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「愛してる」は呪い③
しおりを挟む正直な所。その時のことなんて、僕は痛みと恐怖しか覚えていない。
母の寝室だったはずの一室、天蓋付きの豪奢な寝台に僕を下ろした男は、そのまま僕にのしかかり、僕の衣服を乱暴に剝いでいった。暴れる僕から、無理やり剝がれた服はすぐにただの布切れと化す。
怖かった。怖くて怖くて。晒された肌の冷たさとか、頭上にひとまとめにした僕の両手を容易く捕らえた男の片手から伝わる熱だとか。
「ルディ」
どろりと流し込まれる男の声だとか。僕は全てに構わず暴れ、逃れようとする。だが、いったいどんなすべを駆使しているのか、男から少しも距離を取れない。
寝台に縫い留められた僕の体は、男の目にはどう映ったのだろう。真白い肌を晒させられ、恐怖に震える僕は、どう。
「ぁ、ぁあ、ぃや、いやっ……!いや!!!誰か!!!」
誰か。
助けを呼んだ。誰でもいい、誰か。
助けてほしかった。
この恐ろしい男から、僕を逃がしてほしかった。情けないだなんだと言われても構わない。だって怖いのだ。怖い。
「ルディ」
男が僕の名を呼ぶ。
「ルディ、ルディ、ルディ」
何度も何度も僕の名を呼んで、僕の肌を触る。
「ああ……ルディ」
当然とした息を吐いて、僕の、開かされた足の間に、自身のそれをねじ込んで、そして。
「愛している」
遮るものは、何もなかった。
身に纏っていたはずの服や下着はすでにただの布で、少しも僕を隠さず、僕の素肌はどこまでも男の前で露わ。
「あああああぁぁぁぁあぁああああっ…………!!!」
喉から迸る絶叫。体を真っ二つに引き裂かれているのではないかと思う程の激痛。
あまりに激しい痛みは、熱となって僕を襲った。
ああ。
揺れる、揺れる、意識が揺れる。
僕の体も、揺れている。
「ぁっ、ぁっ、ぁうぅ……ぁ……」
僕の喉から出る声は、ただの反射だ。喘ぎだとか嬌声だとかそういうものではない。
ただ、体の奥を突かれる度、押し出されるように喉から声が出た。
「ぁっ、ぁっ、ぁっ、」
揺らされている動きに合わせて、喉が震え、そこから呼吸しようとすれば、どうしたって声となって漏れるのだ。
「ぅう……ぁ……」
初めての時と違って、今の僕には激痛など与えられていない。かといって男は僕から、快楽を引きずり出そうとするわけでもなく。
それでも時折、僕は余すことなく与えられる体の中への刺激によって、勝手に快楽を拾い上げた。
「ぁあ……」
そうしてびくびくと震える僕の体に男は縋りながら、やはり僕の反応など気にせず、好き勝手に腰を揺らし、僕を穿つ。閉じられないままの尻は、きっともう元の形を覚えていないだろう。そこで受け止め続ける男の熱は、僕にとってはただの悪夢だ。
男があまりに僕に構わず好き勝手にし続けるので、激痛とまではいかないまでも、僕はいまだに痛みや疼きや快楽を感じたり、感じなかったりを繰り返した。
「ぁああ……」
そうして思考は容易く溶ける。きっと、また意識を戻した時も、僕は揺らされているのだろう。
それまで経験などなかった僕を襲った激痛と恐怖は、いかばかりであっただろうか。
わけが分からなかった。何もわからなかった。
否、今もわからない。
男は僕の様子に一切構わなかった。
慣らしも濡らしもしていないような僕の尻穴にいきなり自身の剛直を突っ込んで、男だって痛みを感じているだろうに、男は心底幸福だとばかりに僕に笑いかけてきていた。
「ああ、ルディ……ようやく一つになれたね、ルディ……」
そんなものなりたくなかった。
なりたいはずがなかった。
一つに、一つにだって?
「いやぁあああ!!!いやぁ、いやあああ……!!!」
悍ましい。なんて、悍ましい。
僕の腹は引き裂かれ、僕の中には男がいた。
痛くて熱くてわけが分からなくて、僕は無茶苦茶に暴れ続ける。頭を振りたくると僕の金糸がシーツと擦れ、ぱさぱさと乾いた音を立てた。
勿論、その時の僕に、そんなものに気付く余裕などあるはずもなく、痛みと恐怖だけを感じている。
「ルディ」
男が愛しそうに僕を呼びながら、そうして泣き叫ぶ僕の腹の中を、ずぞと擦り上げ、容赦なく穿ち、腰を振り始めた。
「ぁああぁあああ…ぃたぃいいいいっ……!!!」
男が動く度に、傷口に手を突っ込んで広げられ、かき回されているかのような痛みが下肢から全身へと広がっていく。
僕の体はいったいどうなっているのか。わからない僕はただ、泣き叫ぶことしかできない。
なのに。
「ああ、ルディ……なんてすばらしいんだ……ルディ…愛している。愛しているよ、ルディ……」
男は僕の様子に一切構わないまま、荒い息の合間に何度も何度も僕の名を呼んで、何度も何度も愛していると。そんな、わけのわからない呪文を唱えた。
ああ、ルディ。愛している。愛している。
愛。
愛って、何?
揺れていた。もうずっと揺れていた。
半ば意識が判然としない僕に、時間の経過などわかるはずがない。何せずっと僕はここから動けず、捕らえられたまま。
だから、あれからすでに2年も経っているというのは、僕を揺さぶりながらつぶやく、男から拾った情報だった。
2年。それが長いのか短いのか、僕にはもうわからない。
だって揺れている。揺れて、揺れて、僕はもうずっとそれだけで。
「ぁっ、ぁあっ! あぁ……」
僕の下肢は、男に穿たれ続けて、もうきっと穴が開いているのだ。
その穴は、いったいどこに空いている穴だというのだろうか。
わからない。わからなかった。
ただ……――ずっと、揺れていた。
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