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しおりを挟む「お兄様…」
2つ上の実兄 アルステインが冷え切った瞳で床に這い蹲る血を分けた実の妹を見つめる
はぁと小さく溜息を漏らし
「…公爵家の面汚しが…」
小さく、それでいて私の耳にはしっかりと響く声で呟く
婚約者には捨てられ、顔には見るに堪えない傷を残し、日々の雑務により手は荒れ肌は煤だらけで髪も手入れされていない妹に幻滅しているのだろう…
昔は何をするにも私と共に過ごし、
母の代わりに、忙しい父の代わりに惜しみのない愛情を注いでくれていた兄はもういない
この国の宰相として働く兄は日に日に家には帰らなくなっていった
きっと、この家の汚点でしかない私を視界にも入れたくないのだろう
「…申し訳、ございません…」
破片を拾いながら兄の顔を見れずに謝る
涙が溢れそうなのをグッと堪えながら
何も言わずにこちらに背を向け部屋を後にするアルステイン
静寂に包まれた自室の中で溜息を零す
先程、新しいドレスと装飾品を求めに街へ出掛けた夫人とカーラは夕刻まで戻らないだろう
しばらくは雑用を押し付けるために呼び出されることもない
「…本当に、酷い顔ね」
ドレッサーの鏡に映る自分の顔をまじまじと見つめ鼻で笑う
こんな見た目の結婚を逃した女に求婚する貴族はいない…平民でもいないだろう
つまり、私には一生この家で奴隷のように扱き使われるか、愛想を尽かした父に追い出されてしまうかの二択しか道は残されていない
緋色に染まる空を見つめながらこの先の不安に涙を堪えていた時、リンと鈴の音のように軽やかな音が聞こえた
「あら、来たのね」
『ラステル…元気ない?』
『またイジメられたの?大丈夫?』
キラキラと眩く光る小さな粒がラステルの周りを飛び交う
「大丈夫よ…ただ、少し疲れてしまっただけ…
でもみんなが来てくれたから元気になったわ」
優しく微笑み光の粒達に手を添える
『僕達がやっつけてやりたいくらいだよ!』
『でもそんなことしたら私たちが見えるラステルが疑われちゃう』
『それはダメだね、ラステルを困らせるのは良くない』
「皆が見えることは誰も知らないわよ?
まぁ…言うつもりはないけれどね」
光の粒達の正体は精霊だった
幼い頃、兄と共に森へ遊びに行った時迷子になり1人泣いていたラステル
そこに現れたのが彼らだ
心優しい彼女が気に入った彼らは少しの間話し相手となり彼女を慰め、森の入口まで案内した
森を探し回ったアルステインは汗だくとなっていたが、妹を見つけるとすぐに抱き締め『離れていってはダメだよ』と優しく注意した
それから精霊達はラステルの元へよく訪ねてはこうして話し相手となり、今では彼女の唯一の心の拠り所であり癒しとなっていた
「今日もお話を沢山聞かせて?」
『いいよ!』
『あ、ズルい!僕から話したい!』
『私も話していい?』
「ふふ…皆のお話が聞きたいわ、順番にね」
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