上 下
19 / 43

18・パターン3、他国の公女⑥

しおりを挟む

「はは。恥知らずって言うのはむしろ君みたいな人のことを指す言葉だよね それとも君の国と僕の国では言語体系でも違うのかな? 同じ言葉でも意味が違うだとか?」

 ちなみに言語の話をすると、付近の国全て合わせて、近辺の地域に言語の差は全くない。あるとして多少の細かい訛りぐらいのものである。
 スペリアは笑顔だった。それはもう、物凄く笑顔だった。ただし目が一切笑っていない。
 正直言って、怖かった。
 にもかかわらず、この公女もまた強い。

「あら、スペリア様ったらお戯れがお好きですのね? わたくしたち、同じ言葉をこうして話しているはずですわ」

 これは嫌味の応酬なのだろうか。それともこの公女まさか本気か。
 公女も公女で大変にこやかなのである。スペリアの笑顔だけが目に入ってでもいるというのか。目が笑っていないのだが、見えないのか。それとも見えてあえて無視しているのか。
 いずれにせよ怖かった。
 リジーは口を挟まず、見守るだけにしておこうと決めた。
 私は空気、今、空気。と、心の中で唱える。

「なら、僕の言葉ももちろん理解できているんだよね? 恥知らず・・・・君。の大帝国の一属国でしかないたかが・・・小公国の公女の分際・・で、しっかりと独立した、れっきとした大王国である我が国の公女であるリジーにまさかとんだ舐めた口をきいているだなんて、それは我が国そのものを侮辱したと受け取って構わないんだよね? なにせ先程、君自身が言っていたように、リジーは王太子である僕の婚約者、つまり未来の王妃なんだから、王妃を侮辱するということは、国を侮辱するのと同じことなんだもの」

 先程からの公女の言葉を逐一拾って返すだとか、どれほど腹に据えかねていたのだろうか。あと、リジーへの侮辱が国への侮辱というのは、流石に極論が過ぎると思ったが、多分、スペリアのことだから本心なのだろうとも思った。

「何を……おっしゃっていらっしゃるの? スペリア様はまさかわたくしを侮辱していらっしゃるの?」

 スペリアの発言に思考が停止でもしていたのか、それとも余程に怒りでも覚えたのか、公女の返した言葉は決して長くはなかった。
 え、それだけなの? とリジーが思わず公女を見てしまうぐらいに。
 ただし、声は少し震えている。

「侮辱されていないと受け取っているというのなら、僕は君の頭を疑うのだけれど。恥知らず・・・・だから頭に届いていないの? それともやっぱり言葉が通じていないのかな。これだから、自分を知れない下賤の者は」
「スペリア様っ! 言っていいことと悪いことがございますわっ、下賤の者だなんて……それはまさかわたくしを指していらっしゃるわけじゃございませんわよね?!」

 スペリアはついには明確にバカにした感情を余すことなく笑みに乗せて、そこまで言われては流石に黙っていられないとばかり、公女が今度こそきつい口調で言い返し始めた。

「君以外の誰を指すというんだい? 小公国とは言え公女ともあろう者が、言葉一つさえ正しく理解できないんだね」

 スペリアの様子は、あくまでも穏やかでにこやかだ。バカにした色こそあれど、口調にも一切の苛立ちがない。
 しかし、苛立っていないはずがなかったし、これでは明確に喧嘩を売っていた。
 もっとも、はじめにリジーに対して喧嘩腰になっていたのはこの公女の方なのだけれども。
 ならスペリアのこれは売っているのではなく買っているのだろうか。
 傍観者になり果てたリジーは、はてと小さく首を傾げた。

「ああ! 不思議そうなリジーの顔可愛い!」

 さっきの今で一体どういうことかと思うような変わり身の速さでスペリアが悶える。
 彼は何処までもいつも通りだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断罪されて婚約破棄される予定のラスボス公爵令嬢ですけど、先手必勝で目にもの見せて差し上げましょう!

ありあんと
恋愛
ベアトリクスは突然自分が前世は日本人で、もうすぐ婚約破棄されて断罪される予定の悪役令嬢に生まれ変わっていることに気がついた。 気がついてしまったからには、自分の敵になる奴全部酷い目に合わせてやるしか無いでしょう。

婚約破棄されたのたが、兄上がチートでツラい。

藤宮
恋愛
「ローズ。貴様のティルナシア・カーターに対する数々の嫌がらせは既に明白。そのようなことをするものを国母と迎え入れるわけにはいかぬ。よってここにアロー皇国皇子イヴァン・カイ・アローとローザリア公爵家ローズ・ロレーヌ・ローザリアの婚約を破棄する。そして、私、アロー皇国第二皇子イヴァン・カイ・アローは真に王妃に相応しき、このカーター男爵家令嬢、ティルナシア・カーターとの婚約を宣言する」 婚約破棄モノ実験中。名前は使い回しで← うっかり2年ほど放置していた事実に、今驚愕。

悪役令嬢は断罪イベントをエンジョイしたい

真咲
恋愛
悪役令嬢、クラリスは断罪イベント中に前世の記憶を得る。 そして、クラリスのとった行動は……。 断罪イベントをエンジョイしたい悪役令嬢に振り回されるヒロインとヒーロー。 ……なんかすみません。 カオスなコメディを書きたくなって……。 さくっと読める(ハズ!)短い話なので、あー暇だし読んでやろっかなーっていう優しい方用ですです(* >ω<)

転生できる悪役令嬢に転生しました。~執着婚約者から逃げられません!

九重
恋愛
気がつけば、とある乙女ゲームの悪役令嬢に転生していた主人公。 しかし、この悪役令嬢は十五歳で死んでしまう不治の病にかかった薄幸な悪役令嬢だった。 ヒロインをいじめ抜いたあげく婚約者に断罪され、心身ともに苦しみ抜いて死んでしまう悪役令嬢は、転生して再び悪役令嬢――――いや悪役幼女として活躍する。 しかし、主人公はそんなことまっぴらゴメンだった。 どうせ転生できるならと、早々に最初の悪役令嬢の人生から逃げだそうとするのだが…… これは、転生できる悪役令嬢に転生した主人公が、執着婚約者に捕まって幸せになる物語。

逆行転生した悪役令嬢だそうですけれど、反省なんてしてやりませんわ!

九重
恋愛
我儘で自分勝手な生き方をして処刑されたアマーリアは、時を遡り、幼い自分に逆行転生した。 しかし、彼女は、ここで反省できるような性格ではなかった。 アマーリアは、破滅を回避するために、自分を処刑した王子や聖女たちの方を変えてやろうと決意する。 これは、逆行転生した悪役令嬢が、まったく反省せずに、やりたい放題好き勝手に生きる物語。 ツイッターで先行して呟いています。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

少女を胸に抱き「可愛げのない女だ」と言う婚約者にどういう表情をしたら良いのだろう?

桃瀬さら
恋愛
大きな丸いメガネ越しにリーリエは婚約者と少女が抱き合っているのを見つめていた。 婚約者が"浮気"しているのに無表情のまま何の反応もしないリーリエに。 「可愛げのない女だ」 吐き捨てるかのように婚約者は言った。 どういう反応をするのが正解なのか。 リーリエ悩み考え、ある結論に至るーー。 「ごめんなさい。そして、終わりにしましょう」

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

処理中です...