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00-5・記憶②

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 夢を見ていた。
 それが夢だと、知っていた。
 否、いつか見た悪い夢・・・だと。
 それがたとえ怖ろしい苦痛・・・・・・を伴っていなくとも。
 だって、僕はこんなもの。

「――。ああ、君はなんて美しい」

 陶然と熱に浮かされたような声が甘く囁く。
 知らない声だ。
 いや、きっと一度だけ聞いたことがある声。
 リア様の声と、どこか似ていると思った。
 でも、違うということもはっきりとわかる。
 だって僕がリア様の声を、間違うはずなんてない。

「うふふ……陛下」

 応える声もまた甘く、そして何処かどろりと粘り気を持っているように感じられた。
 どうしてだろうか。気持ち悪くて仕方がない。
 リア様に似た声も、それに応える声も。

「ねぇ、陛下、僕に……」
「ああ、勿論、いくらでも。はは、お前は本当に美しい。あれ・・とは大違いだな。あれ・・は面白みがなくていけない。最低限の義務は果たしたんだ、だから……――」
「ええ、勿論、本当に。さぁ、だから陛下」

 陛下。
 それは今、リア様を指す言葉のはず、なのにそうではないことがわかる。
 知らないはずなのに理解している。
 それはきっとこれが夢だからなのだろう。
 声だけではなく、面差しもどこかリア様に似た男が、ゆっくりと手を伸ばしてきて、そして。

「んっ、ふ、ぅっ……ぁん、んんっ……」

 交わされたくちづけが気持ち悪くて仕方がない。
 どうして、何故。リア様以外の人となんて。でも。

「ぁん、ぁあ……んふっ、ん……」

 積極的にくちづけを受け入れる、それはだけど僕じゃなくて、これはやっぱりただの夢で。
 否、否、僕ではない――……誰かの、記憶で。
 また、だ、と、僕はもうわかっているのだ。
 僕は誰か・・共鳴・・しているのだと。
 それを望むと望まざるとにかかわらず。
 こんな、気持ちの悪い、リア様以外と体を交わすような記憶を共鳴追体験させられている。
 以前のような、痛く苦しく悲しい記憶ではないだけ良いと思うべきなのだろうか。
 まさか、そんなはずがない。むしろいっそこちらの方が。
 自ら相手を受け入れているかのようなこちらの方が。
 見たくないと思った。
 元より見たくもなかった記憶だ。知りたくもなかった誰かの記憶。
 どうして僕にこんなものを。
 わからない、わからない、けど。でも。

「なぁに? 僕のとっておきだって言うのに、不満だって言うの?」

 耳元で・・・、我が儘だなぁ、なんて面白くもなさそうに責め立てられて。理不尽だとしか、思えなかった。
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