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12・パターン2、元平民の少女③
しおりを挟む同じことを思ったのだろうヴィテアが、思わずと言った風にスペリアが潜めていないけど潜んでいるつもりであるのだろう方へと視線をやり、途端、
「ひぃっ!」
と、怯えたような悲鳴を上げた。
リジーは絶対そちらの方は向くまいと心に決める。いったい何がどうなっているというのか。想像するだに恐ろしい。
だが同時に、いずれにせよこの調子では時間の問題だったのだろうなと思ったし、少女の妄想話は、わけがわからなかったけれど、だからこそ面白くはあったな、と思った。
そして、案の定。
「相応しくない? 君はいったいどういった立場でそんなことを言っているんだい? 相応しいだとかいう話になると、僕の方こそリジーに相応しいのかと時折不安になるほどなのに。リジーほど完璧な存在はいないだろう? そもそもリジーのかわいさはちょっとではないし、リジーを指してなんかと言ったという事実だけでも許しがたいのだけれど」
などという絶対零度の呟きが聞こえ始め。
その時になって、もしや始めてスペリアに気付いたのか、
「スペリア様!」
と、少女が語尾にハートマークがついていそうなほど、喜色に富んだ声を上げ。
え、いや、マジで今気付いたのか、この子、スペリア様ずっとそこにいたけど。貴方の話も初めから全部、スペリア様に伝わってるよ? え、スペリア様のこと好きなんだよね? なんで気付かないの?
などとうっかり混乱してしまったリジーなど放って、嬉々として、どう考えても恐ろしい雰囲気しか漂わせていないスペリアの方へと走り寄っていった。
スペリアのあの気配が、まったく感じられていないのだろうかと思わずヴィテアと顔を見合わせる。
だってあちらからから漂ってくる冷気は変わらないまま。
なのに少女は、
「スペリア様! 私を探しにいらして下さったんですね、私たちやっぱり運命なんですよ! あ、そうだ、聞いてくださいっ、リヒディル公爵令嬢ったらひどいんですよ? こんな所に呼び出して、私に意地悪を言ってくるんです! きっと、婚約者であられるスペリア様が、私のことを気に言って下さっているから嫉妬なさってらっしゃるんだわ……」
などと言い始めたのである。
え、ちょっと待ってマジで何言ってんの、この子?!
あ、そうだって、思いっきり今、思いついてるじゃない!
呼び出したのも貴方の方でしょう?!
全部嘘だし何処にも一切本当のことがないんだけど?!
妄想癖? だとしてもひどすぎるし、そもそも、本当にあのスペリア様の絶対零度な雰囲気に気付いていないの?!
バカなの?! その目、本当に見えてる?!
などと、内心で焦り始めたリジーの考えなど、当然少女に伝わるはずもなく、少女は頬を赤らめて、くねくねしながらスペリアにすり寄っていた。
少女は少女で、はっきり言って気持ち悪かった。
顔だちというか、見た目だけなら、あの少女も充分に可愛らしい方だと思うのだけれど、あれでは……。
結局そちらを向いてしまったリジーの視線の先で、スペリアは笑顔だった。
それはもう、恐ろしいほどに満面の笑みだった。
「うん、君には全く現実が見えていないってことはよくわかったよ。安心するといい、これからもずっと夢の世界にいさせてあげよう」
「本当ですか?! ああ、スペリア様、私たちようやく……」
「連れて行って」
笑顔のスペリアが、いったい少女には本当にどう見えていたのだろうか。
うっとりと呟く少女の声を遮って、スペリアは後ろに控えていた護衛に短く指示を出した。
「かしこまりました」
「え、ちょ、貴方たちなんなの?! やだ、掴まないでよ! 痛い! スペリア様、やめさせてください、スペリア様、スペリア様ぁーー!」
慇懃に頷いた護衛が少女を捕らえ、ようやく何かがおかしいと、事態を飲み込み始めた様子の少女に構わず、半ば無理やりに引きずって歩き始める。
当然、スペリアに助けて欲しいと手を伸ばす少女になど、スペリアがそれ以上構うはずもなく。
一応、なのだろう、確認にか他にもいた護衛の一人が、
「スペリア様、彼女は何処に?」
と尋ねるのへ、
「ほら、あの治験の、」
「ああ、あちらですか、了解しました」
「よろしくね」
だとかなんだとか答え、やり取りをしていて、しかし、ついには一部始終を見る羽目になったリジーが顔を青ざめさせているのに気付いて、
「ああ! 怖がってるリジーもかわい~~!」
と、よくわからない奇声を発しながら、相変わらず魔道具をリジーの方へと向けていた。
いつも通りである。
治験、と言っただろうか。いったい彼女はこれからどうなるのか。
恐ろしすぎてリジーは絶対に詳しく確認したりなどしないでいようと心に誓った。
勿論、それ以降少女の姿など一切見ていない。
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