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18・パターン3、他国の公女⑥
しおりを挟む「はは。恥知らずって言うのはむしろ君みたいな人のことを指す言葉だよね それとも君の国と僕の国では言語体系でも違うのかな? 同じ言葉でも意味が違うだとか?」
ちなみに言語の話をすると、付近の国全て合わせて、近辺の地域に言語の差は全くない。あるとして多少の細かい訛りぐらいのものである。
スペリアは笑顔だった。それはもう、物凄く笑顔だった。ただし目が一切笑っていない。
正直言って、怖かった。
にもかかわらず、この公女もまた強い。
「あら、スペリア様ったらお戯れがお好きですのね? わたくしたち、同じ言葉をこうして話しているはずですわ」
これは嫌味の応酬なのだろうか。それともこの公女まさか本気か。
公女も公女で大変にこやかなのである。スペリアの笑顔だけが目に入ってでもいるというのか。目が笑っていないのだが、見えないのか。それとも見えてあえて無視しているのか。
いずれにせよ怖かった。
リジーは口を挟まず、見守るだけにしておこうと決めた。
私は空気、今、空気。と、心の中で唱える。
「なら、僕の言葉ももちろん理解できているんだよね? 恥知らず君。彼の大帝国の一属国でしかないたかが小公国の公女の分際で、しっかりと独立した、れっきとした大王国である我が国の公女であるリジーにまさかとんだ舐めた口をきいているだなんて、それは我が国そのものを侮辱したと受け取って構わないんだよね? なにせ先程、君自身が言っていたように、リジーは王太子である僕の婚約者、つまり未来の王妃なんだから、王妃を侮辱するということは、国を侮辱するのと同じことなんだもの」
先程からの公女の言葉を逐一拾って返すだとか、どれほど腹に据えかねていたのだろうか。あと、リジーへの侮辱が国への侮辱というのは、流石に極論が過ぎると思ったが、多分、スペリアのことだから本心なのだろうとも思った。
「何を……おっしゃっていらっしゃるの? スペリア様はまさかわたくしを侮辱していらっしゃるの?」
スペリアの発言に思考が停止でもしていたのか、それとも余程に怒りでも覚えたのか、公女の返した言葉は決して長くはなかった。
え、それだけなの? とリジーが思わず公女を見てしまうぐらいに。
ただし、声は少し震えている。
「侮辱されていないと受け取っているというのなら、僕は君の頭を疑うのだけれど。恥知らずだから頭に届いていないの? それともやっぱり言葉が通じていないのかな。これだから、自分を知れない下賤の者は」
「スペリア様っ! 言っていいことと悪いことがございますわっ、下賤の者だなんて……それはまさかわたくしを指していらっしゃるわけじゃございませんわよね?!」
スペリアはついには明確にバカにした感情を余すことなく笑みに乗せて、そこまで言われては流石に黙っていられないとばかり、公女が今度こそきつい口調で言い返し始めた。
「君以外の誰を指すというんだい? 小公国とは言え公女ともあろう者が、言葉一つさえ正しく理解できないんだね」
スペリアの様子は、あくまでも穏やかでにこやかだ。バカにした色こそあれど、口調にも一切の苛立ちがない。
しかし、苛立っていないはずがなかったし、これでは明確に喧嘩を売っていた。
もっとも、はじめにリジーに対して喧嘩腰になっていたのはこの公女の方なのだけれども。
ならスペリアのこれは売っているのではなく買っているのだろうか。
傍観者になり果てたリジーは、はてと小さく首を傾げた。
「ああ! 不思議そうなリジーの顔可愛い!」
さっきの今で一体どういうことかと思うような変わり身の速さでスペリアが悶える。
彼は何処までもいつも通りだった。
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