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00-1・幼き邂逅

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 あれは幾つの時のことだっただろうか。
 幼年学校に入るより前の時。
 5つか6つかぐらいの頃だったように思う。
 その日は幾人もの子供・・が王城に呼ばれていた。
 僕よりずっと小さい子から、10を超えているように見える子まで。
 まさか貴族の子供全てというわけでもなく、男の子だとか女の子だとかの性別も関係がなく。身分も、さまざまであったように思う。
 僕のように子爵家の者だとか、アレリディア嬢のように侯爵家のご令嬢だとか。
 否、アレリディア嬢はいなかったはずだ。
 あの場にいたのは、そう、確か……確か。
 当然のことながら、ティネ殿下はいらっしゃった。
 そして……――陛下も。
 僕は元々決して闊達な子供でなどない。
 大人しいと言えば良いのか、人見知りでもあったと思う。
 その実、ただ単に、事なかれ主義なだけだ。
 何かを懸命に主張するような気力がなかった。
 同時に、どうしても譲れないと思うような何かもなく。
 それは今も変わらない。
 要するにその場にいた子供たちに、僕は臆してしまったのである。
 近づきたくないな、とまで思って、それで。
 王城は流石に、庭などまで大変に美しい。
 今とまた違った様子だったように思うが、とにかく、はじめて見る綺麗な草花に、子供たちがたくさんいる場所にいたくなかった僕は、誘われるように一人、歩き出してしまったのである。
 瑞々しい緑と、鮮やかな色とりどりの花と。
 それらに見惚れながら、自分がいったいどこへ向かっているのかもわからず歩いて、歩いて、歩いて、そして――……迷ってしまったのは当然のことだっただろう。
 気が付くと僕は広い庭の一角、背の低い庭木の影に、座り込んでしまっていた。
 その時の心情までは、よく覚えていないけど、多分、流石に心細くなってしまったのではないかと思う。
 覚えているのは、泣いていた僕自身。そんな僕にかけられた優しい声。

「おい、どうしたぁ、1人か?」

 導かれるように、顔を上げた僕の目の前にいたのは、にかっと笑う、明るい表情の、僕より10は年上だろうか、青年になりかけといった年頃の一人の少年だった。
 まるでぱぁっと世界が光り輝くよう。
 そんな風に感じたのをよく覚えている。

「ああ、お前……――の候補か。なるほど、今日だったな。迷ったのか? ほら、来いよ」

 何事か小さく頷いて、言いながら伸ばされた手を、僕は縋るように受け入れた。

「っ、――、……殿下っ、いけません、そのような……」
「ははは。構うものか。こんなに小さいんだぞ? 何があるって言うんだ。それに、もしかしたらこの子が……――、……」
「ですが、それはまだ……、――」
「いい、いい、気にするな。兄上には俺から言っておく。それでいいだろ」

 従者なのか護衛なのか。もしかしたらお目付け役とか、そんなものだったのかもしれない。
 そういった役割に見える人と、少年は何か話していたけれど、何を言っていたのか、僕にはよくわからなかった。
 ただ、僕に分かったのは力強い腕と眩しい笑顔。
 時折僕の方にも話しかけてくれる少年が眩しくて眩しくて。
 ドキドキと、どうしてだか高鳴った胸と、ずっとこうして、抱き上げていて欲しい、そう思ったことをよく覚えている。
 紫色の宝石みたいな瞳が、キラキラと輝いていて。僕はうっとりと見惚れてしまった。
 もっともっと近くで眺め続けていたい。
 そんな風にまで思ったものだから、子供たちの集まっている場所まで連れて来られ、腕から降ろされた時には、せっかく止まった涙が、また零れ落ちてしまいそうにさえなったのだけれど。
 その後、どうしたのだったか。
 その集まりのかかりか何かだったのだろう、従者だか侍女だかに促され、他の子供たちの輪へと戻されて。ひどく心細い思いで、その日を過ごしたのだった気がする。
 紫の瞳の、眩しい少年が、後に急逝した国王陛下の弟君で、王太子殿下の成人まで、中継ぎの国王となられると知ったのは、陛下ご自身が即位なさった時。
 すでに僕が王太子殿下の婚約者へと、疾うに決まった後のことだった。
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