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1 婚約者

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 「私の可愛いエラ。この方が、お前の婚約者だよ」

 「…こんやくしゃ?」

 「そう。将来結婚する人だ」

そうお父様に言われ見せられた写真には、


柔らかそうなシルバーブロンドの髪に

淡い紫色の瞳、前髪についてしまいそうなほど長いまつ毛、
ほんのり色づいたバラの蕾ような唇をもつ

この国の次期皇帝 イーサン皇子が写っていた。


 「おとうさま、こんやくしゃってなにをするのですか?」

 「そうだなぁこの国をにより良い国にする為、
常にこの方のお側で右腕となれるよう、
淑女らしく、皇后らしく振る舞えば良いのだよ」

 「なんだかむずかしいですね」

ふふふと両手で口元を覆う少女。



エラ・スワン・クラーク侯爵令嬢は、

クラーク領を治める朗らかだが威厳のある父 アルディオ侯爵と

常におっとりと柔らかい笑顔を浮かべる母 マリー侯爵夫人、

皇室の秘書官として働く頭脳明晰な兄 アルベルト
そして屋敷のメイドや執事、多くの人から愛情を注がれて育った箱入りお嬢様だ。

そして今、写真に写る未来の旦那様を6歳には似つかわしくないほど真剣な眼差しで見つめている…




 ー4年後ー
初めて婚約者であるイーサン皇子と会う日。

クラーク邸に招待し、お茶をする予定…だった
 
 「…」
 「…」

が、今目の前に何百回も見つめた顔が、

写真よりも少し大人びた顔がある。

 「…ご機嫌よう」
 「…あぁ」

あんなに最初の挨拶を考えて、

お茶の席ではどんな会話をするか練習までしたのに

最初に出た言葉がご機嫌ようとは…

もっと可愛げのあるリアクションが取れたらよかったのに。

 「おお、イーサン皇子…エラまで、こんなところにいらっしゃったなんて!」

 「さぁさ、あちらでゆっくりお茶を飲みながらお話しましょう」

 お父様とお母様、皇室の護衛達が私達を呼び無事に(?)お茶会がスタートした。



 「じゃあエラ嬢は古代文字学を7章まで読み終えたんですね…っ?」

 「っはい、まだまだ勉強不足ですが…」

 「そんな事ないよ!僕はまだ4章の後半までしか終えられていない…すごいな、エラ嬢は」

 「光栄です…イーサン皇子」

 「そんな緊張しないで、エラ。アカデミーで僕より頭のいい人はいないから、君に興味が湧いてしまったよ」

嬉しそうに微笑む彼は、年相応な無邪気さすら感じられる。

 「まぁ…イーサン様の右腕になれるよう勉学に励んで良かったです」

婚約者同士、好調な滑り出しができた様子を見て両親も安心したのか

私たち2人だけの空間になった。

 「ところで、イーサン様。先程はあんな所で何を…?」

そう。先程彼がいたのはお茶会をセッティングした広場と家門の間にある生垣の陰だった。

 「ぁ…えっと……はち」

 「はち??」

 「蜂が、いたから…逃げたのだ…」

カァっと頬や耳を赤く染め照れる彼を見た途端、

ブワッと全身が震えた。これは、この感覚は…

 「…イーサン皇子」

 「?なんだい、エラ」

 「私、決めました」

椅子から立ち上がり、彼の横に移動し、

片膝を付き、彼の手を取った…

 「…エラ…?何を……?」

仮にも侯爵令嬢が片膝を床に付いている。

皇子も異様な状況に混乱している様子だった。

エラは、先程までの柔らかくお淑やかな、淑女らしい眼差しから一変、

力強く決意の込った眼差しを皇子に向ける。

 

 「イーサン皇子。私と婚約破棄してくださいませ」

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