長を前にすると少なからず萎縮するものだが


目の前の少女は団長の目を真っ直ぐ見つめ、闘気を放っていた。


 「では、始め!!」





最初の一手から半径10m範囲の粉塵が舞い、

騎士達もやっとの思いで2人の剣さばきを見ていた


 「…俺、騎士辞めた方がいいかな」

1人の騎士が呟いた。


団長の剣が脅威のスピードで動きが見えないのはいつもの事、

しかし、相手の少女の剣も同じく目で追えなかった


息こそ上がっているもの、身体の動かし方・剣さばき

どれも騎士達と並ぶほどだった。


そして、


 「…今、団長の剣受け止めなかったか?」


何よりも驚くべきは、あの屈強な団長が振り下ろす剣を


いとも簡単に受け止めてしまうほどの腕力を持っていたことだった



 「そこまで!!!」

ピタッ

互いの剣が互いの喉元に触れる距離で止まる2人。




 「…お嬢様、ご立派でした」

 「ありがとうございます、団長」

こうして、壮絶な戦場と化した入団試験は


エラの合格を告げる団長の声により幕を閉じた。




 「本当に、受かってしまうなんて…」

 「お兄様」

心配で様子を見に来ていたアルベルトは、

妹の凄まじい戦いを見て呆気に取られていた。



 「僕は体力もなく剣を長時間も持ってられなかった…
勉強の方が得意だったし、剣より羽根ペンの方が僕には合っていたんだ。

クラーク騎士団の継承が断たれてしまうかもしれないところだったが…

まさか僕の可愛いエラが継ぐことになるとは…本当に立派だった」

ぽんぽんと優しく妹の頭を撫でるアルベルト

兄からも認められ、無事エラの入団が決まった。





 ー8年後ー
 「団長、こちらの資料もよろしくお願いします」

 「あぁ、エラ様。ありがとうございます」

18歳になったエラは団長の補佐を務める副団長にまで成長していた

 「そういえば、3週間後はデビュタントですね」

 「…そう、でしたね」



デビュタント。この国では18歳を成人としており、

皇族貴族の少年少女が一同に集まり、正式に社交界デビューを果たす大舞踏会

騎士となったエラに、参加する予定はなかった。

しかし、

 「皇子から、パートナーに申し込まれたとお噂を耳にしましたが」

 「っ…」


侯爵からも皇帝陛下に婚約破棄の申し出をしたのだが、正式に受け取って貰えなかった。


皇帝陛下曰く、『息子に良き縁が訪れるまで、皇后候補としていてほしい』との事


 「どうするのですか?」

 「…断る訳には、いきませんよね」

 「そうおっしゃると思いました。
本日の業務はこれで終わって大丈夫ですので、
どうぞ準備をなさってください」

 「ありがとうございます、団長」


執務室を後にしたエラは、3週間後に迫るデビュタントの準備を始めようとしていた。

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