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しおりを挟む出て行けと言われ、フローリアは部屋を後にした
最後に一つだけ、弱った自分の姿に向けて問いを投げかけて
「…グレイス、元に戻る薬は…貰っていないの?」
呆然と天井を仰ぎながらか細い声で問いの答えが響く
「……あるわけないじゃない」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
それからの日々は目まぐるしく過ぎ去った
フローリア侯爵令嬢の葬儀は、身内と婚約者であるスティール公爵家だけを呼んだ小規模なものだった
両親は酷く泣き、婚約者も疲弊しきった顔だった
「貴女の病に…苦しみに気づけず……申し訳ございません……ッ」
棺の前で拳を握り締め、静かに涙を零すリアム子公爵
そんな彼から、冷たく鋭い眼差しで睨まれながら
自分の亡骸に花を手向ける
「…グレイス……」
誰にも聞こえない、彼女と自分だけにしか聞こえない程の小さな声で亡骸に呼びかける
私はこれから…貴女として生きていくのね
誰よりも私の味方であり、冷たくされた時の方が長かったけど、それでも楽しい思い出を育んだ貴女
同じ時に生まれ、血を分けた妹の貴女として…
「…もっと、一緒にいたかったわ……」
仲違いを修復したかった
貴女の想い人との結婚を祝福したかった
でも、それはもう叶わない
真っ黒な棺の中、白い花々に包まれて
自分の代わりに、妹は旅立った
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「グレイス」
喪が明けてから1ヶ月
段々と妹の名で呼ばれるのに慣れてきた頃
両親が私の元へやって来た
「スティール公爵家との、縁談なんだが…」
「はい」
バツの悪そうな顔で話を続ける父
「当人たちの心も勿論重要だが…家同士の繋がりを優先した結果、お前との縁談で話が纏まったのだ」
「はい」
「……リアム子公爵のお心は、まだあの子にあるのは、お前も知っているだろう。だから…辛い思いをするかもしれないが…」
「お父様、大丈夫ですよ。侯爵令嬢として、家の為…領民の為にどんな縁談もお受け致します」
柔らかく微笑み、彼との縁談を再度結んだ日だった
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
その夜、私はフローリアの墓前に来ていた
「……グレイス、何故待ってくれなかったの…」
返事は勿論ない
「リアム様との縁談が来たわ。
早まらなければ、貴女は彼と結ばれるはずだったのに……」
月明かりだけがグレイスの顔を照らしていた
「また、貴女に恨まれてしまうわね…」
私は一体、どうしたら良かったのだろうか
妹の恨みを買い、病に苦しめられ
挙句の果てには妹の人生を奪ってしまった…?
「…私は、悪者なのかしら」
妹の暴挙だと分かってはいても、どうしても自分を恨まずにはいられないフローリアは
墓石に花を手向け、静かにその場を後にした
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