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27・油断
しおりを挟む僕があれ? と気が付いたのはすぐだった。
この2、3日、あの女官と二人きりになることがないな、と。
元々、僕の身の回りの世話が、あの女官でなければならないというようなことはなく。ただ、彼女が敢えて僕の側に残るようにしているようだったというだけで、他の者でも問題など何処にもなかったのだ。だから、少しばかり、
「できれば女官の方を、と……」
などと、遠回しな指定を受けたら、彼女は容易く僕の側から、離れなければならないようになっていったようだった。
(これは……気を使われている、のかな……)
と、僕が思ったのも当然というものだろう。なにせ彼女の代わりのよう、僕の側に一番長くいるようになったのはケーシャ。
ある意味ではそれまで通りに戻ったと言ってもいい。
そもそもケーシャが僕から離れがちだったのも、婚姻式の準備や閨周りの世話などでケーシャでなければできない仕事があったからで、彼女はその代わりのように僕の側にいただけの話。だけどようやくそういった状況も、ひと段落したのだとも聞いていた。
「以前のように妃殿下と長くいられるようになってよかったです。ここしばらくは少し寂しかったので」
なんて言われて悪い気もせず、久しぶりに嫌な呟きを耳にすることなく過ごせて、どうして気付かずにいられるというのだろう。
だからこそ、僕が何か言われていることを知って、手を回してくれたのではないかと思ったのである。
なにせあの女官と二人きりだったとは言っても、少し離れたところには兵士や他の侍女、あるいは侍従がいたことはあったし、あの、嫌な印象を受ける呟きを聞かされている時、僕は出来るだけなんでもない様子を装うようにしていたけれど、それでもきっと少しばかりは、顔に出てしまっていただろうから。
それはあの女官もわかっていたはずだ。だって彼女は、顔色が悪くなっているだろう僕に時折、満足そうな様子を見せていたのだから。
僕は余計に、これは彼女の悪意ある行動なのだなと思ったものだった。
リア様やケーシャ、あるいはデオやヨーヌにでも余程相談しようかとも考えたのだけれど、そうしなかったのは結局、忙しそうな皆を煩わせたくなかったからで。あんな、些細な呟きぐらい、と飲み込んでいただけに過ぎず。だけど、
(気を使わせてしまうのなら、自分から相談した方がよかっただろうか……)
なんて僕はまた迷う。
否、今の時期に心を揺らさない方がいいこともわかっている、不安定になりそうなことは出来るだけ避けた方がいいことも。
それでなくとも、可能な限りリア様が側にいてくれるとは言っても、体調が多少であれ思わしくなく感じる時もあり、元より気を付けなければならない時期なのだ。きっとだからこそ、僕に何も言わず、気遣ってくれたのだろうけど。
そんな、みんなの、何よりリア様の気持ちが嬉しくて。僕はもしかしたら油断してしまったのかもしれない。
あるいは、少しばかり負担に思っていた、嫌な呟きを聞く、だなんてことがなくなって気を抜いてしまったのか。
そうでなければどうして。
僕にはわからない。
きっかけさえ僕には思い至らず、だからこそ僕にはどうしようもなく。
それはただ、あの女官が遠ざけられているなと気づいてすぐ。婚姻式まではあと2週間ほどと、時期が差し迫ってきた、ある夜のことだった。
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