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05・婚約、そして始まりの日。⑤
しおりを挟むティム殿下は、別に不出来な方だとか言うわけでは全くない。
むしろ、こと勉学等においては非常に優秀な方なのではないかとさえ思う。
なにせ二つ年上だった私と、学んでおられたことがほとんど同じだったからだ。
そもそも学び始められたのが私よりも早かったというだけのことかもしれないが、それはともかく、同じ授業を受けておられたのは間違いなかった。
私とて、同じ年頃の他の子供より、劣っていただとか遅れていただとか言う覚えもない。
むしろ優秀だと褒められることもしばしばだった。
にもかかわらず、そんな私と二つ年下のティム殿下の学習状況が同じということはすなわち、ティム殿下の優秀さの表れと言ってもよかったことだろう。
座学のみならず、魔法や魔術に関してもよくお出来になられて。
ただし。殿下は、結局は、非常にお優しかったのだ。
お優しすぎた、とすら、言えるほどに。
例えば、剣術や体術などでは、反復練習や型を覚えることなら問題がないのに、いざ、手合わせだとかで実践を伴ったりした場合、どうにも動けなくなってしまわれるようだったのである。
曰く、
「で、出来ないよ、そんな……だ、だって痛い……」
などとへにょりと眉を下げられて。
ちなみにこれは剣術の講師が、殿下に対して、自分に打ち込んでみて欲しいと告げた時の発言だ。
いったい誰がどう痛いというのか。
幼い殿下が、たとえ真剣に全力で向かっていった所で、おそらく優秀な剣士だった講師にとって、猫がじゃれつくようなものだったに違いない。
現に私が同じように指示され、渾身の力を込めて打ち込んだ際にも、軽くあしらわれるばかりだったのだから、それよりも幼かった、私の知る限り、特別に怪力だとか言うわけでもないようだった殿下の力など、どれほどのことだっただろうか。
だけど殿下はそれが出来ず、散々促されてようやく、
「え、えいっ……!」
ぺち、と、触れるような柔さで、撫でるようにして刃を向けることが精々で。
「殿下……」
講師もほとほと困り果てるばかりだった。
そのうちに、
「えっと……ぁの、僕……ご、ごめんなさぃ……」
と声を震わせたかと思うとしまいには泣きだしてしまわれて。
私は早々に悟らざるを得なかった。
これは私がしっかりしなければならないみたいだな、と。
すぎるほどに気の弱い……否、お優しい殿下を、私が補って差し上げなくては、と。
傲慢、と言われてしまえばそれまでだが、私としても、危機感を覚えた結果の決意だった。
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