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しおりを挟む真っ白なドレスに身を包み、控え室の鏡に映る自分を見つめる
「…やっと着れた」
顔を覆う白いベールには上品な刺繍が施され、オフショルダーのドレスはラステルの華奢なネックラインを引き立てていた
自分の初めてのウエディングドレス姿に胸を高鳴らせていると、扉が鳴る
「…ラステル」
「!お兄、様…」
兄アルステインとは時を戻してもらってから初めて顔を合わせる
記憶は曖昧でよく思い出せないが、兄が冷たくなったのは確か顔に怪我を負ってからだったはず…
その事件を防いだ今、兄がどう出るのか分からない
思わず体を強ばらせるラステル
「…とても、綺麗だな」
「えっ…」
「結婚おめでとう」
優しく微笑みを向け祝福を贈るアルステイン
温かい眼差し…幼い頃の記憶のままの兄の姿に涙を浮かべる
「おやおや、泣き虫だなぁラステル…強くありなさい、公爵家の人間として」
「!」
兄の口癖…なぜ忘れてしまっていたのだろう
お母様を泣くし、多忙な父に構われなかった私たち兄妹に同情を向ける貴族達や取り入ろうとする下心丸出しな貴族達、
そんな者達から身を守るのは自分自身だと、兄は言っていた
“弱い姿を見せるな”“強く生きよう”“決して屈するな”
そう教えてくれていた兄
だから、義母と異母妹から虐げられても何も言わずに従っていた私を、
濡れ衣を着せられても言い返さず、身の潔白を証明しようともせず処罰を受けた私に失望していたんだ
もう兄をガッカリさせたくない
戻ってやり直せる今こそ、公爵家の人間として期待に応えよう
まずは、この結婚を無事に終えてから
あの2人に報いを受けさせる…
「ご新婦様、お時間です」
「…はい」
「会場で待っているよ、ラステル」
「はい、お兄様」
ヴァージンロードの先に牧師と婚約者が待つ
そう言えば、婚約者と会うのは今日が初めてだ
現皇帝の従兄弟の息子にあたる方と伺っているが…
新郎の隣に立ち、牧師に向き直る
「…お久しぶりです、ラステル」
「え?」
彼に会ったことはないはず…なのにお久しぶり?
新郎を見上げるラステルは、彼の周りに飛び交う光の粒達に気が付く
「まさか…」
「しぃー」
人差し指を口元に立てる新郎…基、精霊王 ジュベリア様
「……ここに、2人を夫婦と認めます」
親族の見守る中、私と彼は夫婦となった
「どういう事ですか!?」
「おや…私では不服でしたか?」
「そういう事ではなくて…!」
2人きりの控え室でジュベリアに詰め寄るラステル
「精霊王ともあろう御方が…私なんかと夫婦となるなんて…しかも!そのお姿…!」
そう。ジュベリアは精霊達を纏わせていることを除けば見た目はラステルの婚約者そのもの
つまり、ラステル以外には精霊が見えない為、彼が精霊王だと気づく者は他にいないのだ
「そんなに重く考えないでください、貴女を見守りたくてつい取り憑いてしまいました」
「ついって…!」
はぁと小さく溜息を零し、椅子に腰かけるラステル
「……ジュベリア様」
「はい」
「…私の願いを叶えた事、後悔なさなってますか?」
「後悔?」
「私は、異母妹に怪我を負わせるよう細工をし、剰え…ざまぁみろと思ってしまった」
「ほぉ」
「こんな私…全然心優しくない…とても、悪い子です」
「そうですねぇ」
そう呟きながらラステルの横に腰かけるジュベリア
「…なら、私も貴女を手伝いました。私も、悪い子ですね」
ふふふと笑う彼を見て、心のつっかえが少しだけ軽くなった
「さて、ラステル。次の目標は?」
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